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五話
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「あの、ありがとうございました」
「あー、うん。お礼言うのはコッチの事情聞いてからにして」
「はい?」
「実はさっきの魔物、俺達が森で取り逃がした奴なんだわ」
と剣を腰の鞘に収めながら、すまなそうに男が言う。
えーと、それはつまり…。
「あなた方がちょっかい出した魔物が逃げた先で俺達に襲って来たって事ですか?」
「「そうなります」」
「何してくれてんの?」
「「すいませんでした」」
まあ、でも助けてくれたし。こっちの被害は壊れた木桶くらいだ。
「で、御二人はどこのどちら様ですか? ユグリ村の人じゃないですよね?」
「俺達は冒険者だよ、ほら」
男が首から下げていた何かを摘まんで見せる。
親指サイズの白いチェスの駒? えーと馬の駒はなんだっけか…ナイトだったかな。
で、それを見せられて俺はどう反応すればいいんだ?
「なんですか、それ?」
「いや、何って! 冒険者ギルドのクラスシンボルだよ!」
「冒険者ギルドってなんスか?」
「え? ちょっと、いくらなんでも冒険者ギルド知らないって…」
2人揃って困惑の表情を浮かべられた。
どうやら知ってて当たり前の常識らしいので、不振がられない様にコッチも言い訳しておこう。
「あの…実は俺、記憶喪失で何も覚えてないんです」
「「記憶喪失?」」
いかんな、こっちの状況を説明したつもりが余計に不振がられた。
「ロイドーーー!」
「ん?」
遠くから名前を呼ばれて振り返ると、イリスがコッチに向かって駆けて来ていた。村に戻って助けを呼んで来たにしては1人だし、それに早過ぎる。途中で心配になって引き返して来たな。
心配してくれるのはありがたいけど魔物残ってたら危ないだろうが! 今回はたまたま倒されてるけど。
「走ってくるの知り合い子?」
「(この体の)幼馴染です。ついでに言うとさっきの魔物に襲われた1人です」
「「本当にスイマセンでした」」
それはさっき聞いたんでイリスに言って下さい。
俺達もここに留まっても仕方ないので、2人に視線で「行きますか?」と聞いて「そうだね」「そうね」と返ってきた(気がする)ので、駆けてくるイリスに向かって移動を始める。
一方イリスは近付くにつれて俺と一緒に居る2人組に気付いたらしく、警戒したのかスピードが落ちる。
大丈夫アピールに手を振ってみると、イリスも手を振り返した。けど、スピードが落ちたままって事は警戒心は取れてないな。と言うか、俺が助けられたからって簡単に信用し過ぎなのかな?
あっちじゃ身の回りにそんな危険が無かったから、人を疑ってかかる必要無かったしなあ。
「ロイド、無事!?」
「おう、この人達に助けられた」
「えっと…あの、ロイドを助けてくれてありがとうございました」
「いや、その…実は君等を襲った魔物、俺達が森の中で取り逃がした奴で…」
「え? じゃあ私達とばっちり食らっただけなの?」
「「すいませんでした」」
そのくだりはもう良いよ。さっき俺がやったよ。
「で、えーと、名前名乗ってませんでしたっけ?」
「おっとそう言えば、んじゃ年上って事でコッチから名乗る。俺はアルト、冒険者ギルド所属で等級はナイト級のホワイトだ」
「じゃあ次は私ね。私はレイア、同じく冒険者ギルド所属で等級はビショップ級のブラックよ。あ、一応誤解が無いように言っとくけど、コイツとは何でもないから単に前衛として、壁として使ってるだけだから」
「ひでえ…なんつう女だ…」
夫婦漫才みたいな事してる。
頭の中でレイアさんはツンデレとメモしておく。
そして当然のように名乗りに混ぜて来たけど、冒険者ギルドとか等級とか何の事なのやら。
「私はイリスです。この先にあるユグリ村の者です」
「俺は阿久…じゃない、ロイドです」
あっぶね。今一瞬本名名乗りそうになった。
こっちに来てから名前言うの初めてだったからな。次からは気ぃつけよ。
「それで、アルトさんレイアさん。冒険者の御2人がこんな場所まで何をしに?」
「いや、実を言うと王都ルディエに行こうとしたら道に迷っちゃって…」
「アルトが『こっちが近道だー』とか言って森に入るからでしょ!」
「だってよう! 街道は森をグルッと迂回するし、だったら真っ直ぐ森突っ切る方が近道じゃねえか!」
「それで迷子になってたら世話ないわよ!」
「レイアだって反対しなかっただろ!?」
「アルトが自信満々に言うから、ちゃんと森を抜ける方法が有るのかと思ったのよ!」
「ねえよそんなの! 分かるだろ!? 何年一緒にやってるんだよ!」
完全に夫婦喧嘩やないかい。
夫婦喧嘩は犬も食わない…犬も食えない残飯みたいなやりとりいつまでも見てらんねえよ。
「ああ、ちょっと2人とも! とりあえず移動しません? こんな所で突っ立って話しててもしょうがないでしょ」
俺が横から喧嘩の腰を折ってやると、流石に人前で言い合っていたのが恥ずかしかったのか「そうだな…」「うん…」と言ったっきり黙る。仲が良いんだか悪いんだか…いや、まあ多分良いんだろうけどさ。
思わずイリスと顔を見合わせて苦笑してしまう。
「あー、移動するっつってもユグリ村って勝手に人連れてって大丈夫なの?」
「大丈夫よ。前からこの人達みたいに王都に向かおうとして森に入って村に辿り着く人が結構居たし」
「それなら問題無いか」
4人連れ立って歩きだす。
夫婦喧嘩コンビがさっきの気恥ずかしさを引きずって大人しいので、世間話がてらさっき浮かんだ疑問をイリスに聞いてみる。
「ところで冒険者って?」
「冒険者って言うのは、ええっと、魔物退治をする人達…かな?」
「ちょっと違うな、イリスちゃん」
「確かに冒険者の仕事は魔物退治がメインだけど、依頼があれば鉱物や薬草の採取、護衛に遺跡探索、未開の地の調査、なんだってやるのよ」
復活早いなバカップル。
「軍や兵士は基本的に街の中を守るだけで、外の事は手を出してくれないからなあ。そのおかげで俺達冒険者に仕事がくるんだけどさ」
「で、冒険者ギルドってのはそういう俺等の事を管理してる集まり。依頼を斡旋したり報酬を支払ったり、ランク付けしたり」
「ランク付けって?」
「ああ、コレだよコレ」
首から下げていた、さっき見せられたチェスの駒をもう一度見せられる。
「これが俺達冒険者のランクを表してる。俺なら白いナイト、レイアは黒いビショップってね」
「何故にチェスの駒…?」
「さあ? 昔からそういうランク付けなのよ。一番下がポーンで、ビショップ、ナイト、ルーク、クイーン、キングと続くの。あ、白と黒って言うのはそのランクの下位上位の意味ね」
俺が「へぇー」と説明に関心すると、アルトさんとレイアさんが真面目な顔で俺の事をジッと見る。
そんなに見られるほど間抜け面しただろうか? だったら気を付けよう、人の体だしな。
「今の話しでその反応って事は、ロイド君本当に記憶喪失なの?」
「マジか!? 俺絶対アレは冗談で言ったんだと思ってたのに」
「……ロイドは本当に記憶を無くしてるんです」
できればイリスの前で記憶喪失の話に触れるのは止めて欲しかった。もう、手遅れだけど。
冒険者2人も、イリスの様子が沈んだ事に気付いたらしく口を閉じる。
イリスも何か言おうとするが、チラッと俺に視線を向けた途端にその気配が引っ込む。
少しは落ち着いて来たと思ったけど、まだ全然っぽいな。もうちょい落ち着いたら俺が別人だって話すつもりだったんだけど、もう少し待った方が良いかな?
まあ、言うタイミング逸して俺が言うの怖がってるってのもあんだけどさ……。
* * *
ああ、ようやっと村に帰って来た。
水汲みに行っただけでなんでこんな疲れてんの? しかも水汲めてねえし。桶壊れちゃったし。踏んだり蹴ったりも良いとこだよ。
俺の精神的なダメージ報告はともかく、外の人間を連れているので村に帰ってすぐに村長のところに直行。
一通り事情を説明する。まあ、俺は相変わらず横で聞いているだけの簡単なお仕事ですけどね。
イリスと冒険者2人から事情説明を聞き終えた村長は、いつも通りに髭を撫でながら頷くと口を開く。
「なるほど。では御二人は王都ルディエに行きたいが、道が分からない、と?」
「情けない話ですが」
「ふむ、では森の中の案内を村の者にさせましょう」
「本当ですか!?」
「よかったー! このアホと2人じゃ、あの森を自力で抜けれる自信なかったんですよー」
「ただし、一つ条件が」
呑気に喜んでいた2人の顔が引きつる。世の中はそんなに甘くはないのだ。
「案内に出す者を王都まで護衛して欲しいのです」
「トバル様、もしかして王都の薬学所へ?」
イリスが聞くと「うむ」と頷く。が、意味の分からない俺含めた3人は頭を傾げるばかりである。
そんな俺達の様子を見て、村長が説明をしてくれた。
「この村の周りで取れるズーラ草がどうにも珍しい物らしくてな。時々王都の薬学所に卸しておるんじゃよ。あまり量が取れんが、それでもこの村の貴重な収入源でな」
「なるほど、そう言う事なら俺達は構いませんよ。な、レイア?」
「ええ。森の中の魔物もポーンの白と黒程度の驚異度のしか居ないみたいだし、問題無いんじゃない? でも、帰りはどうするんですか? 他の冒険者を雇うんですか?」
「いえいえ、帰りはハーフ・ポータルを使わせますので」
「「ハーフ・ポータル!?」」
アルトさんは椅子から転げ落ちて、レイアさんは身を乗り出して、2人とも顔は驚愕で歪んでいる。
一方俺は何をそんなに驚いているのか分からずやっぱり首を傾げている。
「この村の人は転移魔法が使えるんですか!?」
「まさか。そのスクロールですよ」
2人とも改めて椅子に座りなおし、顔を見合わせて納得したように「そりゃそうだよねえ」と呟いている。
転移魔法? 瞬間移動的な魔法なのかな? 話の腰折るから聞かないけど。
「ええっと、それじゃ王都には今すぐ向かうんですか? 俺達はいつでも行けますけど」
「いえ、今から行っても着く頃には陽が落ちて門が閉まってしまいますので。出発は明日にしましょう。陽が昇る前に村を出れば、門が閉まる前には着く筈です」
「そうですか。それじゃ、出発まではノンビリさせて貰いますよ」
「ええ。村に宿もありませんので、ワシの家を好きに使って下さい」
「村長様、ご厚意に甘えさせていただきます」
丁寧にペコっと頭を下げるレイアさん。それを見て慌てて自分も頭を下げるアルトさん。
この二人が一緒になったら絶対カカア天下だな。間違いない。
「あの、トバル様? ルディエに向かう案内の者なのですが、私とロイドではダメでしょうか?」
おおう、油断してたところに意外な提案。
いや、でも、正直この世界の街って興味あるな。コッチ来てから一週間、この村と平原と森以外の場所行った事無いからね。
「そうじゃな。もしかしたら、いつもとは違う場所に行けばロイドの記憶も戻るかもしれんしな」
ああ、イリスの提案はそういう事か……。絶対にその期待には答えられない事が分かっているので心が痛む。
「ではイリス、森の案内はお前に任せよう。ロイドの事も頼むぞ」
「はい!」
こうして俺は王都ルディエ…とやらに向かう事になった。
この時の俺は、ちょっとしたお使いか観光くらいの気持ちでそれを聞いていたのだが…。
当然、俺は知るよしも無い。
そこで何に出会う事になるのかを……。
「あー、うん。お礼言うのはコッチの事情聞いてからにして」
「はい?」
「実はさっきの魔物、俺達が森で取り逃がした奴なんだわ」
と剣を腰の鞘に収めながら、すまなそうに男が言う。
えーと、それはつまり…。
「あなた方がちょっかい出した魔物が逃げた先で俺達に襲って来たって事ですか?」
「「そうなります」」
「何してくれてんの?」
「「すいませんでした」」
まあ、でも助けてくれたし。こっちの被害は壊れた木桶くらいだ。
「で、御二人はどこのどちら様ですか? ユグリ村の人じゃないですよね?」
「俺達は冒険者だよ、ほら」
男が首から下げていた何かを摘まんで見せる。
親指サイズの白いチェスの駒? えーと馬の駒はなんだっけか…ナイトだったかな。
で、それを見せられて俺はどう反応すればいいんだ?
「なんですか、それ?」
「いや、何って! 冒険者ギルドのクラスシンボルだよ!」
「冒険者ギルドってなんスか?」
「え? ちょっと、いくらなんでも冒険者ギルド知らないって…」
2人揃って困惑の表情を浮かべられた。
どうやら知ってて当たり前の常識らしいので、不振がられない様にコッチも言い訳しておこう。
「あの…実は俺、記憶喪失で何も覚えてないんです」
「「記憶喪失?」」
いかんな、こっちの状況を説明したつもりが余計に不振がられた。
「ロイドーーー!」
「ん?」
遠くから名前を呼ばれて振り返ると、イリスがコッチに向かって駆けて来ていた。村に戻って助けを呼んで来たにしては1人だし、それに早過ぎる。途中で心配になって引き返して来たな。
心配してくれるのはありがたいけど魔物残ってたら危ないだろうが! 今回はたまたま倒されてるけど。
「走ってくるの知り合い子?」
「(この体の)幼馴染です。ついでに言うとさっきの魔物に襲われた1人です」
「「本当にスイマセンでした」」
それはさっき聞いたんでイリスに言って下さい。
俺達もここに留まっても仕方ないので、2人に視線で「行きますか?」と聞いて「そうだね」「そうね」と返ってきた(気がする)ので、駆けてくるイリスに向かって移動を始める。
一方イリスは近付くにつれて俺と一緒に居る2人組に気付いたらしく、警戒したのかスピードが落ちる。
大丈夫アピールに手を振ってみると、イリスも手を振り返した。けど、スピードが落ちたままって事は警戒心は取れてないな。と言うか、俺が助けられたからって簡単に信用し過ぎなのかな?
あっちじゃ身の回りにそんな危険が無かったから、人を疑ってかかる必要無かったしなあ。
「ロイド、無事!?」
「おう、この人達に助けられた」
「えっと…あの、ロイドを助けてくれてありがとうございました」
「いや、その…実は君等を襲った魔物、俺達が森の中で取り逃がした奴で…」
「え? じゃあ私達とばっちり食らっただけなの?」
「「すいませんでした」」
そのくだりはもう良いよ。さっき俺がやったよ。
「で、えーと、名前名乗ってませんでしたっけ?」
「おっとそう言えば、んじゃ年上って事でコッチから名乗る。俺はアルト、冒険者ギルド所属で等級はナイト級のホワイトだ」
「じゃあ次は私ね。私はレイア、同じく冒険者ギルド所属で等級はビショップ級のブラックよ。あ、一応誤解が無いように言っとくけど、コイツとは何でもないから単に前衛として、壁として使ってるだけだから」
「ひでえ…なんつう女だ…」
夫婦漫才みたいな事してる。
頭の中でレイアさんはツンデレとメモしておく。
そして当然のように名乗りに混ぜて来たけど、冒険者ギルドとか等級とか何の事なのやら。
「私はイリスです。この先にあるユグリ村の者です」
「俺は阿久…じゃない、ロイドです」
あっぶね。今一瞬本名名乗りそうになった。
こっちに来てから名前言うの初めてだったからな。次からは気ぃつけよ。
「それで、アルトさんレイアさん。冒険者の御2人がこんな場所まで何をしに?」
「いや、実を言うと王都ルディエに行こうとしたら道に迷っちゃって…」
「アルトが『こっちが近道だー』とか言って森に入るからでしょ!」
「だってよう! 街道は森をグルッと迂回するし、だったら真っ直ぐ森突っ切る方が近道じゃねえか!」
「それで迷子になってたら世話ないわよ!」
「レイアだって反対しなかっただろ!?」
「アルトが自信満々に言うから、ちゃんと森を抜ける方法が有るのかと思ったのよ!」
「ねえよそんなの! 分かるだろ!? 何年一緒にやってるんだよ!」
完全に夫婦喧嘩やないかい。
夫婦喧嘩は犬も食わない…犬も食えない残飯みたいなやりとりいつまでも見てらんねえよ。
「ああ、ちょっと2人とも! とりあえず移動しません? こんな所で突っ立って話しててもしょうがないでしょ」
俺が横から喧嘩の腰を折ってやると、流石に人前で言い合っていたのが恥ずかしかったのか「そうだな…」「うん…」と言ったっきり黙る。仲が良いんだか悪いんだか…いや、まあ多分良いんだろうけどさ。
思わずイリスと顔を見合わせて苦笑してしまう。
「あー、移動するっつってもユグリ村って勝手に人連れてって大丈夫なの?」
「大丈夫よ。前からこの人達みたいに王都に向かおうとして森に入って村に辿り着く人が結構居たし」
「それなら問題無いか」
4人連れ立って歩きだす。
夫婦喧嘩コンビがさっきの気恥ずかしさを引きずって大人しいので、世間話がてらさっき浮かんだ疑問をイリスに聞いてみる。
「ところで冒険者って?」
「冒険者って言うのは、ええっと、魔物退治をする人達…かな?」
「ちょっと違うな、イリスちゃん」
「確かに冒険者の仕事は魔物退治がメインだけど、依頼があれば鉱物や薬草の採取、護衛に遺跡探索、未開の地の調査、なんだってやるのよ」
復活早いなバカップル。
「軍や兵士は基本的に街の中を守るだけで、外の事は手を出してくれないからなあ。そのおかげで俺達冒険者に仕事がくるんだけどさ」
「で、冒険者ギルドってのはそういう俺等の事を管理してる集まり。依頼を斡旋したり報酬を支払ったり、ランク付けしたり」
「ランク付けって?」
「ああ、コレだよコレ」
首から下げていた、さっき見せられたチェスの駒をもう一度見せられる。
「これが俺達冒険者のランクを表してる。俺なら白いナイト、レイアは黒いビショップってね」
「何故にチェスの駒…?」
「さあ? 昔からそういうランク付けなのよ。一番下がポーンで、ビショップ、ナイト、ルーク、クイーン、キングと続くの。あ、白と黒って言うのはそのランクの下位上位の意味ね」
俺が「へぇー」と説明に関心すると、アルトさんとレイアさんが真面目な顔で俺の事をジッと見る。
そんなに見られるほど間抜け面しただろうか? だったら気を付けよう、人の体だしな。
「今の話しでその反応って事は、ロイド君本当に記憶喪失なの?」
「マジか!? 俺絶対アレは冗談で言ったんだと思ってたのに」
「……ロイドは本当に記憶を無くしてるんです」
できればイリスの前で記憶喪失の話に触れるのは止めて欲しかった。もう、手遅れだけど。
冒険者2人も、イリスの様子が沈んだ事に気付いたらしく口を閉じる。
イリスも何か言おうとするが、チラッと俺に視線を向けた途端にその気配が引っ込む。
少しは落ち着いて来たと思ったけど、まだ全然っぽいな。もうちょい落ち着いたら俺が別人だって話すつもりだったんだけど、もう少し待った方が良いかな?
まあ、言うタイミング逸して俺が言うの怖がってるってのもあんだけどさ……。
* * *
ああ、ようやっと村に帰って来た。
水汲みに行っただけでなんでこんな疲れてんの? しかも水汲めてねえし。桶壊れちゃったし。踏んだり蹴ったりも良いとこだよ。
俺の精神的なダメージ報告はともかく、外の人間を連れているので村に帰ってすぐに村長のところに直行。
一通り事情を説明する。まあ、俺は相変わらず横で聞いているだけの簡単なお仕事ですけどね。
イリスと冒険者2人から事情説明を聞き終えた村長は、いつも通りに髭を撫でながら頷くと口を開く。
「なるほど。では御二人は王都ルディエに行きたいが、道が分からない、と?」
「情けない話ですが」
「ふむ、では森の中の案内を村の者にさせましょう」
「本当ですか!?」
「よかったー! このアホと2人じゃ、あの森を自力で抜けれる自信なかったんですよー」
「ただし、一つ条件が」
呑気に喜んでいた2人の顔が引きつる。世の中はそんなに甘くはないのだ。
「案内に出す者を王都まで護衛して欲しいのです」
「トバル様、もしかして王都の薬学所へ?」
イリスが聞くと「うむ」と頷く。が、意味の分からない俺含めた3人は頭を傾げるばかりである。
そんな俺達の様子を見て、村長が説明をしてくれた。
「この村の周りで取れるズーラ草がどうにも珍しい物らしくてな。時々王都の薬学所に卸しておるんじゃよ。あまり量が取れんが、それでもこの村の貴重な収入源でな」
「なるほど、そう言う事なら俺達は構いませんよ。な、レイア?」
「ええ。森の中の魔物もポーンの白と黒程度の驚異度のしか居ないみたいだし、問題無いんじゃない? でも、帰りはどうするんですか? 他の冒険者を雇うんですか?」
「いえいえ、帰りはハーフ・ポータルを使わせますので」
「「ハーフ・ポータル!?」」
アルトさんは椅子から転げ落ちて、レイアさんは身を乗り出して、2人とも顔は驚愕で歪んでいる。
一方俺は何をそんなに驚いているのか分からずやっぱり首を傾げている。
「この村の人は転移魔法が使えるんですか!?」
「まさか。そのスクロールですよ」
2人とも改めて椅子に座りなおし、顔を見合わせて納得したように「そりゃそうだよねえ」と呟いている。
転移魔法? 瞬間移動的な魔法なのかな? 話の腰折るから聞かないけど。
「ええっと、それじゃ王都には今すぐ向かうんですか? 俺達はいつでも行けますけど」
「いえ、今から行っても着く頃には陽が落ちて門が閉まってしまいますので。出発は明日にしましょう。陽が昇る前に村を出れば、門が閉まる前には着く筈です」
「そうですか。それじゃ、出発まではノンビリさせて貰いますよ」
「ええ。村に宿もありませんので、ワシの家を好きに使って下さい」
「村長様、ご厚意に甘えさせていただきます」
丁寧にペコっと頭を下げるレイアさん。それを見て慌てて自分も頭を下げるアルトさん。
この二人が一緒になったら絶対カカア天下だな。間違いない。
「あの、トバル様? ルディエに向かう案内の者なのですが、私とロイドではダメでしょうか?」
おおう、油断してたところに意外な提案。
いや、でも、正直この世界の街って興味あるな。コッチ来てから一週間、この村と平原と森以外の場所行った事無いからね。
「そうじゃな。もしかしたら、いつもとは違う場所に行けばロイドの記憶も戻るかもしれんしな」
ああ、イリスの提案はそういう事か……。絶対にその期待には答えられない事が分かっているので心が痛む。
「ではイリス、森の案内はお前に任せよう。ロイドの事も頼むぞ」
「はい!」
こうして俺は王都ルディエ…とやらに向かう事になった。
この時の俺は、ちょっとしたお使いか観光くらいの気持ちでそれを聞いていたのだが…。
当然、俺は知るよしも無い。
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