魔王は貯金で世界を変える

らる鳥

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24 もう一人の魔王

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 属性は地、地を沈める、表層効果範囲は幅十メートル、長さ五十メートル、下方作用範囲四メートル、効果は消失。

『大地よ口を開け』
 イメージと、組んだ術式に従って眼前の地がボコボコと裂け、大きな溝を形成して行く。
 魔力がゴリゴリと持って行かれるが、この世界に出て来た当初なら兎も角、今の我ならこの程度の作業は自前の魔力でも賄える。
 今行っているのは、砦の前に設置する空堀の作成だ。
 何でも砦の前に大きな堀があると、攻城兵器の類が使用し辛くなる効果があるらしい。
 見る見る間に空堀は完成し、背後で我が作業を見守っていた作業員達から感嘆の声が漏れる。

 うむ、凄かろう。
 何せこの世界に出て来てから地均しや建築をし続けておるからな。
 この手の作業の手際に関してのみは、ベテラン魔王にだって負けない自信がある。
 ……まあ我の他に土木工事を進んでやる魔王が居るかどうかは知らぬけど。

「この程度は容易い事よ。それよりも今日、我がこなす作業は他にあるか?」
 砦造りは作業員達との共同の仕事だ。作業の歩調は合わせる必要がある。
 好き勝手に魔術でどかどか掘って土壁を立てまくれば、幅やサイズに誤差が出た時、作業員の負担が増える事になってしまう。
 故に我は毎日この砦に通い、必要分の作業のみを魔術でこなしていた。

「今日の所は大丈夫でさぁ。ワシ等は今から空堀の内を固めやす」
 作業員の代表者の言葉に我は頷く。
 共に働く作業員達は決して礼儀正しい訳では無いが、気の善い連中ではあった。

「では我は戻るが、皆も怪我の無いよう作業せよ。野良の魔物が出た場合は作業を放棄して避難だ。報告があればその後は我が処理をする」
 頭を下げる作業員達に背を向け、ガルを呼んで背に跨る。
 作業の終わった我が此処に居ても、作業員達に気を使わせるだけだろう。
 此の建設中の砦から、我が町、嗚呼、結局町の名前はエシルと名付けた。
 そう、我の名前を少し弄っただけである。別に街に自分の名前を反映させて自己顕示欲を満たすとかでは無く、もう単純に思い付かなかったのだ。

 さて置き、砦からエシルの町までは徒歩なら数時間掛かる距離だし、まだ道も整っていない。
 それでもガルの足を借りれば大した時間は掛からず行き来が出来る為、砦での作業は町での仕事の気分転換に丁度良く、毎日少しずつ作業を進めるのも其れは其れで楽しかった。
 正直、気が緩んでいた事は否めない。
 魔物領より戻って以来危険を感じる事も無く、大体の物事はスムーズに上手く運んでいる。
 しかしそんな時こそ思わぬ事態が起きるのだと我に教える様に、其れは唐突にやって来た。



「っ、避けよ!」
 砦での作業の帰り道、ガルの背に跨りのんびり空を眺めていた我は、その気配に気付き呼びかける。
 ガルが間髪入れずに横に跳ねると、先程まで我等の居た空間を、木々の合間から飛来したバカでかい攻性の魔力塊が通り過ぎた。
 並の魔術師では如何足掻いても絞り出せそうにない魔力量の其れは、しかし一度回避しただけではその脅威は終わらず、地にぶつかる前にクルリと向きを変えて再び我等に迫り来る。

 けれど何処の誰だかはわからぬが、攻撃を放った者が此れだけの魔力量を容易くひねり出せるのだとしても、其れは我も同様なのだ。
 先程の様に虚を突かれたなら兎も角、ガルの回避で対応する時間が与えられた以上、対処出来ねばガルに合わせる顔が無い。
 飛来する魔力塊に向け、此方も魔力操作で攻性魔力を放つ。

 だが我が放つのは、練り込み、密度を上げて薄く延ばし、名剣の様な鋭さを持たせた魔力刃だ。
 其れを二度、三度、そして四度。
 放った魔力刃は、飛来する魔力塊を縦に、横に、右斜めに、左斜めに、バラバラに切り裂く。
 魔力塊は内に宿した攻性の意思を切られ、ばらけて宙に霧散した。
 でも当然これで終わりでは無い。否、寧ろ始まってすらいないのだ。

 足を止めたガルの背を降り、我はその者を待つ。
 幸いな事に、いや恐らくわざとだろうが、此処は砦と町の中間地点である。
 先の攻撃を放った者に対応出来るのは、我、そしてガルが精々だ。
 砦の者も、町の者も巻き込まずに戦えるのなら、此処を動く選択肢は無い。

「くっくっくっ、やるね。出て来てからまだ半年に満たないなんて俄かには信じがたいよ」
 木々の間から出て来たくつくつと笑うその黒髪の美女を見て、我はその思いを強くした。
 此奴の対応はガルでも駄目だ。我にしか出来ないし、しちゃいけない。
 初対面だが間違えようは無く、魂が訴える。彼女は、我の家族であると。

「愛しい弟に会えて嬉しいよ。はじめまして、私が魔王だ」



 出現した彼女を警戒し、戦闘態勢を取ったガルを手で制す。
 彼女は我が姉らしい。
 成る程確かに、初対面にも拘らず彼女に対して愛しさを感じる。
 サーガや民の者達に感じる其れとは質の違う、母に対して感じるモノに近しい其れ。

 しかしだ。
 先の攻撃が我を試す為であったなら、其れを我は許してはならない。
 確かに彼女は家族であり、そして魔王としてこの世界に先に降り立った先達でもあるが、我を試すなんて上から見下ろすと言う事を許してはならないのだ。
 我は魔王であり、我が民を導く者。
 彼女が我を見下ろせば、我が民も見下ろされていると同じ。
 其れを看過する訳には行かなかった。彼女も同じ魔王であるが故に。

「此方は出来れば会いたくなかったぞ。厄介事の匂いしかせん愛しい姉よ」
 全身の魔力を高め、拳を握り、其処に怒りを込める。
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