物語は突然に

かなめ

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始まり

定番ですか?

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城に入ると覆ってた手が離された。視界に広がる重厚感。昼間であれば煌びやかさすら感じるのかもしれないが、今は夜。重厚感と静寂さが相まって何やら見たくもない何かが出てきそうだ。お城の中に入るとかメッチャ貴重な体験だとは思うけど、楽しむ余裕は残念ながら無い。何故、城になんか連れてこられたのかってのも謎だし、この雰囲気もアレな感じだし、もう恐怖しか無い!あぁ、もう泣きそう…。泣きたくないけど目に涙が溜まってきた。嫌だな。諦めないって決めたのに、嫌な想像しか出来なくて挫けそう。
あれ、また持ち上げられてる?
浮遊感を感じて視線を向けると、渋メン巨人の目の高さまで持ち上げられる。そして何やら話しかけてきた。ていうか。今の今まで話しかけてくる事なかったのに、何、いきなり。見た目通りという感じの低い声、穏やかな雰囲気で何か話しかけてくる…けど何言ってるのかは当然と言うか解らない。ていうか、そんな優しげに話されても状況的に全然落ち着かないんですけどぉ?話しかけるタイミングが今って、どういう意味なの?
少しの間、ほんの一瞬だけ思案してから答える。
「何言ってるのか解らないんですけど?」
日本語で、ハッキリと。それしか話せないし。渋メン巨人が吃驚の表情してくる。そっちから話しかけてきたのに、何その反応、失礼な。しかしまたも話しかけてくる渋メン巨人。…気のせいかさっきとニュアンスが違うような…?まあ、そんな事はどうでも良いとして。
「だから!
何言ってるのか解らないってば!」
言葉が通じてないって事を理解してほしくて答えてるのに!いい加減、怖さが突き抜けたのか、どうにでもなれって気分になる。なるようにしかならないし、出来る事もほぼ無い。死ぬしか無いってんなら、せめて言いたい事くらいは言おう。そう思ったら、
「大体、私はお母さんとかお父さんとかいきなり事故で死んじゃって、事故の処理とかお葬式の準備とかでバタバタしてて、気持ちだって整理出来てなくて、片付けだって出来てなくて、それなのに異世界とか訳の解らない所にきちゃって、見た事もないような蜂とか蟻モドキとかいてビビったりもして、もしかしたら魔法とか使えちゃったりしないかなぁとか期待してみたのにその期待にも裏切られちゃって、どうしたらいいのか途方にくれてたら、竜巻に飛ばされて死にそうになるわ、巨人に出逢うわ、しかも鷲掴みにされるわ、しかもしかもメッチャ怖い目で睨まれるわ、言葉だって解らないから何言ってるのか全然だし、もう、もう、何なの!?」
ボロボロ出て来た。言葉も涙も。
自分の中でもう何かが本当に、プチっとキレた。止まらなくて、止められなくて、巨人の事も何もかもどうでもよくて、唯々、泣いて喚いた。






「…え?」
目が覚めたらベッドの上だった。…いや違った。何かクッション(?)を敷き詰めた籠(?)みたいな物の中に…いや上に(?)いた。
あれ?
周りを見渡しても昨日の渋メン巨人はいない。取り敢えずどっかの部屋の中なのは解るけど、この状況はどうした事か?
何、私、もしかして…昨日、あの後寝落ちしちゃった?
何それ!?いくら自棄っぱちになってたからって、ちょっとダメ過ぎる状態じゃない?五月蝿いとかいって、プチっと潰されちゃったりしなくて良かった…。自分の行動にゾッとしたり、今の状況にホッとしたり。起きたばかりだというのに、既に疲れた。
だけど、これは…チャンスじゃない?
今なら誰もいない。逃げるなら今だよね。
「よし、行こう」
意を決して籠の中から出る。さて、どうしよう。取り敢えず端まで行ってみて、改めて状況を確認する。どうやらテーブルみたいな物の上にいるっぽい。どうやったら降りられるかな?テーブルの脚を伝って…は無理だな。まずそこまで手が届かないし。掴まれそうなところも無いし。ロープなんてものも無いし…あるのは、籠だけ。いや後、クッションとハンカチ(?)。
閃いた!
ハンカチを使ってこうムササビみたいに飛ぶ!
…………………
って、無理に決まってるでしょーがぁっ!忍者じゃあるまいし、出来るか、そんなの!何考えてんの、私!非日常を経験し過ぎてちょっと何処か頭のネジが外れちゃったんじゃないのぉ?
「ふぅ~」
一息ついて。冷静になれ、と自分に云いきかせる。
「何か他の方法…」
考えないと。あるのは、籠とクッションとハンカチ。下までは…どれくらいか解らないけど、落ちたら確実に死ぬくらいの高さがある。今いるこのテーブル自体は大きさ、というか広さはそれほど無い。壁にはくっついてない。テーブルの脚には、テーブルの縁が邪魔で届かない。
……………
どうしろっての?
いや、いやいや、クッション。クッションとか良いんじゃない?クッションに掴まって、そのまま一緒にダイブすれば何とかなりそうじゃない?…ならないかな?チラリと下を見る。…失敗したら確実に死ぬよね…。どうしよう?でも他に何か…あ、籠とか?…バラして紐にするとか?…無理だね、うん。ノンビリそんな事してたら誰か来ちゃいそうだし。覚悟を決めてクッションダイブするか…。
…やろう。
諦めないって決めたし!
改めて覚悟を決める。よし、まずはクッションだ!籠から引っ張り出さないと。行儀悪く籠に足をかけてクッションを引っ張る。
「い、意外にクッションって重たいのね…」
なかなか籠から取り出せない。唸りながらクッションを引っ張るもまだ半分も出て来てない。イライラしてきたので、つい両足を籠にかけるようにして、更に力を込めてクッションを引っ張る。すると…ナンテコッタイ。籠ごとグルンとひっくり返ってしまった。…重い。地味に重い。クッションのおかげか潰れたりはしなかったけど、重くて抜け出せない。
うっそぉお!?
どうしよう?どうしたらいいの、これ。
ちょっと苦しいし。
ひっくり返った籠の下でモゴモゴ動いてみるも、少しガタつくだけだった。
本当にどうしよう。

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