転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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第三章『年を経た友』

27 レニス、ベラ、ピスカと魔術

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 悪魔になる事に関してのアニーとレニスの話し合いがどうなったかは知らないが、御蔭でレニスとの関係はまた少し距離が開いた風に思う。
 多分アニーはレニスを子供扱いして、自分の死後を考えて自立させようとしてるんだろうけど、僕をダシに使うのはやめて欲しい。
 あんな提案をするのなら、後でレニスの居ない所でこっそり言えば良かったのだ。
 アニーの気持ちも、レニスの気持ちも、僕にはわからないが、其れでも察する事はある。 

 彼女達二人は、全く似ていない。
 容姿だけじゃ無く、発する魔力の形質も、到底血が繋がっているとは思えない程に。
 そしてレニスの父や母、アニーの伴侶にあたる筈の祖父の話等が、此処まで一切出てないと来れば、多分そう言う事なのだろう。
 何故アニーがレニスに自分を祖母と呼ばせているのかは知らないし、その辺りの事情を暴き立てる心算も無い。
 でも二人の関係は、だからこそ深かった。

 けれどもアニーは此れから現魔術協会との対立と言う危険に身を晒すし、そうで無くても彼女は老齢である。
 人間である彼女は何時までも生き続ける訳じゃ無い。
 だからこそアニーはレニスを心配し、あんな風に言ったのだろう。
 レニスだってそれをわかっていて、でも其れでも失いたくなくて、アニーを持って行ってしまいそうな僕を警戒してるのだ。

 まあ仕方ないとは思うし、彼女達の関係は彼女達が解決する事だから、僕は口を挟まない。
 でもそんな風に警戒されたら、此れから魔術を教えるのがやり難くて仕方なかった。
 一体どうやって懐柔すべきかを考えながら、野外に輪になって座る、レニス、ベラ、ピスカを順に眺める。 
 今これから行おうとしてるのが、記念すべき第一回目の魔術講座だ。
「はい、じゃあ此れから魔術講座を始めます。レニス、別に取って食ったりしないから、もう少しこっちに来て。ピスカ、草に埋もれそうだからレニスかベラに座らせて貰って。ベラ、左の頭寝てる」
 
 まず最初に行うのは、レニスの魔術の実力の確認と、ベラとピスカに対しては何故魔術の訓練が必要なのかの説明である。
 レニスと悪魔達では魔術を教える目的が違うし、成長速度も大幅に異なるだろう。
 例えばレニスが初級者なら、後から魔術を覚えるベラとピスカにあっとういう間に実力が追い越されるのは確実だ。
 悪魔が最初から魔力視を備え、魔力を扱う事への適性が高く、けれども習得せねばならないのはその先の霊子や魔素の操作であると確りと説明せねば、一緒に学ぶのは害にしかならない。

 ではレニスが上級者なら、この場合は彼女はベラやピスカの成長を余裕をもって見れるだろう。
 でも流石にその領域に足を突っ込んでる魔術師に、今更基礎を語っても仕方にので、それならもう別々にもっと専門化してレニスの得意分野等に踏み込んで教えるべきだった。
 一番都合が良いのは、中級者前後の実力をレニスが持つ場合だ。
 ある程度の余裕があり、しかしベラとピスカに対して危機感も持て、基礎から学び直す事が決して無駄にならない位の実力。
 勿論飴として別個に少し踏み込んだ内容も教える必要はあるだろうが、其れ位なら然程手間じゃ無い。


 ……そして実際にレニスにどの位の実力があったかと言えば、ちょっと面倒臭かった。
 試問と実際に魔術を使わせる二種類のやり方で彼女を試したが、魔術の類が好きなだけあって、知識は中級者を軽く超えるだろう。
 しかし実際に扱わせれば、力が入り過ぎなのかどうにも術の扱いがぎこちなく、初級者はクラスは抜けているが、中級者には及ばないと歪な結果に終わる。
 此れだと新しい術式、知識、概念を教える事はレニスへの飴にはなるが、実力向上には繋がらない。
 だって彼女に足りないのは其処じゃないから。
 更に自分の苦手とする実際の魔術の行使を、碌な知識も無しにスイスイとこなすようになるベラとピスカへのストレスは大きいだろう。
 悪魔が魔法を得るまでの過程を観察出来る事には多大な興味を持ってそうだが、……んー、どうしようかな。

 取り敢えず、レニスには料理を教えようと思う。
 ただし普通の料理じゃなくて、魔術を用いて工程を簡易化させた物を。
 魔術を特別視せず、単なる道具として、力を入れ過ぎずに只管使う。
 料理に魔術を使うのは、微弱で繊細な発動を必要とする為、大量の魔力は必要としないが、繊細な制御が必要になる。
 しかも料理の完成と言う目的の為には複数の工程を必要とし、その度に違った魔術を用いるので、魔術を使う事に気持ちが行き過ぎていると多分頭がこんがらがる筈だ。
 今のレニスには丁度良い訓練になるだろう。
 勿論やる気を維持する為に知識を教える事もする。
 どうせ料理の方は最初は失敗だらけなのだから、気晴らしは必要だ。食材を一杯仕入れて、根気良く彼女の成長に付き合おう。


 一方のベラとピスカも、魔術を学ぶ事には直ぐに納得してくれた。
 ベラは最初、魔術なんて無くても私は火くらい吐けますもん、なんて態度だったが、その意義を説明すれば直ぐにやる気が出た様だ。
 悪魔の身体に通常の物理攻撃は意味が無い。此れはベラの爪や牙を用いても同様である。
 しかし此れに魔力を纏わせたなら、悪魔の身体にもダメージが入る攻撃へと変化するだろう。
 人間も、単なる鉄の剣は効果が無いが、魔剣や魔術による攻撃なら悪魔を倒す事は出来ると思って良い。
 だが悪魔の場合は、魔力を用いての攻撃よりも、更に効果の上がる攻撃法があるのだ。

 其れは霊子操作で、相手を構成する霊子を直接破壊する攻撃法である。
 言葉にすると難しそうだが、霊子の操作さえ一度覚えてしまえば、爪を当てても魔法を当てても普通に行える攻撃だ。
 普通に魔力をぶつけるダメージを木の棒で突く位だとすれば、霊子の破壊はナイフで刺す位の威力はあるだろう。
 戦闘センスに欠ける僕に代わり、ウチの主戦力である事を期待するベラには、どうしてもこの攻撃法を覚えて欲しかった。
 そしてベラも、自分に期待される役割は理解しているらしく、此れを説明してからは実に積極的に訓練をし出す。

 もう一人、ピスカの場合は何も言わなくても魔術を学ぶ気は満々である。
 何故なら、悪魔化しても小さな身体のままの彼女は、魔術を、或いは霊子と魔素の操作を覚えた先にある魔法を、習得せねば身を守る事さえ難しいからだ。
 そもそも上昇志向故に悪魔化を希望したピスカが、自分が力を手に入れる機会を厭う筈が無い。


 こうして、三人の魔術訓練の日々が始まった。
 実際に使い物になる実力を身に付けるには、其れなりの期間を必要とするだろうが、まぁ、そう、出来れば楽しんで学んで欲しいと思う。
 だって僕がグラモンさんに魔術を教わった時は、とてもとても、楽しかったのだから。


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