少年と白蛇

らる鳥

文字の大きさ
19 / 113

19

しおりを挟む

 ヨルムは召喚獣として僕の中に棲む白蛇の幻獣である。
 本来はとても強い存在だったらしいけど、死にかけた際に僕と契約した為に、その力の多くを発揮できない様にしたらしい。
 其れは僕の器の大きさの問題であった。
 例えるならば、棲む家が小さかった為に、大きいままではその家に入れなかったような物だろう。
 大きいまま無理矢理に体を捻じ込めば、小さな器の住処に掛かる負担は大きくなり、時には壊してしまう事すらある。
 ヨルムは僕に掛かる負担を減らす為に、己の力を封じた。
 その封を解く方法は、僕が自身の器を大きく育てる事しかない。だから僕は常に少しでも自分が強くなれる事を願っている。
 ヨルムが強さを制限されているのは、完全に僕のせいだ。
 だから別にヨルムには何の責も無いので、そろそろ機嫌を直して欲しいのだけど……。
 僕は歩きながら、ヨルムが体内に入った事で浮かび上がる入れ墨の様な紋様を撫でる。
 昨日、僕が中位魔獣、キラータイガーに襲われて窮地に陥ってから、ヨルムはずっと怒っていた。
 けれどその怒りは僕に向いたものじゃ無く、ヨルム自身へと向けられている。
 多分一週間程前の商隊の護衛依頼の時と、昨日の魔獣の時、短期間で2回も僕が窮地に陥った事にヨルムは自身に怒りを抱いたのだろう。
 その気持ちは僕には共感出来ない物だ。
 だってあの2回の危機は2回とも僕自身がもっと強ければ、或いはもっと判断が的確であれば、危機に陥る事なく切り抜けれたであろう筈だから。
 僕はヨルムの力が発揮出来ないのは僕のせいだと思ってるし、僕はヨルムに守られるだけじゃ無くて一緒に並んで戦えるようになりたい。
 ヨルムは僕の気持ちを尊重してくれてるけど、守護を誓って召喚獣となったのだから、僕が危機に陥るのはヨルムにとってとても嫌な事なのだろう。
 共に過ごす為には共感は無理でも、互いに理解し合って歩み寄る事が必要だ。
 でも取り敢えず今は難しい事を考える前にそろそろ出て来てくれないと困るし、そして何より寂しい。

 僕は一旦足を止め、ヨルムの居る紋様に意識を集中すると、半ば無理矢理出現させる。
 普段は出て来て欲しい時は呼びかけを行うだけだが、その気になれば一応はこんな事も可能なのだ。
 未だ少しご機嫌斜めな様子のヨルムだったが、僕は気にせず首へと巻き付けた。
 うん、やっぱりこの少し冷たい鱗の感触があった方が僕は落ち着く。
 人差し指でヨルムの下顎から喉の辺りを撫でていると、ヨルムも仕方が無いとばかりにスルリと僕の身体に蛇身を巻き付け、何時ものポジションに納まった。
「ヨルム、反省とか話し合いは近いうちに。でも取り敢えず今日はオークの巣を探す事と昨日出来なかった採取だよ」
 ポンポンとヨルムの身体を叩きながら、僕は今日の予定を口にして歩みを再開した。
 予定は町を出る前にも言ったのだけど、再確認はした方がより確実だろう。
 そう、今日は昨日に引き続き北山の麓での活動だ。
 昨日の様な危険はそうそう無いだろうが、それでも油断はすべきでない。ヨルムの協力は必須である。
 もし仮に昨日の連続した敵との遭遇が単なる不運で無く、魔物の動きの活発化に原因があったりしたら大変な事だ。
 今日も魔物と頻繁に出くわすようなら、何らかの形で冒険者ギルドに報告を出した方が良いかも知れない。
 勿論ただ魔物を見たといっても僕の実力的に信憑性が薄いので、報告の仕方は考える必要があるけれど。
 まあでも取り敢えずは難しい事は後回しにしてオークの巣穴漁りから始めよう。


 幸い昨日の様に道中で魔物に出くわす事も無く、オークやキラータイガーと交戦した林まで辿り着いた。
 オークやキラータイガーの骸は獣達が餌として持ち去ったのか既にその場には残されていないが、戦いの痕跡や目印にと木に刻んだ傷が残っている。
 場所を間違えよう筈はない。僕は昨日の事を思い出す。
 キラータイガーから逃げるオークはきっと一直線に巣穴から離れようとしただろう。
 その方向は2度確認している。オークが此方に逃げて来るのを発見した時、そしてキラータイガーの突進を喰らった時だ。
 後者はとても痛かったので余り思い出したくはないけれど、収入に繋がる可能性があるのだからそんな事は言ってられない。
 僕は彼等のやって来た方向に、時折地面を確認して足跡を逆に辿りながら進み出す。
 慎重に辺りを警戒しながら林を抜けてついに発見したその場所は、崖の裂け目に出来た天然の洞窟だった。
 恐らく此処が先日のオークの巣穴だった場所だろう。
 僕は光源の無い洞窟の探索を、実はとても苦手にしている。
 何故なら洞窟に松明等の光源を持って入れば、敵対者から隠れる事がほぼ不可能であるからだ。
 まあ予測ではこの巣穴はキラータイガーによって全滅させられている筈なので、光源も大きな問題にはならないだろう。
 洞窟からは濃い血の匂いが漂って来る。
 僕は口元に布を巻き付けて簡易なマスクの代わりにすると、松明に炎を灯して洞窟へと踏み込んだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ガチャから始まる錬金ライフ

盾乃あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

処理中です...