4 / 8
高校生「菊池陽介」
しおりを挟む
「変わらないことなんてねぇんだよな」
「急にどうした」
「いや、ドラマの影響」
「相変わらず単純だな」
県立富士翔高校の三年七組、教室の片隅で菊地陽介と金井弘の内容のない会話が繰り広げられている。
もうすぐ進路のことも決めなければいけない時期。陽介はまだ進学するか就職するかも決められていない。毎日をなんとなく過ごしてきたから、やりたいことも見つけられないでいる。
「空は青いなぁ」
「そうなー…。なぁ、進路決められたんか?」
「おー、それな。まだなーんもだ。ヒロは? 」
「俺は家業継ぐためにも大学で学ばんと。とりあえず進学」
「ほーか。さすがにその進路は参考にできねぇや」
「俺のこと参考にしようとしないで自分のやりたいこと探してみろよ」
そんな指摘を受け、少し真面目に考えようとしてみたが、すぐに答えが出せるわけもなく、またうやむやなままに一日を過ごしていた。
数日後、保護者を交えての進路相談があった。
「そろそろ何しようかって決まったの? 」
「いや…まだ」
「はぁ…今日の面談で少しは進められたらいいけど」
親からもしつこく心配されているのだが、決められてない以上は何も言い返せない。
「やー、待たせてすみません。じゃあ面談始めましょうか」
先生が前の生徒との面談を終えて、俺の番がやってきた。
「えー、菊池君は…まだ未定か」
「そうなんですよ…家でもそういう話になると不機嫌になってしまって、話し合いが進まなくて」
「とりあえず今日のうちに方針だけでも決めような」
「はい… 」
その後の面談でも明確に決めることはできず、とりあえずやることを見つけるような名目で進学にしとこうということで話はまとまった。というか、まとめられた。そこに自分の意思は殆どなかった。
「昨日の面談で決まったんか? 」
「とりあえず進学だよ」
「進学にしたのか」
「したっていうか、されたって感じ。やりたいことないならそれを見つけるために大学行けばって」
「そんなんで決められてもなぁ」
「でも、そのくらいで決めてるやつも結構いるってさ」
弘はかなりしっかりとした目的があって進学。陽介はなんとなく進学。同じ進学でも、意思の強さの違いがハッキリしていて、やる気にも差が出ている。
弘は少しずつではあるが、成績が向上し、勉強にものめり込むようになった。対照的に、陽介はこれまでと同じようにただなんとなく毎日を過ごしている。
それまでは漠然と過ごしていた陽介も、一番近かった弘が変わっていったことを感じ取り、焦りが出始める。
「なぁ、最近張り切ってんな」
「あー、もう近くなってきたしなぁ。陽介は相変わらずだな」
「やる気出ねえんだよなぁ」
「そんなこと言ってられる時期でもないだろーよ」
「ん…まぁそうなんだけどさ。ヒロも少し肩の力抜いたらどうよ」
「ラストスパートまで気は抜かねぇさ」
「ふーん」
「なぁ陽介、もう少し集中してみたらどうよ」
「なんも決められてないのに集中もなにもねぇよ」
「進学することは決めたんだろ?じゃあその為にやれることはあるだろ」
「まぁ…あるだろうけど」
陽介の焦りは弘を道連れにしようとしていたが、弘はしっかりと前を見据えていたが為に、陽介の思惑にはまるで乗らなかった。
本気ではなかったとはいえ、人を、それも友人を貶めようとしていたことに気づき、自己嫌悪に陥った。自分が駄目だからって人を巻き添えにして、無意味な安心感を得ようとしていた。
「なぁ、ヒロ。俺もう少し頑張ってみるよ」
「急にやる気になったのかよ」
ヘラッと笑う弘に陽介もつられて笑った。この友人とは高校を卒業したら会う機会はグッと減る。だが、友人なことに変わりはないのだ。
自分の不安を分かち合い、気持ちを知ってもらい、言葉をかけてもらう。それは悪いことではない。
ただ、同じ状況へと引きずり込み、自分と同じような駄目な人間にして、安心感を得たって、それは相手だけでなく、自分の成長も止めていることになる。
一歩前で踏みとどませてくれたのは弘だったからだろう。
共に成長し合える、成長を喜びあえる友人を持てたことを、今はただ感謝する。
「急にどうした」
「いや、ドラマの影響」
「相変わらず単純だな」
県立富士翔高校の三年七組、教室の片隅で菊地陽介と金井弘の内容のない会話が繰り広げられている。
もうすぐ進路のことも決めなければいけない時期。陽介はまだ進学するか就職するかも決められていない。毎日をなんとなく過ごしてきたから、やりたいことも見つけられないでいる。
「空は青いなぁ」
「そうなー…。なぁ、進路決められたんか?」
「おー、それな。まだなーんもだ。ヒロは? 」
「俺は家業継ぐためにも大学で学ばんと。とりあえず進学」
「ほーか。さすがにその進路は参考にできねぇや」
「俺のこと参考にしようとしないで自分のやりたいこと探してみろよ」
そんな指摘を受け、少し真面目に考えようとしてみたが、すぐに答えが出せるわけもなく、またうやむやなままに一日を過ごしていた。
数日後、保護者を交えての進路相談があった。
「そろそろ何しようかって決まったの? 」
「いや…まだ」
「はぁ…今日の面談で少しは進められたらいいけど」
親からもしつこく心配されているのだが、決められてない以上は何も言い返せない。
「やー、待たせてすみません。じゃあ面談始めましょうか」
先生が前の生徒との面談を終えて、俺の番がやってきた。
「えー、菊池君は…まだ未定か」
「そうなんですよ…家でもそういう話になると不機嫌になってしまって、話し合いが進まなくて」
「とりあえず今日のうちに方針だけでも決めような」
「はい… 」
その後の面談でも明確に決めることはできず、とりあえずやることを見つけるような名目で進学にしとこうということで話はまとまった。というか、まとめられた。そこに自分の意思は殆どなかった。
「昨日の面談で決まったんか? 」
「とりあえず進学だよ」
「進学にしたのか」
「したっていうか、されたって感じ。やりたいことないならそれを見つけるために大学行けばって」
「そんなんで決められてもなぁ」
「でも、そのくらいで決めてるやつも結構いるってさ」
弘はかなりしっかりとした目的があって進学。陽介はなんとなく進学。同じ進学でも、意思の強さの違いがハッキリしていて、やる気にも差が出ている。
弘は少しずつではあるが、成績が向上し、勉強にものめり込むようになった。対照的に、陽介はこれまでと同じようにただなんとなく毎日を過ごしている。
それまでは漠然と過ごしていた陽介も、一番近かった弘が変わっていったことを感じ取り、焦りが出始める。
「なぁ、最近張り切ってんな」
「あー、もう近くなってきたしなぁ。陽介は相変わらずだな」
「やる気出ねえんだよなぁ」
「そんなこと言ってられる時期でもないだろーよ」
「ん…まぁそうなんだけどさ。ヒロも少し肩の力抜いたらどうよ」
「ラストスパートまで気は抜かねぇさ」
「ふーん」
「なぁ陽介、もう少し集中してみたらどうよ」
「なんも決められてないのに集中もなにもねぇよ」
「進学することは決めたんだろ?じゃあその為にやれることはあるだろ」
「まぁ…あるだろうけど」
陽介の焦りは弘を道連れにしようとしていたが、弘はしっかりと前を見据えていたが為に、陽介の思惑にはまるで乗らなかった。
本気ではなかったとはいえ、人を、それも友人を貶めようとしていたことに気づき、自己嫌悪に陥った。自分が駄目だからって人を巻き添えにして、無意味な安心感を得ようとしていた。
「なぁ、ヒロ。俺もう少し頑張ってみるよ」
「急にやる気になったのかよ」
ヘラッと笑う弘に陽介もつられて笑った。この友人とは高校を卒業したら会う機会はグッと減る。だが、友人なことに変わりはないのだ。
自分の不安を分かち合い、気持ちを知ってもらい、言葉をかけてもらう。それは悪いことではない。
ただ、同じ状況へと引きずり込み、自分と同じような駄目な人間にして、安心感を得たって、それは相手だけでなく、自分の成長も止めていることになる。
一歩前で踏みとどませてくれたのは弘だったからだろう。
共に成長し合える、成長を喜びあえる友人を持てたことを、今はただ感謝する。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる