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八話

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背中に固い感触。地面だろうか? 

 ………暗い。

 何も見えない。周りが暗闇だからなのか、俺の目が使い物にならなくなったからなのかは分からないが、俺が視界と認識するソレは黒一色だった。

 ………痛い。

 どこが痛いとかじゃなく、自分の体がどこまでなのかが分からなくなっていて、部位の痛みを判別する事さえできない。

 重く鋭い痛みと、痛みの上から被さるように襲ってくる熱さと、命の証である体温が抜けていく寒気。

 俺にとっては2度目の死。

 1度目は痛みを感じる事はなかったせいか、自分が死んだという事実がどこか遠くの出来事のように感じていた。

 けど、こうして死に至る痛みを負うと分かる。

 怖い。

 すぐそこまで迫っている、生物皆が逃れる事の許されない絶対的な終わり。

 死に捕まる事が恐ろしくて堪らない。

 すでに途切れかけている自分の生から手を離す事が出来ない。それを手放せば、この痛みや恐ろしさを終わりに出来る事が分かっていても、それでも自分の意思でそれを選ぶ事ができない。

 生を諦められない。諦めたくない。

 死にたくない。

 いや、違う。



――― 死ねない!



 こんなどことも知れない場所で。

 こんな誰も俺を知る人間の居ない異世界で。

 別人の体のままで。

 この体の本当の持ち主の帰りを待っているあの子を置いて、簡単に死を選べる訳がない!



「ッ――あ゛…ぐ…ッっ!!!」



 痛い!!

 けど、今の痛みの場所は分かる…喉だ。

 自分の喉がどんな状態なのかは想像もしたくないが、少なくてもまだ体は生きてる。

 声を出せたから何だ、と思うが、コレが今の俺に出来る死への抗いだった。



「――い゛ッヅ…ヤ……ダ――ッ!」



 一言発するのがシンドイ。自分の命が削り落ちるのが分かる。



『待チ侘ビタ』



 誰、だ……!?

 視界に映らなくても分かる。耳に聞こえなくたって分かる。

 すぐ其処に“何か”居る。

 巨大だが曖昧な、幽霊のような気配。



『我ハ“赤”』



 赤?



『オ前ハ生ヲ望ム者カ?』



 ああ…そうだ! 俺は、まだ……死ね、ない…から!



『オ前ニ、生キル力ヲ与エル』



 …生きる、力?



『引キ換エニ、オ前ノ人トシテノ運命ヲ貰ウ。是カ否カ選ブガ良イ』



 ……運命…? 少なくても、ここで…死ぬ、のは…ゴメンだな……。



『是ト判断スル』



 ああ。



『我、汝ヲ≪原初ノ赤≫ノ継承者ト認メル』



 黒に染まった視界が、赤に塗り替えられた―――…。



『オ前ノ往ク道ニ幾千、幾万ノ試練ヲ』



 暖かな力強い何かに包まれるように、俺の意識は闇に―――いや、赤の中に落ちて行った。



『ソシテ、ソレヲ越エル為ノ力ヲ』



 深く深く沈んでいく意識に声が響く。



『心セヨ。人トシテノ運命ヲ捨テタ世界ノ道標ヨ―――』
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