物語は突然に

かなめ

文字の大きさ
5 / 77
始まり

失われつつある古代魔術言語

しおりを挟む
ぬ…抜け出せない…。
どうしよう。しかも何か息苦しくなってきた。このまま圧死とかなったら嫌すぎる、いやマヌケすぎるぅぅ!そんなのイヤァァァッ!
必死で踠いてみるが、ほんの少し持ち上がる程度でそれ以上には上がらない。しかし、本当に重い。そして暑い。たかがクッション、されどクッション。籠のせいもあるかもしれない。でも諦めない!諦めてたまるか!何としても逃げなきゃ!最悪、解剖実験とかされちゃうかも…何て想像したら、ひたすら踠くしかないでしょ?

…どれくらい時間が経ったのか、考えたら気が遠くなりそう…実際は5分とか10分くらいであったとしても。だって既にもう汗だくである。汗ダクなんて可愛いもんじゃない。明らかに身体の下に水溜りのように汗がビッショリと広がっている。そりゃ気も遠くなるってもんでしょ。大袈裟なんかじゃないよ?本当にシンドイんだよ?クラクラ通り越して頭痛がしますよ?
ふと、誰にという訳でもない言い訳してる自分に気付いて、だいぶ混乱してるって事が解った。解っただけで、状況打破には全然ならないんだけど。変に冷静になったのはいい加減、踠くのに疲れたせいもあるのかも。
「重い…」
マジで気が遠くなりそう。
これで死ぬとかヤダな…。
「◯▲※▽◆〆〓」
ん?あれ?何か声が…?
突然、身体が軽くなる。さっきまであった圧迫感が無くなって、爽やかな風が汗ダクの身体をフワリと撫でていく。
助かった…?
そう思うのとほぼ同時に意識が遠のいていった。





「♯◆▽♭@」
「℃∀■√♬●◇&‰」
…何か聞こえる…。
「…ん…?」
目が覚めたら、巨人2人に挟まれてた。1人は昨日の渋メン巨人だ。
えーーーー!?
何これ?何で私、巨人2人に挟まれてるの!?そう言えばさっきナニカがあのクッション地獄から助けてくれたような…。
……………
つまりはこの巨人が助けてくれたんだろう…たぶん。どっちだかは知らんけど。
あっ、目が合っちゃった…。
「☆€=*〒°」
渋メン巨人じゃないほうの巨人、眼鏡をかけたお爺ちゃんな巨人が何か話しかけてくる…けど!解らないっちゅうの!
「~≒⌒~⇒÷」
また話しかけてきた。あれ?さっきと何かニュアンスが違う…?何だろ?気のせい?
「∃фшмю」
んん!?…何か…やっぱり違う…?
どうしよう。何か返事しないとマズイかな?でもさっきから返事はしてないのだけど、眼鏡巨人は全く気にするふうもない。そしてまた話しかけてきた。
「初めまして」

!?!?!?!?

「えっ!?何て!?」
日本語?日本語だった?
今、この巨人、初めましてって言った?驚きの目で眼鏡巨人を見るも、眼鏡巨人はやっぱり気にするふうもないまま、いや今度はニッコリと笑顔までつけてもう一度
「初めまして、私はジリスと言います」
と日本語で言ったのだった。
「えぇぇーーーっ!?」


日本語…この眼鏡さん、日本語喋ったよ!?日本語通じるの?ちょっとパニクる、私。いやパニクる必要ないのか、ないよね?日本語通じるんだし。だよね?
「あ…っ、あの、あっ、
わ、わたしっ、わたしっ、」
予想外すぎて何を言えばいいのか解らない。どうしよう、何て言おう、いや何処からどう言えばいいんだろう?
かなりワタワタしてて挙動不審そのものだと思う。でも眼鏡さんはそのまま、笑顔を崩す事なく、ゆっくりとまた話しかけてきた。
「身体は大丈夫ですか?」
「えっ?」
「先程、貴女は籠の下敷きになった状態で気を失っていたのです。ですから、何処か痛みがあるとか、気分が悪いといった事がないかと…気になったもので」
言われて成る程、と自分の身体を確認する。うん、何処もどうもないみたい。
「大丈夫です」
「そうですか、それは何よりです」
ニコニコと、それでいてウンウンと頷いている。眼鏡さんのその様子を見ていたら、だいぶ落ち着いてきた。解剖とかはされなそう、たぶん。優しそうだし。言葉が通じて安心しちゃったのかもだけど、それでも言葉が通じるって素敵。
「では…幾つかお聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
「あっ、はい。どうぞ」
何を聞かれるんだろう…。
眼鏡さんはちょっと考えるように顎に手をやりつつ質問をし始めた。
「まずは、貴女のお名前をお聞きしても?」
名前か、そう言えば名乗ってないや。
「えっと…あ、」
あれ?待って?名前って簡単に教えちゃっても大丈夫なもん?異世界ネタ定番と言えば、真名を教えるのヤバいとかじゃなかったっけ?
「…アイリンです」
実際は相川鈴華(アイカワスズカ)なんだけど。一応ね、念の為ってヤツよ。
眼鏡さんは特に疑ってる感じはない。よし、このままアイリンって事にしとこう。私はアイリン、よし。
「では、アイリン。
貴女は妖精族なのですか?それともエルフ族なのですか?」
ん?
「え?何て?」
「あ、済みません。聞き取り難いですか?ええと…妖精族なのか、エルフ族なのか、どちらなのだろうかと思いまして」
「妖精族?エルフ族?
私が?」
何を言ってるんだろう?何でそう思ったの?眼鏡さん達より小さいから?それで言うなら、妖精は兎も角、何処からエルフでてきた?それともこの世界のエルフは小さいのだろうか?
そんな疑問を抱いてたら、何故か眼鏡さんが慌てた様子で
「済みません!
では、やはりハイエルフの方なのですね」
などと、のたまってきた!
どうしてそうなったー!?
思わず絶句。何をどう思ってそうなったのか、その勘違いをどう訂正すればいいのか、言葉が出てこなくてパクパクさせてると、更に眼鏡さんが続けた言葉に目が点になる。
「御怒りはごもっともと思いますが、
どうか、どうかお許しください。
書物に記されているものと相違があったものですから、勘違いしてしまったのです」
書物に記されてるとか何をだしーー!?
怒ってないし、そもそも何と勘違いしてるのか、勘違いの勘違いだと思うんですけど?私が何も言わないのを『怒り続行中』とでも思ったのか、眼鏡さんが目に見えてアタフタしている。
取り敢えず誤解を解こう、まずはそれからだ。
「あの…怒ってませんから」
「本当ですか!?
あぁ、良かった…。
済みません、無知なばかりか、勝手に解釈するような真似までしてしまって…
失礼致しました」
心底ホッとしたような様子の眼鏡さん。それを見てると何だか物凄く申し訳なくなってくる。そもそもが勘違いなのに。
「いや、あのですね、
私はただの人間なんですけど」
「…は?」
「人間なんです」
「…………ニンゲン……?」
「はい」
「…ニンゲンとは何でしょう?」
って、そこからーーーーっ!?


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...