転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

文字の大きさ
63 / 129
第五章『約束の人』

63 再会のケルベロス召喚

しおりを挟む

「ねー、レプトー」
 請う様な、甘える様な巧の声に、僕は読んでいた新聞から目を上げる。
 見れば、朝食を全てキチンと食べ終わった巧が、上目遣いで此方を見ていた。
「ん、ちゃんと食べ終わったね。偉い偉い。それで、どうしたの?」
 返事をしながら目を合わせたら、巧は目を輝かす。
 甘えて来るのは良い事だ。
 巧は両親を失った後、甘えれる相手なんて居なかっただろうから、甘えて来たなら甘やかそう。
 勿論食事を終えずに甘えて来たなら、其処はキチンと叱るけれど。

「僕も魔法使いたい!」
 でも巧の発言に、僕は少し眉根を寄せた。
 ……さてどうしようか。
 僕は新聞を折り畳みながら、巧に対しての返事に悩む。
 もし此処が、魔術のありふれた世界だったら、僕は二つ返事で彼に其れを教えただろう。
 何せ巧はグラモンさんの生まれ変わりだ。
 魔術に興味を持つのも当然だし、才能がある事もわかってる。

「魔法じゃなくて魔術だけれども、……何で魔術を使いたいの? 巧は魔術を何に使いたい?」
 しかし此の世界で魔術を扱うと言う事は、それ即ち異端に落ちる事と同義であった。
 全てを理解し、覚悟の上で学び、其れを隠し通して生きるなら、やはり僕は教える事を厭わない。
 でも巧は未だ子供なのだ。
 他者に対し、其れを隠し通せるだけの分別は未だ無いだろう。

 僕の問いに、巧は眉をへの字にして考え込む。
 勿論僕とて、巧が深い考えを持ってその発言を口にしたとは思っては居ない。
 だが子供の好奇心を無下に否定したくはないし、かと言って安易に教える訳にもいかず、巧には少し考えて貰う事にしたのだ。
「ええっとね、御菓子を出したいの」
 ……うん、其れは魔法の領域だ。
 魔法を使いたいで間違いが無かった。
 子供の発想は単純が故に、時に僕の想定の上を行く。

「うーん、其れは物凄く難しいから、今から勉強して、巧が御爺ちゃんになった位で漸く出来るかな……。ちなみに朝食の後片付けの御手伝いをしたら、魔法では無いけど今日御菓子が貰えるんだけど、どうする?」
 そう、巧が御爺ちゃんになって、今度こそ悪魔になるよって言ってくれたら、一応可能ではある。
 其れも無から有を生み出す訳じゃ無く、材料を分解合成して作り出す形になるが、……まあ其処までするなら自分の手で作った方が未だ簡単な位だ。
 数十年後と今日中を比較させ、話を逸らすやり方は、ちょっと卑怯かなって思うけれども。
 けれども巧は、
「えぇっ、じゃあ後片付けの御手伝いする……。でも、魔法使いたいなぁ」
 後片付けの手伝いを選択しながらも、妙に切なげに呟いた。
 何故だか、僕の想定よりも少しばかり魔法への憧れが強いらしい。

「うん、人間に使えるのは魔術なんだけど、まあ似た様なもんだね。えっと、何でそんなに魔術を使いたいのか、教えてくれる?」
 今回の質問は、巧に考えさせる為じゃ無くて、純粋に僕が知りたかったから。
 すると巧は少し言い難そうに言葉に迷う。
 でもやがて僕の視線に耐えられなくなったのか、
「前に、レプトが僕を助けてくれたでしょ。だから僕も魔法が使えたら誰かを助けて、レプトみたいになれるかなって……」
 俯きながらそう言った。



 そうして僕は朝食の後片付けを終えた後、巧と共に家の地下室へと降りる。
 だってあんな風に言われて、でも教えませんなんて僕には言えない。
 ちょっと言い訳がましいが、グラモンさんは僕に最初に魔術の手解きをしてくれて、尚且つ死に際には魂以外の全てをくれた。
 その全ての中にはグラモンさんの魔術の知識も入っているのだから、彼の生まれ変わりである巧に魔術を求められて、応えぬ訳には行かないだろう。

 勿論当面の間、物事の分別が付いて周囲に魔術の存在を隠し通せる年齢になるまでは、魔力視と魔力操作の訓練のみだ。
 その二つは万一にも他人に見せびらかす事は出来ないし、ついでに魔力操作を行えば、他人から掛けられる魔術への抵抗力も上がる。
 此の世界で他者の魔術を警戒せねばならない事態は恐らく無い筈だが、……其れでも備えになるならやっていて損は無い。
 将来本格的に魔術を教える際にも、基礎が固まっていれば上達は早まるのだし。

 だが最初から其れではきっと巧も飽きてしまう。
 如何に才能が保証されてるとは言え、巧はまだ幼い子供だ。
 最初位は少し風変わりな体験をさせて、神秘の体験をさせてやりたい。
 僕は地下室のコンクリートの床に、チョークで大きな円と、その中に幾つもの図形を組み合わせた模様を描く。
 此の地下室は何でも貯蔵室として使われてたらしいが、充分に広いので一寸した儀式には最適だった。
 しかし普通は、多少広くとも一軒家に地下室なんて無いのだが……、まあ深くは考えなくて良いだろう。

 魔法陣の設置に多少の時間が掛かったので、飽きてしまったかと巧を振り返れば、彼は期待に目を輝かせながら此方を見ている。
 うん、どうやら大丈夫らしい。
 ではそろそろ本番と行こうか。
 手招きし、巧を魔法陣の前に立たせた。
 そして僕はその背後に立つ。

 後は教えた通りの文言を巧が唱えてくれれば、この魔法陣は発動し、対象を召喚するだろう。
 勿論、今の巧には魔術の技量は全く無いが、魔力自体は持っている。
 其れを僕が引き出して、調節しながら魔法陣に流してやれば良いだけだ。
 他にも召喚した対象への捧げ物や、契約内容を決める必要はあるのだが、まあ今回は別に適当で良い。
 どうせ呼ぶのはベラなのだし、捧げ物も三時に食べる予定だった御菓子で問題無かった。

「来たれ、嘗ては冥府の守り手、底無し穴の霊だった者、今は三つ首の悪魔となりし獣、ベラよ。我が声に繋がりを思い出せ」
 僕が耳元で言った通りの言葉を、巧もたどたどしく繰り返す。
 言葉は意味がわからなければ、単なる音の羅列になるので間違い易いが、其れでも巧は間違わず、必死に呪文を唱え終えた。
 巧の魔力を引き出して、少しずつ魔法陣へと流して行く。
 本来なら、ベラを呼ぶのにこんな手間は必要無い。
 僕が一言呼べば、ベラは魔界から飛び出して来る。
 でも其れでは意味が無いのだ。
 巧自身が呼べば、彼は魔術を体験出来るし、ベラもきっと召喚される事を喜ぶだろう。


 巧は未だ子供の身なので、保有する魔力はそう多くない。
 ゆっくり少しずつ引き出したが、魔法陣を発動させるにはギリギリか、或いは少し足りない位だった。
 けれども魔法陣には光が灯り、力強い気配が近付いて来る。
 魔力が足りるか、足りないかなんて関係が無いのだ。
 呼びかけさえ届けば、ベラは足りない分を自分で補ってでも、巧の声に応えるのだから。

「グァウッ!!!」
 魔法陣から飛び出したベラの、三つの頭が同時に咆哮を上げた。
 その迫力に巧は目を真ん丸に見開くが、しかし恐怖の色は全く見えない。
 多少の疲労はしているが、初めて魔術を使った興奮と喜びに、その瞳は満ちている。
「巧、彼女はベラ。とても強い悪魔だよ。其れこそ戦車よりもずっとね。じゃあ巧、ベラに挨拶を。そして此の御菓子を捧げ物にして、此れから自分を守ってって言うんだ」
 巧は、僕の渡したチョコレート菓子を握り締め、一歩前へと踏み出す。
 ベラが直ぐに飛び付きたいのを我慢して、澄ました風を装っているのが面白い。
 尻尾は無茶苦茶に振られてるけれども。


 そうして再び、僕とベラは、グラモンさんの生まれ変わりである巧と三人で暮らす事になった。
 勿論、ベラは無事に犬への変身をマスターしていたので、巧は毎朝彼女と散歩に行っている
 全然形は違うけれども、昔と同じくとても幸せな一時だ。
 更に次はアニス、その次はヴィラとピスカを呼ぶ予定なので、もっと賑やかに、もっと楽しく過ごせる様になるだろう。
 
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

処理中です...