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第一章 異世界からの来訪者編
第7話 小動物は魔力が好きなようですよ。
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「(パパー! ママがぁ。ママがぁ)」
そう言いながら拓海に向かってくるのは、モフモフの毛並みをしたムササビのような熊、拓海とシャンテの子供という事になっている、ムサフィーである。
ムサフィーの声自体は「ムームー」としか聞こえないのだが、拓海とシャンテは魔力が同調しているからのようだ。
そのムサフィーが部屋に帰ってきた拓海の姿を見るなり、涙を流して泣きながら抱き着いてきたのだ。
拓海自身は自分の子供とは思っていないのは間違いないが、それでもそのモフモフの毛皮と見た目の可愛さを放っておくことは出来ないのだろう。
「シャンテがどうかしたのか? なんでムサ一人だけなんだ?」
部屋に入った拓海がシャンテの姿が見えないことを確認し、ムサフィーに何があったのかを聞き出そうとする。
ムサフィーの言葉だけでは、シャンテに何が発生したのか分からなかったからだ。
「(ママがぁ、悪い奴に攫われちゃったム! パパ! 助けてあげて欲しいム!)」
「悪い奴? ってどんな奴だった? どこに行ったか分かるか?」
「(分からないム! でもママの魔力が全然感じられないム!)」
ムサフィーの発言に首を傾げて口を開く。
「魔力を感じるとか感じないとか、それってどういう事なんだ?」
拓海自身は魔力を感じるという感覚が分からないため、それがどんなものかわからない。
その為、拓海のこの発言も当然だろう。
「(僕は生命の魔力を感じ取ることが出来るム! 僕のご飯は生命の魔力だからム!)」
どうやらムサフィーは生命の魔力を感じ取ることが出来る様である。生物ではなく生命の魔力だ。
そしていま判明したことは、やはりムサフィーは喰魔獣だったという事だ。
「ムサのその感覚って、どのくらい離れたら感じられなくなるんだ?」
ムサフィーの発言に、どこか含みがある様に感じられるが、今はシャンテの事である。拓海はどのくらいの距離が離れたら感じられなくなるのかと聞きたかったのだが、
「(この世界にいる限り意識すれば感じ取れなくなることはないム!)」
どうやら距離は関係ないようである。
しかし、その代わりに嫌な予感を孕む言葉をムサフィーが言う。
「それはまさか――殺されたってことか?」
一番最悪の考え――シャンテの死亡というのは、付き合いの短い拓海であっても受け入れがたいことだ。
ムサフィーの身体を乱暴に抱き上げ、拓海が大声を上げる。
「(ムー! パパ苦しいム! 落ち着いて欲しいム!)」
ムサフィーの悲鳴に我を取り戻し、腕から解放して床に下ろし、「スマン」と呟いてから再び口を開く。
考えてみればシャンテをさらった奴の目的が、「シャンテの殺害」であるならば、今この部屋で殺害されているはずだろう。
しかしそうなっていない以上、別の目的があるはずだ。
「それで、ムサがシャンテの魔力を感じられないってのはどういうことだ?」
「(多分、違う世界に閉じ込められているからム!)」
「違う世界?」
ムサフィーの思わぬ発言に首を傾げ、頭上に盛大な「?」を浮かべる拓海である。
違う世界という事は、そのまま異世界の事であるのは間違いないだろう。
しかし、拓海本人も異世界から文字通り召喚された存在であるため、違和感を隠し切れない。仮にシャンテが地球に召喚されたとしたら、誰がそれを行えるのかという問題もある。
「(そこにあるのに見えない――なんだかそんな感じム!)」
ムサフィーの言葉を聞いて拓海の頭はさらに混乱する。
そこにあるのに見えないということは、幽霊のような状態を表しているのだろうか。それならばやはりシャンテは殺害されているはずである。
しかしシャンテの遺体はここにはないし、あとで殺害する理由というのも思い当たらない。
と、そこまで思考が及んでから拓海の頭に一つの考えが閃く。
「ムサの魔力を感じ取ることが出来るのは、精霊も同じか?」
「(ム? 精霊って生きてるム?)」
ムサフィーは先ほど、生物ではなく生命の魔力を感じ取ることが出来ると言った。
精霊に生命という概念があるのかは別として、先ほど拓海と会話していたシルフは確かに意思があった。意思があるという事は生命が宿っているはずである。
しかしムサフィーは今、精霊が生きているかどうかという事を疑問にしてきた。つまり、ムサフィーは精霊に意思があることを知らないのだ。
「って事は――ズレている次元にいる生命の魔力は分からないってことか。そしたらそこにシャンテがいる可能性が高いな」
「(ム? パパ何のことだム?)」
「気にしなくて良いぞ。それじゃ俺はシャンテを助けに行くから、ムサはここで待っててくれ!」
拓海には何かしらの考えがあるのだろう。その場にムサフィーを残して立ち去ろうと試みるが、
「(嫌だム! 僕もママを助けに行くム!)」
どうやらムサフィー自身も付いて行きたいようである。
ムサフィーが付いて来ること自体、拓海個人としては大いに構わないのだが、精霊術師としては困ることこの上ない。
何しろムサフィーは喰魔獣なのだ。一緒に連れて行こうとした場合、シャンテを助ける時に精霊術が使えないという、非常に大きな問題を抱えることになる。
「シャンテを心配するのは分かるけど、今は我慢してくれないか? ムサがいると術が使えないんだ」
隠したところで仕方がないと判断しての事だろう。拓海がムサフィーに留守番をしているように伝える。
「(嫌だム! 僕も一緒に行くム! パパの魔力を食べなければいいだけム!)」
「ん? そんなこと出来るのか?」
「(ム!)」
どうやら近くにいると魔力が吸い取られるというわけではなく、自分の意思によって制限できるようだ。眉をキリリと持ち上げてムサフィーが頷く。
それなら大丈夫だと思いムサフィーを抱え上げようとするが
「でも多分シャンテがいるのはズレた次元にいると思うんだ。そこにムサは行けないから、やっぱり待ってた方が良いんじゃないか? それにそこに行く方法もまだ見つかっていないしな」
今はまだ自分の想像の範囲でしかないが、シャンテがいるのは恐らく次元がズレている場所だと考え、再びムサフィーに留守番を提案する拓海である。
「(ム~――)」
拓海の言葉にしょんぼりと肩を落とし、俯くムサフィー。
喰魔獣であるが、その様子は可愛いただの小動物に違いないのだ。
「そんな落ち込むなって! ママはパパが絶対に連れて来るから! 帰ってきたらどこか遊びに行こうな!」
そのムサフィーの可愛い仕草に、拓海もたまらず抱え上げ、頭を撫でながらそう伝える。
抱きしめられながら頭を撫でられるムサフィーは、実に気持ちよさそうに目を瞑り、拓海に話しかける。
「(ム~やっぱりパパの魔力はおいしいム!)」
どうやら拓海の魔力を食べていたようである。
それが分かった拓海の思う事は、「留守番にしてよかった」である。短く息を吐き、シャンテのベッドにムサフィーを置いて頭を撫でた後、風の様に部屋を飛び出していく拓海であった。
※ ※ ※ ※
時刻は既に深夜である。この時間に他人――それも女性の部屋を訪ねるのは、恋人同士でもない限り非常識というものである。
「エリーヌさん! すいません! ちょっと開けてください!」
しかし今はそれどころではないと判断したのだろう、拓海は部屋の扉を叩きながら大声を上げ、中の住人であるエリーヌの名前を呼ぶ。
拓海自身、まだこの世界に召喚されたばかりであり、まだ勝手がわからない。こういう場合は誰かに支援をしてもらうのが一番良い方法である。
拓海也にそれを考えての事である。
「騒々しい! こんな時間に淑女の部屋を訪ねてくるのは非常識ではないか? 貴様は私に仕事をさせない気か?」
拓海が扉を叩いて僅か十秒後、部屋の主であるエリーヌが、怒りの形相を隠しもせずに扉を勢いよく開けてから腰に手を当て、騒ぎの首謀者である拓海へ詰め寄る。
自分の事を淑女と表現するのは、さすがにどうかと思うのだが、今はそれどころではない。
「すいません。でもシャンテが何者かに攫われたようで――」
「なに! シャンテが? どういうことだ?」
部屋を開けたエリーヌが、先ほどみせた憤怒の表情とは別の、不安の色を濃くした驚愕の表情を見せ、拓海の襟元を掴んで怒鳴り声をあげる。
血が繋がっていないとはいえ、自分の妹と昨晩宣言したのだ。その妹が何者かに攫われたと聞かされれば無理もないだろう。
「ちょっと、取りあえず落ち着いてください!」
エリーヌを一先ず話が出来る状態に落ち着かせると、拓海が知っている情報を話し始める。
「――――今俺が知ってるのは今のところこれで全部です。でもエリーヌさんも知っての通り、俺はまだこの世界に来たばかりです。何か良い方法はないですか?」
拓海が事のいきさつをエリーヌに話すと、エリーヌは腕を組んで考え込んでいるようだ。
「あの――」
「うむ。今の話を聞くに、今回はどうやら私は力になれそうにない」
どうやら拓海の思惑は、エリーヌ自身によって却下された。
「そんな――どうして?」
拓海が疑問の色を濃くした表情で眉根を寄せ、エリーヌに質問する。
拓海の考えでは、エリーヌの力を借りることが出来ればほぼ任せっきりで大丈夫だった。しかしその本人によって却下されてしまったとなれば、この質問も当然だろう。
「単純にだ、私では実力的に不足しているところがある」
「実力的に?」
確かにエリーヌは精霊術師ではないため、ズレた次元に侵入することは不可能だろう。それは分かる。
しかし、続いてエリーヌの口から発せられた言葉は、拓海にとってみれば信じ難いものである。
拓海にとってエリーヌの力は全然想像もつかない。だがそれでも、今の拓海よりは十分な戦力のはずだからだ。
エリーヌの言った「実力的に」の意味が分からず、拓海が腕を組んで首を傾げ、眉根を寄せてエリーヌの言葉を復唱する。
「そうだ。タクミは分かっていないようだから話しておこう。今タクミは精霊術師としての力を行使することが可能になった。それはつまり、拓海がこの王都にいる魔法師の中で、五指に入る実力を得たという事だ」
そう言いながらエリーヌが掌を広げ、拓海の目の前に差し出してそう言う。
「そしてタクミ以外の四人の内、二人は召喚士だ」
エリーヌが差し出した掌から指を二本折ってから話を続ける。
「そして他の二人は魔術師と法術師なのだが、今はモンスターの多い地区に遠征に行っている。この意味わかるか?」
エリーヌの言いたいことはつまりこうである。
今現在、この王都に精霊術を使えるのは拓海しか存在しない。そしてそれは同時に支援可能な人材が誰もいないという事でもある。
しかしここで一つの疑問が生じることになる。
「支援が望めないのは分かりました。でも実力的に――というのがイマイチわかりません。どう考えても、俺よりエリーヌさんの方が実力は上ですよね?」
確かに精霊術師というのが稀少な職業と言っても、昨日召喚されたばかりの拓海の方がエリーヌよりも強いという事は考えにくいのだ。
「ふむ。この世界の魔法師については既に話したと思う。覚えているか?」
今日の早朝、目の前にいるエリーヌに講義された事だ。どんなに物覚えの悪い人でもさすがに覚えている。
エリーヌの質問に「あぁ」と頷いて肯定を示す。
「精霊術師が行使する代表的なものに魔法連携があるのは既に知っていると思う。魔法連携によって行使する力は、どんなに抑えても魔術師百人分だ」
「百人分!」
拓海が声を大きくして叫ぶ。自分にそれほどの力が本当に存在するのか、という疑問と例に挙げられた力量の大きさにである。
「さすがにそれは大げさじゃないですか?」
ゆえに拓海のこの反論も当然と言えるだろう。しかし、
「いや。以前私の友人に精霊術師がいたんだが、そいつに教えてもらったし、実際にこの目で見たから間違いない」
どうやらエリーヌの友人に精霊術師がいて、そしてその実力をはっきりと目の当たりにしたようである。
「でも、俺まだ魔法連携なんて使えないですけど」
「そうなのか? 精霊術師なら誰でも使えると思っていたのだが――――何か心当たりはないのか?」
エリーヌが疑問の表情を浮かべながら拓海の目を覗き込む。
「(そうはいっても本当に知らないんだけどなぁ)えっと、そのご友人から何か聞いてませんか? コツとか。今日行った魔法師ギルドには精霊術師は一人もいなかったので――」
「確かその友人が言っていたのは、『オーブ』とか言うのを同時に使うとかなんとか――。私には理解できない単語がたくさん出てきてな。そのまま逝ってしまったが――」
エリーヌは先ほど、自分の友人に精霊術師がいたと、確かにそう言っていた。過去形で表されていたという事はつまり、その人物は既にいなくなっているという事だ。
エリーヌの言葉を全て理解できていなかったことに、拓海が気まずそうな表情をする。
「気にしなくても良いぞ。それで、今の私の言葉で何か思い当たることは無いか?」
「――――ちょっと時間をもらえますか」
そう言うと拓海が意識を集中し、目の前に現れている白いオーブに触れる。
オーブに触れた瞬間、拓海の意識が別次元に飛ばされる。既に三度目になる感覚である。
「どうしたのお兄さん?」
そして現れた緑色の少女、シルフが拓海の目の前に現れる。
「ちょっと教えてもらいたいことがあるんだ。魔法連携って知ってるか?」
「もちろん知ってるよ! 精霊術師が僕たちの力を使う場合にオーブが三個以上必要なのはもう知ってるよね。これを連携させるんだ。具体的に言うと、風のオーブと火のオーブを三個使ったりして精霊術を使うんだよ! 僕たちが連携って言ってたから、精霊術師の間では魔法連携って呼ばれるようになったんだよ」
「つまり、複数のオーブを同時に使用するだけ?」
「まぁ簡単に言うと。もちろんそれに対するイメージも大事だけどね! それと――」
魔法連携についての説明を終えると、シルフがエリーヌを指さして尋ねる。
「この綺麗な女の人、お兄さんの何なの? さっきから随分偉そうだけど」
「う~~ん、まぁ、教官ってところかな――」
拓海の言葉は嘘ではない。実力云々は分からないが、拓海にとってエリーヌは教官そのものである。
この世界と魔法について教えてもらったのがエリーヌだからだ。
「教官って! お兄さんより実力が下なのに?」
シルフが声を大きくして拓海に詰め寄る。
どうやら拓海の教官ということが気に入らなかったようだ。
「実力って――俺はまだ自分の実力をちゃんと把握してないぞ」
シルフの発言に肩を落とし、自分の評価を低くする発言をする拓海であるが、
「気付いてないなら教えてあげるよ。僕たちの力を使えるってだけで、お兄さんの実力はこの世界でトップクラスの実力なんだよ!」
その発言はシルフによって却下されてしまった。
元々近かった距離をさらに詰め、出来の悪い教え子に言うように拓海に言って聞かせる。
「分かった分かった。分かったからもう少し離れて。それで、もう一つ聞きたいんだけど、シャンテがこの次元にいるかどうかわかるか?」
詰め寄るシルフを手で制し、先ほど自分が推測したことをシルフに質問する。
「シャンテって――お兄さんと一緒の部屋にいた、あの女の人だよね? あの人何かあったの?」
敵視していたシャンテの名前を聞き、一瞬目の色が変わるシルフだが、すぐにこの次元に入り込む事は出来ないと思い、拓海に質問する。
「あぁ。どうやら何者かに攫われたらしい」
「それは穏やかなことじゃないね。僕としては一向に構わないんだけど、ここでお兄さんに貸しを作っておいた方が良いよね! 少し待ってて」
そう言うとシルフは目を瞑って考えるような仕草をする。
そのまま数十秒経過した後(実際には一秒も経っていないのだが)、シルフが目を開いて拓海を見つめて話しかける。
「確かにこの次元にさっきのお姉さんの魔力を感じるよ。でもさっきまでの魔力とはなんか違う感じがするんだけど――なんでだろ?」
先ほどまで感じていたシャンテの魔力が、どういうものか拓海にはわからない。しかし、今重要視すべきことはそこではない。
「やっぱりこの次元にいるんだ。どこにいるかわかるか?」
「ちょっと待ってね――――ここから北の方、エーギソスの湖のさらに向こう側にあるベルクバーク山の辺りかな? そこから感じるよ」
どうやら昼間にギルドの依頼にあった、エーギソスの湖よりさらに北に進んだ場所にシャンテがいる様である。
「分かった。それじゃこの次元から出て――――って! この次元にいたら身動きできねぇじゃん!」
どうやら肝心なことを忘れていたようである。
今現在拓海がいるのは、次元の狭間ともいうべき場所である。ここは意識だけが加速しているようなもので、実際の身体は動かせないのだ。
これではいくらシャンテを見つけることが出来たとしても助けることは出来ない。
「大丈夫だよ! 今のお兄さんならこの次元でも動けるはずだよ!」
しかし、それをシルフが否定する。
今の拓海ならばこの次元でも動けるという。
「どうやって?」
「言ったじゃん! 重要なのは?」
「イメージってことか!」
ここでも肝心な事を思い出して口にし、自分の身体が止まった世界でも動くようにイメージする。
深く深く、時の止まった世界で自分の身体が動くようにイメージする。
徐々に自分の指が動き出す感覚を覚え、次に手足が動かせるようになっていくのが分かる。
まるで石化していた身体が、内部からその殻を打ち破る様に。
「ね! 出来たでしょ?」
「あぁ。でもこんなイメージをずっと維持するってかなりキツイんだけど」
「それはお兄さんが精霊術師としてまだ未熟だからだよ」
「レベル不足ってことか」
自分の精霊術師としてのレベル不足を思い知り、元の世界に戻るのがいつになるのかを思うと気が重くなる拓海である。
「でも大丈夫! この次元で動けるならあとは慣れだよ! それじゃこの次元から抜けてベルクバーク山に向かおう!」
その拓海をフォローするわけではないかもしれないが、シルフが慰めに似た言葉を拓海に掛ける。
シルフの言葉を聞いて「あぁ」と言って微笑み、元の次元に意識を戻すようイメージする。
「分かりました。これからシャンテを助けに行きます」
走り出そうとする拓海に、
「待て! この暗闇では方角も分からんだろう? 持って行け!」
そう言ってエリーヌが懐から、掌に収まるカード形式の方位磁石を取り出し、拓海に放って渡す。
拓海がそれを片手でキャッチして
「行ってきます」
そう言うとエリーヌに一礼し、部屋を飛び出して学園を駆け抜けて外に出ていく。
「頼むぞ」
拓海の背中に掛けられたエリーヌの言葉は、拓海の耳には届かず部屋に溶けて消える。
既に月が空の天辺に到達し、周囲からは夜行性の生物の鳴き声のみが聞こえる。時刻は既に深夜一時を回り、外を歩く人影は一つも存在しない。
その月夜の空を高速で移動する人影が一つ。
――――早く! もっと早く!
シルフの力を全力で行使する拓海が、北の方角へと飛翔する姿であった。
そう言いながら拓海に向かってくるのは、モフモフの毛並みをしたムササビのような熊、拓海とシャンテの子供という事になっている、ムサフィーである。
ムサフィーの声自体は「ムームー」としか聞こえないのだが、拓海とシャンテは魔力が同調しているからのようだ。
そのムサフィーが部屋に帰ってきた拓海の姿を見るなり、涙を流して泣きながら抱き着いてきたのだ。
拓海自身は自分の子供とは思っていないのは間違いないが、それでもそのモフモフの毛皮と見た目の可愛さを放っておくことは出来ないのだろう。
「シャンテがどうかしたのか? なんでムサ一人だけなんだ?」
部屋に入った拓海がシャンテの姿が見えないことを確認し、ムサフィーに何があったのかを聞き出そうとする。
ムサフィーの言葉だけでは、シャンテに何が発生したのか分からなかったからだ。
「(ママがぁ、悪い奴に攫われちゃったム! パパ! 助けてあげて欲しいム!)」
「悪い奴? ってどんな奴だった? どこに行ったか分かるか?」
「(分からないム! でもママの魔力が全然感じられないム!)」
ムサフィーの発言に首を傾げて口を開く。
「魔力を感じるとか感じないとか、それってどういう事なんだ?」
拓海自身は魔力を感じるという感覚が分からないため、それがどんなものかわからない。
その為、拓海のこの発言も当然だろう。
「(僕は生命の魔力を感じ取ることが出来るム! 僕のご飯は生命の魔力だからム!)」
どうやらムサフィーは生命の魔力を感じ取ることが出来る様である。生物ではなく生命の魔力だ。
そしていま判明したことは、やはりムサフィーは喰魔獣だったという事だ。
「ムサのその感覚って、どのくらい離れたら感じられなくなるんだ?」
ムサフィーの発言に、どこか含みがある様に感じられるが、今はシャンテの事である。拓海はどのくらいの距離が離れたら感じられなくなるのかと聞きたかったのだが、
「(この世界にいる限り意識すれば感じ取れなくなることはないム!)」
どうやら距離は関係ないようである。
しかし、その代わりに嫌な予感を孕む言葉をムサフィーが言う。
「それはまさか――殺されたってことか?」
一番最悪の考え――シャンテの死亡というのは、付き合いの短い拓海であっても受け入れがたいことだ。
ムサフィーの身体を乱暴に抱き上げ、拓海が大声を上げる。
「(ムー! パパ苦しいム! 落ち着いて欲しいム!)」
ムサフィーの悲鳴に我を取り戻し、腕から解放して床に下ろし、「スマン」と呟いてから再び口を開く。
考えてみればシャンテをさらった奴の目的が、「シャンテの殺害」であるならば、今この部屋で殺害されているはずだろう。
しかしそうなっていない以上、別の目的があるはずだ。
「それで、ムサがシャンテの魔力を感じられないってのはどういうことだ?」
「(多分、違う世界に閉じ込められているからム!)」
「違う世界?」
ムサフィーの思わぬ発言に首を傾げ、頭上に盛大な「?」を浮かべる拓海である。
違う世界という事は、そのまま異世界の事であるのは間違いないだろう。
しかし、拓海本人も異世界から文字通り召喚された存在であるため、違和感を隠し切れない。仮にシャンテが地球に召喚されたとしたら、誰がそれを行えるのかという問題もある。
「(そこにあるのに見えない――なんだかそんな感じム!)」
ムサフィーの言葉を聞いて拓海の頭はさらに混乱する。
そこにあるのに見えないということは、幽霊のような状態を表しているのだろうか。それならばやはりシャンテは殺害されているはずである。
しかしシャンテの遺体はここにはないし、あとで殺害する理由というのも思い当たらない。
と、そこまで思考が及んでから拓海の頭に一つの考えが閃く。
「ムサの魔力を感じ取ることが出来るのは、精霊も同じか?」
「(ム? 精霊って生きてるム?)」
ムサフィーは先ほど、生物ではなく生命の魔力を感じ取ることが出来ると言った。
精霊に生命という概念があるのかは別として、先ほど拓海と会話していたシルフは確かに意思があった。意思があるという事は生命が宿っているはずである。
しかしムサフィーは今、精霊が生きているかどうかという事を疑問にしてきた。つまり、ムサフィーは精霊に意思があることを知らないのだ。
「って事は――ズレている次元にいる生命の魔力は分からないってことか。そしたらそこにシャンテがいる可能性が高いな」
「(ム? パパ何のことだム?)」
「気にしなくて良いぞ。それじゃ俺はシャンテを助けに行くから、ムサはここで待っててくれ!」
拓海には何かしらの考えがあるのだろう。その場にムサフィーを残して立ち去ろうと試みるが、
「(嫌だム! 僕もママを助けに行くム!)」
どうやらムサフィー自身も付いて行きたいようである。
ムサフィーが付いて来ること自体、拓海個人としては大いに構わないのだが、精霊術師としては困ることこの上ない。
何しろムサフィーは喰魔獣なのだ。一緒に連れて行こうとした場合、シャンテを助ける時に精霊術が使えないという、非常に大きな問題を抱えることになる。
「シャンテを心配するのは分かるけど、今は我慢してくれないか? ムサがいると術が使えないんだ」
隠したところで仕方がないと判断しての事だろう。拓海がムサフィーに留守番をしているように伝える。
「(嫌だム! 僕も一緒に行くム! パパの魔力を食べなければいいだけム!)」
「ん? そんなこと出来るのか?」
「(ム!)」
どうやら近くにいると魔力が吸い取られるというわけではなく、自分の意思によって制限できるようだ。眉をキリリと持ち上げてムサフィーが頷く。
それなら大丈夫だと思いムサフィーを抱え上げようとするが
「でも多分シャンテがいるのはズレた次元にいると思うんだ。そこにムサは行けないから、やっぱり待ってた方が良いんじゃないか? それにそこに行く方法もまだ見つかっていないしな」
今はまだ自分の想像の範囲でしかないが、シャンテがいるのは恐らく次元がズレている場所だと考え、再びムサフィーに留守番を提案する拓海である。
「(ム~――)」
拓海の言葉にしょんぼりと肩を落とし、俯くムサフィー。
喰魔獣であるが、その様子は可愛いただの小動物に違いないのだ。
「そんな落ち込むなって! ママはパパが絶対に連れて来るから! 帰ってきたらどこか遊びに行こうな!」
そのムサフィーの可愛い仕草に、拓海もたまらず抱え上げ、頭を撫でながらそう伝える。
抱きしめられながら頭を撫でられるムサフィーは、実に気持ちよさそうに目を瞑り、拓海に話しかける。
「(ム~やっぱりパパの魔力はおいしいム!)」
どうやら拓海の魔力を食べていたようである。
それが分かった拓海の思う事は、「留守番にしてよかった」である。短く息を吐き、シャンテのベッドにムサフィーを置いて頭を撫でた後、風の様に部屋を飛び出していく拓海であった。
※ ※ ※ ※
時刻は既に深夜である。この時間に他人――それも女性の部屋を訪ねるのは、恋人同士でもない限り非常識というものである。
「エリーヌさん! すいません! ちょっと開けてください!」
しかし今はそれどころではないと判断したのだろう、拓海は部屋の扉を叩きながら大声を上げ、中の住人であるエリーヌの名前を呼ぶ。
拓海自身、まだこの世界に召喚されたばかりであり、まだ勝手がわからない。こういう場合は誰かに支援をしてもらうのが一番良い方法である。
拓海也にそれを考えての事である。
「騒々しい! こんな時間に淑女の部屋を訪ねてくるのは非常識ではないか? 貴様は私に仕事をさせない気か?」
拓海が扉を叩いて僅か十秒後、部屋の主であるエリーヌが、怒りの形相を隠しもせずに扉を勢いよく開けてから腰に手を当て、騒ぎの首謀者である拓海へ詰め寄る。
自分の事を淑女と表現するのは、さすがにどうかと思うのだが、今はそれどころではない。
「すいません。でもシャンテが何者かに攫われたようで――」
「なに! シャンテが? どういうことだ?」
部屋を開けたエリーヌが、先ほどみせた憤怒の表情とは別の、不安の色を濃くした驚愕の表情を見せ、拓海の襟元を掴んで怒鳴り声をあげる。
血が繋がっていないとはいえ、自分の妹と昨晩宣言したのだ。その妹が何者かに攫われたと聞かされれば無理もないだろう。
「ちょっと、取りあえず落ち着いてください!」
エリーヌを一先ず話が出来る状態に落ち着かせると、拓海が知っている情報を話し始める。
「――――今俺が知ってるのは今のところこれで全部です。でもエリーヌさんも知っての通り、俺はまだこの世界に来たばかりです。何か良い方法はないですか?」
拓海が事のいきさつをエリーヌに話すと、エリーヌは腕を組んで考え込んでいるようだ。
「あの――」
「うむ。今の話を聞くに、今回はどうやら私は力になれそうにない」
どうやら拓海の思惑は、エリーヌ自身によって却下された。
「そんな――どうして?」
拓海が疑問の色を濃くした表情で眉根を寄せ、エリーヌに質問する。
拓海の考えでは、エリーヌの力を借りることが出来ればほぼ任せっきりで大丈夫だった。しかしその本人によって却下されてしまったとなれば、この質問も当然だろう。
「単純にだ、私では実力的に不足しているところがある」
「実力的に?」
確かにエリーヌは精霊術師ではないため、ズレた次元に侵入することは不可能だろう。それは分かる。
しかし、続いてエリーヌの口から発せられた言葉は、拓海にとってみれば信じ難いものである。
拓海にとってエリーヌの力は全然想像もつかない。だがそれでも、今の拓海よりは十分な戦力のはずだからだ。
エリーヌの言った「実力的に」の意味が分からず、拓海が腕を組んで首を傾げ、眉根を寄せてエリーヌの言葉を復唱する。
「そうだ。タクミは分かっていないようだから話しておこう。今タクミは精霊術師としての力を行使することが可能になった。それはつまり、拓海がこの王都にいる魔法師の中で、五指に入る実力を得たという事だ」
そう言いながらエリーヌが掌を広げ、拓海の目の前に差し出してそう言う。
「そしてタクミ以外の四人の内、二人は召喚士だ」
エリーヌが差し出した掌から指を二本折ってから話を続ける。
「そして他の二人は魔術師と法術師なのだが、今はモンスターの多い地区に遠征に行っている。この意味わかるか?」
エリーヌの言いたいことはつまりこうである。
今現在、この王都に精霊術を使えるのは拓海しか存在しない。そしてそれは同時に支援可能な人材が誰もいないという事でもある。
しかしここで一つの疑問が生じることになる。
「支援が望めないのは分かりました。でも実力的に――というのがイマイチわかりません。どう考えても、俺よりエリーヌさんの方が実力は上ですよね?」
確かに精霊術師というのが稀少な職業と言っても、昨日召喚されたばかりの拓海の方がエリーヌよりも強いという事は考えにくいのだ。
「ふむ。この世界の魔法師については既に話したと思う。覚えているか?」
今日の早朝、目の前にいるエリーヌに講義された事だ。どんなに物覚えの悪い人でもさすがに覚えている。
エリーヌの質問に「あぁ」と頷いて肯定を示す。
「精霊術師が行使する代表的なものに魔法連携があるのは既に知っていると思う。魔法連携によって行使する力は、どんなに抑えても魔術師百人分だ」
「百人分!」
拓海が声を大きくして叫ぶ。自分にそれほどの力が本当に存在するのか、という疑問と例に挙げられた力量の大きさにである。
「さすがにそれは大げさじゃないですか?」
ゆえに拓海のこの反論も当然と言えるだろう。しかし、
「いや。以前私の友人に精霊術師がいたんだが、そいつに教えてもらったし、実際にこの目で見たから間違いない」
どうやらエリーヌの友人に精霊術師がいて、そしてその実力をはっきりと目の当たりにしたようである。
「でも、俺まだ魔法連携なんて使えないですけど」
「そうなのか? 精霊術師なら誰でも使えると思っていたのだが――――何か心当たりはないのか?」
エリーヌが疑問の表情を浮かべながら拓海の目を覗き込む。
「(そうはいっても本当に知らないんだけどなぁ)えっと、そのご友人から何か聞いてませんか? コツとか。今日行った魔法師ギルドには精霊術師は一人もいなかったので――」
「確かその友人が言っていたのは、『オーブ』とか言うのを同時に使うとかなんとか――。私には理解できない単語がたくさん出てきてな。そのまま逝ってしまったが――」
エリーヌは先ほど、自分の友人に精霊術師がいたと、確かにそう言っていた。過去形で表されていたという事はつまり、その人物は既にいなくなっているという事だ。
エリーヌの言葉を全て理解できていなかったことに、拓海が気まずそうな表情をする。
「気にしなくても良いぞ。それで、今の私の言葉で何か思い当たることは無いか?」
「――――ちょっと時間をもらえますか」
そう言うと拓海が意識を集中し、目の前に現れている白いオーブに触れる。
オーブに触れた瞬間、拓海の意識が別次元に飛ばされる。既に三度目になる感覚である。
「どうしたのお兄さん?」
そして現れた緑色の少女、シルフが拓海の目の前に現れる。
「ちょっと教えてもらいたいことがあるんだ。魔法連携って知ってるか?」
「もちろん知ってるよ! 精霊術師が僕たちの力を使う場合にオーブが三個以上必要なのはもう知ってるよね。これを連携させるんだ。具体的に言うと、風のオーブと火のオーブを三個使ったりして精霊術を使うんだよ! 僕たちが連携って言ってたから、精霊術師の間では魔法連携って呼ばれるようになったんだよ」
「つまり、複数のオーブを同時に使用するだけ?」
「まぁ簡単に言うと。もちろんそれに対するイメージも大事だけどね! それと――」
魔法連携についての説明を終えると、シルフがエリーヌを指さして尋ねる。
「この綺麗な女の人、お兄さんの何なの? さっきから随分偉そうだけど」
「う~~ん、まぁ、教官ってところかな――」
拓海の言葉は嘘ではない。実力云々は分からないが、拓海にとってエリーヌは教官そのものである。
この世界と魔法について教えてもらったのがエリーヌだからだ。
「教官って! お兄さんより実力が下なのに?」
シルフが声を大きくして拓海に詰め寄る。
どうやら拓海の教官ということが気に入らなかったようだ。
「実力って――俺はまだ自分の実力をちゃんと把握してないぞ」
シルフの発言に肩を落とし、自分の評価を低くする発言をする拓海であるが、
「気付いてないなら教えてあげるよ。僕たちの力を使えるってだけで、お兄さんの実力はこの世界でトップクラスの実力なんだよ!」
その発言はシルフによって却下されてしまった。
元々近かった距離をさらに詰め、出来の悪い教え子に言うように拓海に言って聞かせる。
「分かった分かった。分かったからもう少し離れて。それで、もう一つ聞きたいんだけど、シャンテがこの次元にいるかどうかわかるか?」
詰め寄るシルフを手で制し、先ほど自分が推測したことをシルフに質問する。
「シャンテって――お兄さんと一緒の部屋にいた、あの女の人だよね? あの人何かあったの?」
敵視していたシャンテの名前を聞き、一瞬目の色が変わるシルフだが、すぐにこの次元に入り込む事は出来ないと思い、拓海に質問する。
「あぁ。どうやら何者かに攫われたらしい」
「それは穏やかなことじゃないね。僕としては一向に構わないんだけど、ここでお兄さんに貸しを作っておいた方が良いよね! 少し待ってて」
そう言うとシルフは目を瞑って考えるような仕草をする。
そのまま数十秒経過した後(実際には一秒も経っていないのだが)、シルフが目を開いて拓海を見つめて話しかける。
「確かにこの次元にさっきのお姉さんの魔力を感じるよ。でもさっきまでの魔力とはなんか違う感じがするんだけど――なんでだろ?」
先ほどまで感じていたシャンテの魔力が、どういうものか拓海にはわからない。しかし、今重要視すべきことはそこではない。
「やっぱりこの次元にいるんだ。どこにいるかわかるか?」
「ちょっと待ってね――――ここから北の方、エーギソスの湖のさらに向こう側にあるベルクバーク山の辺りかな? そこから感じるよ」
どうやら昼間にギルドの依頼にあった、エーギソスの湖よりさらに北に進んだ場所にシャンテがいる様である。
「分かった。それじゃこの次元から出て――――って! この次元にいたら身動きできねぇじゃん!」
どうやら肝心なことを忘れていたようである。
今現在拓海がいるのは、次元の狭間ともいうべき場所である。ここは意識だけが加速しているようなもので、実際の身体は動かせないのだ。
これではいくらシャンテを見つけることが出来たとしても助けることは出来ない。
「大丈夫だよ! 今のお兄さんならこの次元でも動けるはずだよ!」
しかし、それをシルフが否定する。
今の拓海ならばこの次元でも動けるという。
「どうやって?」
「言ったじゃん! 重要なのは?」
「イメージってことか!」
ここでも肝心な事を思い出して口にし、自分の身体が止まった世界でも動くようにイメージする。
深く深く、時の止まった世界で自分の身体が動くようにイメージする。
徐々に自分の指が動き出す感覚を覚え、次に手足が動かせるようになっていくのが分かる。
まるで石化していた身体が、内部からその殻を打ち破る様に。
「ね! 出来たでしょ?」
「あぁ。でもこんなイメージをずっと維持するってかなりキツイんだけど」
「それはお兄さんが精霊術師としてまだ未熟だからだよ」
「レベル不足ってことか」
自分の精霊術師としてのレベル不足を思い知り、元の世界に戻るのがいつになるのかを思うと気が重くなる拓海である。
「でも大丈夫! この次元で動けるならあとは慣れだよ! それじゃこの次元から抜けてベルクバーク山に向かおう!」
その拓海をフォローするわけではないかもしれないが、シルフが慰めに似た言葉を拓海に掛ける。
シルフの言葉を聞いて「あぁ」と言って微笑み、元の次元に意識を戻すようイメージする。
「分かりました。これからシャンテを助けに行きます」
走り出そうとする拓海に、
「待て! この暗闇では方角も分からんだろう? 持って行け!」
そう言ってエリーヌが懐から、掌に収まるカード形式の方位磁石を取り出し、拓海に放って渡す。
拓海がそれを片手でキャッチして
「行ってきます」
そう言うとエリーヌに一礼し、部屋を飛び出して学園を駆け抜けて外に出ていく。
「頼むぞ」
拓海の背中に掛けられたエリーヌの言葉は、拓海の耳には届かず部屋に溶けて消える。
既に月が空の天辺に到達し、周囲からは夜行性の生物の鳴き声のみが聞こえる。時刻は既に深夜一時を回り、外を歩く人影は一つも存在しない。
その月夜の空を高速で移動する人影が一つ。
――――早く! もっと早く!
シルフの力を全力で行使する拓海が、北の方角へと飛翔する姿であった。
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