転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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第五章『約束の人』

65 入学式、其処に居てはならぬ人

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 ランドセル以外にも学習机が必要だとは盲点だったが、教科書も含めて全てを買い揃えて、遂に巧は小学校の入学式の日を迎える。
 桜の花弁が舞い散る中を、小学校に向かって巧と僕、そして母親役のアニスが歩く。
 桐生家の子息である巧は、本来は名家の子息らが通う私立の学校に行くべきなのかも知れないが、僕と巧は話し合い、家から近い公立を選んだ。
 巧は幼稚園に通っていなかった為、既にグループの出来ている公立の学校に通う事への不安は多少あるが、家柄が物を言う環境に巧を送り込むのは僕が嫌だった。
 もし何れはそう言った名門に通う必要があるにしても、もう少し色々と物事がわかってからの方が良いだろう。
 人脈だろうが何だろうが、多少の出遅れは僕や配下の悪魔がその気になれば簡単に取り返せるのだから、今は自由にのびのびと過ごせば良い。
 
 そんな事を考えながら、巧と手を繋いで歩いていた僕は、けれども小学校の校門をくぐった瞬間、心臓を鷲掴みにされたかの様な衝撃を受ける。
 僕の目を奪ったのは、僕等より前を、僕と巧がそうしている様に母親と手を繋いで歩く、一人の女児。
 恐らくは巧と同じ、この学校に新しく入学する児童なのだろうが、……そんな事があり得る筈は無かった。

 何故?

 頭の中を疑問が駆け巡る。
 彼方は、母親も女児も僕の方は振り返らずに、手続きを済ませて会場である体育館へと歩いて行く。
「レプト、どうしたの?」
 ……思わず、足を止めてたらしい。
 巧が手を引き、僕の顔を心配そうに見上げている。
『なんでもないよ、大丈夫』
 そう言おうとして口を開くが、声は喉に貼り付いて口から出なかった。
 何とか笑みだけを作り、巧に向かって頷く。

「巧君、あそこでね、今日から此処の学校に通いますって挨拶するの。私と一緒に行きましょうか」
 そんな僕の様子を見かねたのか、間に入ってくれたのはアニス。
 受付の方を指さしながら、逆の手を巧に向かって差し出す。
 本当に助かる。
 巧は此方を見上げるが、僕は笑顔で頷き、巧の手を離した。
 

 二人が学校職員の方に向かっていくのを見送ってから、僕は大きく息を吐く。
 まさか此の世界で此処まで動揺する事になるとは思わなかったが、……でも今でもまだ信じられない。
 そんな事はあり得ない筈なのだ。
 だって僕がさっき見た女児は、姿形こそ変わっていたが、間違いなくイーシャの生まれ変わりだったから。
 僕は胸に手を当てる。
 こんな事は偶然ではあり得ない。
 グラモンさんの生まれ変わりである巧が居る世界と時代に、同じくイーシャの生まれ変わりが同世代で居るなんて。

 だったら此れは必然だった。
 誰かが仕組んで、そうしたのだ。
 その相手は、当然僕の事も知ってるのだろう。
 グラモンさんとイーシャの共通点は、僕を召喚したって以外には無いのだから。

 こんな真似が出来るのは神性か天使か、或いは僕と同じ悪魔かだ。
 其れも生まれ変わりを操作出来るなら、そう言った特殊な力を持つ、かなり高位の存在の筈。
 多分其れは悪魔で、イーシャは其れと契約したのだろう。
 生まれ変わりを操作して、イーシャが何を望むのか……、此れは自惚れでは無く、僕との再会に違いない。
 そして対価は、その悪魔に魂を取られる。

 ……クソの様な、展開だ。

 僕の胸を嫉妬と怒りが焼き焦がす。
 これ程に怒りを感じた事は、僕自身覚えが無い。


 あの時、イーシャとの別れの際、「もう悪魔召喚なんてしちゃダメだよ」って言った僕に、彼女は「嫌よ」と答えた。
 そしてイーシャはこうも言った。
「私、次は偶然じゃ無く実力でレプトを呼んで、それで絶対に逃げられない契約で縛るわ」
 其れは果たされなかった約束だ。
 本当は少し其れを楽しみにしてたけど、果たされないなら果たされないで良かったのに。
 時間が流れ、僕はイーシャはあの世界で幸せになって、悪魔召喚なんて馬鹿な真似は忘れたんだろうと思ってたから。

 でも実際は、イーシャは僕じゃ無くて別の悪魔を呼び出した。
 偶然なのか、僕に辿り着けなかったから仕方なくなのか、或いは悪魔を召喚し切れる実力を身に付けたのが年老いてからで、僕にその姿を見られたくなかったのか……。
 どうしてなのかはわからない。
 だが大事な事は、僕以外の悪魔が彼女に触った事だ。
 例えイーシャが自分から呼び出して願ったのだとしても、決して許せなかった。 
 イーシャは僕の召喚主だったのだ。理屈じゃ無く、彼女は僕のだ。
 何を勝手に薄汚い手で其れに触っている。何を考えて僕以外を呼び出してその魂を触らせた。


 胸を焼く炎が、口から零れそうである。
 調べよう。敵を。イーシャと敵の契約を。其れをぶち壊す術を。
 恐らく敵は、敢えて今日、イーシャの姿を僕に見せたのだろう。
 何時か来る、イーシャと僕の再会を演出する為に、或いは僕を苦悩させて楽しむ為に。
 相手は僕を侮っているのだ。

 けれども同時に、其れが故に僕は時間の猶予を得た。
 

 この報いは必ず。
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