物語は突然に

かなめ

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アンデッドの村

徘徊する者(ジリス視点)

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レイト村が見えてきた。

「今日はあの村で一泊しましょう」

そう声をかけるとアイリンとエンドレアが万歳しながら嬉しそうな声を上げている。まぁ、今日は特に休みなく移動し続けているし、疲れているせいもあるのだろう。自分もホッとしたのは確かだ。
この村の後は山越えするまで安心して休める場所がない。レオンがどれ位で合流出来るか解らないが、出来れば此処で再準備をしつつ数日は待機していたいところだ。
そんな事を考えながら村の中へと入って、直ぐに異変に気付いた。
人が少なすぎるのだ。
幾ら何でも、まだ日も落ちきっていないというのに、人が殆ど見当たらない。
…おかしい。
人の気配が無いという訳ではない。
家の中には人影がある。
この村は農民が殆どだったはず。通常ならまだ農作業をしている時間だ。しかもこのレイト村は、ニヴルストとガルシア神国を繋ぐ街道沿いにあり、山越え前にある安全な休憩場所とも言える貴重な村で、冒険者や商人なども利用する村なのだ。
だが、そんな村なのに農作業をしている者どころか、外を歩いている者も殆どいない。
どうなっているのか。
ガイも村の様子がおかしい事に気付いているようだ。
「…停めてください」
御者に声をかけてからガイを見ると、ガイは直ぐに頷いて馬車を降りる。
馬車の後方を確認したようだったが、やはり人影はなく、少し調べてくると言う。確かにこのまま進むより、少し調べたほうが良い気がする。そのままガイに調査を頼んで待機する。その間も村の様子を窺っては見たが、この場で見た限りでは何が原因なのかサッパリ解らない。誰か一人でも通りかかる者がいれば、理由を聞くところだが生憎と誰も通らなかった。

待つ事一時間といったところだろうか、ガイが帰ってきた。
その周囲を注意深く窺っている様子から何かあったのかを問うと、それには答えずに宿に行こうと言う。
あるのだろう。
追求せずに宿に向かう事にする。
宿を取り、部屋に入ったところで再度問いかける。すると──

「アンデッド?」

思わず声に出してしまった。
ガイの話によると、夜な夜な何処からともなく大量のアンデッドが現れ村にある井戸の周りを徘徊すると言う。しかもそのアンデッドは外にいる者を襲う事はあれど、屋内にいる者までは襲わず。そして聖水が効かない。これだけ聞くとリッチ級のアンデッドが何かの目的があって集まっているように思われるが、そうでもないらしい。
…奇妙な違和感。
この村の墓場から来るのでは無いという事からも自然発生のアンデッドではない。大体、自然発生のアンデッドも流行病などで村人が大勢亡くなった為、死体の処理が間に合わないなどの理由が無ければまず起きない現象だ。ニヴルスト国領ではここ数年、流行病があったなど聞いた事がない。
それにアンデッドなのに、無差別に人を襲う訳ではないのもおかしい。屋内だから襲われないなどというものではないのだ。
更にいうなら、井戸の周りに集まるという事だろうか。何かを探しているのか、もしくは他に理由があるのか。どちらにしても目的が不明すぎる。
使
そう考えるのが妥当だろう。
何の為に?
──不明。
期間は?
数日前から。
数日前とは具体的にいつ頃から?
──嫌な予感がする。
何とも言えない漠然とした靄のようなものに纏わりつかれている気がする。
おかしい。
何が?
いや、おかしな事は幾らでもある。
何故、古代竜がこの大陸にいる?
何故、あの竜は状態異常になっていた?
デザートウルフからデルタベアへのヌシ交代はいつ起きた?
何故、アンデッドが大量発生しているのか?
何処から来たのか?
井戸に何があると言うのか?
何故、

これらは全て関係があるのだろうか?
あるとしたら何が原因なのか?

……彼女アイリンに何か関係があるのだろうか?

何故、そう思ったのか。
たまたま通常なら有り得ない事が続いたから、と思ってしまったのだろうか。
ガイと村への対応を相談しながら、そんな事を考えてしまっている自分を恥じた。
彼女アイリンは巻き込まれただけだ。そう、解っているのに、彼女の所為にするのは間違っている。
だが嫌な予感が消える訳ではない。
何かが起こりそうな予感。
ただの気の所為ならそれはそれで良い。
たが、もしも。
もしも何かが起こる前触れなのだとしたら。
何が目的なのかは解らないが、今までの事からそれが良い事であるとは到底思えない。それなら今回のも対処すべきだ。
関係なかったとしても、それはそれで村の為にはなる。
まずは……。

「ねえ!アレ、アレ!見て!」
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