転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥

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オマケの章2

84 蠢く災厄と、重しの悪魔王

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 不毛の荒野が何処までも続き、乾いた風が吹いている。
 空は薄暗く、極め付けには至る所に、人、獣、鳥、魔物、竜等、種類を問わずに骨が山と積まれていた。
 風に揺れてそうなるのか、カタカタカタと骨の鳴る音が響く。
 そしてそんな場所で、頭部は立派な角の生えた頭骨で、身体も非常に多くの骨が組み合わさって出来ている、三メートル程の身長の巨漢の悪魔は、
「ようこそ、暴虐の。我が魔界は如何でしょうか」
 僕に向かって丁寧に一礼をした。

 彼の名前は死の大公バルザー。
 悪魔の最大勢力であるグラーゼンの同盟に属する悪魔王の中で、No.5の序列に位置する大悪魔だ。
 因みに僕はNo.2の序列となってるけれども、悪魔軍の規模は四十四の軍団を率いるバルザーの方が上である。
 そんな彼の魔界は、まあ正直に言って、
「うん、凄い趣味が悪いよね」
 とても過ごし易い場所とは言えなかった。
 悪魔としては普通なのかも知れないけれど、少なくとも僕は住みたいとは思わない。

「かはは、でありましょうな。我は趣があると思うのですが、理解された事はありませぬ」
 けれども僕の失礼な言葉も、バルザーは呵々と笑い飛ばす。
 彼位の大物になると揺らがぬ自分を持っているので、この程度の失礼は気にも留めないのだ。
 バルザーの物言いに、僕の口元にも笑みが浮かぶ。

 悪魔の最大勢力であるグラーゼンの同盟に属する悪魔王の数は今は十二。
 以前はもう少しいたのだけれど裏切りを画策してたので、僕が不意打ちで消し飛ばして今の数に落ち着いた。
 それ以来、僕は他の悪魔王から暴虐の王と呼ばれているのだけれど、似合わない仇名だなあとは思わなくもない。
 でも其れを否定すると、もう一つの候補であった色欲って方が採用されかねないので、僕は暴虐と言う呼び方を甘んじて受け入れている。
 色欲って名前が付き掛けたのは、僕の陣営に属する悪魔の殆どが女悪魔ばかりだからだ。
 しかし積極的に女悪魔を増やしてるのはグレイなので、本当に色欲と呼ばれるべきは彼だろうと思う。

 まあそんな事はさて置き、今日僕がバルザーの魔界を訪れているのには訳がある。
 死の大公と呼ばれるバルザーは、グラーゼン曰く、今同盟に属する十二の悪魔王の中でも、僕に次いで変わり者の悪魔らしい。
 其処で何で僕の名前を出すのかはさっぱり理解不能だが、少し話を聞いただけで、彼が変わり者である事は理解出来た。
 例えば死の大公が擁する四十四の軍団だが、其れを構成する配下の悪魔は、全てバルザーが己自身を割いて生み出している。
 僕の配下が、対価として得た魂や、或いは召喚獣等を直接悪魔に転化させているのとは、丁度真逆と言えるだろう。

 バルザーの配下の悪魔は、兵種ごとに完全に決まった姿を持ち、全ての軍団が寸分の狂い無く彼の手足となって動く。
 その強さは言うまでも無く、バルザーは戦争特化の悪魔王とすら言われていた。
 何でも彼の事を、冥府の軍神として崇める世界が幾つもあるらしい。



 僕はバルザーに案内されるままに彼の魔界を進み、
「さて、此処ですな。酷い物でしょう?」
 漸く今日の目的地へと辿り着く。
 バルザーが変わり者とされるのは、軍団の構成以外にも、もう一つとても大きな理由がある。
 その理由とは、悪魔ですら誰もが疎んで遠ざけたがる存在を、バルザーが己の魔界を覆い被せて封印している事だった。
 
 バルザーの魔界の裂け目から覗くのは、悪魔王となった僕でも俄かには理解し難き光景。
 流体の何かが延々と互いを喰らい合って一つになり、また分裂しては喰らい合う、単一にして無数の存在である其れのみで構成された世界だ。
 嘗て他の次元から流れ着いた概念体が、とある世界を飲み込んで融合し、この様な姿となったらしい。
 放っておけば他の世界にも浸食し、飲み込んで己を増やそうとする此れを、バルザーは己の魔界で封印している。
 しかし其れでも、時折この流体が身を捩って飛ばす一欠けらが、別の小さな世界の裂け目を越えて他の世界に流れ着くケースがあると言う。
 大抵の場合はその世界の竜や神性等が対処するけれど、発見が遅くて後手に回った場合は、悪魔王が数人掛りで其の世界ごと消し飛ばした事すらあるそうだ。

「こんな物と隣り合わせに住んでると嫁の来手もありませんでな。いやはやレプト殿が羨ましい」
 なんて風にバルザーはおどけて言うが、成る程、確かにこんな物が傍に在る魔界では、得た魂から配下を作るのも難しい筈だ。
 並の精神ではこんな物を見ながら過ごせば確実に壊れる。
 壊れるだけなら兎も角、飲み込まれて封印の向こうに飛び込まれでもしたら、其れこそ厄介な出来事が起きるだろう。

 勿論こんな物が傍に在るので、バルザーの魔界は他の悪魔王から攻められ難いと言うメリットが無い訳では無い。
 だがそんなメリットなんて消し飛ぶ位に、封印の向こうの存在は醜悪だった。
「奥さんが出来たらうちの魔界に別邸を造るから、バルザーは其処から通えば良いよ」
 バルザーの軽口に、僕は敢えて真面目に応じる。
 彼がこれ程の負債を敢えて抱えているなら、僕だって自分の魔界に他の悪魔王を住まわす位のリスクは負っても構わない。
 角の生えた頭骨であるバルザーの表情は読み難いが、彼は僕の言葉に少し驚いた風だった。

「成る程、では我も伴侶探しを頑張らねばなりませぬな。それではレプト殿、そろそろ頼みます」
 何処か楽し気に、バルザーは此方に向かって頭を下げる。
 彼がグラーゼンの同盟に加わる条件として、同盟に所属する悪魔王が、この流体に対する封印の強化に力を貸すと言う物があった。
 僕は頷き、自分の魔界からヴィラを呼ぶ。
 バルザーと話し、此れを見た以上は、出し惜しみをする心算はサラサラない。

「ヴィラ、封印の強化と彼方側に在る世界の裂け目の補修を行う。サーチと解析の補助をお願い。でもあの意味不明な存在は解析しちゃダメだよ」
 僕も人間をやめて大分経つけど、其れでも長時間アレを眺め続けるのは多分心に良くないだろう。
 ロジカルに物を考えるヴィラなら尚更に、理解不能な物には触れるべきではなかった。
 作業スペースの確保の為に、僕は封印越しに砲撃魔法を打ち込んで消滅させ、謎の流体の体積を減らす。
 完全に欠片も残さずに消滅させるには、悪魔王の基準でも考えても現実的で無い膨大なエネルギーが必要となるが、多少の体積を削る位は容易である。

 僕が流体を叩き続ける間にヴィラが周辺空間と封印の解析をし、リンクした僕から力を引き出して小さな空間の裂け目の修復も終えた。
 バルザーが「ほぅ」と感心したかの様な溜息を漏らす。
 其れは僕の攻撃の威力に対してか、其れともヴィラの手際に対してか。
 勿論後者だったとしても、ヴィラは絶対にあげないけれど。
 後は封印を強化すれば、今日の仕事は終了だ。
 サッサと強化を終えてその後は、バルザーを僕の魔界に招いてお茶でもしよう。
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