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第一章 はじまり
#40
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「え、……俺、ですか?」
いつものように依頼を受けに冒険者ギルドに入ったところ、護は掲示板に向かう途中で呼び止められた。
「そう、マモル。君だよ君」
呼び止めたのは二十代前半の男で、護も見た覚えがある。いつも五人組でいて、いかにも仲が良さそうなのだが、今日は一人足りないようだ。
「えっと、俺に何の用ですか」
警戒をあらわに、距離を残して近付く護。
「うん、それなんだけど。君、今ゴールドランクで、影魔術を取った後は支援魔術に集中してポイントを使ってるって聞いたんだけど、それで合ってる?」
「それは……確かに、そうですけど。そんな事誰から聞いたんですか?」
護はギルドに、というかラーニャには、まあ実際の取得スキルとは全く違うのだが、大体どういう風にポイントを振って戦っているのかを話しており、対外的には自己支援と訓練で身に着けた近接格闘術によって肉弾戦闘をする支援術師、ということにしている。……どこか日本語がおかしい気がするが、おそらく気のせいだろう。
「ああ、君、あのちっちゃい受付嬢ちゃんとよく色々話してるだろう?そういうのって案外周りも聞いてるもんでさ。君の話だけに限らないんだけど、冒険者としての能力や性格の情報とか、依頼に関する重要な情報なんかは割とすぐに冒険者達の間で広まるもんなんだよ。……君は人と関わろうとしないから、そうでもないみたいだけどね」
懇切丁寧に理由を説明し、……親切にも護がそれを知らない理由も苦笑いで説明してくれた。説明された護は苦虫を噛み潰したような顔をしているが。
「それで、君に何の用かって話なんだけど。俺達はいつも五人で[戦場の宴]ってゴールドランクのパーティーを組んでるんだけど、今日は事情があって支援術師が来られなくてね。それで代わりの支援術師に一時的に入ってもらおうって話になったんだけど……どうかな?」
「一時加入……ですか」
護も本格的な勧誘は何度かされたことがあるが、一時的な参加、というのは今回が初めてだ。いずれはパーティーに入ってみたいと思っているが、うまく馴染めるか不安で気後れし、護はいつも勧誘を断っている。だが、一時的に、ということなら少しはパーティーの雰囲気が分かるかもしれない。と思い、参加を決めることにした。
「分かりました、今回だけという話でしたら、俺でよければ」
「お、ほんとかい?いつも勧誘を断ってるって話だったから、正直駄目元だったんだけど、誘ってみるもんだね。そうと決まればこっちに来てくれ、うちのメンバーを紹介するよ」
向かった先で紹介されたのは全員男で、屈強な大剣使いのテッド、引き締まった肉体で短槍使いのアッシュ、やや細身で双剣を使う宝掘師のドルアーデ、そして護に声をかけた優男の攻魔術師のリーダー、ヴォルケンだ。
「よろしく、マモル。支援術師は中々いないから、入ってくれて助かるよ」
「支援術師とは言っても、影魔術以外はまだスキルLvも低いので、そこまで期待しないでください」
「ああ、俺達も今回は無茶するつもりはないから、ある程度の効果があれば大丈夫だよ。基本は補助魔法を掛けてもらって、休憩時の結界張りと影魔術での荷物持ちだけしてもらおうと思ってるけど、ゴールドランクって事はそれなりに魔物型も倒してるだろうし、一応戦闘もいけるよね?」
「あ、はい。阻害魔術と格闘術でそれなりに戦えます」
「そっか。うーん、いつもはうちの支援術師に阻害魔術をしてもらってるんだけど、急ごしらえの連携は危ないし、後方警戒を代わってもらってドルアーデを遊撃に出そうかな」
「そうですね、複数の他人に対する補助魔術の維持も初めてですし、それくらいなら大丈夫だと思います」
補助魔術は掛けて終わり、ではない。ほんの極僅かではあるが、維持に魔力を注がねばならない。護はいつも自分一人だけなので大した苦労をしていないのだが、自分を含め五人となれば、あまりに集中を乱すと補助魔術が解除されてしまうのだ。
「うん、大まかな探索の方針はこんな感じでいいかな。それで、後は報酬の話なんだけど、依頼の報酬と素材の売り上げの五分の一で構わないかな。素材で欲しい物があった場合は買い取ってもらうけど」
「はい、それで構いません」
やや自分の働きよりも報酬が多い気がするが、護は口に出さない。それよりも昔やっていたMMORPGの臨時パーティーでの分配方式にそっくりで、昔を懐かしんでいた。
「よし、それじゃあ決まりだ。マモルは今日ダンジョンに行くつもりだったかい?違ったなら準備が整うまで待ってるよ」
「いえ、俺も今日はダンジョンの依頼を受けるつもりだったので、準備は出来てます」
「分かった。じゃあ依頼を受けてくるから、少し待っててくれ」
そう言ってヴォルケンが受けてきたのは、[Dオークの肉の収集]だ。Dオークの肉は普通のオークの肉に比べ、魔力の影響によるものなのか、味が熟成されたように深みを増し、討伐難易度も相まってかなりの高級肉となっている。
ゴールドランクパーティー[戦場の宴]はその場で肉を食べる事を好み、最近になってDオークの肉を食べてやみつきになり、今ではほぼDオーク専門のパーティーとなっている。
護はそんな話を聞きながら、そういえばDオークの肉はうまかったな。と喉を鳴らすのだった。
いつものように依頼を受けに冒険者ギルドに入ったところ、護は掲示板に向かう途中で呼び止められた。
「そう、マモル。君だよ君」
呼び止めたのは二十代前半の男で、護も見た覚えがある。いつも五人組でいて、いかにも仲が良さそうなのだが、今日は一人足りないようだ。
「えっと、俺に何の用ですか」
警戒をあらわに、距離を残して近付く護。
「うん、それなんだけど。君、今ゴールドランクで、影魔術を取った後は支援魔術に集中してポイントを使ってるって聞いたんだけど、それで合ってる?」
「それは……確かに、そうですけど。そんな事誰から聞いたんですか?」
護はギルドに、というかラーニャには、まあ実際の取得スキルとは全く違うのだが、大体どういう風にポイントを振って戦っているのかを話しており、対外的には自己支援と訓練で身に着けた近接格闘術によって肉弾戦闘をする支援術師、ということにしている。……どこか日本語がおかしい気がするが、おそらく気のせいだろう。
「ああ、君、あのちっちゃい受付嬢ちゃんとよく色々話してるだろう?そういうのって案外周りも聞いてるもんでさ。君の話だけに限らないんだけど、冒険者としての能力や性格の情報とか、依頼に関する重要な情報なんかは割とすぐに冒険者達の間で広まるもんなんだよ。……君は人と関わろうとしないから、そうでもないみたいだけどね」
懇切丁寧に理由を説明し、……親切にも護がそれを知らない理由も苦笑いで説明してくれた。説明された護は苦虫を噛み潰したような顔をしているが。
「それで、君に何の用かって話なんだけど。俺達はいつも五人で[戦場の宴]ってゴールドランクのパーティーを組んでるんだけど、今日は事情があって支援術師が来られなくてね。それで代わりの支援術師に一時的に入ってもらおうって話になったんだけど……どうかな?」
「一時加入……ですか」
護も本格的な勧誘は何度かされたことがあるが、一時的な参加、というのは今回が初めてだ。いずれはパーティーに入ってみたいと思っているが、うまく馴染めるか不安で気後れし、護はいつも勧誘を断っている。だが、一時的に、ということなら少しはパーティーの雰囲気が分かるかもしれない。と思い、参加を決めることにした。
「分かりました、今回だけという話でしたら、俺でよければ」
「お、ほんとかい?いつも勧誘を断ってるって話だったから、正直駄目元だったんだけど、誘ってみるもんだね。そうと決まればこっちに来てくれ、うちのメンバーを紹介するよ」
向かった先で紹介されたのは全員男で、屈強な大剣使いのテッド、引き締まった肉体で短槍使いのアッシュ、やや細身で双剣を使う宝掘師のドルアーデ、そして護に声をかけた優男の攻魔術師のリーダー、ヴォルケンだ。
「よろしく、マモル。支援術師は中々いないから、入ってくれて助かるよ」
「支援術師とは言っても、影魔術以外はまだスキルLvも低いので、そこまで期待しないでください」
「ああ、俺達も今回は無茶するつもりはないから、ある程度の効果があれば大丈夫だよ。基本は補助魔法を掛けてもらって、休憩時の結界張りと影魔術での荷物持ちだけしてもらおうと思ってるけど、ゴールドランクって事はそれなりに魔物型も倒してるだろうし、一応戦闘もいけるよね?」
「あ、はい。阻害魔術と格闘術でそれなりに戦えます」
「そっか。うーん、いつもはうちの支援術師に阻害魔術をしてもらってるんだけど、急ごしらえの連携は危ないし、後方警戒を代わってもらってドルアーデを遊撃に出そうかな」
「そうですね、複数の他人に対する補助魔術の維持も初めてですし、それくらいなら大丈夫だと思います」
補助魔術は掛けて終わり、ではない。ほんの極僅かではあるが、維持に魔力を注がねばならない。護はいつも自分一人だけなので大した苦労をしていないのだが、自分を含め五人となれば、あまりに集中を乱すと補助魔術が解除されてしまうのだ。
「うん、大まかな探索の方針はこんな感じでいいかな。それで、後は報酬の話なんだけど、依頼の報酬と素材の売り上げの五分の一で構わないかな。素材で欲しい物があった場合は買い取ってもらうけど」
「はい、それで構いません」
やや自分の働きよりも報酬が多い気がするが、護は口に出さない。それよりも昔やっていたMMORPGの臨時パーティーでの分配方式にそっくりで、昔を懐かしんでいた。
「よし、それじゃあ決まりだ。マモルは今日ダンジョンに行くつもりだったかい?違ったなら準備が整うまで待ってるよ」
「いえ、俺も今日はダンジョンの依頼を受けるつもりだったので、準備は出来てます」
「分かった。じゃあ依頼を受けてくるから、少し待っててくれ」
そう言ってヴォルケンが受けてきたのは、[Dオークの肉の収集]だ。Dオークの肉は普通のオークの肉に比べ、魔力の影響によるものなのか、味が熟成されたように深みを増し、討伐難易度も相まってかなりの高級肉となっている。
ゴールドランクパーティー[戦場の宴]はその場で肉を食べる事を好み、最近になってDオークの肉を食べてやみつきになり、今ではほぼDオーク専門のパーティーとなっている。
護はそんな話を聞きながら、そういえばDオークの肉はうまかったな。と喉を鳴らすのだった。
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