転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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幕間の章3『悪魔王として見る世界』

59 世界の終わりと派遣の悪魔王

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 数多くの巨人が地を歩き、木を、動物を、人を貪り食っている。
 時折武装した人間の集団、軍隊らしき物が反撃しているが、巨大過ぎる相手には敵わずに、纏めて掴まれては口に運ばれていた。
「見るが良い、友よ。アレが天より落ちたる者、巨人。天使と人の間に生まれた子にして、天使達が使う魂の回収システムだ」
 胸の悪くなる光景を目の当たりにしながらも、グラーゼンの表情は何時も通りの微笑みだ。
 いや、彼も別の表情を取る事は実際結構あるので、寧ろこの光景にグラーゼンが笑みを浮かべる理由が何かあるのだろう。

「うーん、僕には君が何でそんなに楽しそうなのか理解出来ないんだけど、此れって世界の終わりだよね?」
 首を傾げる僕に、グラーゼンは頷く。
 益々意味がわからない。
 そもそも、何で僕は此処に連れて来られたんだろうか。
「此の世界は天使達の長である神が人を生み、増えて地に満ちた世界なのだよ。つまり今は収穫の最中と言う訳で、此れから我々がやるのは其の収穫物の横取りだ。勿論楽しいに決まってるじゃないか」
 ……えぇ、マジか。
 思いっきり天使に喧嘩を売る心算満々で、グラーゼンは僕を連れて来たらしい。

 しかし其れには大きな問題が一つある。
 僕等悪魔には、魂の回収の際にある一定のルールがあるのだ。
 別に無差別に人間を殺しても、その魂が僕等の力になる訳じゃ無い。 
 全く取り込めない訳じゃ無いけれど、言うなれば人間が殺した動物を生で食べようとするような物で、下手をすればお腹が痛くなりかねない行為である。
 だからこそ僕等は契約を果たした対価と言う形で、魂や魔力の籠った品等を受け取るのだ。
 まぁ契約が全てじゃないけれど、それでも捧げられた、或いは自ら差し出されたと言うプロセスが僕等には必要だった。

 因みに天使達は己を信仰した魂や、或いは課した苦行を乗り越えた魂等を得るらしい。
 だからこそ、今あの巨人達は涙を流しながら人を、世界を喰らっているのだろう。
 そして最終的には巨人同士でも喰らい合い、最後の一体、全てを集めた一体が天使達の神に取り込まれたなら、収穫の時は終わる。

 でもグラーゼンはこう言った。
「契約は既にあるのだよ。あの巨人達の一体が、『もう嫌だ。自分を生んだ此の世界をこれ以上傷つけたくない。悪魔でも何でも良い、助けてくれと』そう言ったのだ」
 故に僕等が収穫を、巨人等の暴走を止めて殺し、最後に契約を結んだ巨人から魂を受け取れば、其れまでの収穫は全て僕とグラーゼンの物になると。
 勿論世界の全てが食い尽くされる前に止めるのが契約なのだから、世界の全ての魂を手に入れられる訳じゃ無い。
 だが其れでも、得られる対価は膨大だろう。
 ……今回の話は滅茶苦茶スケール大きいなぁ。

「友よ、私は契約した巨人を守らねばならない。彼が死ねば契約は無くなる。天使達は必死に其の巨人を殺そうとするだろう。……故に、他の巨人を始末するのは君と、君の配下の役目となる」
 その言葉に僕は黙って頷く。
 グラーゼンとて百を越える軍団を持つが、其れを此の世界にばら撒けば、天使と悪魔の壮絶な争いが始まって、巨人と関係なくこの世界は滅ぶ。
 だから僕等が動くのだ。
 此の世界も破滅を免れ復興すれば、また僕等の様な悪魔がちまちまと対価を稼げる場所になるだろうから。

「うん、わかった。僕等は天使に目を付けられたくないから、グラーゼンが頑張って注意を引いてね。ヴィラ、此の世界の巨人の位置特定、ピスカは僕等に隠形を、天使からは隠れて動こう。アニスは移動担当で、ベラは僕と一緒に巨人を狩る。さぁ、行くよ」
 僕の指示に、配下の悪魔が一斉に動き出す。


 此の世界に出現した巨人の数は128だと聞いている。
 この数字に意味があるのかはわからないが、ヴィラのサーチに掛かった数は117。
 残る11は既に他の巨人に食われたのか、或いは天使の支配を振り切って自決に及んだか。
 どちらにせよ、やるべき事は変わらない。

 ヴィラとリンクしたアニスが、サーチに掛かった巨人の元への門を開いた。
 天使から隠れる為のピスカの隠形故に、眼前に現れた僕等にも、巨人は咄嗟には気付かない。
 そしてその一瞬でベラは巨人の四肢の腱を噛み切って動きを封じ、トドメは僕の魔法が喉を斬って瀕死に追い込む。
 ゆっくりと地に倒れ込む巨人は、此れ以上の破壊をせずに済んだ事を悟ったのか、安堵の表情を浮かべていた。
 地に開いたアニスの門が、其の巨人の巨体をグラーゼンの、全てを統合すべき契約した巨人の元へと運ぶ。

 感傷に浸る暇は無い。僕等は後115回、同じ事を繰り返さなければならないのだ。
 一つ一つを振り返っていれば、その分世界の破壊が進んでしまうから。
 だから今はただ只管に巨人を刈り取る作業に専念し、……彼等の最期は記録しているヴィラに後で見せて貰おう。
 門が開き、僕等はまた次の巨人の場所へと転移する。


 死にたくないともがく者、天を呪う言葉を吐く者、最後まで僕等に敵意を向けた者、天使の名を唱えていた者等、巨人達の反応は様々だったが、僕等はその全て瀕死に追い込み輸送した。
 全てを終えたが、疲労は激しい。
 特に短期間に大質量の輸送を何度も行ったアニスの消耗は激しく、途中からは僕の力をアニスが使い、門を開く形に変更を余儀なくされる。
 普段は明るく口数の多いピスカも、途中からは無言になったし、ヴィラも必要な報告以外の言葉は発さなくなった。
 機械的な喋り方をするヴィラは誤解されがちだが、彼女はかなり繊細なのだ。
 特に世界の終わりに関しては、思う所があるのだろう。

 こんな時、普段と変わらぬ態度で振る舞うベラには皆が救われる。
 彼女は難しい物事を考えないが、其れは自分の役割をわかって、敢えてそうしてるんじゃないかと時折思う。
 まあ兎に角、……天使に見つからず、世界の破壊もそれ以上は進ませずに、僕等は全ての巨人を止めた。
 

 事の善し悪しはわからない。
 僕等は悪魔で、利の為に動いたから、胸を張って世界を救ったなんて言ったりはしない。
 天使には天使の理屈があって、此の世界の収穫、滅びに動いたのだろう。
 でも其れでも僕は天使達に、ざまぁみろと、一言だけは言ってやりたかった。

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