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第六章『悪役令嬢』
75(本編最終話) 掴んだ幸せ
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隣国が突然の大嵐に見舞われて侵攻諦めていた頃、貴族軍は民衆の手により王都内へと招き入れられ、王城へと攻め込む。
アストリア王子と王妃は罪人として捕らえられ、国王は牢より解放されたが、彼は妻と子と共に罪人として裁かれる事を選ぶ。
流石に素直に降伏しようとして牢に入れられた国王に対して処刑の処分は行えず、彼等は僻地の修道院で残りの一生を過ごす処分となる。
彼の国王は国は守らなかったが、其れでも妻と息子は最後まで守ろうとしたのだ。
貴族等の満場一致で、次の王にはサーレイム公爵が選ばれた。
彼にとってはちっとも嬉しくなかろうが、其れでもこの現状で他に国の舵取りを行える人物は居ない。
するとサーレイム公爵の息子、アスターテの兄は自然と国の跡取りに昇格し、公爵家を継げる者が居なくなる。
其処で異例の事ではあるけれど、今回の戦いで、美しさと見識と、何より其の心根で注目を浴びたアスターテが女公爵としてサーレイム公爵領を継ぐ事に決まった。
隣国軍が動き、貴族軍が動揺した際に、必ず隣国軍は撤退するから信じて欲しいと説いて回り、其れが現実となった働きは非常に大きかったそうだ。
其れから二年後、アスターテはなれぬ領地経営に苦労しながらも、何とか女公爵として民の心を掴み、己の領地を発展させ続けている。
そして彼女はこの度、二年の間ずっと慣れぬ領地経営を、彼女の傍で支え続けた部下の男性との結婚が決まった。
アスターテ、否、サーレイム女公爵と誼を結びたい他の貴族からの婚約の申し出は数多くあったが、公爵家を完全に掌握し、自分で相手を見付ける自由を得た彼女は、自らを支えてくれる相手を選んだ。
隣国軍を追い返して以降、一度もアスターテの前に姿を現す事無く、彼女を見守り続けた僕は、この結果に非常に満足している。
僕がアスターテの前に姿を現さなかった理由は、勿論彼女の幸せの為以外に他ならない。
アスターテが自分で幸せを掴む力を得た以上、頼る相手として僕は非常に不適切だった。
だからこそ、僕は遠くから彼女を見守ったのだ。
まあ時折、アスターテとの婚約を何としてでも成立させようと罠を張った貴族を叩き潰したりはしたけれど。
でも其れも今日までだ。
明日、アスターテは結婚するし、僕もそろそろ魔界へ帰る。
結婚式の前夜、アスターテはバルコニーで月を見上げていた。
この二年で更に美しさを増した彼女を、僕が最後に見治めていると、けれども不意にアスターテは、
「ねぇレプトさん、いらっしゃるんでしょう? 姿を見せて下さいませんか」
僕に向かって呼びかける。
勿論僕は出て行かない。彼女は既に幸せを掴んだ。
此れ以上は蛇足だろう。
しばらく待ったアスターテは、少し寂し気に顔を歪めて、首を振る。
「私はきっと、貴方に会えなければあの場所で終わって居ましたわ。出て来た悪魔がレプトさんでなければ、私は不幸だと嘆いたままに自分を投げ捨てていたでしょう。貴方に会えて本当に良かった」
ありがとうと、アスターテは言う。
幸せになれると言ってくれてありがとう。美味しいご飯を食べさせてくれてありがとう。
民の気持ちを教えてくれて、知らぬ世界を教えてくれて、考え方を教えてくれて、ありがとう。
アスターテは一つずつ、ありがとうを並べて行く。
「何よりも、幸せの見つけ方を教えて下さって、ありがとうございました。私は、今幸せですわ」
溜息が零れる。
全く持って、アスターテはズルくなった。
こっちが返事をしないと知って、言いたい放題に言ってくれて。
返事を出来ない事が辛くなるじゃないか。
僕は姿を消したままで、指を一つ鳴らす。
するとアスターテの首元に光が集まって、光は首飾りとなって、彼女の胸元で輝いた。
悪魔としての活動で得た対価では無く、訪れた先の世界で気に入って購入した、僕のコレクションの一つだ。
少しだけ力を込めて護符にしたから、きっとアスターテを守ってくれる。
さあ、もう行くとしよう。
此れ以上此処に居たら、何を聞かされるかわかった物じゃない。
幸せになった人間には、悪魔との契約なんて必要じゃないのだから。
僕の用事は終わったのだ。
「おかえり、レプト。遅かったね。アニスとイリスがそろそろ探しに行くって騒いでたよ」
魔界へと帰還した僕を出迎えてくれたのは高位悪魔のグレイ。
イリスも高位悪魔だが、彼等は要するに、グラモンさんこと巧がグレイで、イーシャこといろはがイリスだ。
まあそんな事はどうでも良くて、僕はグレイの言葉に顔を顰める。
自分一人でのんびり仕事をしたいから誰も呼ばなかったのに、向こうから探しに来てどうするんだろう。
「後で顔見せて置いてあげてよね。じゃなきゃ僕が色々言われるんだからさ。あ、それとまた今回得た魂で僕の配下を作って欲しいんだ」
グレイの差し出す魂は、また女性の物だった。
一体これで何人目だろう。
彼の配下は全員が女悪魔で、しかも全員が魂を差し出す時点で、グレイに対しての好意を持って悪魔になる道を選んでる。
またかよって僕の視線を受けて、グレイはにっこりと微笑む。
「育ての父に似たんだよ」
なんて風に言うけれど、彼は一体誰に育てられたんだろうか。
是非とも苦情を言いたい所だ。
「あら、レプト君おかえりなさい」
「あ、やっと帰って来た! ねぇレプト、お土産は?」
フッとその場に湧いて出た、二人の女悪魔、アニスとイリスが僕の両側から左右の腕を取る。
向こうからはベラと、その背に乗ったピスカも出迎えに来てくれていて、更にその向こうではヴィラが恭しく胸に手を当てて一礼していた。
病院のベッドで死にかけて、悪魔になって初めて魔界に来た時は独りぼっちだったけど、今ではこの魔界も随分と賑やかだ。
次の召喚が掛かるまで、彼等とのんびり、今回の思い出話をしながら過ごすとしよう。
アスターテが自分で幸せを掴んだように、彼等は、僕がこの手で掴んだ幸せなのだから。
アストリア王子と王妃は罪人として捕らえられ、国王は牢より解放されたが、彼は妻と子と共に罪人として裁かれる事を選ぶ。
流石に素直に降伏しようとして牢に入れられた国王に対して処刑の処分は行えず、彼等は僻地の修道院で残りの一生を過ごす処分となる。
彼の国王は国は守らなかったが、其れでも妻と息子は最後まで守ろうとしたのだ。
貴族等の満場一致で、次の王にはサーレイム公爵が選ばれた。
彼にとってはちっとも嬉しくなかろうが、其れでもこの現状で他に国の舵取りを行える人物は居ない。
するとサーレイム公爵の息子、アスターテの兄は自然と国の跡取りに昇格し、公爵家を継げる者が居なくなる。
其処で異例の事ではあるけれど、今回の戦いで、美しさと見識と、何より其の心根で注目を浴びたアスターテが女公爵としてサーレイム公爵領を継ぐ事に決まった。
隣国軍が動き、貴族軍が動揺した際に、必ず隣国軍は撤退するから信じて欲しいと説いて回り、其れが現実となった働きは非常に大きかったそうだ。
其れから二年後、アスターテはなれぬ領地経営に苦労しながらも、何とか女公爵として民の心を掴み、己の領地を発展させ続けている。
そして彼女はこの度、二年の間ずっと慣れぬ領地経営を、彼女の傍で支え続けた部下の男性との結婚が決まった。
アスターテ、否、サーレイム女公爵と誼を結びたい他の貴族からの婚約の申し出は数多くあったが、公爵家を完全に掌握し、自分で相手を見付ける自由を得た彼女は、自らを支えてくれる相手を選んだ。
隣国軍を追い返して以降、一度もアスターテの前に姿を現す事無く、彼女を見守り続けた僕は、この結果に非常に満足している。
僕がアスターテの前に姿を現さなかった理由は、勿論彼女の幸せの為以外に他ならない。
アスターテが自分で幸せを掴む力を得た以上、頼る相手として僕は非常に不適切だった。
だからこそ、僕は遠くから彼女を見守ったのだ。
まあ時折、アスターテとの婚約を何としてでも成立させようと罠を張った貴族を叩き潰したりはしたけれど。
でも其れも今日までだ。
明日、アスターテは結婚するし、僕もそろそろ魔界へ帰る。
結婚式の前夜、アスターテはバルコニーで月を見上げていた。
この二年で更に美しさを増した彼女を、僕が最後に見治めていると、けれども不意にアスターテは、
「ねぇレプトさん、いらっしゃるんでしょう? 姿を見せて下さいませんか」
僕に向かって呼びかける。
勿論僕は出て行かない。彼女は既に幸せを掴んだ。
此れ以上は蛇足だろう。
しばらく待ったアスターテは、少し寂し気に顔を歪めて、首を振る。
「私はきっと、貴方に会えなければあの場所で終わって居ましたわ。出て来た悪魔がレプトさんでなければ、私は不幸だと嘆いたままに自分を投げ捨てていたでしょう。貴方に会えて本当に良かった」
ありがとうと、アスターテは言う。
幸せになれると言ってくれてありがとう。美味しいご飯を食べさせてくれてありがとう。
民の気持ちを教えてくれて、知らぬ世界を教えてくれて、考え方を教えてくれて、ありがとう。
アスターテは一つずつ、ありがとうを並べて行く。
「何よりも、幸せの見つけ方を教えて下さって、ありがとうございました。私は、今幸せですわ」
溜息が零れる。
全く持って、アスターテはズルくなった。
こっちが返事をしないと知って、言いたい放題に言ってくれて。
返事を出来ない事が辛くなるじゃないか。
僕は姿を消したままで、指を一つ鳴らす。
するとアスターテの首元に光が集まって、光は首飾りとなって、彼女の胸元で輝いた。
悪魔としての活動で得た対価では無く、訪れた先の世界で気に入って購入した、僕のコレクションの一つだ。
少しだけ力を込めて護符にしたから、きっとアスターテを守ってくれる。
さあ、もう行くとしよう。
此れ以上此処に居たら、何を聞かされるかわかった物じゃない。
幸せになった人間には、悪魔との契約なんて必要じゃないのだから。
僕の用事は終わったのだ。
「おかえり、レプト。遅かったね。アニスとイリスがそろそろ探しに行くって騒いでたよ」
魔界へと帰還した僕を出迎えてくれたのは高位悪魔のグレイ。
イリスも高位悪魔だが、彼等は要するに、グラモンさんこと巧がグレイで、イーシャこといろはがイリスだ。
まあそんな事はどうでも良くて、僕はグレイの言葉に顔を顰める。
自分一人でのんびり仕事をしたいから誰も呼ばなかったのに、向こうから探しに来てどうするんだろう。
「後で顔見せて置いてあげてよね。じゃなきゃ僕が色々言われるんだからさ。あ、それとまた今回得た魂で僕の配下を作って欲しいんだ」
グレイの差し出す魂は、また女性の物だった。
一体これで何人目だろう。
彼の配下は全員が女悪魔で、しかも全員が魂を差し出す時点で、グレイに対しての好意を持って悪魔になる道を選んでる。
またかよって僕の視線を受けて、グレイはにっこりと微笑む。
「育ての父に似たんだよ」
なんて風に言うけれど、彼は一体誰に育てられたんだろうか。
是非とも苦情を言いたい所だ。
「あら、レプト君おかえりなさい」
「あ、やっと帰って来た! ねぇレプト、お土産は?」
フッとその場に湧いて出た、二人の女悪魔、アニスとイリスが僕の両側から左右の腕を取る。
向こうからはベラと、その背に乗ったピスカも出迎えに来てくれていて、更にその向こうではヴィラが恭しく胸に手を当てて一礼していた。
病院のベッドで死にかけて、悪魔になって初めて魔界に来た時は独りぼっちだったけど、今ではこの魔界も随分と賑やかだ。
次の召喚が掛かるまで、彼等とのんびり、今回の思い出話をしながら過ごすとしよう。
アスターテが自分で幸せを掴んだように、彼等は、僕がこの手で掴んだ幸せなのだから。
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