少年と白蛇

らる鳥

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 古代都市での探索を終え、ライサの町へと帰還した僕は、予想外の人達と再会を果たす。
 トーゾーさんとパラクスさんだ。
 隊商の護衛や、割りの良い依頼を求めて彼方此方の町を飛び回る二人が、まさかライサでのんびりとしているなんて、想像もしてなかった。
「成る程、二人で長旅に出たと聞いたので、帰って来たら揶揄おうと思ってたら、また随分と贅沢な悩みを抱えて……」
 トーゾーさんはゆっくりと酒を器に注いで行く。
 居ると思わなかった二人の存在に少し慌てはしたが、念の為に余分に買ってた古代都市で買い求めたお酒とヘルハウンドの干し肉、そして良く判らないけど露店で売ってた古書をお土産として渡す。
 もしもの為に予備のお土産買ってて本当に良かった……。
「実にユー殿らしく面倒臭くて、実に良い」
 器の酒をグイと飲み干し、トーゾーさんは笑う。
 前回の古代遺跡探索で思い知った僕に足りない物、今の僕の悩みは、膂力の足りなさだ。
 ハーピー程度なら斬る事は出来ても、オーガを相手にするなら攻撃力が不足する。ましてやミノタウロスが相手なら剣では傷つける事も難しい。
 力が欲しかった。
「トーゾー、笑わないでくれないか。達人の貴方には笑い話でも、私もユー君も真剣に悩んで居るんだよ」
 カリッサさんが楽しそうに笑うトーゾーさんを咎める。
 僕はトーゾーさんが楽しそうだから別に気にしてないけど、どこがそんなに面白かったのかなとは思う。
 気付けばカリッサさんは前に一緒に依頼をこなしてから、トーゾーさんやパラクスさんの事は呼び捨てだ。
 カリッサさんの彼等への信頼と評価はかなり高い。一緒に旅をしていた時も、時折二人の話になったりもした。
「ふむ、いや気に障ったならすまぬ。しかしカリッサ殿の悩みは単なる甘えだろうに。力の足りぬ者の為の技は溢れているぞ。学び、練れば良い。簡単な事であろう」
 ヘルハウンドの干し肉を口に咥え、トーゾーさんは少し微妙そうな顔になる。
 あの肉、シチューにしたら美味しいのだが、干し肉にするとスジっぽくて、癖が少し強くなるのだ。
 カリッサさんはそこが好きらしいのだけど、僕は少し苦手。
「ユー殿の悩みは、まあ下級の冒険者が持つ悩みでは無いな。随分と成長した様で実に良い。けれどな、急ぎ力を求めれば今ある、出来上がりつつある優れた形を崩す事になろう」
 僕の手を取って皮の厚さを確かめながらトーゾーさんは言う。
 先程までの笑みは消え、とても真剣な表情だ。
 確かに贅沢な悩みなのだろう。ミノタウロスを斬りたがる下級冒険者なんて、僕も聞いた事が無い。
 そして、手を離したトーゾーさんは僕の目を覗き込む。
「今はそのまま技を求めると良い。肉体の力を増す術はあるが、今のユー殿にはまだ早い。もっと技を練れたなら、その時はこのトーゾーが責任を持ってその術を教えて進ぜよう」
 トーゾーさんの目は本気であった。
 これは口先の慰めじゃ無くて、もっと重い大事な約束だ。
 でも本当に良いのだろうか。トーゾーさんの技は何か特別な流派だと聞いた事があるのだけれど。
「良かったな、ユー君。よしトーゾー、私の訓練にも付き合ってくれ」
 その言葉にトーゾーさんはとても面倒臭そうな顔をしたけれど、カリッサさんは気にせず彼を引っ張って連れ去って行く。
 可哀想なトーゾーさん。折角お酒を飲んでたのに。
 でもあの人はなんだかんだ言いながらも、仲間と認めた相手にはとても面倒見が良い。
 残されたのは僕と、渡した古書を読みながら只管ヘルハウンドの干し肉を齧っていたパラクスさん。
「まぁユーディッド、あまり遠慮しなくて良いよ。藤蔵は君の事を気に入っているから。勿論私もね。さあ、五月蠅いのも居なくなったし、もう少し古代都市の話を聞かせてくれないか?」
 パラクスさんの言葉に、僕は頷きあの地で見た物の話を始めた。

 季節はもう直ぐ秋が終わる。
 冬のど真ん中の辺りにもなれば、町の外での活動は極端に難しくなってしまう。
 自然環境とは魔物以上に人間には抗いがたい大敵であるのだ。
 けれどまあ町で過ごすなら特に問題は無かった。雑用依頼を少しこなして、後は訓練に割く時間を増やそうと思う。
 でも今年は、冬の備えは念入りにした方が良いかも知れない。
 普段なら特に気にもしないのだけれど、今年はこの宿にはカリッサさんが居る。
 冬の間は当然備蓄した食糧を消費しながら過ごすのだが、カリッサさんの食べる分量を賄えるだけの備蓄は……、多分無いよね?
 宿のおじさんが泣く前に出来るだけ狩りには行くようにしよう。
 何ならカリッサさんと一緒に熊を狙ってみても良い。普段は持ち帰れないので狙わない獲物だけど、カリッサさんが居れば丸ごと持ち帰れる筈だから。
 そんな事を考えてた時だった。バタンと扉が開かれ、ドタドタと二人の少女が宿の中に入って来る。
「ユー、居た! お願い助けて!」
「ルリちゃん、行き成りだと失礼だよ。あ、ユーディッドさんお久しぶりです。あの、少しご相談したい事が……」
 ルリスさんとクーリさんの二人だった。何だろうとても厄介事の匂いがする。
 同じテーブルのパラクスさんが面白そうに此方を眺めているのが、少しだけ腹が立つ。
「二人ともお久しぶり。何の事かはわからないけど、まあ落ち着いて、お土産あるから受け取ってね」
 取り敢えずは、先ず二人にはお土産を渡そう。


 二人の相談、或いは救援要請の内容は、まあ何れ起きるだろうとは思ってた話であった。
 正式に冒険者としての資格を取り、雑用依頼を中心に活動を始めた二人。
 最初はとても順調だったらしい。大体の作業は教えたし、ルリスさんもクーリさんも物覚えが早いのでそれはそうだろうと思う。
 けれど活動を始めてから1週間程が経ったある日、彼女達は突然冒険者ギルドで他の冒険者に声をかけられた。
 曰く、つまらない雑用依頼をやってないで、自分達と一緒に魔物の討伐に行こうと。
 ルリスさんとクーリさんはそれぞれタイプは違うけど、人目を引く容姿をした少女達だ。
 それに貧民街の出身なので、それなりに他人の下心には聡い。
 その冒険者等が戦力では無く下心で自分達を誘っている事は直ぐに察し、当然の様に断った。
 まあ此処までは良かったのだ。
 でもそれからも毎日しつこく声をかけられた為に、気の短いルリスさんが激発してその冒険者達と言い合いになる。冒険者ギルドのど真ん中で。
 ……うん、目に浮かぶ様だ。
 そしてそ言い合いの際に相手が恥をかく事になり、それ以降二人に対してその連中からの嫌がらせが始まったのだとか。
 態々彼女達が雑用依頼をこなす場所に現れ、暴言を吐いたり物を壊したり。
 随分と暇な冒険者なんだなあと思うけれど、そんな事が続けば何れはルリスさんとクーリさんに仕事を頼む相手も居なくなるだろう。
「口入れ屋の方では対処してくれないの?」
 少し声を小さくして二人に問うてみる。
 ルリスさんとクーリさんは口入れ屋、つまりは盗賊ギルドの後押しもあって冒険者になったのだ。
 その仕事の邪魔をするとなれば、盗賊ギルドも怒ると思うのだけど……。
「頼めば助けて貰えるとは思います。でも……」
「アタシ等は口入れ屋からの依頼も受けるけど、独立した冒険者なの。でもこんな事で頼ってたら何れ紐付きのイヌにされるわ」
 クーリさんの言葉を、ルリスさんが引き継ぐ。
 成る程、世話になった恩はあっても、今の彼女達は組織に属しない冒険者で、盗賊ギルドも外部の協力者を得たと納得している。
 でもこの程度のトラブルで盗賊ギルドを頼れば、外部に置いておく価値無しと判断されて、組織の紐付きにされると言う事か。
 無論一度や二度でそうなる訳では無いだろうから、最終的には盗賊ギルドに頼る手も無くは無い。
 けれどルリスさんとクーリさんが冒険者を続けるなら、今回のような出来事は常に起こり得る事だった。
 冒険者は良い人も沢山いるが、基本的には荒くれ者の集まりである。
 雛鳥達を微笑まし気に見守る人ばかりでは無い。食い物にしようと考える人間だって多いのだ。
「やー、大変そうだね。ユーディッド、藤蔵に頼ってみる? 君の頼みなら全員後腐れなく斬って貰えるよ」
 楽し気に話を横で聞いていたパラクスさんが恐ろしい提案をしてくる。
 トーゾーさんなら本当にやりかねないのでやめて欲しい。それに今回だけ問題を排除しても意味が薄いのだから。
 継続的に、彼女達がこの手の問題に悩まされなくて済む方法……。
 そうか。この町には、トーゾーさんと同じ位に一目置かれる人が居る。あの人に頼ろう。
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