物語は突然に

かなめ

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始まり

失われつつある古代魔術言語2

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「待って!
ちょっと待ってください」
困惑した顔の眼鏡さんに待ったをかける。いや、だってもう本当に何処からどう説明すればいいのやら?人間を知らないって、どういう事?まさか人間がいないの?じゃあ、この巨人さん達は何?巨人は巨人なの?いや、そもそもの勘違いの元である妖精とかエルフとか何処からきた考え方なの?私がこの人達より小さいから?だからなの?でもそれで言うなら、巨人さん達がこの世界の人間って事にはならないの?違うの?
う~ん……よし、まずは勘違いの大元のところをどういう考えで言ったのか確認しとこう…じゃないと勘違いがドンドン変な方向に向いてく気がする…聞いたら余計に混乱しちゃった、テヘッ♡とかならないように、気を落ち着けてから質問する。
「あの、まずはですね、
ちょっと確認したいのですが…何で私を妖精とかエルフとか、あとハイエルフ?だと思ったんですか?」
眼鏡さんはまだ困惑顔のままだ。
少し迷った様子も見せてたけど、眼鏡さんとしても気になるのだろう、丁寧に説明をしてくれた。
「まず…どうしてそう思ったのか、と言うお話ですが、貴女の外見的特徴からです。
妖精族は貴女のように小さな姿に透き通った羽根を持つ種族です。それで羽根が無くとも妖精族の可能性があると判断しました。
エルフ族は私達と変わらない大きさですが尖った耳を持ち、また貴女のように特殊な波動を持っています。この波動はエルフ独特のものです。なので、エルフの可能性もあると考えました。
そしてエルフ族の中でもハイエルフと呼ばれる方々はエルフ同様、尖った耳と特殊な波動を持ち、更に特殊な言語…古代魔術言語を使います。今、話しているこの言語が正にそれですね。これはハイエルフや竜族の一部の方くらいしか使用する者がいません。貴女はどう見ても竜族には見えませんでしたので、ハイエルフの方かと思ったのです」
「は?」
何て言った、この人?いや人じゃないかもしれないんだっけ。いやいやそれより!そんな事より!今、話してる言葉が何だって!?
「ん?あ、済みません。
もしかして聞き取り難かったでしょうか?普段使う事のない言語なので慣れていなくて…。
ええとですね、
貴女の外見的特徴から」
また勘違いが生じたらしい。
「違います、違います!
それじゃなくて!
古代魔術言語?って…?」
すぐに訂正して聞き直す。眼鏡さんはちょっと意外そうな顔をしたものの、直ぐに答えてくれた。
「古代魔術言語と言うのは、
先程の言葉通り、ハイエルフの方々や竜族の一部の方が使う言葉です。今、この会話に使っている言語もそうです。
私は以前、ハイエルフの方に師事を受けて魔術を習った事があるので、多少使えるのです。
現在はハイエルフにしても古代竜にしても稀少な種族となっているので、使う者がほとんどいない言語でもあります」
日本語が古代魔術言語!?
しかもハイエルフや古代竜しか使わない言語…日本語が!?何それ!?どんな設定?古代竜が日本語話すのも変だけど、ハイエルフも日本語?ハイエルフが日本人って事?いやいや、そんな事ないでしょ。まず竜はどうやっても竜でしょ。エルフにしたって日本人は耳尖ってないし。特殊な波動とかってのも何だか解らないし。妖精やエルフも外見的には微妙にどれもズレている。
「あの…
その古代魔術言語って言うのは、ハイエルフや古代竜しか使わないんでしょうか?」
ハイエルフや古代竜が何故日本語を使えるのか?私の世界では日本語を使うのは日本人だけだ。個人として知ってる、もしくは使っている人は他の国にもいるけれど、国や種族として使うのは日本人だけなのだ。だから少なくとも日本語が通じるって事は、日本人が他にもいる…もしくはいた可能性をさしている…はず。
だから確認しておきたい。
「他にも使用者はいないんでしょうか?」
しかし、眼鏡さんの返事は残念なものだった。
「日常言語として使用する者は他にはいませんね。そもそも魔術言語として使う者もほとんどいません。
今となっては失われつつある言語なので…」
溜息が出た。そうか、いないんだ…。失われつつあるって、ヒドイ。頑張れ、日本語。
「あの…大丈夫ですか?」
眼鏡さんが心配そうに声をかけてきた。そんなに目に見えてガッカリしてただろうか。まぁ、確かにガッカリしたけど。
「大丈夫です」
あ、また溜息出ちゃった。イカンイカン、気持ちを切り替えよう。
「あの…私からも宜しいでしょうか?」
申し訳無さそうに尋ねてくる眼鏡さん。
「はい。どうぞ」
「貴女が先程言っていた『ニンゲン』とは何なのでしょう?」
ああ、それね。どうしよう。何て説明したらいいのか。異世界から来たって言っても良いものだろうか?マズイ事になるかな?異世界から来たってのは隠して説明するべき?う~ん…。
「そうですね…何て言うか、
まず私は妖精でもエルフでも、勿論ハイエルフでもありません」
取り敢えず、異世界から来たって事は秘密にしとこう。まだ自分の立ち位置もよく解らないのに、全部晒け出すのは危険かもしれないし。上手く誤魔化しつつ、説明しよう。
「先程の貴方の説明からも解ると思うんですが、色々とズレがありますよね、私」
チラリと眼鏡さんを見る。眼鏡さんのほうは黙って頷いている。
「妖精にしては羽根が無い。
エルフやハイエルフにしては小さい。耳も尖ってない。
古代魔術言語を使うとは言っても勿論、竜でも無い」
眼鏡さんはまだ黙って頷いている。よし、このまま言い切ろう。
「つまり、それが人間です」
「えっ!?」
眼鏡さんがスッゴイ驚いた顔したー。やっぱりこれで言い切るのは無理か。ですよねー、説明足りな過ぎですよねー?
「つまりですね、
貴方達と変わらない見た目で、私くらいの大きさで、日常言語でこの言語を使用してるのが、人間なんです」
「はあ……」
「ちなみに日常言語であって、魔術言語じゃないです」
「えっ!?」
「ついでに言うと、
貴方達の種族も知らないので、お互いまだ知らない種族同士なんだと思います」
「何と!?」
私の未知の種族宣言に目を丸くする眼鏡さん。デスヨネー。でも誤魔化そうにも、それくらいしか思い付かなかったんだもん。シカタナイヨネ。ある意味、物凄いカケだ。でも共通で知られている言語があるのを考えたら、全く考えられない事じゃないと思うんだよね。異世界から来たなんて言うよりは信憑性もありそうだし。
眼鏡さんは何かブツブツ言いながら考え込んでいる。ふと。そう言えばもう1人巨人がいたなぁと思い出して。渋メンさんのほうにもチラリと目をやると、何か物珍しいものを見るような顔でこっち見てた。そりゃもうジロジロと見てた。
デスヨネー。
まあ、新種族宣言しちゃったしねー。
……………。
大丈夫かな、私。

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