物語は突然に

かなめ

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始まり

予想(希望)と違う出逢い

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ひたすら歩いて歩いて歩いて、そのお供とばかりに神様への恨み言もつらつらと脳内で吐きまくり、いい加減ネタも尽きてきた頃、日も完全に落ちようかとしてるその時に。突風なんて可愛いものじやない、竜巻のような風きたー!
って、嬉しそうに言ってるが、全然嬉しくはない。
何故なら凄い勢いで吹き飛ばされてるんだけど、私!
いやもう本当に読んで字の如く、空に舞い上がってますけどー!?
「ぎゃーーーーーっ!」
死ぬ!死んじゃう!このままだと地面に叩きつけられて死んじゃう!こんな訳の解らないところでこんな死に方とか嫌すぎる!
無理無理!
こんなの無理っ!
そう思いつつ目を閉じ、これから来るであろう衝撃に少しでも抵抗するべく無意識にも身を縮める。
と、思ってたよりもそれはすぐだった。
ベチンッ、ドスンッという音と共に全身に衝撃が走る。
「…………っ」
声に出来ない痛みに悶える。すぐには起き上がれない。
痛い。
全部か全部、凄い痛い。
何がどうとは説明しにくいがとにかく全身が痛い。地面に叩きつけられたというよりは、壁か何かにぶつかってから落ちたように思う。衝撃が二回あった。

……あれ?
でも生きてる?

絶対死んだと思ったのに。だって結構な高さまで飛びましたよ?よく生きてるな、私。そりゃ全身痛いは痛いが。そんな程度で済むとか相変わらず悪運だけは良いのか。
目を開けて辺りを窺うと、明らかに先程とは違う場所に飛ばされてる。さっきまで森の中だったのに、今は何もないノッペリとしたところに突っ伏していた。いや、ノッペリと言うか、ゴツゴツしてるような…しかもちょっと暖かい。
何、此処、何処?
起き上がろうと身動ぎしていると…何だか地面が揺れてる?まさか地震?竜巻の後は地震って!どれだけ災難続けば気が済むの!?
愚痴りながらも何処か無難にやり過ごせそうなところはないかと視線を廻らせつつ、無理やり身体を起こそうとしていると、何と
揺れてるとかじゃない。
いやそもそも地面でもなかった。
動き始めた「それ」に身体を拘束される。

………
何、これ?

もしかして。
今、私がいるのって、
巨大な「手」の上…?

そう理解出来て。全身からブワッと汗が噴き出す。

ナニコレ?
何、これ!?
巨大な手って!
どうなってんの!?
どうなっちゃうの!?
私…ヤバくない…!?

恐怖で身体が強張る。身体を掴まれているので、逃げたくとも逃げようがない。怖くて上を見上げる事も出来ない。当然のようにパニックになっていて、頭の中ではただグルグルと「どうなってしまうのか」それだけを繰り返していた。






巨大な手の中で揺られる事しばらく。
周りは既に完全に日も落ちて真っ暗になっていた。グルグル思考も治まってきたので、この巨大な手の主を確認するべく、ソロリと視線を上へとなぞりあげて見るも、この暗さでよく解らず。少しホッとしたりもして。
だがしかし。
この「手」の形から考えると、どう考えても人間型の巨人、なんだよね…。

何ていうかさ、確かに何処かに人がいないもんかな~って考えてはいたけど、考えてはいたけども!まさか巨人と出逢うとか全然考えてなかったし!異世界にありがちな人型に近いエルフとか獣人とかはあるかもくらいにしか想像してなかったし!何なの、この想定外?巨人って!どれだけ私を貶めれば気が済むの!?それに…いったい何処に連れていかれるというのか。

もうやだ、怖い、泣きたい。

大体、異世界物とかって、お約束的に魔法が使えるようになったりだとかするもんでしょーが!?さっき森の中を歩いてた時にちょっと試しに「ファイヤーボール!」とか叫んでみたけど、何も出来なかったし…。何で?酷すぎない!?所詮はラノベの知識だからですかっ!?そんな程度でどうにかなると思ってんじゃねーよって事ですかっ?厳しすぎないですか、異世界…っ。死亡フラグしかない気がする。
そんな悲観的な考えにドップリ浸かりそうになってると、先の方に明かりが見えてきた。どうやらあそこに向かっているらしい。
何だろう、巨人の町とかですか?
明かりが見えたからかちょっとホッとしちゃったけど、よく考えたら全然ホッとする要素ない!巨人の町とか!巨人だらけのところに連れてかれちゃったりしたら、見世物とかにされちゃったりするんだろうか?いや見世物くらいならまだしも解剖実験とかされちゃったりしたら…ゾッとするどころの話じゃない。
逃げなきゃ。
そう思うが…鷲掴みされてるこの状態でどうしろと?いやこの状態から逃れたとしてもその後はどうしたら良いのか。この高さだし、飛び降りるとか論外でしょ。間違いなく自殺行為でしかない。だからといってフリークライミングばりに身体を伝って降りるとか無理すぎるし。

…どうする?

いや無理無理。無理でしょ、どうも出来ないでしょ、これ。何をどうすれば打開策があるというのか。それこそ魔法でも使えなきゃ無理でしょ?自分の事だし、良く思いたい、くらいの思いはあるけど、当方、至って普通の女子ですよ?運動神経も普通、学力も普通…やや良いくらいか?程度の極々普通の女子ですよぉー!?どうにか出来ると思う、これ!?
デキナイ
デキルワケナイヨネ
そんな状況に打ちのめされてる間に、明かりはもう目の前に迫ってきてて。うん。町ですね、これ。城壁とでも言えばいいのか、横にツラ~ッと延びている壁にデッカい扉らしきものがある。どう見ても、この巨人のサイズな扉。
駄目だ、これ。
死んだな、私。
まだ19歳なのに。あの事故の中ですら、生きてたっていうのに。お父さんお母さん御免なさい、私もすぐにそっちに逝きそうだよ。っていうか、異世界でもあの世とやらは一緒なんだろうか?もしかしたら一緒には無理かも…。いやそれ以前にお母さん達のお骨もまだお墓にすら納めてない!いやもっとそれ以前に、お墓もまだ買えてないし、そもそもお葬式の片付けだって終わってないよ!こんなところで死んでる場合じゃないのに!
…いつの間にか泣いてた。
どうにもならなくても、ただ諦めるなんて出来ない。やらなきゃいけない事だってまだたくさんある。今は無理でも逃げ出す方法を考えなくちゃ。
そっと涙を拭う。
諦めない。前を睨んだままそう決意する。
扉はもう目の前だった。


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