物語は突然に

かなめ

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神の書を求めて

気持ちを新たに

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「彼女の人となり…ですか?」
ガイが不思議そうな顔をする。
「そうです。彼女は魔法を使えます。あれだけの魔力があるならば、魔法で撃退するほうが遥かに楽だったはずです」
「確かに…」
「あんな方法、普通はしませんね」
二人が頷くのを見てから話を続ける。
「そう、それなのに彼女は魔力を放っただけです。攻撃の意思すら乗せていない、ただの魔力を」
「へんなの~」
「なんでそんな事したの~?」
割り込んできた妖精達にも説明する。
「先程の説明でも言いましたが、彼女の種族は争いを好まないとの事でした。事実、彼女自身もあまり好まないようで、以前、彼女を乱暴に扱った者に対しても罰しないでほしいとお願いされたほどです」
「えっ!?」
「あぁ…」
「なんで?」
「バカなの?」
なんというか…いつも思うのだが、妖精達は口が過ぎるのではないだろうか。
ガイの反応だけは少し意外だったが、騎士と魔術師の違いはあれど、同じ防衛クラスのウォードから話があったのかもしれないと思えば、想定内と言える。
「とにかく…それを考慮するなら、彼女が何故、魔法ではなく魔力を放ったのかも解ろうかというものです」
「えっ!?」
「「なんで~?」」
解らなかったらしい。
「つまりですね」
「争いを好まない、故に相手を傷付ける事も嫌う、という事でしょうか…?」
ガイが思案げな表情で呟く。
理解してくれた者もいたようで良かった。ガイの言葉に頷きつつ、補足する。
「ええ、恐らく。それに事情はどうあれ、相手を傷付ければ争いの種になるかもしれない事も危惧したのではないかと思います」
「「なるほど…」」
「「へ~」」
「だから力ある言葉まほうではなく、意思の力のみで構成される魔力を放ったのでしょう。争う意思が無いという事を解ってもらうために」
今度は返答は無かった。全員黙って考え込んでいる。少し経ってから
「争いを回避する為に自らの身を犠牲にしてまで意思を通すとは…何という…何という…っ。はぁ。
しかもそのような種族を利用しようだなどという者がいるとは…許せん」
恐らくガイ本人は独り言のつもりであろう言葉をポツリポツリと呟いていた。
「でもでも~」
「古代竜にあんなコト出来るとか~」
「見たコトない」
「ニンゲンてナニ?」
「ドコに住んでるの?」
「何でダレも知らないの?」
妖精達がレオンの周りで飛び交いながら誰もが思うであろう謎を口にしている。
そうか…妖精族もニンゲンを知らないのか…。
「古代竜に何かを出来るなんて…まるでオノタカムイのようですね」
レオンが笑いながらそう言ってくる。
オノタカムイ。
彼女アイリンはオノタカムイの事は知らないと言っている。だが、メイフなる神の使者の事は知っているとも言っていた。
共通しているのは同じ古代魔術言語を使う素性不明の種族、そしてメイフ神の使者を認知している。
共通事項を考えれば、同種族であってもおかしくはない。
もし同種族であったなら如何だろう?
例えばニンゲンという種族が何処に存在しているのか。メイフなる神の御許に住んでいたりするのだろうか?神の御許であるなら誰にも知られる事なく存在しているというのも納得出来る。
「私も…そう思った事があります」
そんな事を考えていたせいだろうか、つい、ポロリとこぼしてしまった。
「「「「えっ!?」」」」
そんな反応を返されるとは思わなかったが。レオンなど、先ほどの自分と同じような考えを漏らしていたというのに。
「ほ、本当にオノタカムイと同じ種族なんですか…?」
そう念を押すように聞いてくるレオンに嘆息しながら応える。
「あくまで私の考え、ですよ」
皆の視線が痛い。説明すべきだろうか。
チラリと彼女の方へ視線を移す。布を畳んだだけのソレの上で眠っている、その彼女はオノタカムイを知らないと言っていた。だが同種族では無いとも言わなかった。ただそれだけだ。
視線を戻すとまだ皆、此方を見ていた。説明を待っているらしい。
「あくまで私の考えであって、それが答えではありませんよ?」
そう告げてから自分の考えを話して聞かせる。皆に話している間にやはり同種族であると考えた方がしっくり来ると思えてきた。そもそも自国のあのオノタカムイの書は昔一緒に旅をした事があるハイエルフから譲りうけた物を、自分では読めなかった為に国に寄贈したものなのだ。他に読める者がいるかもしれないと期待を込めて。
だが読める者はいなかった。
最初にそれを持っていたハイエルフも、半分ほど読むには読めたがその意味を知るには至らなかったと言っていた。
古代魔術言語に馴染みのあるハイエルフでさえ、読み解くには至らなかった本を彼女は読んだのだ。その意味すら解いて。
それだけではない。
あの本には隠された意味がある、とまで言ったのだ。恐らくはハイエルフでさえ気付いてはいないだろう事まで。何故、と考えれば、そういったものに触れた事があるのではないか、と考えられるのだ。人は。知っているからこそ気付ける事がある。
では、彼女はそれを何処で知ったのか?
誰にも知られていない種族である彼女が、一体何処でオノタカムイが書くその特殊な文体を知ったのか。しかも彼女はと言っていたのに。
それが事実であるなら当然、知ったのは自国で、だ。
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