転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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第五章『約束の人』

64 ランドセルは独特の文化だと思う

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 巧は、目の前に浮かぶ其れを茫然と眺め、その後此方を振り返る。
 目を真ん丸に見開いて、再び視線を其れに戻し……、がばっと捕まえようとしてヒラリと逃げられた。
「レプト! 何か! 浮いてる!」
 凄い。
 相手が何なのかもわからないのに、まさか素手で捕まえに行くとは、流石は幼い男児は恐れと容赦を全く知らない。
 其れはまるで誘う様に巧の手をヒラヒラと寸前で躱し続けてる。
 まあ、彼女も小さい子供は大好きなのだ。
 そう、巧が夢中になって追いかけてる其れは、珍しい種の蝶とかでは無く、小悪魔のピスカだった。

 巧は相手がピスカだから良いが、普通の昆虫の類なら握り潰しかねない勢いで手を振り回す。
 ピスカは元妖精で、妖精は人間の子供に対して好意的である事の多い種だ。
 ただし妖精の好意は、時に悪意よりも厄介で、神秘の濃い世界なら、妖精が気に入った人間の子供を連れ去ってしまう事件も珍しくはなかった。
 無論僕の配下であるピスカはそんな事はしないだろうけど、今の彼女は楽し気で悪戯っぽい、如何にも妖精らしい笑みを浮かべてる。

 しかし幾らピスカが楽しそうでも、此のままだと話が全く進まない。
 僕は右手で巧の襟首を掴み、左手でピスカを捕まえる。
「巧、落ち着いて。彼女はピスカ。ピスカも僕の配下の悪魔だよ。そしてこっちが同じく配下のヴィラ」
 巧の視線を身体ごとヴィラに向ければ、目の合った彼女は綺麗な仕草で一礼を行う。
 その一礼に、慌てて巧も礼を返そうとした様だが、残念ながら彼の襟首は僕が掴んでいる為、ジタバタするだけに終わった。
「ヴィラと申します。巧様、以後お見知り置きを」
 ヴィラはそんな巧ににっこり微笑んでから、一歩下がって待機姿勢に戻る。
 うん、大分仕草は人間らしく、柔らかい物になったけど、行動は未だ多少機械っぽい。

 因みにアニスはピスカやヴィラ達より前から、既に一緒に暮らしていて、何とか巧に自分をお母さんと呼ばせようと、あの手この手で頑張っていた。
 レニスの時は御婆ちゃんって呼ばせてた癖にだ。
 こうしてみると僕の悪魔軍は、何故だか子供好きばかりである。
 だからこそ彼女達と過ごすのは居心地が良いし、巧だって安心して任せられるのだろう。


 此の世界は、僕にとって非常に動き難い。
 例えば金銭を得るにも、今は良治からの生活支援があるから良いが、仮に此れがなくなった場合は稼ぐのに苦労するだろう。
 他の世界なら、例え貨幣を持って無くても金粒や銀粒で買い物出来たり、或いは換金が出来る。
 そして其れを元手に交易等の商売をすれば、収納や門の魔法を使える僕は、比較的簡単に稼げるのだ。
 此の世界でも金は価値ある金属なので売れば現金は手に入るが、量を売るとどうしても目立つ。
 詮索を避ける為に買取ショップの店員に暗示を掛けたとしても、次はその上司が買い取り量の違和感に気付くだろうし、兎に角面倒臭い。

 金銭の問題だけならヴィラに株式等の投機を任せれば解決するが、他にも問題は色々とある。
 もし赤信号の意味がわからなければ、車の来ない道を通るのに何の躊躇いも生まれないだろうが、僕はその意味を知る為に罪悪感や迷いが生まれるのだ。
 誰かが倒れてるのを見付けた時、車の走る車道に子供が飛び出した時、果たして僕は躊躇わずに動けるだろうか?
 ……その意味でも、此の世界を深く知らないが為に、普段通りの発想が行える配下達が来てくれたのは有り難かった。
 いや寧ろ、ネットワークの影響が強い現代社会だと、ヴィラは文字通りにチート的存在だ。
 元AIなので、本来の意味でも間違ってないし。

 尤も僕は別にこの世界が嫌いな訳じゃあない。
 食材、特に調味料の類は、多く世界を見て来た僕でも、現代日本はTOPクラスだと僕は思う。 
 アニスなんかは此の国で食材を仕入れて、他の世界に持ち込めば、莫大な財を築けるだろうって張り切っていた。
 資金はヴィラが投機で稼いでくれそうだし、食材を扱う会社を経営するのも楽しそうだ。
 勿論設立には桐生家の力を借りる必要があるが、会社を経営すれば僕等の表の身分も手に入る。
 将来は巧に譲るのだって良いだろう。

 巧には、色々と将来を選べるようにしておきたい。
 桐生家を望むも善し、僕等が経営する会社を引き継ぐも善し、或いは魔術師として生きるも巧次第だ。
 ここ数ヶ月で僕が調べた所、此の世界にも一応神秘の存在はあった。
 魔物では無いが、妖物と呼ばれる化生の類を狩る討魔師だとか、他人を呪う呪術師だとか、人の身で神秘を操る者も数は少ないが見つけている。
 僕の生まれた日本には多分そんな術者は物語の中にしか居なかったと思うのだが、もしかしたら知らないだけであの世界にも居たんだろうか?
 どちらにせよ、実力的には然程大した事は無く、僕の脅威にはなり得ない。
 此のまま巧に魔術を教え続ければ、才能的に間違いなくグラモンさんに近しいレベルにはなるのだろうから、神秘に携わる界隈でもぶっちぎりの実力者になるだろう。

 等と言っても、其れを決めるのはずっと先の事だ。
 何せまだまだ巧は幼く、漸くもう直ぐ小学校に通い出そうと言うのだから、将来に向けて準備する時間は沢山ある。
 差し当たっては、今まですっかり忘れてたのだけれど、此の世界で小学校に通うのならば用意しなければいけない、男児用の黒のランドセルを買いに行こうか。
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