複数の妖狐を統べる長と落ちこぼれの私がまさかの関係に...?!

にはたづみ

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第4章:燃え盛る宴の熱気と、妖狐たちからの歓迎

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迅雷の本拠は、雨の降りしきる山奥にありながら、
まるで別世界のように広大で華やかだった。
弓張は天之を腕に抱えたまま、
黒塗りの大鳥居をくぐり抜けた。  
その瞬間、雨音がぴたりと遠ざかり、
屋敷全体を包む結界のような妖術が働いた。  

「え、え、ナニコレ?!?!...か、乾いた...???」
「ふふふ...驚いたかぇ?」

天之のびしょ濡れの白い舞衣が、瞬時に乾き、
黒髪も尻尾の毛もふわふわと
元の柔らかさを取り戻した。  
まるで雨など最初から
降っていなかったかのように。

「.........(すごい妖力...)」

天之は小さく息を呑んだ。  
体が軽くなり、冷えていた肌が温かくなる。  
同時に、耳と尻尾がぴくりと反応した。  
ここは、妖力が渦巻く場所である。
自分が今まで感じたことのない、
濃密で力強い気配が満ちている。

そんな様子を見て、
弓張は天之の耳元で低く囁いた。

「ようこそ、ここが儂の家じゃ。  
そして、これからは其方の家でもある」

天之は言葉が出ず、
ただ弓張の顔を見るばかりだった。
屋敷の長い廊下を抜け、
宴の間へと続く大きな襖が開かれる。
そこは、すでに熱気と笑い声で溢れていた。
広間は天井が高く、
柱には黒い狐の彫刻が施され、
灯籠の明かりが揺らめく。  
中央には長い卓が並び、
迅雷の幹部や構成員の妖狐たちが
ずらりと座っていた。  
酒盃が回り、焼き魚や果物、
珍味が山のように盛られている。

弓張が入室した瞬間、ざわめきが一瞬静まり、
すぐに歓声が沸き起こった。

「おお、長! 遂に!」
「嫁さん連れてきたぞ!」
「ずっと待ってましたよ~!」

弓張は天之をそっと下ろし、
自分の隣の座に座らせた。  
膝上ではなく、すぐ横の座布団。  
それでも距離は近く、弓張の九つの尾が
自然に天之の長い一尾に触れ、優しく絡みつく。
天之は耳をぺたんと伏せ、
周囲の視線に縮こまった。

「み、皆さん見てる......(怖い...)」
「見られておる方がよいじゃろ」

弓張は天之の肩に手を置き、穏やかに笑った。

「儂の嫁がどれほど愛おしいか、
皆に知らしめねば...なぁ?」

その言葉に、広間が再びどっと沸いた。
再び宴の空気が戻り、盛り上がってきた。

最初に近づいてきたのは、
あの黒髪の長身の男だった。  
参拝客として最初に饅頭を届けてくれた妖狐。  
今は人間の姿を崩さず、
しかし耳と尻尾がはっきりと現れている。

「やあ、天之くん。ようやく会えたね」

男は柔らかく微笑み、天之の前に座り込んだ。

「饅頭、美味しかった?」

「は、はい!とっても......」

天之が答えると、男は満足げに頷いた。

「長が『甘いものが好きだろう』って言ってたから、選んだんだ。正解だったみたいでよかったよ」

「よくやった、花丸」

「長のお望みであれば、仰せのままに。」

「......(あの背高い人、花丸さんっていうんだ。...ふふっ、ちょっとかわいいかも。)」

次にやってきたのは、派手な着物の女狐。  
赤と金が鮮やかな衣装を翻し、
天之の隣にぴたりと寄り添った。

「可愛い子ぉ~! やっと会えたわ!」

「わ、わぁ.... あぁ...(あの時の人だ...)」

女狐は天之の耳をそっと触り、
ふわふわと撫で回す。

「この耳、想像以上に柔らかい!  
長、羨ましいわよ~」

「あっ...うぅ...//(耳はちょっと...//)」

「仙紅、触るな」

弓張が低く唸ると、女狐は笑いながら手を引いた。

「はいはい、分かりました~。  
でも、天之ちゃん、私が選んだ帯、巻いてる?」

「……まだ、ですけど……綺麗でした」

天之が恥ずかしそうに答えると、
仙紅は目を細めた。

「ふふ、じゃあ今度一緒に着付けしてあげるわね。  
長の前で、ね」

「っ...は、はいっ//...」

「仙紅、揶揄うな」

弓張が軽く睨むが、
仙紅はケラケラ笑うだけだった。

そして、当然のように焔が飛び込んできた。

「天之ちゃーん! やっと来た!」

「あ、ほ、焔さん...!」

赤髪を揺らして、天之の前にどっかり座る。

「おお、覚えてくれたん!♪嬉しいなあ~♪
藍色の反物、どうだった? 似合ってた?」

「寸法もぴったりで...ありがとう、ございます」

「でしょでしょ! 長が『あの子に着せてみたい』って何度も言ってたんだから!」

「焔、少しは口をつぐめ」

そういう長を横目に焔は天之の尻尾を軽くつかみ、
ふわふわと撫で始めた。

「ふー、やっぱり最高だね...!...天之ちゃん、知らないでしょ?...長、毎晩『早く抱き枕にしたい』ってため息ついてたよ?」

「焔。触りすぎじゃ」

「えー、ちょっとだけですよ~!」

焔が笑いながら手を離すと、
周囲の妖狐たちも次々と近づいてきた。

銀髪の若い男狐が、天之の前に果物を差し出す。
「天之さん、桃どうぞ!
長が『果物も好きだろう』って」

「ありがとうございます...桃は大好物です♪」

別の狐が酒盃を差し出し、

「一口だけ飲んでよ! お祝いだよ!」

「で、でも私、お酒は飲めない歳で...」

「……天之は飲まぬ」

「じゃあ口移しで!」

誰かがふざけて言った瞬間、
弓張の九尾が一斉に広がり、威圧感を放った。
弓張は天之の肩を抱き寄せ、

「儂が飲ませてやる」

弓張は自分の盃の酒を口に含み、
天之の唇にそっと重ねた。
柔らかく、熱い酒が流れ込む。  
天之は噎せながらも、飲み込んだ。
周囲が再び沸いた。

「長、優しい~!」
「いや、強引すぎだろ!」
「あーあ、完全に落ちちゃったなコレ」
「天之ちゃん、もう赤くなってる!可愛い!」

天之は恥ずかしさで涙目になり、
弓張の袖をぎゅっと掴んだ。

「…ぁ…ずるい...です……」

「ずるくて構わぬ」

弓張は天之の耳を指で撫で、優しく囁いた。

「其方は儂のものじゃ。皆にそう知らしめる」

宴はさらに熱を帯びていった。
妖狐たちが次々と天之に話しかけ、
尻尾を触ろうとし、耳を褒め、
貢物の思い出を語る。  
天之は最初こそ縮こまっていたが、
皆の笑顔と温かさに、少しずつだが
緊張が解けていった。
焔が再び近づき、天之の耳元で囁く。

「ねえ、天之ちゃん。長のこと、どう思う?」

「……え?」

「だって、毎日貢物送って、舞見て、
こんなに早く連れてきちゃうんだよ?
完全に落ちてるよね、長」

「いや......えっと...その...うぅ///....」

顔を真っ赤にして天之が言葉を濁す。
仙紅が横から割り込み、

「天之ちゃん、長の膝の上に乗っちゃえば?  
もっと近くで感じられるわよ~」

「仙紅...。」

「承知~...」

弓張が低く制するが、仙紅は笑うだけ。
花丸が静かに微笑みながら、

「天之くん、長は本当に君のことしか考えていない。安心して、任せてあげて」

皆の言葉が、天之の胸を温かくした。
でも、同時に――

周囲の妖力が強すぎる。  
迅雷の幹部たちは皆、強大な妖狐たちだ。  
天之のような一本尾の落ちこぼれには、
圧倒的な差があった。
妖力の耐性があまりない中曝され続け、
天之の体が限界を迎え重くなっていく。
次第に視界がぼやけ、耳が遠くなる。

「...(あれ...体がおかし...)」

天之の体がふらりと傾いた。
弓張が即座に腕を回し、天之を抱き寄せる。

「天之……?」

天之の瞳がゆっくりと閉じていく。

「............(あれ...意識が...飛び...)」

小さな呟きとともに、
天之は弓張の腕の中で気を失った。

「天之?...天之!!!」

広間が一瞬静まり、すぐに心配の声が上がる。

「天之ちゃん!?」
「まさか妖力差が……」
「天之くん!」

弓張は天之を優しく抱き上げ、九つの尾で体を包み込んだ。

「皆、宴を続けておれ。儂の嫁は、儂が診る」

そう言って、弓張は天之を抱いたまま、
広間を後にした。
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