複数の妖狐を統べる長と落ちこぼれの私がまさかの関係に...?!

にはたづみ

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第3章:第二の雷雨の夜―迎えと、宴の招待

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また雷雲が空を覆った夜。

天之は裏山の檜舞台へ向かった。  
いつもの白い舞衣を着て。 
流石にあの「長」さんから頂いた紅色の着物は、
大切で雨に濡らすわけにはいかなかったから
大事に畳んで箪笥の奥にしまい、
馴染みの舞衣を選んだ。  

ぽつぽつと雨が降り始め、布が肌に張り付く。  
でも、天之の心は不思議と軽かった。  
毎日届く贈り物、参拝客たちの言葉、
焔のからかい……すべてが、
誰かが自分を見ていてくれる証のように思えた。

「もう少し、気合いを入れてみよう」

息を目一杯吸い、空に向かって目一杯吐く。

扇を広げ、ゆっくりと最初の型を舞い始める。
袖を大きく翻し、足を高く上げ、
長い尻尾を優雅に揺らす。  
雨粒が頬を滑り、黒髪を濡らし、
黄色い耳を震わせる。  
雷鳴が響くたび、体は反応するが型は乱れない。

「(もっと……丁寧に……)」

最後の型を決め、膝をついた瞬間。
息を荒げ、雨を払う天之の背後に、
音もなく影が立った。

「……っ!?」

振り返るより早く、黒い袖が天之を包み込んだ。  
温かく、力強い腕が、体を抱き寄せる。

「わっ……!?」

「のう」

低く、古風な声が耳元で響いた。

「美しい舞じゃったのう」

天之が顔を上げると、そこにいたのは黒髪の男。  
美しい黒い着物をまとい、
九つの尾が雨に濡れてゆらりと揺れている。  
威厳と妖しさをまとった、圧倒的な存在感。
ただ、溢れ出る妖力に耳をぺたんと伏せ、縮こまった。

「……どなた、ですか?」

「初めまして、じゃな。
儂の名は弓張 仲秋(ユミハリ ナカアキ)じゃ」

「…申し訳ございません…存じ上げません。」

弓張はくすりと笑い、天之の濡れた頬に手を伸ばした。

「よいのう。知らぬかぁ」

親指で雨粒を優しく拭い、顎をそっと持ち上げる。

「其方の舞を、二度も見た。一度目は遠くから。  
二度目は、今じゃ」

天之の瞳が揺れた。

「え?…二度?」

「ああ。雷雨の中でも舞い続ける其方を見て、とても斌しく、美しいと思ったのだ。」

弓張の九つの尾が、
天之の長い一尾にゆっくりと絡みつく。 
温かくて、力強くて、逃げられない。
いや、正確には逃げても無駄だと感覚でわかった。

「儂の嫁になれ」

「……え??????」

「其方を娶りたい。 今すぐ、儂の元へ来てくれ」

唐突すぎて、天之の頭が真っ白になった。

「で、でも……私、尾一本で……妖力もなくて……名家の恥さらしで……」

震えた声で、荒い息のまま、釣り合わないと告げた。

「それがなんじゃ?じゃからなんじゃ」

弓張の声は低く、優しく、しかし絶対に譲らない。

「儂はそなたが欲しい。 一本の尾も、妖力も、全て愛おしいのじゃ」

「…そんな、ご、御冗談を...」

「嘘などつかぬ」

弓張は天之を軽々と抱き上げた。  
白い舞衣が雨に透け、
細い体が弓張の腕の中で震える。

「ええっ!? 待ってくださいっーー!」

「待たぬ。もう随分待ったんじゃぞ」

「えぇぇぇーーーーっ!!!!」

雷鳴が轟く中、二人の姿は闇に溶けた。
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