物語は突然に

かなめ

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始まり

物語は始まる

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これから。
私一人でどうしたら良いんだろう。
悲しいやら、悔しいやら。唯々不安で。部屋でポツンと座り込んでた。
色々と麻痺してたのかもしれない。
でもただそれだけ。それだけだったのに。







「は、は、は…」
乾いた笑いしか出て来ない。
室内にいたハズなのに、グニャリと目の前が歪んだような気がしたと思ったら、いきなり森の中にいた。もう何か本当に突然で。突然すぎていくら穏やかで風光明媚な景色と言えども「わあ、素敵…」とかならないっちゅうの!

ナニコレ?何なのコレ?
どーなってんのーっ!?

人が悲しみに打ちひしがれてる時に、今後の不安に、色々と思案してる時に、何これ、どんな仕打ち?何の嫌がらせ?私、そんなに何か悪い事しましたか、神様ー!?ぷちパニックになる。いや「ぷち」じゃないかも。
「意味わかんない…」
途方にくれる。
そもそも此処は何処なのか?周りを見渡すも唯々広がる森の中。光が其処彼処から入っているおかげで穏やかな雰囲気だ。それは良いんだけど…。
「裸足だし…」
自分の格好を見て。
そりゃそうだよね。さっきまで室内でしたから。
「無いわー。
こんな所で裸足とか、マジ無いわー」
思わず愚痴る。さっきまでの格好そのまま、いきなり外とか本当に無いわ。
こんな穏やかな森の中、喪服で佇む私。だいぶ異様だよね?マジこんな状況で人様に出会いたくなんてない。
とは言え、取り敢えず此処が何処なのかを確認しなくては。
お葬式が終わったばかりでまだ片付けもしてないのに、こんな所に放り出されても困るんですけど。まだお焼香に来る人がいるかもしれないし、早く帰らなきゃ。
そんな事を考えて、ソロソロと歩き始める。
突然の両親の死に。普段とは全然違う時間を過ごしてた中に、降って湧いたようなこの異常な状況。色々と麻痺してたと思う。でもこれ以上の事なんてあるハズないって思ってた。



歩いてるうちに気付いた。
此処が日本じゃないって。いや日本どころか、地球ですら無いんじゃないかって。だってね?私と変わらないくらいの大きさの蜂がいたり、何かよく解らないのが凄い早さで目の前を通り過ぎて行ったり。

アリエナイ。

蜂と出逢った時はマジで死ぬかと思った。自分と変わらない大きさの蜂だよ?あんなのに襲われたら死ぬ!マジでビビった!誰だってそんなのに遭遇したらそう思うでしょ?…幸いな事に襲われなかったけど。ビビったのが何だったのかと思うくらい素通りされたね。うん。まあ、良かった。うん。
この時に既に「まさか」って思った。
思ったけども!

アリエナイ

そう考え直して歩き続けてたら…今度は謎の生き物がビューンとね、目の前をそりゃあ凄い早さで通り抜けてった訳ですよ。蟻に似てたけど、蟻じゃない。それより脚が異様に多かったし、色も黒じゃなく緑だったし、何より大きさがね、これまた大きかった。これも見た時は凄くビビったけど、これまた素通りされた。スッゴイ早さで。
まあ、害は無かったのでそれは兎も角。

アリエナイ。

日本じゃない。そんな生き物がいるなんて聞いたことない。て言うか、地球ですら無いよね?それともUMA?UMAですか?私が知らないだけの「あなたが知らない世界」ってヤツですかー!?
行けども行けども出口の無い森もどうかと思うし。
どうしたら良いの、これ?
立ち止まり後ろを振り返る。既に結構な距離を歩いたと思う。実際、高かったはずの日射しも今はもうかなり傾いている。早く森から抜け出さないと、このまま此処で野宿する羽目になるのは確実だ。
あの後、特に何かと出逢う事もなく進んではきたが、いくら何でも此処が何処だかも解らず、また得体の知れない生き物がいる森の中で野宿とか流石に無茶すぎる。
だが、と前に向き直るも、一向に見えない森の出口。
本当にどうしたら良いんだろう。
考えたところで答えなど出るはずも無く。
「行くしか…進むしかないよね」
溜息をつきつつも自分を奮い立たせるように一人ごちてまた歩き始めた。




「はあ…」
もう何度目かも解らない溜息を吐きつつも、頭の中ではとある言葉に埋め尽くされていた。

『異世界』

まさかね、そんなね。
このタイミングで、こんなタイミングで。
なんで?
アリエナイよね?
そりゃあね?ラノベとか好きだし?
最近の流行りと言うのか、読んだ事もあるけど。ちょっと妄想しちゃったりした事もあるけど。でもね?こんな色々といっぱいいっぱいの時に、もう既に途方にくれてるって時に、何で!?更に追い打ちかけるようなこの状況って、本当に何で?
泣きたい。でも明らかに泣いてもどうにもならない。
神様がいるなら、呪いの藁人形ヨロシクてな感じで呪いたいくらい。
まあ、神様がいるとか思ってもいないので、呪っても意味ないだろうけど。
「はあ…」
意識せずまた溜息が出た。
まだまだ先は見えない。
「はあ………」
溜息しか出ない。


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