転生したらぼっちだった

kryuaga

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第一章 はじまり

#44

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 いつものように魔術の訓練も兼ねてダンジョンに潜る依頼を探していた護だったが、ふと見慣れない討伐対象の名前を見かけて手に取る。



「ん、メタルタートルの討伐……?ってこれ魔獣か、珍しいな」



 魔獣とは、その名のごとく魔術を使ってきたり、魔力によって特殊な肉体や機能を持つようになった獣の事を指す。魔蟲も"魔"とはついているものの、虫との混同を避けての呼称であって、基本的に大型で肉食の蟲、というだけだ。魔獣のような機能を使う場合、こちらも魔獣に分類される。

 ファスター近辺では滅多に魔獣は出現しない。それは魔獣が発生するための特殊な土壌が無いからだ。

 例えば、活火山周辺ではその過酷な環境に耐えるために炎熱への耐性を獲得し、逆に炎を操る魔獣が発生する。

 年中雷の降る平原では、その身に雷が落ちても平然として特殊な器官に蓄える魔獣が発生するという。

 これらは極端な例だが、兎も角ファスター近辺は環境が安定しており、普通の獣や魔蟲、魔術を使うほどの知性が無い魔物までしか生息していない比較的安全な街として知られており、それもまた人の集まる理由となっているのだが、縄張り争いに敗れたのか、単に道に迷ったのか、時折こうしてファスターでも魔獣の討伐依頼が貼り出される。



 依頼のランクはゴールド+、対象は一体のはずなのだが、かなりの難易度設定だ。護は初めての魔獣討伐依頼に興味を持ち、依頼を受けるべくラーニャの元へ向かった。



「え?マモル君、この依頼受けるの?」



「はい……えっと、何かまずかったですか」



「うーん、ランクも足りてるし、受けるのは問題無いんだけど……この依頼、実はもういくつかのパーティーが受けてて、失敗してるの」



「えっ。失敗、ですか」



 護は見つけることが出来なかったが、この依頼は数日前から貼り出されており、ゴールドランクパーティーやゴールド+ランクパーティの相次ぐ失敗に、今や誰も手を出そうとしなくなっていた。



「そう。まだ一般人には被害が出てないんだけど、討伐に失敗したパーティーの中から何人か死傷者が出ててね、この街にプラチナランクのパーティーなんてそうそう立ち寄らないし、もう少ししたらゴールドランク以上の冒険者で討伐隊を組むって話だよ」



「へえ、討伐隊ですか……」



「うん、だからマモル君も行くならせめてその時にしたら?パーティーで行った人達も攻撃が全然通らなかったって話だし、一人じゃ難しいと思うよ」



「んー……そうですね。魔獣に興味があっただけですから、今日の所は諦めて別の依頼にしておきます」



「そうだね、それがいいと思うよ」



 ラーニャの同意を受けて掲示板に引き返す護。

 今度は珍しく、やや離れた山岳で採れる薬草の採取依頼を手に、再びラーニャの元へ向かった。



「ん、採取依頼は久しぶりだね。ここ最近ずっと討伐依頼ばっかりだったのに」



「ええ、ちょっとした気分転換です。大物もおあずけですしね」



「あはは。……はい、受理できたよ。行ってらっしゃい、気をつけてね、マモル君」



「行ってきます」







 目的の薬草は険しい崖の途中に生えている事が多い、高価なヒーリングポーションの主材料になるサイニー草という、扱いを間違えれば劇毒となってしまう紅色の草だ。薬師にも信用が無ければ冒険者ギルドに依頼する事は出来ない。



(下を見ちゃ駄目だ、下を見ちゃ駄目だ、下を見ちゃ駄目だ……!)



 護は今、予想以上に高かった崖の途中で固まっていた。

 駄目だ駄目だと言いつつも下を見てしまい、地面から遠く離れてしまった事に恐怖を抱いてしまったのだ。まあ実際の所20mも登っていないのだが。



「うん、これ無理。一旦下に降りよう」



 と言いつつも、固まってしまった身体は中々動こうとしない。それに足元が視点から離れてしまうので、崖を降りるのは中々難しいのだ。



「そ、そだ魔術……『岩石成形』」



 魔術によってまず足場を作り、落ち着いた所でそこから階段状に崖を成形していく。それでそのまま上ってもいいのだが、高い所は苦手だと悟り、諦めたらしい。



「ふう……別の方法を考えよう。というか、やっぱり魔術だよな」



 まず全身を満たす魔力を目に集中させて肉体活性化。一気に良くなりすぎた視力に頭をふらつかせながらも、壁面を眺めて目的のサイニー草を探す。



「……お、みっけ。ちょっと遠いけど、『吐き出せ』」



 しばらくして、かなり高い位置にそれらしき紅を見つける。距離的に魔術の影響を与えるのは難しいのだが、背に腹はかえられない。護は存分に自らの魔力も練りこんで魔術を発動させ、崖から吐き出されたサイニー草を呆気なく手にしたのだが、必要数は最低でも五本だ。



 同じ工程を繰り返し、よく似たただの雑草と間違えたりして魔力を無駄にしながら、ようやく集まったと思えばもう日が沈もうとしている。街からは結構な距離が離れてしまっているので、護は仕方なく野宿することにした。





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