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オマケの章3

96 人材派遣始めました

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「異世界への派遣、ですか?」
 僕の言葉に、意図を掴みかねると言った具合に首を傾げながら問い返したのは、年若い人間の少女、一色・紗英。
 彼女の他にも、僕の前には渡瀬・岳哉に柳・仁之と言った二人の少年も立っていた。
 この三人は全員が、僕が自分の魔界に拵えた、通常の生命が生存、活動できる領域、実験区域の環境を気に入って居住を決めた、物好きな人間達だ。
 彼等以外にも実験区域に住む人間は居るのだけれど、その中でも特に優秀だと思われる三人を選び、僕は今回の話を持ち掛けて居る。

「そうだよ。君達は異世界に興味があって此処に来たでしょう? だから実験区域で店の店員をしてるだけってのもつまらないかなと思ってね。仕事の需要を調べて見たんだ」
 すると意外と力を持った人間を雇える方が有り難いって話は幾つかあった。
 例えば突出してしまった力を持つが故に、パーティを組まずに一人で旅をする勇者の行く末を心配する神性からは、
『異世界の人間だったら勇者と組んで貰ってもその後に争いの火種とならないし、寧ろ悪魔の力を直接借りるよりも有り難い。出来る限り早急に頼む』
 なんて言葉を戴いた位だ。

 勿論勇者とパーティを組むなんてのは、其れなり以上に危険を伴う話である。
 だから当然強制はしない。
 だが彼等にはスキルと称する異能の力を付与した魔法の道具を与えてあるし、もし三人がこの話を引き受けるなら、僕や配下の高位悪魔達が直接に戦闘訓練を付ける心算だった。
 勇者を心配する神性には、準備期間として一年は必要だと伝えているから、その間は勇者も修行期間を取るそうだ。
 スキルって力を込みで考えたなら、一年あれば充分に戦力となる人材に育つだろう。 
 そして彼等が成功すれば、同様の話は他の滞在者にも持ち掛ける心算である。


「……えっと、勇者さんはどのような方なのでしょう?」
 条件を聞いて心惹かれてる様子は見せながらも、躊躇いがちに紗英が問う。
 成る程、確かに共に旅をするともなれば、其処は気になる所の筈だ。
 ええっと、確か……。
「名前はシャンナ、性別女、年齢16歳。11歳の時に故郷を魔物に滅ぼされた際に勇者の力に覚醒するも……」
「行きます。すぐに行きます! 行くよね? ガックン、トシクン」
 僕の言葉を遮って、紗英は喰い気味に了承して来る。
 いや、あの、すぐは無理だよ?

「勿論オレも行くよ。そんな子が一人で旅してるなんて、ほっとける訳ない」
 力強く頷く、ガックンこと岳哉。
 いや、だから、すぐには無理なんだけどね。
 思った以上に乗り気な彼等に驚く。

 しかし其処で、まるで僕の気持ちを察してくれたかの様に、トシクンこと仁之が二人を抑えに回ってくれた。
「当然、NOとは言いませんけどね、其方の悪魔の王が仰る通りに、ちゃんと訓練を受けてからって条件が付きます。二人とも、素人が駆け付けた所で足を引っ張るだけですよ」
 どうやらトシクンは、人の話が聞ける良い子の様だ。
 僕の現在の好感度は、ちゃんと話を聞いてくれる仁之が断トツで高い。
 岳哉は仁之の言葉に納得した様だが、紗英は少し不満げに頬を膨らませる。
 三人とも優しい子の様だが、どうやら紗英は特に件の勇者、シャンナに同情している様子だった。

「うん、君達が乗り気で嬉しいよ。でも仁之君の言う通り、直ぐってのはダメだね。危険のある仕事を斡旋して置いてなんだけれども、君達は僕の魔界の住人なんだから、安易に死なれたら哀しいからね」
 僕の魔界の住人となったのだから、配下の悪魔達と同じく、出来る限り幸せに生きて欲しいのだ。
 と言うか、其の為に態々好みそうな仕事を探して来たのだから、簡単に死なれては本末転倒である。
 重ねた僕の言葉に、紗英も漸く納得したのだろう。
「わかりました。悪魔の王様、お願いします。あたし達が少しでも早くシャンナちゃんを助けに行ける様に、鍛えて下さい!」
 彼女の言葉に、僕は笑みを浮かべて頷いた。


 当然ながら、勇者の旅に同行するには、人間としてはとても高い水準の実力が必要となる。
 スキルの力があっても、更にそれを扱う才覚があったとしても、その水準の実力を手に入れるのは並大抵の事では無い。
 しかも彼等は少しでも早くって注文を付けて来た。
 紗英、岳哉、仁之の三人は既に一度は魔物を倒しており、完全にズブの素人とは言わないが、スポーツで無い戦闘の訓練を受けた事は恐らく無いだろう。
 死ぬ恐怖、殺す恐怖、痛みへの恐怖に、慣れ、打ち勝って貰う必要がある。

 心優しい彼等だけに、特に殺す事への恐怖は強い。
 三ヶ月程の間はベラに追いかけ回されながらの体力作りや、ヴィラの指導の下にスキルの使用精度を増す訓練に集中させたが、その後は定期的に綺麗ごとが通じない過去の世界を僕が疑似再現して纏めて、或いは個別に放り込む。
 纏めて放り込んだのは、支え合う為と、優しいだけじゃ隣に立つ仲間を失うって事を理解させる為で、個別は例え一人でも立ち続ける強さを養う為だ。
 精神的なケアはイリスやグレイの他、女悪魔達や、モーラス老を始めとする実験区域の生き物達が行ってくれる。
 その御蔭だろうか。
 紗英、岳哉、仁之の三人は、其の身に戦士としての風格を纏いながらも、其れでも彼等は彼等のままに磨かれた。

 因みに他の実験区域に滞在する人間達は、彼等から其の訓練内容を聞いて少し怯えた様だったが、……まあ僕だって急ぎって条件が無ければそんなギリギリの訓練を課したりはしない。
 強い目的が無ければ乗り越えられないような訓練を無差別に施した所で、壊れる者が増えるだけだ。

 そうして訓練開始から八ヶ月。
 僕としては驚きの早さだったが、紗英、岳哉、仁之の三人は、スキルの力込みとは言え、要求水準を越える実力を身に付けた。
 具体的には、単独でも下級悪魔に勝て、三人掛りでならば中級悪魔と対等に戦える位の力である。
 今現在、僕の目の前で中級悪魔であるファフリーと模擬戦を行う三人は、巧みな連携により、徐々にファフリーを追い詰めて行く。

 当然ファフリーは手を抜いたりなんてしていない。 
 彼女もまた実験区域に限定されるとは言え、共に同じ魔界で暮らす仲間である彼等をの身を案じて、心を砕いて接している。
 だからこそ少しでも長く訓練を施し、安全度を増してから送り出そうと、最終試練の役割を買って出たのがファフリーなのだ。
 そもそも人間として生きた頃から実力ある魔術師だったらしい彼女は、悪魔としての適正も高く、中級悪魔になるのも早かった。
 何れは高位悪魔まで登り詰めて来る器のファフリーは、今の段階でも中級悪魔としては強い部類に入るだろう。

 しかし、紗英の出した炎の檻が、積み重なったダメージに動きの鈍ったファフリーを捕らえて閉じ込める。
 咄嗟に力を解放し、無理矢理炎の檻を砕いたファフリーだったが、けれども其れは悪手だ。
 仁之の操る風に背中を押された岳哉が高速で距離を詰め、力を解放して隙の出来たファフリーの喉首に、剣の切っ先を突き付けた。
 模擬戦はファフリーの降参に終わり、固唾を飲んで見守っていた見物人、他の人間達や悪魔達から盛大な拍手と賛辞が贈られる。


 こうして紗英、岳哉、仁之の三人が、僕の魔界で初めての、悪魔では無い人間の派遣として、異世界の勇者の元へと赴く事が決定した。
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