物語は突然に

かなめ

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別視点(ウォード)

妖精(?)との会話

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昨夜、妖精(じゃないかもしれない)がユックリ休めるようにと簡易ベッド(果物籠にクッションを詰めたもの)を作って寝かせておいたのだが、そろそろ起きただろうか。適当に時間をみて妖精がいる部屋へと向かう。途中でジリスに逢ったので同行を頼んだ。何しろ昨夜の彼女が使った言語は、私の知る物では無かった。私は魔術師だ。自分で言うのもなんだが、多種多様の魔術を使用する為に、知っている言語はかなりの数だと思っている。それなのに彼女が何を言っているのか解らなかったのだ。私の知らない言語…つまりは私が使用しない魔術を使う者で、また多種多様の言語に精通した者がいなければ彼女との会話が成立しない可能性が高い。そう言う意味ではジリスは適任と言えるのだ。私と違い、回復系魔術の最高峰術師でもあるし、何より彼は過去に冒険者として諸国をまわっていた為、我々イスタル族以外の種族にも詳しい。彼女の今後に対しても、彼の意見は大いに参考になるだろう。
部屋の前に着いた。一応、ノックをする。返答があっても此方まで聞こえないだろうとは思うが、だからと言って礼節を欠いて良い理由にはならない。まして中にいるのは女性なのだから。
念の為もう一度ノックをする。数秒待ってから、声をかけつつドアを開ける。
さて彼女は起きているだろうか?
ティーテーブルの上を見る。
……!?
籠がひっくり返っている!まさか落ちたのだろうか?だが、下には何の跡もない。
「何処にいるんだ?
大丈夫なのか?」
ティーテーブルまで駆け寄って籠を持ち上げる。すると、そこに彼女はいた。声をかけても返事がない。
「ジリス!」
「解っています。
治癒ヒール!」
急いで回復魔法をかけてもらう。だが、意識が戻る気配はない。
「おい、ジリス。
大丈夫なのか?もっと上位の回復魔法のほうがいいんじゃないか?」
「大丈夫ですよ。
直ぐに回復しますから」
私の焦りとは対照的に落ち着いた様子のジリス。彼が大丈夫と言うのだから大丈夫なのだろうとは思うが…と、心配はいらなかったようだ。見ると彼女が目を覚ましていた。流石と言うより他にない。そして私が安堵の溜息を吐いている間にジリスは彼女に
「初めまして」
と妖精言語で挨拶していた。彼女から反応はない。続けて今度はエルフ語で
「初めまして」
と挨拶する。やはり彼女からの反応はない。また時間を置かずに別の言葉で
「∃Фшмю」
と挨拶した。これまた彼女の反応はない。更に違う言葉で
【初めまして】
と挨拶すると、此処で彼女が初めて反応した。かなり驚いているようだ。何語なのだろう。私にはサッパリ解らないのだが。しかし最初こそかなり動揺したような態度の彼女だったが、その後のジリスと彼女の様子から判断するに結構、順調に会話が出来ているように見える。二人の会話に混ざることが出来ない私はただ、それを見ているだけだったのだが、何故か今度はジリスが動揺している。泰然自若なジリスが動揺するとは、一体何の話をしているのか、非常に気になるところだ。しかし邪魔をする訳にもいかず、様子見状態を続行する。何、話の内容は後ほど聞けば良いだけのことだ。
しかし暇であるな。一度退室したほうが良いだろうか?
いやしかし、元は私が関わった事なのにジリスに全部任せてしまうのも無責任ではないだろうか。いやしかし、何も出来ない私が今この場にいたところで意味は無いのではないだろうか。いや、だがしかし…っと、何だ?ジリスが先ほどより更に大きく驚いている。何だと言うのか。しかも何事か呟きながら思案している。
うーむ、気になる。一体何の話をしているのか。こんなに彼女と話せない事が悔やまれるなんて…後で彼女の言語を調べて自分も話せるようになろう。そう心にきめたのだった。


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