物語は突然に

かなめ

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最初の知識

名前と発音

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さて魔法が使えるらしい事は解ったけど、この後どうするって感じだよね。直ぐにでも試したいのはやっぱり帰る為の方法。眼鏡さんも言ってたけど転移魔法ってのが取り敢えず最短の方法…かな?でも転移って…成り立ちや意味は解る。発音も問題ないと思う。だけど…イメージ。問題なのはイメージだよね。何となくは解る。でも何となく、でやって大丈夫なもんなんだろうか?失敗したらどうなっちゃうのか全然解らないところが問題で。発動しない程度ならイイけど、失敗してバラバラ死体とかはマジ勘弁してほしいし。試しでやるにはもう少し魔法って言うのがどんな物なのか知らないと怖すぎる。何かそれに近いもので安全な漢字で試してからじゃないと。何があるかな、成り立ちや意味は解っててもイメージが曖昧なモノ…う~ん
そんな事を悩んでいたら

コンコン

眼鏡さんが帰ってきた。
「お待たせしました…って…灯りの魔法ライティング?」
驚いた顔をしている眼鏡さん。ナンテコッタイ、ソッコーでバレました。…まぁバレるよね。未だ天井付近でフヨフヨと漂いながら光る物体Xがいる事だし。
「あ~…っと…部屋の中は暗かったですか?」
何故そうなるのか、予想外の台詞。あ、灯りの魔法だからか。ていうか、魔法使った事には驚かないのね。皆、普通に使うものなのかな?
「いえ、何となく、です」
「何となく、ですか?」
「はい、何となく」
「はあ…」
スッゴい意味が解らんて顔してる。まあ、確かに何となく灯り、て何だよってなるよね。私だってそう思うわ。ゴメンね、眼鏡さん、言い訳にもならない事言って。
眼鏡さんの顔だけ見てると納得は全然してないんだろうけど、気持ちを切り替えたのか小さな咳払いを一つして、持ってきた物を机の上に出し始めた。何でもさっきのテーブルセットと同じでさっき色々と買ってきたらしい。
取り敢えず、これを私の部屋にどうだろうかと言う事なのだけど…
何の箱だかは知らないけど、中一面に綺麗に布が張られていて、それに扉のような物まで付いてる。中にはベッドの代わりだろうか、よくおしぼりとかを乗せてる小さな籠のようなモノに布団の代わりなのかフワフワした感じの布が置かれている。そしてその横にはやはり小さな籠が置かれていて、何とその中には洋服が数着入っていた。例の小さなクッションも追加されてる。リボンやレースでチョコっと飾り付けされていて、しかもポプリまで入っていて仄かに良い香りが~♡何これ、スゴい、可愛い~♡これくらいしか用意出来なくて、とか何とか言われてるけど、充分だと思う。乙女心鷲掴みかよ、眼鏡さんてば素敵!惚れそう!いや、実際に惚れはしないけど。でも素敵!

「アイリンさん」

これ…この洋服も買ってきたんだろうか?こんなサイズのが売ってるの?

「あの、アイリンさん?」

このポプリ、中身は何だろう?中身を見てみたかったけど、結構固く口が結ばれてた。

「あの、宜しいですか、アイリンさん」

アイリン、アイリン、煩いな。
誰だよ、って思ってたけど、よく考えたら私だったー!
「はい!何でしょう!?」
急いで返事をする。ヤバい、ウッカリしてた。ソウデス、私はアイリンでした。
「済みません、可愛らしい部屋につい興奮してしまって!」
取り敢えず言い訳しとく。いや実際そうだったし。そして最早テンプレと化しているのではないかと思う笑顔眼鏡さんに
「良いのですよ。気に入って頂けたのなら何よりです」
そんな事言われちゃったりして。マジでイケメンかよ、この人。それなのに私ってば、こんなヤツで済みません、以後、気を付けます。
「それよりも、ですね」
「はい?」
「実はお願いがありまして」
お願い、きた。何ですか、ヤバい話ですか?
「お、お願い…ですか…?」
何だろう、何、言われるんだろう。
「ええ。その、実は…」
何でそんな、ちょっと言い難いな~って感じなの?何なの、ヤバい話なの?!

ゴクリ

思わず息を飲む。
そんな私の様子には全然気付く様子もないまま、眼鏡さんは思い切ったように小さく頷いてから続けてきた。

「実は…古代魔術言語に関して、私に色々と教えて頂きたいのです」

「…………………。はい?」

「ええと…、ですから、古代魔術言語に関して色々と教えて頂きたいと思いまして…その、如何でしょう、宜しいでしょうか?」

「once more」

「えっ?
…えっ? あの…
済みません、今、何と仰ったのでしょう?」

「済みません、気にしないでください。ただの言葉のアヤです」

メッチャ狼狽えてるー。
眼鏡さんもだけど、私も狼狽えてるー。
ええー?何でー?眼鏡さん、メッチャ古代魔術言語日本語喋れてるじゃーん。何で私なんかに、私なんかに何、教わるような事があるって言うの?こっちがビックリしたわ。取り敢えず。
「あの、私が教える必要なんてないくらいお上手だと思うんですけど…」
「上手…?いえ、私なんて全然です。成り立ちや意味を理解するのもまだまだですが、発音もままなりません。お恥ずかしい話ですが、古代魔法を発動させた事は過去に十数回あるかないかと言うくらいなのです」
マジか。こんなに話せるのに?笑顔がテンプレの眼鏡さんが少し暗い表情になっている。
「古代魔法に関しては、基礎の生活魔法の一部を使える程度でしかありません。しかも成功率は低く、とても使えるなどと言えるレベルではありません」
「生活魔法?」
って何それ?
「生活魔法とは、この、灯りなどがそうですね」
あぁ、これ…って
「えっ?灯りコレ使えないんですか?」
えぇ、と答えながら苦笑いしている。そうか…外国人さんには『灯り』の一言だけでも難しいのか…。
「試しに、やって見せましょうか?」
発動するか怪しいですが、と付け加えながら呪文を口にする眼鏡さん。

「灯り」

まんま『あかり』って唱えてた…。日本語まんまか、それで良いのか?私なんてわざわざ雰囲気だして英語で発音してましたけど?アレ?英語で発音しても発動するってどういう事なの?ん?いや。いやいや。脱線してる場合か。そう、眼鏡さんの呪文は発動しなかった。実際、日本語として考えるなら発音が変なのだ。『あかり』の〝か〟の字にアクセントを置きすぎと言うか。
「え~………っと…、
あの、発音、が問題なんですかね…?」
「はい。恐らくは其れが一番の原因だと思います」
…………………。
なるほど、難しい問題だ。

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