魔王は貯金で世界を変える

らる鳥

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27 北東の脅威

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 戦いは長く続いた。
 圧倒的な姉の力の前に、我が身体は無数の攻撃を受けている。
 そりゃもうフルボッコって奴だ。
 しかし、しかしそれでも、戦いの果てに顔を歪めているのは我が姉だった。

「い、幾ら何でもオカシイだろう……。一体君の魔力は何時になったら尽きるんだ」
 呻く様に姉は言う。
 確かに今までに無い程魔力は使った。一度の操作限界を越えぬとは言え、大量の魔力を操り過ぎた為に我も頭痛が酷い。


―魔力貯金額(大)→224081……P―


 どれだけ残ってるのか気になって、久しぶりにマスクを外して見たが、六つ程数字を数えた所で頭痛が酷くなったので再度マスクし直す。
 このまま戦っていても、多分一割損耗する前に日付が変わって、元通りどころか寧ろ増えるだろう。
 決して無限では無いのだが、正直どうやっても使い切れぬのだから大して変りが無い気はする。

「……う、うむ、未だ大分先だな。姉よ、確かに汝は我より遥かに強く、本気になれば一瞬でケリは付くだろう。だが殺さぬ様に気を付けながら行う程度の攻撃では我は決して倒れぬ」
 勿論滅茶苦茶痛いし、下手に受け損ねれば腕位は吹っ飛ぶのだが。
 其れでも治癒魔術を回し続ければ、即効性が無い魔術とは言え、立ち続ける事位は叶う。
 歯を食いしばれば意識を飛ばさず持ち堪えさえ意地で行える。
 すでに反撃は五度、姉の身体に叩き込んだ。ノルマは既に果たしていた。

 無論我が負ったダメージに比すれば、大した其れでは無いだろうが、けれども別にダメージの大きさは問題では無い。
 其れを成したと言う事に意味がある。

「宣言しよう。我慢比べなら姉の魔力が切れるまで粘って我が勝つ。だがそうなればもう我に話をする力は残るまい。故にそろそろ問うが、此れでも我は足りぬだろうか。北東魔族領の支配者は、我が領土を踏み躙るだろうか?」
 結局姉が何をしに此処に来たかと言えば、我を救う為であろう。
 当然其れは、姉にとって、正しくは姉の民達にとってもその方が都合が良いからでもあるのだろうけど。



 先んじた事が不満だったのだろうか、姉は少し頬を膨らませるが、其れでも直ぐに笑って頷いた。

「言わなくても察してくれる生意気な弟は、うん、大好きさ。でもそうだ。君は彼女を退けられない。私が思っていたよりも二回りは強いけど、其れでも本気を引き出すのが精々だ」
 姉の正直な言葉に少しばかり気が重くなるが、でも想像していた通りではあった。
 北東魔族領の支配者は、姉に対して負けてはいても、其れでも一つの領土を纏め上げれる力を持つ。
 つまりはあの王鱗のグランワームと格で言えば同じなのだ。

 我は未だ、その域には遠く及ばない。
 周知した訳では無いが、我は中立地域の北部に小なりと言えど纏まった勢力を作り上げた。
 更には町も砦も造っている。
 その動きを知れば、北東域の支配者は何らかの形で手を伸ばして来るだろう。
 北西魔族領を攻める為の同盟か、或いは侵略か。まあ碌な事にならんのは間違いが無かった。
 故に姉は、北東域の支配者に先んじて我に接触をして来たのだ。そのやり様には彼女の趣味と愛情表現が多分に反映されていたけど。

「そうか。では頼む。姉よ、御眼鏡に適ったのなら助けてくれ。適わないのなら、すまんが兄弟姉妹の縁に依って願う、我が死した後は民を引き受けて欲しい」
 戦う前から死んだ後の話等、弱気にも程がある。
 しかし百年以上に渡って北東魔族領の支配者の相手をして来た姉が言うなら、限りなく間違いは少ないだろう。
 例え弱気と誹られようと、一度村の滅びを経験した女達に再び同じ経験をさせる訳には行かない。
 だが我が言葉に、姉は静かに微笑んだ。此れまで浮かべた様な明るさに満ちた其れや、闘争心に溢れた其れで無く、静かで透明な、慈しむような笑み。

「大丈夫だよ、私の弟。私は元よりその心算さ。眼鏡には適ったとも。寧ろ君と手を組まないなんて考えられない。私の魔術技法と君の魔力があわされば、彼女を殺さず封印出来る」
 姉の言葉に、我の胸に安堵が広がる。
 魔王たる者が他者の手助け無しでは民を守れないなんて情けない話ではあるが、其れでも道は開けた様だ。
 死貴族の封印。一人を滅すれば種族全体が復讐者となるが、封印であれば問題は無い。

「北東魔族領が君に手を伸ばす前に、私の北西魔族領が攻め込む。時間は其れで稼げるはずさ。でもわかってるだろうけど、永遠じゃない。その間に、私の民が犠牲になる」
 我もそうだが、家族は愛しい。だがそれでも、我も姉も、優先すべきは家族では無く己の民だ。
 故に一時的であろうとも己が民への負担を増やすその手段は、姉にとっても苦痛だろう。

「わかっている。最優先で我が力を増そう。姉と共にその支配者の戦いに赴けるだけの力を」 
 我が言葉に、姉は満足げに頷いた。
 町を留守にする準備をせねばならない。
 サーガにも、ワケットにも、皆に迷惑をかける事になる。

「こっちからも人の派遣や支援はするから。あのね弟。君は私の知る限り百年ぶりの魔王だ。もう其れ位に魔界は遠くなってる。もしかしたら君が最後の魔王かも知れない」
 姉曰く、世界全体を見て、魔王が支配する魔族領の数は減りつつあるそうだ。
 無論残る魔王は其れなりの危機を乗り越えてきた強者達なので、すぐさま世界が変わる事は無いだろうけど。

「君は私を穏健派だなんて思えないって言ったけど、似合わない事でもやらなきゃいけないんだ。手段を選んでいたら、このままだと私達魔王は目的を果たせずに負けてしまう。死貴族の小娘に足を引っ張られてなんか居られないんだ。弟、わかるよね?」
 差し出された姉の手を、我は強く握る。
 話し合いは纏まった。諸々の手配は急ぐ必要があるだろう。
 姉との時間も、そろそろ終わりだ。

「愛しい姉よ、我が名はアシールだ。再会を楽しみにしている」
「愛しい弟、私の名はクレースさ。私も再会が楽しみだ。強くなっておくれよ。全部終われば私がデートしてあげるからさ」

 いや、そういうのは要らないから。
 出来れば良い文官を早急に貸して欲しいと思う。



 姉が去り、我はその場に尻もちを突く。
 殴られまくった身体が、限界を強く主張していた。

「あ~、ガル、ガルよ。すまんが我を町まで運んでくれ。そろそろ拙い」
 戦いに巻き込まれぬ様離れて居たガルが、傍らにやって来て乗り易い様に伏せてくれる。
 よろよろとその背に跨り、しがみ付く。
 ガルは我を落とさぬ様、少し速度を加減して町への道を駆け出した。

「なぁ、ガルよ。また魔物領に籠る事になったのだが、付き合ってくれぬか?」
 我と姉の会話は、ガルにも聞こえていた筈だ。
 ガルはまるで、仕方ないなと言わんばかりに鼻を鳴らすと、一声大きく吠えてみせた。



名称 アシール
種族 魔王
年齢 0(?)
髪色 黒 瞳 黒

レベル 22
生命力 490+30
魔力  780+30

STR    334+8
INT   408+10
DEX   365+5
VIT   339+15
MND  387+12

戦闘技能
 武器類取扱(中) 格闘(無→低)
魔術技能
 魔力操作(高→超越) 強化魔術(高) 幻想魔術(高) 治癒魔術(中→高)
他技能
 感知(中)
ギフト
『貯金』魔王銀行を何時でも何処でもご利用になれます
 現在貯金額(特大)G
 魔力貯金額(大)P

所持品
 黒鉄の重メイス
 魔王の服(防御力小、清潔、自動修復付与)


*
 強敵との戦闘ボーナス!
 ステータスが上昇。
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