物語は突然に

かなめ

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始まり

失われつつある古代魔術言語

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ぬ…抜け出せない…。
どうしよう。しかも何か息苦しくなってきた。このまま圧死とかなったら嫌すぎる、いやマヌケすぎるぅぅ!そんなのイヤァァァッ!
必死で踠いてみるが、ほんの少し持ち上がる程度でそれ以上には上がらない。しかし、本当に重い。そして暑い。たかがクッション、されどクッション。籠のせいもあるかもしれない。でも諦めない!諦めてたまるか!何としても逃げなきゃ!最悪、解剖実験とかされちゃうかも…何て想像したら、ひたすら踠くしかないでしょ?

…どれくらい時間が経ったのか、考えたら気が遠くなりそう…実際は5分とか10分くらいであったとしても。だって既にもう汗だくである。汗ダクなんて可愛いもんじゃない。明らかに身体の下に水溜りのように汗がビッショリと広がっている。そりゃ気も遠くなるってもんでしょ。大袈裟なんかじゃないよ?本当にシンドイんだよ?クラクラ通り越して頭痛がしますよ?
ふと、誰にという訳でもない言い訳してる自分に気付いて、だいぶ混乱してるって事が解った。解っただけで、状況打破には全然ならないんだけど。変に冷静になったのはいい加減、踠くのに疲れたせいもあるのかも。
「重い…」
マジで気が遠くなりそう。
これで死ぬとかヤダな…。
「◯▲※▽◆〆〓」
ん?あれ?何か声が…?
突然、身体が軽くなる。さっきまであった圧迫感が無くなって、爽やかな風が汗ダクの身体をフワリと撫でていく。
助かった…?
そう思うのとほぼ同時に意識が遠のいていった。





「♯◆▽♭@」
「℃∀■√♬●◇&‰」
…何か聞こえる…。
「…ん…?」
目が覚めたら、巨人2人に挟まれてた。1人は昨日の渋メン巨人だ。
えーーーー!?
何これ?何で私、巨人2人に挟まれてるの!?そう言えばさっきナニカがあのクッション地獄から助けてくれたような…。
……………
つまりはこの巨人が助けてくれたんだろう…たぶん。どっちだかは知らんけど。
あっ、目が合っちゃった…。
「☆€=*〒°」
渋メン巨人じゃないほうの巨人、眼鏡をかけたお爺ちゃんな巨人が何か話しかけてくる…けど!解らないっちゅうの!
「~≒⌒~⇒÷」
また話しかけてきた。あれ?さっきと何かニュアンスが違う…?何だろ?気のせい?
「∃фшмю」
んん!?…何か…やっぱり違う…?
どうしよう。何か返事しないとマズイかな?でもさっきから返事はしてないのだけど、眼鏡巨人は全く気にするふうもない。そしてまた話しかけてきた。
「初めまして」

!?!?!?!?

「えっ!?何て!?」
日本語?日本語だった?
今、この巨人、初めましてって言った?驚きの目で眼鏡巨人を見るも、眼鏡巨人はやっぱり気にするふうもないまま、いや今度はニッコリと笑顔までつけてもう一度
「初めまして、私はジリスと言います」
と日本語で言ったのだった。
「えぇぇーーーっ!?」


日本語…この眼鏡さん、日本語喋ったよ!?日本語通じるの?ちょっとパニクる、私。いやパニクる必要ないのか、ないよね?日本語通じるんだし。だよね?
「あ…っ、あの、あっ、
わ、わたしっ、わたしっ、」
予想外すぎて何を言えばいいのか解らない。どうしよう、何て言おう、いや何処からどう言えばいいんだろう?
かなりワタワタしてて挙動不審そのものだと思う。でも眼鏡さんはそのまま、笑顔を崩す事なく、ゆっくりとまた話しかけてきた。
「身体は大丈夫ですか?」
「えっ?」
「先程、貴女は籠の下敷きになった状態で気を失っていたのです。ですから、何処か痛みがあるとか、気分が悪いといった事がないかと…気になったもので」
言われて成る程、と自分の身体を確認する。うん、何処もどうもないみたい。
「大丈夫です」
「そうですか、それは何よりです」
ニコニコと、それでいてウンウンと頷いている。眼鏡さんのその様子を見ていたら、だいぶ落ち着いてきた。解剖とかはされなそう、たぶん。優しそうだし。言葉が通じて安心しちゃったのかもだけど、それでも言葉が通じるって素敵。
「では…幾つかお聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
「あっ、はい。どうぞ」
何を聞かれるんだろう…。
眼鏡さんはちょっと考えるように顎に手をやりつつ質問をし始めた。
「まずは、貴女のお名前をお聞きしても?」
名前か、そう言えば名乗ってないや。
「えっと…あ、」
あれ?待って?名前って簡単に教えちゃっても大丈夫なもん?異世界ネタ定番と言えば、真名を教えるのヤバいとかじゃなかったっけ?
「…アイリンです」
実際は相川鈴華(アイカワスズカ)なんだけど。一応ね、念の為ってヤツよ。
眼鏡さんは特に疑ってる感じはない。よし、このままアイリンって事にしとこう。私はアイリン、よし。
「では、アイリン。
貴女は妖精族なのですか?それともエルフ族なのですか?」
ん?
「え?何て?」
「あ、済みません。聞き取り難いですか?ええと…妖精族なのか、エルフ族なのか、どちらなのだろうかと思いまして」
「妖精族?エルフ族?
私が?」
何を言ってるんだろう?何でそう思ったの?眼鏡さん達より小さいから?それで言うなら、妖精は兎も角、何処からエルフでてきた?それともこの世界のエルフは小さいのだろうか?
そんな疑問を抱いてたら、何故か眼鏡さんが慌てた様子で
「済みません!
では、やはりハイエルフの方なのですね」
などと、のたまってきた!
どうしてそうなったー!?
思わず絶句。何をどう思ってそうなったのか、その勘違いをどう訂正すればいいのか、言葉が出てこなくてパクパクさせてると、更に眼鏡さんが続けた言葉に目が点になる。
「御怒りはごもっともと思いますが、
どうか、どうかお許しください。
書物に記されているものと相違があったものですから、勘違いしてしまったのです」
書物に記されてるとか何をだしーー!?
怒ってないし、そもそも何と勘違いしてるのか、勘違いの勘違いだと思うんですけど?私が何も言わないのを『怒り続行中』とでも思ったのか、眼鏡さんが目に見えてアタフタしている。
取り敢えず誤解を解こう、まずはそれからだ。
「あの…怒ってませんから」
「本当ですか!?
あぁ、良かった…。
済みません、無知なばかりか、勝手に解釈するような真似までしてしまって…
失礼致しました」
心底ホッとしたような様子の眼鏡さん。それを見てると何だか物凄く申し訳なくなってくる。そもそもが勘違いなのに。
「いや、あのですね、
私はただの人間なんですけど」
「…は?」
「人間なんです」
「…………ニンゲン……?」
「はい」
「…ニンゲンとは何でしょう?」
って、そこからーーーーっ!?


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