102 / 129
第九章『僕と彼女』
102 十二歳
しおりを挟む王族である第二王子、父より偉い公爵、父と同格の侯爵。
父より爵位は下だけどやり手と噂の伯爵、父の派閥の子爵、どの派閥かも良くわからない男爵。
貴族等に囲まれて控え目に振る舞ってるけど、本性はずっと狡猾な豪商等々。
皆が侯爵である父と、正妻である母に挨拶に来て、でも今日は其れだけじゃ無くて僕にも挨拶をしてくれる。
何故なら今行われてるのは僕の十二歳の誕生日を祝うパーティであり、同時に貴族社会へのお披露目でもあるからだ。
家を継ぐ可能性が殆ど無い三男にも関わらず、こうしてパーティとお披露目をしてくれる両親は、僕に対しての愛情と、財力と権力の三つを持ち合わせてる人達だった。
因みに家を継ぐ予定の長兄、其の補佐に回る予定の次兄、二人の兄とも僕は割と仲が良い。
自分にとって都合の良い方を後継に据えさせようと、影で暗躍、暗闘していた家臣団や外部からの干渉を叩き潰して二人の仲を取り持ったりした事で、兄等は僕に恩義を感じているのだろう。
でも僕が一番可愛く思うのは、そう言ったゴタゴタとは全く無縁な、未だ七歳の妹だけれども。
そしてこの日は僕、ハスタネア侯爵家のマリアル・ハスタネアにとってもう一つ大事な、人生を左右するイベントが待っていた。
そう、貴族社会へのお披露目と同時に、婚約者の発表もなされるのだ。
一応何処の誰が婚約者なのかは僕も聞かされているけれど、会った事は一度も無い。
父も母も、僕に相応しい可愛らしく賢い御令嬢だから、一生かけて大事にしなさい何て言ってるけれど、人柄も知らない相手をそんな風に言われても返事に困る。
後其処で、僕には勿体ないじゃなくて相応しいって言う辺りが、うちの両親らしいなとも思った。
「守護の神ミケーヤの様に、其の方の人生をお守りしてみせます」
でも取り敢えずは無難そうな言葉をチョイスして返しておく。
僕は剣は兎も角、魔術に関しては大人も顔負けの実力を持っており、十五で入学する学院を卒業した後は宮廷魔術師になる事は確実だろうと言われているので、恐らく将来的には新しい貴族家を興すのも許されるし、実家の後押しだってあるだろう。
流石に侯爵家を継ぐ長兄程では無いけれど、其れなりに優良物件であるとの自負は持っている。
婚約者の実家は辺境伯爵家なので、或いは其方側の家臣団にお抱え魔術師として入るかも知れないが、どちらにせよ生活で苦労を掛けるなんて事は無い筈だ。
何せこの国では、強い力を持つ魔術師の立場は非常に強いから。
だから僕は自分の幸福な未来を、貴族の一員として国に奉仕する未来を、無邪気に信じていた。
彼女と、僕の婚約者である辺境伯爵令嬢、アーネ・ミルシェルスと出会うまでは。
そう、その日、婚約を発表する席で、僕が出会ったのは運命だった。
なんて格好を付けて言ってみても、起きた出来事は単に僕が転生前の記憶を取り戻しただけである。
記憶を取り戻した瞬間の僕は、さぞや間抜け面をしていただろう。
今の僕はマリアル・ハスタネアだけれども、その魂は悪魔王レプトの欠片より生み出された物。
要するに人間マリアルは、悪魔王レプトの化身だとか転生体だとかアヴァターラだとかに相当した。
そして其の記憶を取り戻したトリガーとなったのが、アーネ・ミルシェルスとの出会いだ。
僕と出会った時、同じ様に呆けた表情を浮かべたアーネも、当然単なる人間じゃない。
アーネも僕と同じ様に、超越的な不死存在、天使の王である聖天使の、別の言い方をするなら神の一人であるカリエラの欠片より生み出された魂を宿した者。
……婚約者が天使かぁ。
マリアルとしての僕は、婚約者がどんな相手なのか、内心結構期待してワクワクしていただけにその事実に少し凹む。
本当に、何が『守護の神ミケーヤの様に』だか。
そのミケーヤこそが、僕等の滅ぼさねばならない神性だと言うのに。
今は進化の眠りについてるミケーヤを滅ぼす為の化身である僕とアーネは、二人が出会う事で記憶が戻る様に魂に術式を刻んでいた。
勿論其れは敵であるミケーヤに、少しでも僕等の存在がばれる可能性を減らす為の細工である。
神や悪魔では殺せない相手を殺す為に、人間に転生するってのは割と大昔からあるオーソドックスな手段だ。
当然ミケーヤだって其れは予測し、対策を練っているだろう。
対策として一番確実なのは、化身が子供の間に殺す事だったから。
化身の二人が確実に出会える様には、相当に嫌がってはいたけれども、イリスに繋がりの力で縁を結ばせたのだ。
まあその結果が婚約者って立ち位置なのだから、自業自得としか言い様がない。
その後は僕もアーネも何事も無かったかの様に振る舞い、顔を合わせた婚約者に対しても、しらじらしく歯の浮く様な賛美を交わした。
パーティが終わってもすぐさま連絡を取り合う様な真似はせず、婚約者として互いの家を行き来しつつ機会を伺う。
実にじれったい話だが、もう少し歳を重ねて二人きりで会う事が許されるまでは、この茶番を続ける必要がある。
僕等の周囲の人間に、ミケーヤの使徒が混じって無いとは限らないから。
そうして一年後、十三歳になった頃、ハスタネア侯爵家の薔薇園で、漸く僕等は二人きりで会う機会を持てた。
0
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜
束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。
そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。
だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。
マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。
全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。
それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。
マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。
自由だ。
魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。
マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。
これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる