転生したらぼっちだった

kryuaga

文字の大きさ
32 / 72
第一章 はじまり

#28

しおりを挟む


 人の噂も七十五日、というのだろうか。

 『永遠なる影炎を駆るシャドウフレイム漆黒の貴公子プリンス』の噂も、道を歩けばその名が聞こえてくる。が、耳を澄ませば時々耳に入る。程度には落ち着きを見せていた。

 護はその間も精力的に依頼をこなし続け、早くもシルバー+ランクとなっていた。……依頼をこなし続けていた理由が、街にいると『永遠なる影炎を駆る漆黒の貴公子』の名が耳に入ってくるから。というのが情けない限りだが。







「むう、雨か……」



 その日、護はオーク討伐の依頼に来ていた。

 オークは豚頭で人型の魔物だ。体長は平均で160cmほどだが、その身は分厚い脂肪と鍛えられた筋肉で覆われていて、高い生命力を持っている。ちなみに意外と綺麗好きだ。



 朝に依頼を受け、オークの生息する谷に向かった時は雨の降る気配など感じられなかったのだが、森を抜けた頃には空が曇り始め、谷に到着したと思えば大雨だ。こうなってしまうと空間把握も気配察知も役立たず同然となってしまう。

 仕方なく護は魔力感知で周囲の状況を確認する。こちらはまだ完全に習熟しているとは言い難く、あやふやにしか把握することができない。植物や大気にも魔力は含まれているのだ、魔力の濃淡から地形を把握する事すらそう簡単な事ではない。



(まいったな、これじゃあ無事に帰れるかどうかも分からない……)



 オークが単体であればそう難しい話ではないかもしれないが、この谷に棲んでいるオークは最低でも三体以上で行動している。

 護の回避能力を支えるのは体捌きだけではない、気配察知と空間把握が十全に機能していてこそ複数の敵からの攻撃も捌くことができるのだ。

 それが今の曖昧な状況把握では、死角からの攻撃に対応しきれずに怪我を負うかもしれない。冒険者であれば、本来怪我を負うことはそう珍しくないだろう。だがソロの冒険者がひとたび怪我を負ってしまえば、敵対者は調子を崩した獲物をあっという間に袋叩きにしてしまうだろう。



 そんなわけで、護は無茶をするわけにはいかない。

 あるいは魔術で雨雲を強引に吹き飛ばす事も出来るかもしれないが、そんな規模の魔術を使っては魔力をほとんど消費して肉体が衰弱してしまう。

 ただ、不幸中の幸いか雨雲の向こう、やや遠くに青空が見える。小一時間ほど雨宿りでもしていれば雨が止むだろう。



(と、なると、ここは定番の洞窟雨宿りかな。……自然洞窟だと魔獣でも棲んでそうだから魔術で掘るか)



 崖の高さ3mほどの位置に丁度よく台地状の出っ張りを発見し、滑らないよう慎重に登って出っ張りの奥に魔術で腰をかがめる程度の穴を作る。勿論水が入り込まないよう入り口に傾斜をつけ、影で隠蔽しておくのも忘れない。雨が止むまでは消費した魔力の回復でもしながら待つしかないだろう。







「そろそろ晴れたかな……?」



 護は身動きできない退屈さに欠伸を噛み殺しながら暗幕から顔を出す。すると眼下には見覚えのある顔が揃っていた。



「……ん? あ、あんた! いつぞやの覗き魔術師じゃない!」



 地上3mから顔を出した所で、そうそう危険など無いだろうと完全に油断していたようである。

 不名誉なあだ名と共に護を迎えたのは声の発生源であるレーナと、彼女の所属するパーティー[迷宮の薔薇]の面々であった。

 護より頭半分ほど低い身長で、深緑の髪をボブカットにし、勝気そうな瞳で睨むレーナ。

 身長はレーナより更に低く、薄緑の長髪でやや興味深そうに護を見る森人族エルフのシエーヌ。

 イーシャと同程度の身長でメリハリのついた体型、日に焼けた肌、くすんだ金の髪をおおざっぱに纏めたクシー。

 そしてリーダーのイーシャ。どうやら彼女達も依頼で近くに来ていたらしい。



「こんなところにまで覗きに来たってわけっ?」



「な、ち、違います! ここには依頼で来たんですよ!」



 『永遠なる影炎を駆る漆黒の貴公子』と『覗き魔術師』、どっちの方がましかなあ。などと考えていた護は慌てて否定する。



「ふん、どうだかっ」



「あはは、まあまあ。……こんにちは、マモル君。君もオーク退治かな?」



 イーシャがレーナをなだめ、護の目的を尋ねる。



「あ、こんにちは。そうです、その依頼で来たところで雨に降られて、雨宿りしてたところです」



「そっか、私達は今来たところでね、これから狩りを始めるところなんだ。……良かったら君も一緒に行く?」



「ちょっとイーシャ! 何言ってるのよ!」



「ほら、ソロで探索を続けるあの子の腕にも興味あるしさ。……どうかな?」



「あ、えっと、お誘いは嬉しいんですけど、パーティーの連携を乱したらまずいですし……すみません、遠慮させてもらいます」



「ま、それもそうよね。それじゃあ私達は行くね、機会があればまた話しましょ」



 それを最後に、不機嫌そうな顔のレーナと、黙って話を聞いていた二人を連れてイーシャは谷に向かおうとする。



「……あ、あの、すみませんっ。レーナさん、ちょっと待ってください!」



「あ゛ぁ? …………なによ」



 名前を呼んだ途端、凄まじい顔で睨んでくるレーナになけなしの勇気を吹き散らされそうになるが、護はなんとか持ち直し、言葉を振り絞る。



「ひっ。……あ、こ、この間はすみませんでした! 結果的にとはいえ、その、覗くような形になってしまって……」



(高い性能の結界と影の魔術……まさかこいつ? …………なわけないか)

「……ふん。まあこっちにも落ち度はあったし、謝るなら許してあげるわ」



 何か引っかかる事があるのか、レーナは頭を下げる護を頭から足の爪先までジロジロと観察していたが、思索に区切りをつけたようで、自身らの非を認めながらもむっとした顔をしながら謝罪を受け入れた。



「あ、ありがとうございますっ」



「ただし、次同じ事があれば容赦しないわよ! ……それじゃあね」



 慌てて頷く護を尻目に、彼女は待ってくれていたメンバーと共に谷へと去っていくのだった。











「……なによっ?」



 護と別れてから、レーナはメンバー達から珍しい物でも見るかのような視線を向けられ続け、堪えきれなくなってとうとう爆発した。



「くくっ、いやなに、あれだけ気にしていた割に、案外あっさり許したもんだな、と思ってさ」



「同じく」



「別に。謝ったんだから許したっておかしくないでしょ」



 茶化すような仲間の言葉に努めて冷静に返そうとするレーナだったが、



「そう? いつものレーナならどれだけ謝られようと許したりしなさそうだけど」



 イーシャの一言であっさりと崩されてしまうのだった。



「うぐ……。あたしはそんなに器の小さな女じゃないわよっ」



 苦し紛れに否定したものの、残念ながら身に覚えがありすぎた。レーナ自身説得力の無さが自覚出来る程である。慌てて言い訳を重ねようと口を開こうとするレーナだったが、幸か不幸かそれが言葉になる事は無かった。



「はいはい、とりあえずこの話はそこまでな。どうやらオーク共のお出ましみたいだよ」



 言い出したのはクシーなのに。なんて文句を飲み込みながらも内心ほっと一息、しっかりと戦闘体勢ををとるレーナ。

 きちんと依頼をこなしながら、どこか和気藹々と狩りを続ける彼女達だった。







若干無理矢理に容姿の説明。わ、忘れてたわけじゃないんですよ……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...