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しおりを挟むヨルムは召喚獣として僕の中に棲む白蛇の幻獣である。
本来はとても強い存在だったらしいけど、死にかけた際に僕と契約した為に、その力の多くを発揮できない様にしたらしい。
其れは僕の器の大きさの問題であった。
例えるならば、棲む家が小さかった為に、大きいままではその家に入れなかったような物だろう。
大きいまま無理矢理に体を捻じ込めば、小さな器の住処に掛かる負担は大きくなり、時には壊してしまう事すらある。
ヨルムは僕に掛かる負担を減らす為に、己の力を封じた。
その封を解く方法は、僕が自身の器を大きく育てる事しかない。だから僕は常に少しでも自分が強くなれる事を願っている。
ヨルムが強さを制限されているのは、完全に僕のせいだ。
だから別にヨルムには何の責も無いので、そろそろ機嫌を直して欲しいのだけど……。
僕は歩きながら、ヨルムが体内に入った事で浮かび上がる入れ墨の様な紋様を撫でる。
昨日、僕が中位魔獣、キラータイガーに襲われて窮地に陥ってから、ヨルムはずっと怒っていた。
けれどその怒りは僕に向いたものじゃ無く、ヨルム自身へと向けられている。
多分一週間程前の商隊の護衛依頼の時と、昨日の魔獣の時、短期間で2回も僕が窮地に陥った事にヨルムは自身に怒りを抱いたのだろう。
その気持ちは僕には共感出来ない物だ。
だってあの2回の危機は2回とも僕自身がもっと強ければ、或いはもっと判断が的確であれば、危機に陥る事なく切り抜けれたであろう筈だから。
僕はヨルムの力が発揮出来ないのは僕のせいだと思ってるし、僕はヨルムに守られるだけじゃ無くて一緒に並んで戦えるようになりたい。
ヨルムは僕の気持ちを尊重してくれてるけど、守護を誓って召喚獣となったのだから、僕が危機に陥るのはヨルムにとってとても嫌な事なのだろう。
共に過ごす為には共感は無理でも、互いに理解し合って歩み寄る事が必要だ。
でも取り敢えず今は難しい事を考える前にそろそろ出て来てくれないと困るし、そして何より寂しい。
僕は一旦足を止め、ヨルムの居る紋様に意識を集中すると、半ば無理矢理出現させる。
普段は出て来て欲しい時は呼びかけを行うだけだが、その気になれば一応はこんな事も可能なのだ。
未だ少しご機嫌斜めな様子のヨルムだったが、僕は気にせず首へと巻き付けた。
うん、やっぱりこの少し冷たい鱗の感触があった方が僕は落ち着く。
人差し指でヨルムの下顎から喉の辺りを撫でていると、ヨルムも仕方が無いとばかりにスルリと僕の身体に蛇身を巻き付け、何時ものポジションに納まった。
「ヨルム、反省とか話し合いは近いうちに。でも取り敢えず今日はオークの巣を探す事と昨日出来なかった採取だよ」
ポンポンとヨルムの身体を叩きながら、僕は今日の予定を口にして歩みを再開した。
予定は町を出る前にも言ったのだけど、再確認はした方がより確実だろう。
そう、今日は昨日に引き続き北山の麓での活動だ。
昨日の様な危険はそうそう無いだろうが、それでも油断はすべきでない。ヨルムの協力は必須である。
もし仮に昨日の連続した敵との遭遇が単なる不運で無く、魔物の動きの活発化に原因があったりしたら大変な事だ。
今日も魔物と頻繁に出くわすようなら、何らかの形で冒険者ギルドに報告を出した方が良いかも知れない。
勿論ただ魔物を見たといっても僕の実力的に信憑性が薄いので、報告の仕方は考える必要があるけれど。
まあでも取り敢えずは難しい事は後回しにしてオークの巣穴漁りから始めよう。
幸い昨日の様に道中で魔物に出くわす事も無く、オークやキラータイガーと交戦した林まで辿り着いた。
オークやキラータイガーの骸は獣達が餌として持ち去ったのか既にその場には残されていないが、戦いの痕跡や目印にと木に刻んだ傷が残っている。
場所を間違えよう筈はない。僕は昨日の事を思い出す。
キラータイガーから逃げるオークはきっと一直線に巣穴から離れようとしただろう。
その方向は2度確認している。オークが此方に逃げて来るのを発見した時、そしてキラータイガーの突進を喰らった時だ。
後者はとても痛かったので余り思い出したくはないけれど、収入に繋がる可能性があるのだからそんな事は言ってられない。
僕は彼等のやって来た方向に、時折地面を確認して足跡を逆に辿りながら進み出す。
慎重に辺りを警戒しながら林を抜けてついに発見したその場所は、崖の裂け目に出来た天然の洞窟だった。
恐らく此処が先日のオークの巣穴だった場所だろう。
僕は光源の無い洞窟の探索を、実はとても苦手にしている。
何故なら洞窟に松明等の光源を持って入れば、敵対者から隠れる事がほぼ不可能であるからだ。
まあ予測ではこの巣穴はキラータイガーによって全滅させられている筈なので、光源も大きな問題にはならないだろう。
洞窟からは濃い血の匂いが漂って来る。
僕は口元に布を巻き付けて簡易なマスクの代わりにすると、松明に炎を灯して洞窟へと踏み込んだ。
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