物語は突然に

かなめ

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最初の知識

協力

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眼鏡さんに古代魔術言語日本語を教えてほしいと言われたものの…ぶっちゃけ教えられるほどの何かなんて無いと思うんですが!まぁ、発音を直す為のアドバイスくらいは出来るか…な?
チラリと眼鏡さんのほうを見ると、目が合っちゃった。あ、しまった。笑顔きたーー!断れないヤツだ、これは。まぁ、色々とお世話にもなっちゃってるし、仕方ないか…?
「ええと…、わ、私で出来る範囲で良ければ…?」
メッチャ控え目に言ったつもりなのに、満面の笑みで感謝された…。期待されるほどには何も出来ないと思うんですが…まぁ、いっか…? 
いまいち気持ちが落ち着かなくてソワソワしてしまう。しかしそんな私を気に留める事なく眼鏡さんはまた出かけると言う。見た目穏やかそうなお爺ちゃんなのに、フットワーク軽いな、この人。と思ったら、苦笑いしながら
「まだ仕事が残っているので戻らないといけないのです。早目に帰るようにしますが、夜までは待っていてくださいね」
「はい。解りました」
仕事なら仕方ないよね。と言うか、お仕事中だったのに、わざわざ私の為に色々と用意してくれたりしてたんだ…もう何て言うか、大変申し訳ない気持ちになる。古代魔術言語日本語の手伝いくらいしなきゃね。
「あ!」
「何でしょう?」
古代魔術言語日本語で思い出した。出て行こうとしている眼鏡さんがこっちを振り返る。
「古代魔術言語の本って、コレ以外は無いんですか?」
そう。折角、時間があるのなら、魔法の勉強をしとこうと思ったのだ。眼鏡さんに教える必要もあるし、他に気になる事もある。古代魔術言語の本なら読めるって事も解ったしね。
「古代魔術言語の本ですか…。其れ以外でしたら、此方と此方ですね」
と本棚から別に二冊出してくれた。全部で三冊か。取り敢えずは充分かも。
「重ならないように、此方と此方に置いておきますね」
読みやすいように、本を別々の場所にそれぞれ置いてくれる。相変わらずの気配り上手!
「では行ってきます」
去り際の笑顔も忘れない。見事すぎるよ、眼鏡さん…。
いや、そんな事よりも。取り敢えずコレ、読みますか。








ニヴルスト魔道公国城、宮殿内の宮廷魔術師長用執務室の中に入るジリス。彼は宮廷魔術師の中の三大師の一人で、神官職を束ねる司教の立場にある。誰に対しても一定の規律を以って接し、またその常に穏やかな佇まいから、如何にも神職にその身を捧げて今日まできたと思われがちだが、意外にも若い頃は冒険者として活動し、それに伴い多くの種族と係りをもち、またそれらの経験から多くの学を身に付けて今の地位についたと言う叩き上げの人物なのである。
本来ならば、職務中に私用で抜け出すなどと言う行動を取った事に対して主に陳謝せねばならないところだが、今回の件に関して、最悪の事態が含まれているかもしれない事を考慮し、待つ事にしたのだ。もしもの場合、と言えるように。
自分が戻ってきた事は門兵から連絡が入っている筈なので、そう長くはかからないと判断している。目の前に積まれた書類を処理しながら、彼女─アイリンの事を考える。彼女自身からは何らかの思惑があるようには感じられない。今朝からの様子を思い出してみても、そうとは思えなかった。巻き込まれてしまっただけのにしか見えない。だが、妖精が使うのは妖精言語だけなのだ。妖精言語は妖精独自のものである為、他の言語は使わない。共通語を話す事も出来るらしいが、何故か妖精達は他言語は頑なに使わない。まして、アイリンが使っているのは古代魔術言語だ。見た目が類似していても彼女アイリンが妖精であるとは考え難い。だからと言って、あのサイズのエルフなど見た事も聞いた事も無い。…やはり彼女自身が言うように全く未知の新しい種族なのだろうか。だとしたら、どんな種族なのか。好戦的な種族でなければ良いのだが。アイリンを見ている限りではそんな事は無いようにみえるが、如何せん、情報が無さすぎる。

「ふぅ」

嘆息を一つしているとほぼ同時にノックがされた。
「よぅ、ジリス。彼女はどうだった?」
そう問いつつ入室してきたのは、最初に彼女を連れて来たウォードだ。自身が放った魔法で羽根を奪ってしまった妖精かと誤解したからなのだが、その誤解が良かったのか悪かったのか。
「大丈夫ですよ。屋敷で休んでもらっています。怪我もありませんし、何らかの思惑があるようにも見受けられませんでした」
ウォード=ヴァレット。魔術師でありながらも剣術を嗜んでいる彼は、騎士のような心持ちをしているところがあるので、恐らくは彼女の事情を慮っていたのだろう、報告を受けて、そうか、と息を吐いている。
「陛下は何か仰っておられましたか?」
私がそう訊ねると、彼は目を鋭くする。
「解った、と。それだけだ」
それだけ、と言う事は、取り敢えずは私達に任せると言う事だろう。早急に情報を集めなければならない。集めなければならない、のだが…。
嘆息する。
「難しい、のか…?」
心配そうに此方をみてくる。
「彼女自身には問題はありません。問題なのは、先程も言いましたが、誰がこの状況を作ったのかが全く解らないところですかね」
そう告げると、ウォードまで嘆息している。
「取り敢えず、私は〝ニンゲン〟というモノを知っている者がいないか調べる。彼女の事は、済まんがお前に頼む」
口を真一文字に結んで、真剣な面持ちで告げてくる。本当に責任感が強いと言うか、真面目な男だと思う。そんな者が頼むと言ってくれたのだ。同じ主に仕える仲間として、また同じ男として、その想いには応えなければ。
「えぇ。任せてください」




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