転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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第七章『背信の黒将』

81 悪魔の模擬戦はトドメまで

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 僕がアウネリアへ行う指導は、基本的には魔術に対する其れと大きくは変わらない。
 ただ生神力を扱う彼女に魔術知識は不要なので、メインは瞑想を始めとする精神力の強化だ。
 だが今回は期間が限られている事や、アウネリア自身が既に大人として成長してる、つまりはある程度完成されてしまってる等も考慮し、特別なメニューも組み込む必要があった。
 具体的には魔法で彼女の精神に負荷を掛け、出来上がっている器を押し広げて行く修行だ。
 当然安全な修行とは言えないが、其れでも僕が管理する以上は決して事故は起こさない。

 目指す目標がガユルス将軍打倒である為、精神だけでなく生命力、つまりは肉体の訓練も並行して行う。
 そして更に大事な事が、アウネリアが生神力の扱いにもっと慣れる事だった。
「生神力は特別な力ですからみだりに使う訳には……」
 何て風にアウネリアは言ってたが、そんな建前は今は要らないのだ。
 似たような台詞は別の誰かから以前も聞いた覚えがある。
 力に溺れない心構えとしては大事な事だが、力を磨くって目的の前には不要な考だろう。

 そもそも魔術であれ生神力であれ、力とは、目的を果たす為の単なる道具に過ぎなかった。
 勿論人によっては生きがいだったり、趣味だったりする場合もあるけれど、本質的には何かを成し遂げる為の手段なのだ。
 故にそんな心構えは今は捨て、目的を達成した後にもう一度拾い直せば良い。

 だから僕は心を鬼にして、魔法で出した鉄球を生神力でお手玉するアウネリアに、更に追加の鉄球を一個放る。
 アウネリアは必死に五個の鉄球を中空で回転させながら、彼女自身も腹筋等の筋力トレーニングを行う。
 結構厳しい修練を行わせているけれど、アウネリアが本当にガユルス将軍に勝ちたいと願うなら、この程度の負荷は未だ序の口に過ぎなかった。
 もっともっと強い力を精密に扱える様にならねばならないし、尚且つ感応の力も磨かねばならない。

 感応の力の修行に関しては、僕との模擬戦でもして貰おうと思ってる。
 勿論僕はアウネリアと同程度の実力に調整を行うが、その上で彼女には目隠しをさせるのだ。
 アウネリアも最初は全く何も出来ないだろうが、生神力を感応にも利用出来るようにさえなれば、対等に戦えるようになる。
 もしそうならなければ、残念ながら彼女をガユルス将軍と戦わせる訳には行かない。
 半年間一緒に過ごした相手を、無駄死にするとわかって戦いに送り出せる程、僕は強くも無いし、情が薄い訳でも無いから。

 アウネリアに此の部屋を覆う力を打ち破らせた後は、僕が全ての決着を付ける事になるだろう。
 ……が、恐らく大丈夫だろうとの確信はある。
 トレーニングなんて縁遠かったであろう皇女の彼女が、ドレスを脱いで僕の出したトレーニングウェアに着替え、歯を食いしばりながら励む姿を見ていれば、自然にそう思えた。
 まあ其れでも厳しそうなら、彼女が戦う前に、僕が魔法でガユルス将軍の手足の一本か二本を吹き飛ばしておけば良い。
 多分きっと、其れ位なら応援の範疇に入ると思うし。



 アウネリアとの模擬戦の際は、僕も生神力を使用して彼女と対等の条件で戦う。
 ……実の所、僕はアウネリアの用いる生神力の観察と、彼女が其れを成す原動力である血の解析により、生神力の発動に至っていた。
 悪魔である僕は、人間と同じ土俵に立ってないので生命力って概念が無い。
 だから本来ならば如何足掻いても生神力は使用出来ないのだけれど、アウネリアから捧げ物として受け取った髪で生命力の器を作り、其処に等量の精神力を切り離して混ぜ合わせれば、生神力を発動させる為だけの器官が生まれる。
 僕の胸元にめり込んで輝く銀色の石がその器官だが、此れに干渉すれば、自在に生神力を操る事が出来るのだ。
 アウネリアのモチベーションを下げない為にも言う心算は無いが、多分もう、僕だけでも此の部屋を覆う囲い位は壊せるだろう。
 まあ大体の事は魔法を使った方が早いので、此の力には同じ生神力の使い手に対抗する以外の使い道を、僕は見いだせないのだけれども。

 目隠しをしたアウネリアと、同じく目隠しをした僕が相対する。
 互いの手には生神力を用いて生み出した力場の剣。
 此の剣と体術、生神力のみを用いて模擬戦を行う。
 因みに模擬戦とは言ったけど、目隠しをして剣を振り回し合うので、寸止めなんて優しい行為は行われない。
 致命傷になると思われる一撃を相手に叩き込めば、其処で模擬戦は終了だ。

 双方が構えを取れば、何方からともなく自然と斬り合いが開始された。
 アウネリアの剣を僕が受け止め、動きを止めた彼女の頭部を、横から生神力で殴り付ける。
 だがアウネリアは咄嗟に其れを察し、身体を低く沈めるとその勢いで僕の足を剣で払う。
 咄嗟に飛んで回避した僕だが、どうやら其れは悪手だったらしい。
 ガシリとまるで身体を鷲掴みにされたかの様に、僕の身体がアウネリアの生神力で宙に固定された。

 トドメとばかりに僕の胸に向かって突きを放つアウネリアだが、けれども其れは甘いと言わせて貰おう。
 突きを放つ事に意識が傾いたからか、僕の身体を拘束する力がほんの僅かに緩む。
 其処に隙を見出した僕は、右足のみに生神力を集中して拘束を振り解き、彼女の顎を蹴り上げる。
 アウネリアの意識が一瞬飛んだ為、僕の拘束が解けて戦いは振出しに戻った。
 否、先程の蹴りのダメージがある分、僅かに僕が有利だろうか?


 悪魔の僕はこの魔力を帯びない生神力って力ではダメージを受けないし、例えアウネリアが致命傷を負っても僕が瞬時に魔法で癒す。
 僕は兎も角、勿論アウネリアは痛みを感じるので、致命傷を負う事には恐怖はあるみたいだが、けれども彼女は其れすらも糧に精神力を鍛えて強さを増して行く。
 自分の身体を動かしての戦闘を苦手とする僕が、そんな彼女と対等に切り結べるのには理由がある。
 僕はこの生神力の物理に干渉する力で、自身の身体を動かしているのだ。
 相手の攻撃への反応も、生神力の感応の力で行っていた。

 言うなれば、俯瞰した視点から見下ろし、僕と言うキャラを使って超複雑な格闘ゲームを行っている様な感じだろうか。
 そして多分、この生神力の使い手同士の戦いは、そうやって俯瞰視点から見下ろして行うのが正しいのだろうとも確信がある。
 何故なら其れを行える僕が、まだ自身の感覚で戦ってるアウネリアに対し、力の総量を同じにしても常に勝利を納めているから。
 まあさっきはちょっと危なかったけれど、取り敢えず未だに僕に敗北は無い。
 でも多分、何れは彼女も同じ領域に踏み込んでは来るだろう。
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