少年と白蛇

らる鳥

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「え、中級昇格審査って、僕、ランク上がったのって二カ月程前ですけど……」
 久しぶりに訪れたライサの町の冒険者ギルドで、僕はニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべる受付嬢、エミリアさんに向かって首を傾げた。
 僕の言葉に、エミリアさんは笑顔を崩さず首を横に振る。
「二カ月でランクアップは早い方になりますけど、異例って程ではありませんよ。それにユーさん、この2カ月の間にミノタウロスやデススパイダーの討伐なさってるじゃないですか」
 それは確かにそうなのだけど、あれはチームのメンバーに恵まれたからこその成果だ。
 ……言えはしないが、そもそもミノタウロスに関しては完全にヨルム任せになってしまったし。
 ランク3になるのには1年半もかかったのに、本当に僕が審査を受けても良いのだろうか。
 中級に上がれずに死んだり、引退する冒険者は決して少なくないらしいと聞いているのだが。。
「それ以外にもヘルハウンドやハーピー等も沢山討伐してますし、仲間の方と一緒であっても、どう見てもこれは下級冒険者の討伐記録じゃないです」
 思い返せば、確かに最近は中位以上の魔物の相手をする機会が多かった。
 古代都市で出る魔物なんて、基本的に中位以上ばかりだったし。
 前回行ったペタニ村近くの森でも、キラーマンティスに出会ったがアレも確か中位だった筈。斬ったのはトーゾーさんだけど。
 でもそう考えれば、審査を受ける位は良いかも知れない。
 合格するかどうかはさて置いても、審査に値するって評価を受けた事は素直に嬉しいから。
「わかりました。でもエミリアさん、審査って、何するんです?」
 僕の言葉に、エミリアさんの笑顔がより一層深くなった。
 ……えっ、何?

 ランク4、中級冒険者の第一歩となるそのランクへの昇格審査は、このミステン公国の冒険者ギルドでは年に各都市で1回ずつ、合計3回行われる。
 つまり今回が駄目なら、次は4か月後に態々公都まで受けに行かねばならないのだ。
 勿論そこまで待ちたくなければ、国外の冒険者ギルドでの審査を受ける事も可能らしい。
 まあ今回はの審査はライサの町で行われるのだが、どうやら今のライサの町には中級への昇格審査を受けるに値する人間が僕の他には居ないのだとか。
 会場の町の受験者が居ない状況は、ギルドとしても少し体裁が悪かったそうだ。
 ランク3に上がった時は直ぐに審査が終わったので、今回もそんな感じだろうと思ってたら意外と大きな話で驚く。
「だからユーさんが今回の話を受けてくれて、私もとても助かるんです」
 エミリアさんが嬉しそうなのは僕も嬉しい。エミリアさんには冒険者になったばかりの頃、色々と親身になって貰った。
 あの頃にこの人と出会って無ければ、或いは道を踏み外した未来だってあったかも知れない。
 それにエミリアさんが喜んでるのは、多分ギルドの面目が立った事じゃ無くて、僕の成長をだろうから。
 中級審査は頑張ろうって、素直に思えた。


 公都やオリガからも希望者が来るだけあって審査の日はキチンと決まっており、その日、10日後までは無茶をしないで体調を整えて置く様念押しされたので町中の雑用依頼を中心にこなす事を決める。
「へぇぇ、ユーちゃんが中級冒険者にねぇ。凄いわぁ。あらぁ……、でもそうなったらもうあんまり呼べないわねぇ」
 庭の草むしりを終えた後、お昼御飯を御馳走になりながら最近の話をマルゴットお婆さんにしたら、何だかとても寂しそうにされてしまう。
 ちなみに今日のメニューは鳥の足の炙り焼きと、サラダ、それに柔らかいパンであった。 
 鳥の足は良く焼けており、皮も付いてて脂が美味しいし、肉も美味しい。ちょっとくどい時はパンを齧る。
 ヨルムは鳥の足ばかり食べるが、マルゴットお婆さんはもうすっかり心得てくれてて、ヨルムの分は最初から食べやすいように切り分けてくれているのだ。
 そしてそんな切り分けられた鳥肉をヨルムに食べさせてくれるのは、マルゴットお婆さんのお孫さんであるマーレさんだった。
「御婆ちゃん駄目よ。そんな事言ったらユーディッドさんが困っちゃうじゃない」
 そんな風に言いながらもマーレさんの表情も少し寂し気である。
 まあ彼女の場合は会いたいのは僕じゃなくてヨルムなんだとは思うけど。
 でも別にそんな気遣いは特に要らない。
「いえ、別にランクが上がっても来ますよ。町の外に出る事は増えるから、居ない事は多くなると思うけど、僕は此処が好きですし」
 特にお昼御飯が大好きだ。勿論マルゴットお婆さんやマーレさんも好きだけど。
 何なら依頼が無くても、お昼御飯だけでも食べに来たい位には、マルゴットお婆さんのご飯は美味しい。
 ヨルムだってこの家に居る時はとても寛いでいる風に思える。
「嬉しいわぁ、最近来てくれる様になったルリスちゃんやクーリちゃんも良い子だけど、やっぱりユーちゃんにも会いたいからねぇ」
 そう言って、マルゴットお婆さんはふんわり僕を抱きしめた。
 ご飯を食べる手は止まってしまうが、こうされるのも嫌じゃない。
 聞いた話によるとルリスさんとクーリさんも、時折この家には出入りをする様になったらしい。
 マーレさんとは特に気が合う様で、依頼以外でも3人で連れ立って町を歩いたりしてると聞いた。
 とても良い事だと思うが、この前の冒険者達とのトラブルを思いだせば少しだけ心配でもある。
 中級に上がれば、何らかのトラブルが起きた時でも、僕が力に慣れる事もきっと増える筈。
 僕は一度マルゴットお婆さんを抱きしめ返して、そして昼食を再開した。鳥肉美味しい。

 中級昇格審査の日を待つ間に、もう一つ変わった出来事があった。
 再会と呼ぶにはまだそんなに間が空いてない人物との遭遇。
 夕食時、僕が宿で食堂のテーブルの食器下げを手伝ってた時に、扉が開いて一人の冒険者が入って来る。
 その冒険者はぐるりと宿の中を見回すと、僕に向かってこう言った。
「居た、ユーディッド! ライサに来る用事があったんで、アンタに聞いた宿に来てみたんだ」
 その冒険者とは、ついこの間ペタニの村で出会った槍使いの少年、クレン。
 ああそうか。確か彼も、そろそろ中級に上がれるかどうかの状況だって言ってたっけ。
 
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