3 / 13
赤ちゃんちゃんこ
しおりを挟む
━━この話は何十年も前、昭和中期に一時期だけあった、とある中学校での噂である
現代のところの『赤マント青マント』だ。巷では、『赤ちゃんちゃんこ青ちゃんちゃんこ』が猛威を奮っていた。
今回は不思議な不思議な『赤ちゃんちゃんこ』のお話。
その中学校では時折、トイレで噂のセリフを耳にするという。『赤いちゃんちゃんこにしましょか?青いちゃんちゃんこにしましょか?』
大概は幻聴として無視しようとする。……逃げられはしないのだけれど。
ある日の放課後、少年がふらりと旧校舎のトイレに立ち寄った。理由はわからないが、たまたまかもしれない。
そのトイレ、昼間は4番目だけが立て付けが悪いのか、閉まっている。しかし、今彼が見たそこは、4番目だけが開いているのだ。他はおあつらえむきに閉まっていた。
人間とは不思議なもので、開いている場所に入ってしまう習性がある。彼もまた、その一人だった。入った瞬間……。
━━バタン
静かに、勝手に閉まった。
━━……しましょか?
徐に聞こえてくるのは、あのフレーズ。
━━赤いちゃんちゃんこにしましょか?青いちゃんちゃんこにしましょか?
当然ながら、彼は固まった。だが、彼の口から出た言葉は……。
「赤いちゃんちゃんこ……60歳まで生きられたら着せてください。」
沈黙が流れた。
……終戦直後の日本。中学校に通うにもやっとな家庭が多い。彼の家庭もまた、赤いちゃんちゃんこを買う余裕もない家庭。中学校を卒業したら、働かなくてはならない。しかし、彼はからだが弱く、あと何年生きられるかもわからない。
━━ギイ……
……不思議なことに扉が開いた。願いが聞かれたかはわからない。ただ、そこから逃げられることだけは確かだった。彼は何度も振り返りながら、そこを後にした。
次の日から体調を崩し、中々学校にこられなくなってしまう。けれど一週間ほどすると、見違えるように元気になって、学校に通い出す。
学校は不穏な空気を醸していた。ひっきりなしに『赤ちゃんちゃんこ青ちゃんちゃんこ』の犠牲者が増えている噂が広まっていた。
おかしなことに、その少年の耳には届かない。行方不明の学生が増えていることだけが、彼に伝わっていた。
……犠牲者が増えれば増えるほど、彼は元気になっていく。
無事に卒業し、職につき、順風満帆の人生を送る。だが、彼の中に何かが痼となって渦巻いていた。
━━何か忘れている、何かを忘れさせられている
それに気がつくことはついぞなかったが。
◇◆◇◆◇◆◇
……60歳の誕生日、無意識に彼は母校に訪れた。旧校舎のトイレの4番目。
夕刻であるはずなのに、すべての扉が閉まっていた。まるで彼を拒むようかに。
しかし、彼は扉を叩き始めた。
━━コンコン
「……赤いちゃんちゃんこ、約束通り頂きに参りました」
彼は忘れていたはずだった。けれど、初めて訪れる前からの願いだったから、長い年月の間に朧気に思い出したのだ。
しかし、反応はない。
━━コンコン
「あなたのお陰で、60歳まで生きることが出来ました」
━━コンコン
「僕に、赤いちゃんちゃんこをください」
彼に思い残すことはない。だからこそ……。
━━コンコ……ギイ……
扉が彼の意思に負けたかのように開かれた。
━━赤いちゃんちゃんこにしましょか?青いちゃんちゃんこにしましょか?
彼は笑っていた。
「赤いちゃんちゃんこをください」
……その瞬間、彼から赤い血が吹き出し、衣服を真っ赤に染めた。まるで、『赤いちゃんちゃんこ』のように。
◆◇◆◇◆◇◆
『赤ちゃんちゃんこ青ちゃんちゃんこ』
それは、誰かの母親だと言われている。
親心で彼を生かしたのだろうか、それとも約束を果たさせるために生かしたのだろうか。
すべては謎のまま。
しかし確かなのはその日を境に、その学校の赤ちゃんちゃんこ青ちゃんちゃんこの噂は途絶えたこと。
もうその校舎は取り壊されたために、確認は出来ない。
Fin
現代のところの『赤マント青マント』だ。巷では、『赤ちゃんちゃんこ青ちゃんちゃんこ』が猛威を奮っていた。
今回は不思議な不思議な『赤ちゃんちゃんこ』のお話。
その中学校では時折、トイレで噂のセリフを耳にするという。『赤いちゃんちゃんこにしましょか?青いちゃんちゃんこにしましょか?』
大概は幻聴として無視しようとする。……逃げられはしないのだけれど。
ある日の放課後、少年がふらりと旧校舎のトイレに立ち寄った。理由はわからないが、たまたまかもしれない。
そのトイレ、昼間は4番目だけが立て付けが悪いのか、閉まっている。しかし、今彼が見たそこは、4番目だけが開いているのだ。他はおあつらえむきに閉まっていた。
人間とは不思議なもので、開いている場所に入ってしまう習性がある。彼もまた、その一人だった。入った瞬間……。
━━バタン
静かに、勝手に閉まった。
━━……しましょか?
徐に聞こえてくるのは、あのフレーズ。
━━赤いちゃんちゃんこにしましょか?青いちゃんちゃんこにしましょか?
当然ながら、彼は固まった。だが、彼の口から出た言葉は……。
「赤いちゃんちゃんこ……60歳まで生きられたら着せてください。」
沈黙が流れた。
……終戦直後の日本。中学校に通うにもやっとな家庭が多い。彼の家庭もまた、赤いちゃんちゃんこを買う余裕もない家庭。中学校を卒業したら、働かなくてはならない。しかし、彼はからだが弱く、あと何年生きられるかもわからない。
━━ギイ……
……不思議なことに扉が開いた。願いが聞かれたかはわからない。ただ、そこから逃げられることだけは確かだった。彼は何度も振り返りながら、そこを後にした。
次の日から体調を崩し、中々学校にこられなくなってしまう。けれど一週間ほどすると、見違えるように元気になって、学校に通い出す。
学校は不穏な空気を醸していた。ひっきりなしに『赤ちゃんちゃんこ青ちゃんちゃんこ』の犠牲者が増えている噂が広まっていた。
おかしなことに、その少年の耳には届かない。行方不明の学生が増えていることだけが、彼に伝わっていた。
……犠牲者が増えれば増えるほど、彼は元気になっていく。
無事に卒業し、職につき、順風満帆の人生を送る。だが、彼の中に何かが痼となって渦巻いていた。
━━何か忘れている、何かを忘れさせられている
それに気がつくことはついぞなかったが。
◇◆◇◆◇◆◇
……60歳の誕生日、無意識に彼は母校に訪れた。旧校舎のトイレの4番目。
夕刻であるはずなのに、すべての扉が閉まっていた。まるで彼を拒むようかに。
しかし、彼は扉を叩き始めた。
━━コンコン
「……赤いちゃんちゃんこ、約束通り頂きに参りました」
彼は忘れていたはずだった。けれど、初めて訪れる前からの願いだったから、長い年月の間に朧気に思い出したのだ。
しかし、反応はない。
━━コンコン
「あなたのお陰で、60歳まで生きることが出来ました」
━━コンコン
「僕に、赤いちゃんちゃんこをください」
彼に思い残すことはない。だからこそ……。
━━コンコ……ギイ……
扉が彼の意思に負けたかのように開かれた。
━━赤いちゃんちゃんこにしましょか?青いちゃんちゃんこにしましょか?
彼は笑っていた。
「赤いちゃんちゃんこをください」
……その瞬間、彼から赤い血が吹き出し、衣服を真っ赤に染めた。まるで、『赤いちゃんちゃんこ』のように。
◆◇◆◇◆◇◆
『赤ちゃんちゃんこ青ちゃんちゃんこ』
それは、誰かの母親だと言われている。
親心で彼を生かしたのだろうか、それとも約束を果たさせるために生かしたのだろうか。
すべては謎のまま。
しかし確かなのはその日を境に、その学校の赤ちゃんちゃんこ青ちゃんちゃんこの噂は途絶えたこと。
もうその校舎は取り壊されたために、確認は出来ない。
Fin
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる