Q.最強の職業は何ですか? A.遊び人です

矢崎 拓真

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第2章 金牛の魔人

第4話 Q.続・修羅場って大変ですよね? A.精神がすり減ります

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「マコトー! ソフィアさんに言われた依頼どうするの?」

 銀髪の少女が茶髪の少年に質問している。 この世界の本来の・・・管理者である女神――クリスである。
 質問を受けたのは魔王幹部のハマルを討伐し、国王に勇者として任命された異世界からの転生者――真だ。
 二人は今、いつも居座っているガル爺のギルド「猫の足音」ではなく、この街最大のギルドである「月光花」のテーブルで果実酒を飲みながら、ヒソヒソと話をしている。

「んー。どうもギルドに寄せられた依頼と共通するところが多い気がするんだよなぁ」

 つい十五分程前、盗賊団の首領でありながら、ギルドのウェイトレスであるソフィアから真に依頼があり、考えさせてもらうという事でその場は終わったのだが、

「そうなのよねー。多分同じ内容だと思うんだけど、どうしてソフィアさんはマコトを指名したのかしら?」

 ギルドに寄せられた依頼は『地下から聞こえる不気味な歌声の調査』で、ソフィアから言われた依頼は『地下で行っている集会の護衛』である。
 ソフィアが組織した盗賊団の解散にあたり、ここ最近は集会をしているらしい。その間、衛兵などから守って欲しいという事だ。
 この街で地下といえば面積自体はそう広くない。そうなると考えつくのは、両方ともに同じ内容だということだ。
 さすがにそれぐらいのことはクリスもわかるようである。

「多分だが、ソフィアの依頼を受けたほうがいいと思う」

「ギルドの依頼はどうするの?」

「それも受ける」

「え? それってどうやって?」

 ギルドの依頼とソフィアの依頼の両方を受けると真が話し、そんなことが可能なのかとクリスが首を傾げて問いかける。
 クエストの同時並行は別に悪いことではない。寧ろ出来ることからこなしていくのだから効率が良いと言えるだろう。
 しかし今回に限ればそうは言えない。何せ依頼内容が相反するものだからだ。その二つの依頼をどうやって受けるというのだろう。
 首を傾げるクリスに真がニヤリと不敵な笑みを浮かべ、指を一本立てて口を開く。

「良いかクリス、今回の依頼はほぼ間違いなく同じ内容だ。それで集会が開かれる前にソフィアに話をする。例えば警備の奴らに見つかりそうだ。集会を開くなら別の場所の方が良い。ってな具合に。そうすれば両方とも解決! ってことだ」

 ズル賢いというべきなのだろうか。殆ど二重スパイのような状態になってしまうのだが、真はその辺も考慮しているのだろうか。

「クエスト二つをいっぺんに完了すれば、それだけで報酬が倍だぜ! あ、このことみんなには内緒な!」

 いや、恐らく考えていないのだろう。今真の目には「¥」マークが映り、汚く濁っているのが誰の目から見てもわかるのだから。

「でもマコトのアイディアってタイミングが大事じゃない? ソフィアさんの依頼って今日これからでしょ?」

 クリスの言うとおりである。タイミングを間違えればハンターとしてではなく、国王に任命された勇者としての信頼も失う事になるからだ。

「大丈夫だって! とりあえず待ち合わせてる時間はもうすぐだけど、ギルドへの報告は明日の朝だから! それじゃ向かうか!」

 そう一言告げ、席を立つとギルドのウェイトレス――ソフィアに目配せする。約束していた場所に行く合図だ。
 その合図を待っていたようにソフィアがウィンクすると、真の顔がだらしなく緩む。その顔を見てクリスが極低温の視線を真に送るが、その冷たい視線には慣れているのか、真には一切通じない様である。
 飲食代を払おうとした時、ソフィアに「ここは私の奢り」と言われ、もう一度ウィンクされた時にはクリスの我慢が限界に達しそうになり、何とか宥めたという一幕もあったのは別の話である。

※ ※ ※ ※

 真とクリスは今地下にいる。前にエリーヌの依頼を受けた時に侵入した下水道の先である。
 グリーンスライムが大量発生していた場所のさらに奥、大きく開けた場所があり、どうやらそこで集会は行われているようである。
 そもそも集会を行うのがなぜ地下なのか、という疑問もあるのだが、そういう細々こまごましたことは後からソフィアに聞けば良いと判断したのだろう。

「そろそろ到着するな。声が聞こえるし」

 真の言葉にクリスが「そうね」と相槌を打ち、物音を立てないよう慎重に二人が歩を進める。

「そこの角を曲がった先だな。じゃ、予定通りいくぜ」

 小さく真が呟くとクリスが無言で頷いて肯定を示す。
 それを見て、真がクリスの手を引きながら走り始める。けたたましく足音を鳴らして角を曲がると、以前に見たことがある盗賊の集団が目に入る。
 その集団を確認すると

「ソフィア! 大変だ! 衛兵に見つかりそうだ! すぐに解散したほうが良い!」

 打ち合わせ通りの言葉をソフィアに言い、解散を促そうとする。

「あらマコトさん? その衛兵からの護衛を頼んだはずですが――」

 ソフィアの思わぬ切り返しがあり、一瞬言葉に詰まる二人だが

「人数が多い。それにギルドの依頼も知ってるだろ? 衛兵には俺とクリスで向かうと言ってあるから少しは時間が稼げるけど、時間の問題だ。場所を変えたほうが良いと思うぞ」

 打ち合わせの言葉にアドリブを混ぜ、集会場所を変更するように真が言う。
 その言葉を聞いたソフィアが口を開く。

「そう――それなら仕方ないわね」

 そう呟くと集団に向けて大声で告げる。

「今聞いた通りだ。場所を変えて集会を再開する。今日が最後の集会だ。伝えることもたくさんあるから欠席はしない様に! 二時間後に再開する。場所は北の山のふもとだ! では解散!」

 ソフィアの解散の言葉を聞き、クリスがほっと胸を撫で下ろしたのを確認してから、真が口を開く。

「何とかうまくいっただろ?」

 クリスにだけ聞こえる様にひっそりと呟く。

「そうだけど、なんかソフィアさんに悪くない?」

「嘘じゃないから大丈夫だろ?」

 ソフィアが解散を促してからその場にいた盗賊団メンバーが、徐々にその場を立ち去っていき、僅か十分後にはソフィアを残して誰もいなくなっていた。

「さて、マコトさん。そろそろ茶番はよろしいのではなくて?」

 全員がの姿が消えたのを確認したソフィアが、不敵な笑みを浮かべて真に話しかけてきた。

「「え?」」

 そのソフィアの言葉に驚き、真とクリスが顔をゆっくりと持ち上げると、

「何も知らないと思ってまして?」

 そこにはすべてを見透かしたような視線を向けるソフィアが立っていた。

「えっと――ソフィアさん?」

 恐る恐る真がソフィアの名前を呼んでみると、

「マコトさんの考えは何となくですがわかっておりますわ。本当ならここで依頼未達成という事で切り捨てても良いんですけど――」

 ソフィアの言葉にびくびくと震えながら聞き入る真とクリスであるが、

「今はそれよりももっと別の問題が発生しているようですわ」

 別の問題が発生しているとソフィアが言い、視線を二人の先に向ける。

「問題?」

 ソフィアの言葉に眉根を寄せ、訝しげな表情を浮かべてクリスが首を傾げる。ソフィアが後ろを指差し、その先にあるものを見て表情を険しくする。
 その表情を読み取った真が、後ろを振り返らずに自分の腰から鞭を外す。いつもの悪だくみをする表情から余裕が消え、額には汗を浮かべている。
 真の耳が不気味な音を捉える。下水の流れる音に交じる明らかに異質な音だ。

「マコト?」

 その真の様子に気付いたのか、クリスが話しかける。

「クリス、俺が合図したら目の前のソフィアのところまで全速力だ」

 二人とソフィアまでの距離は約二十メートル。短い距離ではないが、そう長くもない距離である。成人男性が全速力で走れば、ものの数秒で到達するその距離だ。
 その数秒間に何か起きるはずはないのだが、何故か全力で走れと指示する。

「え? どうして?」

 クリスがどういうことなのか理解出来ず、真に説明を求めるが、

「説明は後だ! ソフィア!」

 クリスの質問には答えずに目の前のソフィアの名前を叫ぶ。名前を呼ばれたソフィアが「いくわよ!」と言うと同時に、内股からナイフを二、三本抜き取り、真とクリスの後方に向かって投げつける。

「走れええぇ!」

 それを合図に真が叫び、クリスがソフィアに向かって全力疾走をする。
 足元に残る水で滑り、思うように速度が出ないみたいだが、何とかソフィアの元に辿り着いて振り返ったクリスが見た光景は

「硬ってぇ!」

 ギルムタイト製の鞭で半透明な壁を破壊しようとする真の姿、ではなく

「強いですね。並みの魔導士が作り出す障壁だったら貫いていたことでしょう」

 黒いフードコートに身を包んだ一人の魔導士の姿であった。

並みの・・・ってことは、あんたはそうじゃないってことだよな?」

 攻撃が弾かれた真が距離を取り、再び鞭を構えながら相手を挑発するように話しかける。

「そうですね。私の優先度は40を軽く超えていますから、並みの・・・魔導士ではありませんね」

 そう言うとその魔導士は手に持っている杖を真に向けて構え、先端を赤く光らせる。恐らく火属性の魔法を発動させようとしているのだろう。

「それで、その魔導士さんはここに何のために来たのかな? 出来れば敵同士にはなりたくないんだけど」

 口では軽口を叩いているが、真の目は油断なく目の前の魔導士を見つめ、どんな状況にも対応できるようにしている。

「私の目的ですか? そうですね亡くなったハマル様とメサルティム様を生き返らせ、その貢献として大幹部になることです。魔王軍大幹部、屍霊術師のシェラタン。あぁなんと甘美な響きでしょう」

 シェラタンと名乗ったその魔導士は、身体をクネクネとさせながら悦に浸っているようである。

「なるほどね。じゃあ、その二人を倒した勇者マコトは許せないって感じか?」

「もちろんです。貴方も私の手助けをしていただけるなら、魔王軍の配下にして差し上げましょう」

 構えていた杖を下げ、腕を広げて真を魔王軍へと勧誘するシェラタン。

「(こいつは俺たちの事を知らないってことか)なるほどな。それは悪くない話だ」

「そうでしょうそうでしょう。人間が魔王軍の配下になれることなんて無いのですから。あなたほどの腕があれば、功績によっては幹部クラスになれますよ」

 どうやら先ほどの攻撃で真の実力を理解したようで、魔王軍の幹部すら夢ではないと、声を高らかにして言う。

「そうか……でも残念。その勧誘は受けられない」

「そうですか。それは残念です。でもこうして出会えたのも何かの縁があっての事。今ここを立ち去ってくだされば見逃して差し上げましょう」

 真の実力が惜しいのか、シェラタンがこの場は見逃すので立ち去る事を提案する。しかし、

「そっかぁ……逃げたいのはやまやまなんだけど、そうもいかないんだわ」

 真がその提案を拒否する言葉を言う。その真の言葉を聞いたシェラタンが「そうですか」と言い、再び杖を構える。

「それに、今あんたが俺を見逃したら多分後悔するぜ」

 杖を構えるシェラタンに、真が続けて言う。

「それは、何か理由があるのですか?」

 真の言葉を不思議に思ったのか、シェラタンが聞き返す。

「単純な話さ。ハマルとメサルティムを倒した勇者マコトだけどな」

 鞭を腰にしまい、言いながらシェラタンとの距離を詰める。構えられた杖の目の前まで近寄ると、止めた言葉の続きを言う為に真が口を開く。

「それって……俺の事だからさ!」

 叫ぶと同時に腰から短剣を抜き、構えられた杖の先端を切り落とす。切り落とされた杖の先端が地に着くよりも早く二本目の剣を抜き、一回転してシェラタンへと斬りかかる。
 武器が鞭だけだと思っていたのか、杖が切り落とされたことにシェラタンが一瞬驚愕の表情をする。
 この近距離ならば鞭による攻撃は不可能だと、そう思ったのだろう。シェラタンが完全に油断していたところに、メサルティムと互角の戦いを繰り広げた真の双剣が空を切って襲い掛かる。

「(いける!)」

 しかし、真の攻撃がシェラタンに届くことは無かった。なぜなら

「私がいること忘れないでよねぇ!」

 クリスのオーバーヒールにより、シェラタンの身体は既に浄化され、魂となって天に昇ったからである。

※ ※ ※ ※

「今回の依頼の件ですけど、結果的には私たちは救われた形になりますわ」

「それじゃあの……報酬を」

 既に日付が変わり、月は天高くに登っている夜道を、三人の人影が歩きながらそうう話しているのが聞こえる。
 先ほど下水道でシェラタンを迎え撃った真たちは、一人目の依頼人であるシャンテから報酬を貰おうと帰り道で話しているところだ。

「あら? マコトさん。私は結果的に・・・・と申し上げたのですよ」

 シャンテが真に振り返り、ニッコリと笑ってそう告げる。

「はぁ、それで何が言いたいんですか?」

 何やら不穏な空気を読み取ったのか、真が無理やりに笑顔を作ってシャンテに聞き返す。

「わかりませんか? マコトさんは頭が良いと伺っているのですが……私の見込み違いでしょうか?」

 挑発とも取れる、いや完全に挑発した口調でシャンテが答え、先ほどよりも感情を殺した笑顔を真に向ける。
 自分が何を言いたいのか本当はわかっているだろう、とそう告げていると誰の目からでも分かる表現方法だ。
 そのシャンテを見て諦めたのか

「わかった。今回の件については俺たちのミスだ」

 真が報酬を受け取ることを断念する。しかし、

「あら? 私はお支払いしないとは言ってませんよ。ただ金銭でのお支払いは……ということです。別の形ならお支払いしますよ」

 どうやらシャンテには報酬を支払う意思はあるようだ。ただ、金銭での支払いではなく、別の方法で報酬を払うという。その方法というのが

「私と一日お付き合いできる権利、ではいかがでしょうか? もちろん内容はマコトさんにお任せしますよ」

 これである。
 シャンテが報酬を支払う方法を聞いた真は

「(えっと、それってつまりそういうことですよね? これは勘違いでもなんでもないですよね? そしたらいろいろ期待しちゃって良いんですよね?)」

 よからぬ考えで頭の中を満たしていた。
 その真にシャンテが続けて口を開く。

「ちなみに、そちらの女性からもちゃんと了承を得ておいてくださいね。子供が出来てしまって後々慰謝料云々は嫌ですから」

「は?」

 シャンテの発言に間抜けな声を上げる真。どうやら想像したことがそっくりそのまま表情に現れ、かなりだらしのない顔をしていたようである。

「マ・コ・ト?」

 その真の肩をトントンと叩き振り向かせる人物。クリスである。
 口は笑っているが纏っているオーラがどす黒く、その場に子供がいたら泣き出していただろう。
 そのクリスの表情を見た真は

「大丈夫! 俺はクリス一筋だから!」

 必死に弁解するのであった。

「ふん、どうだか?」

「本当だって! 信じてくれよ!」

「では私の報酬は必要御座いませんね? ではまたお会い出来る日まで!」

 そう言うと今にも泣き出しそうな真を置いて、シャンテは夜の街の中に消えていってしまった。
 翌日シャンテが話したのだろうか、ギルドからの報酬も受け取れず、パーティメンバーから避難の声を延々と浴びせられた真は、次のクエストに向かうためテテを説得するのに、四時間を必要としたのだった。
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