少年と白蛇

らる鳥

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「はっはっは、すまねえなユーの字。来るまでに餓鬼共が迷惑かけたんだろう?」
 口入れ屋に辿り着いた僕を、呵々と笑いながら出迎えたのはクルスト・オルタス。
 ミステン公国盗賊ギルドのライサ支部長だ。何でそんな大物が僕なんかを出迎えるのかはどうでも良いが、少なくとも察してるなら子供達を止めろと思う。
 僕より遥かに格上の人物である事は判るのだけど、彼に敬意を払う気持ちはさっぱり起きない。
 ヨルムも彼が居る間は決して姿は出さないが、きっと同じ気持ちだと思う。
「別に良いけど、察してるなら注意してよ。何時か痛い目を見るのもわかってるんでしょ?」
 無駄と知りつつ注意を促しても、クルストはただ笑うだけだ。
 尤もその目はまるで笑っていないのだけど。
「俺の客人にちょっかいをかけた事には警告を与えて置こう。お前が業腹だと言うなら罰も与える。けどそれ以外を望むなら自分で言いな」
 クルストの言葉に、僕はチッと舌打ちをする。
 別にクルストは貧民街のルールを口にしてるだけなのはわかってた。
 ただ僕がこの貧民街の纏め役の物言いが気に食わないだけだ。
 彼は恐らくこの街に必要な人物なのだろう。盗賊ギルドがあるからこそ、秩序ある悪に裏の世界は統制されてるのだから。
 無秩序な悪が表に迷惑をかけて来るよりは、ずっと良好な状態なのだ。
「そう、じゃあ良いよ。無駄な罰は必要ないから。で、依頼の話をしたいんだけど?」
 素っ気なく依頼の話を促す。この態度も僕の虚勢に過ぎないけれど。
 それでも向こうのペースに巻き込まれない為には、心構えとして虚勢、意地を張る事も必要だった。

 出された茶にも手は付けない。
 目の前の相手は僕より遥かに格上の大物で、丸呑みにされ無い為には気を緩める訳にはいかないから。
「元々はな、俺等にとっては冒険者連中なんてのはどうにも使い勝手が悪くてな。活動場所は町の外が主だし、気に食わない事があるとすぐにチンケな武力を見せびらかすからな」
 警戒を崩さない僕をクルストは愉快そうに眺め、依頼内容に関して語り出す。
 元々は、って事は今は違うのだろうか……。
 確かに冒険者は荒くれ者が多いが、決してそんな理不尽な人ばかりでは無いのだけれど、かといって盗賊ギルドと歩み寄れるかと言えばそれも中々難しい。
「だが此処1~2年程は少しばかり便利な冒険者が居たんだよ。町中での活動が主で、冒険者ギルドからも町の連中からも信頼度の高い冒険者がな」
 何だろう。多分僕の事だと思うけれど、唐突な持ち上げである。
 クルストは気に食わない相手ではあるけれど、褒められるとやっぱりちょっと嬉しいので、僕は緩みかけた頬を引き締める為に奥場を噛む。
「妙な正義感で依頼の裏を詮索しない。目先の利に転んで預けた荷を盗まない。下らない勘違いで騙されたと騒がない。身の程を弁えて必要以上に武力を振り翳さない」
 ……やっぱり褒めてないかも?
 まあ要するに町中で活動してて、彼等にとって都合が良い、使い易い冒険者が一人いたってだけの話だった。
 そもそも冒険者ギルドを通しての依頼であれば、そんなに悪質な物ではないのだろうから、普通にこなすのは当たり前だ。
 態々盗賊ギルドに遜ったり、逆に喧嘩を売ってみたり、金を強請ろうと考える方がおかしいと思う。或いは無謀。
「まあそんな小賢しいが、商売相手として信用の出来る冒険者だ。するとソイツを便利に使う間に冒険者ギルドとある意味で繋がり結べて来てな……」
 多分その冒険者とやらは僕の事だろうけど、難しい話はやめて欲しい。
 ややこしい話を理解しようとすると、なんだかズキズキ頭痛がしてくる。
 盗賊ギルドと冒険者ギルドが最近仲良しだろうが、僕の知った事では無いのだ。
「……まあ、其処まで詳しい話はいらねえか。まあでもソイツが最近徐々に活動の場を町の外に移しつつあるんだよ」

 ああ、成る程。
 確かに僕は最近徐々に雑用よりも魔物討伐の依頼を選ぶ回数が増えていた。
 そしてランクも上がった事だし、その頻度が益々増えて行く事になるのも確実だ。
 そうなると盗賊ギルドからの非合法で無い依頼を、冒険者ギルドの後ろ盾を得てこなしてくれる便利な駒が居なくなる。
 盗賊ギルドと冒険者ギルドの繋がりとやらもどうなる事かと。
 クルストはそう危惧しているのだろう。
 だからこそ、僕に年若い冒険者志願の面倒を見て欲しいと依頼したのか。
「てな訳で、ユーの字。町を巣立つ前に、雛を二匹育ててくれねえか? これは冒険者ギルドも承知の話だ」
 盗賊ギルドの影響力の及ぶ、町中での活動を主とする冒険者か。
 嫌だなぁ。少なくとも僕を贔屓にしてくれてる依頼人を紹介したくはない。
 あと別に巣立つって、この町を出て行く心算は全く無いのに。
 でも僕が此れからは魔物討伐をメインにして行くであろう事は事実で、そうなると町中の雑用依頼は今までよりも少し滞るだろう。
 それが今まで雑用依頼でご飯を食べてきた僕には、少しばかり不義理に感じてしまう。
 仕方が無い。引き受けよう。
「仕事のやり方を教えるだけ。依頼人の紹介はしない。信頼は自分で掴んで貰う。町の外での活動に関しても教えるから、何時か外での活動が主になっても僕は知らない」
 僕が当然だと思う事を条件に上げて行く。
 仕事のやり方は教えるのだから、後は自分で何とかするのが冒険者だと思う。
 その二人とやらが、何時か討伐系の依頼をやりたくなったら、また後輩を作れば良い。
「後は、先ず二人を紹介してよ。その二人が信用出来ないようだったら、この話は無しだから」
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