物語は突然に

かなめ

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日々早々

前方不注意、いや上方不注意

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…もう少し待ってみる事にしよう。さっきみたいに、やり過ごせるかもしれないし。飛行魔法失敗して落ちたりしたら洒落になんないし。落ちたら死ぬから、マジで。

ガチャッ

ん?今、扉、あ、あ…
いきなり入室してきた誰かさんと目が合いました。
「ふぎゃーーーーーっ!」
[ええぇぇっ!?]
ほぼ同時に叫んでた。て言うか、失礼な!何でそっちが叫んでんのよっ!一瞬、カチンときたがそんな事に気を取られてる場合じゃなかった!逃げる?どうやって?飛行魔法?まだ全然上手く使えないのに?でも、でもでもでも、何かこっち来たーーー!

『飛行』

迷ってる場合じゃないと急いで呪文を唱えて飛ぶ。けど、場所が悪かった。周りを確認しなかった自分が悪いんだけど、花瓶に生けてあった花に頭から突っ込んでしまって即、落ちた。落ちた時に思わず手が出てしまったのが悪かったんだと思う。ゴキッと鈍い音が体の内から聞こえた。
「────ッ!!」
痛すぎて声にならない。左腕…本来なら真っ直ぐなハズの場所に。いや、関節じゃないしーーー!?何か白いの見えてるんだけど!視覚で確認すると尚一層痛みが増した気がする。動く事も出来なくて丸くなってるところを鷲掴みにされた。
「──っ、
いっ、だ────いっ!!」
私を鷲掴みにした人が何か言ってたが、痛すぎて全然耳に入らない。入ったとしても解らなかったと思うが、本当にそれどころじゃなくて後から後から涙が出てくる。バタバタと他にも誰かが入ってきたらしい。何か大声で騒いでる。その大声すら響いて痛い。

『ゲネージング』

泣いてる私の上の方からキラキラと光るモノが降ってきたと思ったら、痛みが段々と引いてきた。いや、怪我が治ってきた!?骨が飛び出てたのに、何事も無かったかのように綺麗に跡形もなく治った…。でも安心したら もっと涙が出てきて。顔をあげたら、ジリスさんとウォードさんがいて。二人とも心配そうな顔してて。
「大丈夫ですか?」
そう言われて。怖かったとか痛かったとか、安心したとか、もう色々な感情がゴチャ混ぜになって大声で泣いた。




泣いてる間に私を鷲掴みした誰かさんはウォードさんといつの間にか部屋を出ていってて、私はいつの間にかジリスさんの手の上にいて、ヨシヨシって感じで頭を撫でられてた。
「落ち着きましたか?」
黙って頷く。声を出して返事をしようとしたんだけど、ヒックヒック言ってて声にならなかったのだ。
「済みません。通達が出る前にこんな事になってしまうなんて…。痛かったでしょう?」
また黙ったまま頷く。しゃくりが止まらない。
「アイリンさんの事は私が保護している妖精だと通達をだしたので、今後はこのような事はありませんから」
顔を上げると申し訳無さげな顔したジリスさんと目が合う。
「ほっ、保護っし、てる…?」
「えぇ。定期的な治療の必要がある難しい病気の妖精を保護したので連れてきていると通達を出したのです。そうすれば此処にいるアイリンさんを見た者も、成る程と余計な疑念を抱かないだろうと思いまして」
戻ってくるのが遅くなって申し訳ないと謝りながらそう説明してくれた。
「先程の者は通達を受ける前に此処に来て、妖精貴女が悪戯をする気だと勘違いしたようです」
「いっ、いだずらどがっ、じないも゛ん…っ」
「勿論、貴女がそんな事をするとは思ってませんよ。彼も貴女を妖精だと思ったからそう勘違いしただけで」
またちょっと涙が出てきた。
「本当に済みません…。私の考えが足りなかったばかりにこんな事になって…」
「ジ、ジリズざんのっ、せいじゃっ、な、いでずっ」
泣いてるので上手く言葉にならない。
「わっ、わたじがっ、勝手に、び、びっくりしでっ、かっ、勝手にっ、落ちたんでずっ」
たぶん何言ってるのか解らないと思う。でも自分で勝手に怪我をしたのだ。鷲掴みにされたのはどうかと思うが、怪我の事を誰かのせいにするのは間違ってる。
「ごえ゛んなざい゛…」
「いえ!私も早朝だから、まだ部屋を訪れる者はいないだろうと思い込んでしまったのが悪かったのです。私の注意が足りなかったばかりに…本当に済みません」
「ちがっ、わ、わたじがっ、ちゃんどま、周りを見でながっだからっ」
「いえ、本来ならば私が気をつけるべき事で…」


暫く謝り合戦になってた。

謝り合戦してる間にだいぶ落ち着いた。ジリスさんが貸してくれたハンカチで顔を拭きながら、さっきの誰かさんについて少し話す。
「あの…、本当に、私が勝手に落ちて勝手に怪我しただけなので、さっきの人のせいじゃ絶対にないので…」
段々と尻つぼみにモニョモニョしてくる。怒らないであげてって言うのは何だか上から目線っぽいとか思ってしまって、上手い言葉が出てこなかったのだ。
「落ちたのですか?」
「はい。びっくりしちゃって…周りをちゃんと確認しなかったから、ぶつかって落ちちゃったんです」
「それであの様な怪我をしていたのですね…。怪我で済んで良かった…いえ、怪我をしたというのに良かったと言うのは問題だとは思うのですが…」
…ん?何か誤解があるような…?
「あ、あの、だから、あの人のせいで怪我をしたわけじゃないので、あの…」
「ん?あぁ、なるほど。え~っと…、まぁ、その。………まぁ、後で上手く慰めておきますから大丈夫ですよ」
……何か視線を泳がせながら言ってる…。
?」
まだ視線が泳いでる。なんで?
「あ~~…っと……。多分、その、ウォードにですね、その、物凄く厳しいお説教を受けているのではないかな~っと思いまして……」
「ウォードさんに?」
「えぇ、まぁ…。その…何と言いますか、ウォードはその、とても紳士然とした人柄と言いますか、その、とても…女性を大切に扱う人でして…、まぁ、先程のような状況を見たら多分、その、えぇ、まぁ、うん。怒りの程が大変な事になっているだろうなと。まぁ、それでその後が想像がつくと言いますか…何と言いましょうか?」
〝とても〟のところをやたらと強調している。つまり…ナニ泣かしとんじゃ、ゴラァッ!!的な?……怖っ。ウォードさん、怖ぁっ。ゴメンね、ナニさんだかしらないけど、誰かさん。大丈夫。きっとそれと同等のでジリスさんが慰めてくれる。きっと。
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