物語は突然に

かなめ

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神の書を求めて

vs古代竜3

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それは魔力だった。
力ある言葉まほうではない、ただの魔力の塊。
彼女アイリン叫んだ言葉魔力の塊は竜のブレス攻撃を吹き飛ばし、そのまま竜に直撃した。文字通り直撃だった。しかしながら魔力には攻撃の意思は乗っていなかったらしく、直撃を受けた竜も数回、体を大きく揺らした後は紅かった瞳が琥珀色に変わっていただけで、特に怪我も無いようだった。
竜のほうは状態異常が解除されると此方へ一瞥もする事なく何処かへ飛び去っていった。
竜が去った所為もあるだろうが、その結果に茫然となる。
竜のブレス攻撃を無効化しただけでなく、状態異常まで治す。しかも力ある言葉まほうですら無い、ただの魔力の塊。
どれだけの魔力をぶつければそんな事が可能になるのか。色々な考えが巡るがどれも纏まる事なく霧散していく。
どれくらい茫然としていたのか解らないが、知らず息も詰めていたらしく息が切れていた。目の端に未だ身体を起こす事すら出来ない二人を捉えて、慌てて回復魔法をかける。
その時になってやっと彼女アイリンの事を思い出した。


「アイリン!アイリンさん!」

ソッとポケットから連れ出すも返事はない。魔力枯渇によって死んでしまったのではないかと焦りつつも状態を観察してみて、それがただ気を失っているだけだと気付いた。
あんな魔力の使い方で枯渇する事もなく、ただ大量の魔力消費による一時的に気を失っただけとは。
一瞬、魔力回復薬を飲ませるべきか悩んだが、怪我人の治療の為に自分の魔力を回復したほうが良いと判断してヤメた。魔力は休んでいれば回復するからだ。彼女のほうはそのまま休ませる事にして、自分は魔力回復薬を飲んで仲間に治癒魔法をかける。
「皆さん、大丈夫ですか?」
もう少し回復魔法をかけたほうが良いだろうが、魔力が殆ど無くなってしまっていて、どうにも出来ない。
「だ、大丈夫です」
「ありがとうございます…」
まだ顔色の悪い二人が返事をする。
「済みません…。こんな事なら薬草なども用意しておくべきでした」
自分が神官だから、回復魔法が使えるからと薬草などの類は持たなかったのだ。旅をするならば、いつでも不測の事態に備えておくべきなのに。
「いえ。ジリス様が居たのですからそんな物は必要無いと私も思っていましたので」
「まさかこんな所で竜に出くわすなんて誰も思いませんよ」
「そうですよ。気になさらないでください」
ガイとレオン、二人がそう言ってくれているが、。いや、聞いていた。少なくとも竜がいるという話を聞いていながら、それを怠った自分の責任だと思う。実際、彼女がいなければ全滅していただろう。自身の怠慢は他の者を危険に晒す事になるのだ。もっと慎重にならなければ。
「あの子!」
「へん!」
突然、妖精達が私の手の中にいるアイリンを指して叫んだ。
「おい、お前達…」
レオンが制止しようとするが止まらない。
「へんだもん!」
「あんな事できるワケないもん!」
「おかしいよ、その子!」
「知らない言葉しゃべってた!」
どうやら妖精達はらしい。おかしい、おかしいと連呼しながらレオンの周りを飛び交っている。
どうするか。
今回の旅で同行を頼んだこの二人。この二人は信頼できる。だから同行を頼んだのだ。もしも旅の中で彼女アイリンの存在が知られた時、彼女の存在の意味を知ってなお、それでも此方側につくだろうと思える人物。
ガイは寡黙ではあるが、陛下への忠義に厚く、またか弱き者への手助けを誰に言わず言われずとも率先して行う程に義侠心溢れる男だし、レオンはその身に持つギフト祝福の影響もあってか、誓いを破る、裏切る等の行為を一切しない男なのだ。故にこの二人なら問題無い。
想定していたよりはだいぶ早いが、先程の竜の事もある。話しておいたほうが良いだろう。
妖精達の言い分を制止してから、ガイとレオンの二人を見る。そして極秘の話だという事を念押ししてから彼女──アイリンに関しての話を始めたのだった。



彼女アイリンの話をした後の二人の表情は何とも微妙なものだった。そして意外にも妖精達はスンナリと納得していた。
「なるほど~」
「なるほどなるほど~」
「へんなのも納得~」
「元からへんだったんだ~」
酷い言われようだ。
「変なの、で、納得するな!」
全くだ。流石にそんな納得の仕方では、いくら温厚な彼女でも良い顔はしないだろう。
「あの竜の攻撃を無効化して、しかも追い払ったんだぞ!?化け物じゃないか!」
もっと酷い…。
レオンの言い分を聞いていたら頭を抱えたくなった。悪い人物ではないのは知っているが、他の言い方は出来無いのだろうか。妖精達まで化け物だと騒ぎ始めている。
「んんっ!」
少し注意をしようかと咳払いをすると
「あっ!済みません!お前達、ちょっと得体が知れないぐらいで化け物とか言うな!」
化け物と言い出したのは君でしょうと突っ込みたくなったが、グッと堪える。
悪気じゃないというのは付き合いの長さから知ってはいるが…彼女アイリンが眠っていて本当に良かったと思ったのは言うまい。
「彼女は化け物ではありません。確かに魔力は計り知れないものがありますが、それでも。魔法ではなく、魔力で竜を追い払ったという事が彼女の人となりを現していると思います」
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