転生したらぼっちだった

kryuaga

文字の大きさ
30 / 72
第一章 はじまり

#26

しおりを挟む


 希少個体の一件が収束してから三日。冒険者ギルドのマスコット的存在、ラーニャの曇り顔は未だ晴れていない。ダンジョンに篭る護ばかちんがその日数を延長したからだ。

 その暗い雰囲気は彼女を可愛がる職員達にも伝染して、表情には表れないものの、どこかギルド全体の活気がなくなっていた。



「はぁ……」

(マモル君がダンジョンに入ってから四日。……やっぱり、駄目、なのかなぁ)



 これまでに一週間以上帰ってこなかった事もあったが、護がソロであることに対する不安、事件が収束するタイミングが際どいものであったことに対する不安から、ラーニャの想像は悪い方へ悪い方へと陥ってしまう。

 悪い想像というのは思いのほか、簡単に振り払えないものだ。



 他の職員に気遣われながらも三日、いつも通りに受付の業務をこなす。



 一際大柄な冒険者の男が去った時、ようやく待ち望んでいた人物が何食わぬ顔でラーニャの前に姿を見せた。



「あ、どうもラーニャさ「マモル君……! 良かった、無事だった……!」……へ?」



 これまで胸に沈殿し続けていた不安から解放され、ラーニャは花が咲いたような笑顔を浮かべながらも、一筋の涙をこぼした。

 ……が、護にとってはわけがわからない。

 希少個体を倒して、こつこつ魔力を回復させて、ようやく帰ってきたと思えば世話になっている受付嬢が顔を見るなり笑顔で涙だ。もちろんこの護スカポンタンに女性の涙の鎮め方など分からない。完全に固まっている。



 周囲では彼女の復調を喜ぶ者、二人の様子にやっかむ者、涙を流させた事に憤る者、不甲斐ない護の様子に呆れる者。など、ようやくギルドはいつも通りの雰囲気を取り戻そうとしていた。



「……あ、ごめんね、驚かせて。マモル君が無事かずっと不安だったから……」



「……う、いえ、その、なんだか心配をおかけしたみたいですみません……」



「もう、ほんとだよっ。群れにやられちゃったんじゃないかってずっと心配してたんだから……!」



「でも、希少個体がいるのは地下十三階でしょう? 約束通り地下十階より下には下りてませんよ」



「……えっ。調査隊の人に会わなかったの?」



「調査隊……ですか? 何かを探すような冒険者達は見かけましたけど、動きが不審に思えて見つからないように隠れちゃってました」



 あらかじめ用意していた嘘をすらすらと話す護。……それを日常会話にも応用すればいいのだが。



「隠れてた、って……仮にも索敵重視の編成だったはずなんだけど……」



 その無駄な陰身技術に半ば呆れながらも感心するラーニャであった。



「はぁ……。それがね、希少個体率いる群れが地下十階まで上ってきてたって話なの。丁度そこで誰かに討伐されたらしいんだけどね」



「へえ、そうなんですか……。俺が地下十階に着いた時はいつも通りだったんですけど……」



「うん、……そうだよね。まったくっ、心配して損したよ!」



「あはは……、すみません」



「そうそう、そういえばね。この間マモル君が覗いた[迷宮の薔薇]の人達も地下十階に行ってたらしくて、群れに巻き込まれたんだって。

 四人とも生きてて、怪我は負ったらしいんだけど、今は治ってて、宿で療養中みたい。

 マモル君、まだ謝れてないんでしょ? お見舞いついでに行ってみたらどうかな」



 どこかいたずらめいた笑みを浮かべながら見舞いを勧めるラーニャ。



「うぅん……。それはそうなんですけど、どこに泊まってるのか知りませんし……」



「んー……、私が場所知ってるけど、さすがに女の子の宿を勝手に教えるわけにもいかないかあ」



 結局、そこで話が終わってしまい、いつも通り依頼を処理するラーニャ。――その顔にもいつも通りの愛らしい笑顔が戻ってきていた。







 素材の売却を終えた護は、工業地区にある鍛冶工房に来ていた。無論、以前迷宮武具を作ってもらった工房である。中では丁度休憩中なのか、前回世話になった鍛冶師――カズィネアと数人の鍛冶師達が卓を囲んでいた。



「あ、あの……、休憩中すみません……」



 楽しげに話すグループに声を掛ける事にひどく躊躇った護だが、なんとか声を出す。



「うん? ……ああ、こないだの小僧……マモル、だったか? どうした、まさかもう武器が破損したってわけじゃないだろうね?」



「あ、いえ、そうではなく……その、ちょっと珍しい素材を手に入れたので、何か作れないかと思いまして」



 言いながら護は影から残しておいた女王蟻の素材を取り出す。



「これは……。迷宮蟻、……とはどこか違うね。特に頑丈ってわけでもないみたいだけど……これはなんなんだい?」



「えっと、……その、俺が出したって事は黙ってて欲しいんですけど、いいですか?」



「なんだい、やけに慎重だね……。ま、見たことのない素材を弄れるんだ、こっちは構わないよ。……あんたたちもそれでいいね?」



 幸いにもカズィネアは了承してくれた。後ろで話を聞いていた彼らも構わないようだ。



「す、すみません、ありがとうございます。……それで、これなんですけど――」





「――……へえ、魔蟲型モンスターを呼び集めて統率する女王蟻、ねえ。少なくとも武器には使えなさそうだけど、あんたたちはどうだい?」



 当然耐久性の低い素材を武器に使えるわけもなく、周囲で素材を検分していた担当の違う鍛冶師達に尋ねるカズィネア。……すると一人の男が手を挙げた。魔道武具ではなく、魔道具を専門にしている鍛冶師である。

 彼の言うところによると、統率は出来ないだろうが、魔蟲型モンスターを呼び寄せたり、逆に近寄らなくすることができる魔道具が作れるかもしれない、とのことだ。



 相談の結果、護は余った素材を料金代わりに魔道具を作ってもらう事にした。

 特に必要というわけではないが、オンリーワンの希少個体の素材だ。影の中で腐らせておくのも勿体無い。足を運んで良かった。と、満足しながら帰路に就く護であった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...