転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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第四章『主を遺す老臣』

47 魔王軍初陣

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 ザーハックにこの世界に召喚されて半年、遂に魔王軍の編成が終了した。
 僕もびっくりする位に早い。
 元々魔族が種ごとに特性が決まっており、役割分担をし易かった事や、ヴィラの定めた軍制が魔族に適していた等、理由は色々あるだろう。
 でも多分一番の理由は有力者達を説得して取り込んだ魔族が、ベラに完全服従して居た為、新たな軍制も一切抵抗せずに受け入れたからだ。
 魔族は強い者に敬意を払うとは聞いていたが、うん、完全に力で従えた形だった。

 因みに役職上では、僕がミューレーンの後見にして四天王筆頭となる為、魔族達からはベラ以上の化け物だと思われているらしく、最近何処へ行っても畏怖の視線を向けられる。
 多分この世界では、僕は友達を作れないだろう。
 いやまあ別に良いんだけれども。

 兎に角、軍の編成が終わったならば、次に待つのは戦いだった。
 今現在、魔王軍は主に四天王が率いる四つの軍に分けられ、更に其の下に幾つかの師団がある。
 例えばベラの所は魔獣王軍で、サイクロプスやオーガ等から成る巨人師団、人狼や魔獣系魔族の魔獣師団、そして一番数の多い混成師団の三つ。
 僕の所ならば魔導王軍、魔人や吸血鬼等人型の魔族が集まる黒騎士団、魔女や人型魔族の中でも魔術を得意とする者達の魔術師団と言った具合だ。
 と言ってもアニスの所なんかは、兵站をになったり、或いは足が速かったり空を飛べたりする遊撃隊だったり、他の軍と共同で動くのが前提になるサポート役の為、基本的には僕かベラの軍が戦場に出る事になるだろう。
 ピスカの役割は暗部なので、影王って名前だけを公表し、後は各軍から隠密の才能がある者を抽出して鍛えている最中である。
 
 そして今回の目標はミューレーンの兄、魔王子ツェーレと戦う人族軍を殴り付け、戦果を挙げてツェーレと話し合いの席を設ける事だ。
 僕かベラかの何方かはミューレーンの護衛として離れない為、動かせる軍は魔導王軍か魔獣王軍の何方か片方。
 その後にツェーレとの話し合いが控えてる事を考えたなら、動くべきは当然僕である。
 悪魔として色々経験をして来た僕も、流石に軍を率いて戦うのは初めてな為、ヴィラに参謀としてついて来て貰える様にお願いした。

 今回僕に対する制限は二つ。
 一つは霊子と魔素の操作で行う魔法では無く、魔力を消費して扱う魔術を使う事。
 もう一つは一人で全部やっちゃわない事だ。
 魔力では無く、その構成要素である霊子と魔素を用いて使用する魔法は、魔術よりもずっと効率が良い。
 しかし其れを大っぴらに使用して見せてると、将来、次の四天王にこの地位を譲り渡す時に苦労するだろう。
 次代もある程度は僕と同程度の術が使える事を求められと思うし。

 一人で全部やらないのも同じである。
 この戦いは本来魔族と人族の戦いで、僕等は其れに助力する立場だった。
 ミューレーンがまだ幼い事や、魔族の状況が悪すぎる事から、大分強引に動いてはいるが、やり過ぎは魔族の自立する力を奪ってしまう。
 要するに、魔法が得意な僕は魔術も当然得意だが、山を吹き飛ばすような巨大な術で敵軍を一掃みたいな真似は厳禁なのだ。
 とは言え、僕が動いた方が魔族側の被害が格段に減る事もまた間違いはなく、そのバランスが難しい。
 僕は少しだけ頭を悩ませた結果、一つの魔術の使用を決めた。


 進軍を続け、アニスとピスカからもたらされた情報を元に、魔王子ツェーレの軍と人族軍が陣地を築いて睨み合いを続ける戦場の横に回り込む。
 戦場は遠目に見ても破壊の痕跡が酷く、幾度と無く行われた双方のぶつかり合いが激しい物である事を物語る。
 後先を考えないような、敵味方双方に犠牲を拡大する戦いを続けているツェーレだが、未だに彼の勢力が崩壊していない理由の中で最も大きい物は、ツェーレ自身の強さが故だろう。
 魔王子ツェーレは確かに配下に厳しい戦いを強いているが、其の只中に自分も立つのだ。
 寧ろ常に先頭に立って戦うツェーレこそが、最も厳しい戦いをこなし続けてると言って良い。
 いや指揮官としては如何なのだろうと思うけれども、強さを重んじる魔族には其の姿が眩しいらしく、ツェーレが最前線に立つ事で彼の軍の士気は維持されていた。

 本当に、情報が揃えば揃う程、何を考えて居るのかわからなくなる人物だ。
 何方にせよ、僕はツェーレと話し合い、彼を何としてでも救おうと思ってる。
 正直な所、僕にとってツェーレが魔族に必要かどうかは割とどうでも良い。
 でも僕の出陣の際、ミューレーンは僕の無事を願う言葉は口にしたが、兄であるツェーレに関しては何も言葉にしなかった。
 其れは決して彼女が兄を何とも思ってないからじゃないのは、その表情と揺れる瞳を見れば一目瞭然だ。
 しかしミューレーンは、失う事に慣れ過ぎてしまってる。
 口に出して期待してしまえば、其れが成されなかった時により大きく傷つく。
 ツェーレが戦場で命を落としたり、或いは僕がその手で殺さなければならなくなった時を考えてしまって、彼女は何も言わないのだろう。

 だがミューレーンは未だ子供だ。
 賢しい子供だが、其れでも子供で、重大な立場にあるけれど、そんな事は僕には関係ないから、思う存分我儘を言っても良いのに……。
 ましてや僕は悪魔である。
 願いを叶え、対価を得る事を生業にしている存在なのだ。
 そんな僕に、心の底に秘めた願いを言えないなんて、侮辱にも程があった。
 だから僕は無理矢理に、聞いても居ないがミューレーンの願いを叶えてやろう。
 今回は押し売りなので、対価は大負けに負けて、喜びの笑顔と感謝の言葉で勘弁してあげる心算である。
 其の為にも、先ずは戦果をもぎ取ろう。


「My Lord. 予定の地点に到着しました。魔術師団からの選抜者による増幅魔術も使用準備が整っています」
 ヴィラの報告に僕は頷き、増幅魔術の準備をしている魔族の術師達の中央に立つ。
 此れから使用するのは開戦を告げる、或いは此れで勝利を決定付けるだろう魔術だ。
 以前、七つの月が輝く世界へ二度目の召喚をされた時、アニスの孫であるレニスに聞いた事がある。
 今から使用するこの魔術が大規模に使われて勝利した会戦があったと。
 その会戦の名前は忘れてしまったが、この魔術の存在を知らなければ、初見で対策する事が極めて難しいのはその戦いが証明していた。

「各魔術隊は攻撃魔術の準備、僕が術を発動させたら、人族軍は動けなくなるから魔術で砲撃。頃合いを見計らって僕が術を解除後、黒騎士団は突撃。準備しててね。じゃあ、増幅魔術、開始して」
 円形に僕を囲んだ術師達が、僕の魔術の効果を増幅させる、増幅魔術を発動する。
 周囲の魔力がグッと濃さを増す。
 効果範囲は目に映る人族軍の全てが入る様に、威力は低くく、倍程度で構わない。
 兎に角広さを優先して、僕はこの世界で初めて使われる、重力魔術を大規模な戦争仕様で発動させる。

 僕が発動させた重力魔術の効果は、実に凄まじい物だった。
 鎧兜を身に纏った兵士等が倍化した重さに耐えかねて地に倒れて行く。
 こういった事態に対応する為に同行している魔術師らしき者も、突然重たくなった自分の身体に混乱し、的確な対策が取れていない。
 そして其処に魔族の放った攻撃魔術が降り注ぐ。
 焼かれ、凍らされ、怒声や悲鳴が爆発音の合間に聞こえて来た。
 反撃の矢は重力に阻まれ届かずに、声ばかりは届くと言うのが、また何とも惨たらしい。


 地獄のような光景だが、魔族達は手を一切休めずに攻撃魔術を放ち続ける。
 当たり前だ。
 此処で手を抜けば、逆に自分や、隣に立つ戦友があんな風に命を失う事になるのだ。
 人族軍に起きている異常事態に気付いたのか、ツェーレ側の陣地が騒がしくなる。
 しかしもう遅い。
 人族軍の士気は崩壊済みで、勝敗は既に決していた。
 僕は重力魔術を解除して、黒騎士団に突撃の指令を下す。
 苦戦していた人族軍を目の前で、何も出来ぬままに壊滅されれば、ツェーレの勢力も僕等の力を認めざるを得ないだろう。

 ほんの僅かな時の後、新しくなった魔王軍は、人族軍との戦いに大勝利を納めた。
 だが其の勝利は、ツェーレの勢力のみならず、人族に対しても大きな衝撃を与え、魔族と人族の争いは更に激化して行く事になる。


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