15 / 62
十五話
しおりを挟む
光。
不吉で、見る者に不安を与える黒い光。
ルディエを囲むように地面から吹きあがる黒い光。
「敵襲うううーーーーッ!!!」
誰かの叫び声。
同時に街中に響き渡る甲高い鐘の音。
門の方で上がる爆音と、黒い煙。
俺にだって分かる。これはとてつもなくヤバい状況だ!
「アキヒロ様!!」
たまたま近くに居た兵士が、耳障りな程の大声で明弘さんを呼ぶ。
呼ばれて凍りついていた表情が溶けて、ハッと我に返り俺を見る。勇者アキヒロではなく、威厳はなく、力も無く、怯えたただのトラック運転手の渡部明弘の目だった。
しかし、それも一瞬。
ルディエの現在の状況を思い出したのか、スイッチが切り替わったように目に力強さが戻る。
ルディエの守り手であり、皆の希望を背負う勇者アキヒロの目。
「良太君、すまない。今はルディエを護らないと!」
「………良いですよ。勇者様ですもんね? 俺も早いとこイリス探してどっか隠れますから」
「……この話の続きは必ず後で!」
「…………」
俺は沈黙で答えた。
正直に言ってしまえば、俺は恐かった。
この人と話すと、嫌でも自分の死を実感してしまう。己の死に繋がるこの人を許せない気持ちが大きくなる。自分の心が黒く重い気持ちで満たされていくのが分かる。多分、この黒いもので心がいっぱいになったら、俺はこの人を本当の意味で許せなくなる。
勇者として、同じ異世界人として、1人の人間として信頼したこの人を恨んでしまう自分が怖い。
頭では分かってる。明弘さんは悪くない。
俺がこの状態になってるのは、恐らく明弘さんを対象に発動した召喚魔法に巻き込まれたからだ。本来なら肉体ごとコッチの世界に引っ張り込まれる筈だったが、事故で肉体が死んだ事で中身だけがコッチに来た。
事故は運転してる明弘さんが途中で消えた事で起こったものだとすれば、俺を轢いたトラックは無人だったわけで、この人を責めるのはお門違いだ。
じゃあ、だったら、俺は…自分の死への怒りをどこに向ければ良いんだ…? 俺とこの人をコッチの世界に呼んだこの国か?
「街中は危険だ、イリスさんを探すなら気を付けて!」
「分かってますよ…」
2度も3度も死を味わうなんて洒落にならん。
頭の中がグシャグシャで、まともに考えを纏められない。けど、今自分がやらなければならない事は分かっている。
イリスを護る事だ!
俺自身の事情は一先ず横に投げておけ!
俺がロイド君の体を使う事になった事情は関係ない。事実として、今この体を動かしているのは俺なのだから、俺がロイド君の代わりだ!
「勇者様御早く!」
「はい! 状況確認を早急に、東門には僕が―――」
兵士に指示を出し始めた明弘さんを背に走り出す。
通りに溢れた逃げ惑う人、人、人、ああ! もう鬱陶しい!! 人の流れがバラバラなのは、皆どこに逃げれば良いのか分かっていないからか。とにかく、その場に留まる事が恐ろしいからどこでも良いから逃げ出したいって感じかな?
いや、冷静に分析してる場合じゃねえよ!? 俺だって他人事じゃねえ! さっさとイリスを見つけなきゃ―――って、そうだ、イリス見つけてもちゃんと話聞いてもらえるかも問題だな。
けど探すたってどこを……うーん、泣きながら逃げたんだから、人の居る所には逃げないか…? 大きな通りは避けて人気のない場所かな?
いや、待てよ。流石にこの騒ぎに気付いてるだろうし移動したんじゃないのか? イリスがルディエの中で向かう先なんて数えるしかない。
とりあえず宿屋からだな。
にしても、街の周囲がやけに騒がしい。音の発生源が味方ってのはどう考えても無理があるよなあ…。
とすれば、今ルディエは敵に囲まれている状況にある。
そして転移魔法が使えない。
これ、完全に仕組まれてんじゃないの? 明弘さんの読みが当たってたって事か…勘弁してくれよ。
ルディエの中に居る人間が助かる方法は、もう敵を討つか、籠城するしかない。いや、籠城できるような蓄えなんてあるのか?
………そっちの心配は後だな、とにかくイリスを探そう。
不吉で、見る者に不安を与える黒い光。
ルディエを囲むように地面から吹きあがる黒い光。
「敵襲うううーーーーッ!!!」
誰かの叫び声。
同時に街中に響き渡る甲高い鐘の音。
門の方で上がる爆音と、黒い煙。
俺にだって分かる。これはとてつもなくヤバい状況だ!
「アキヒロ様!!」
たまたま近くに居た兵士が、耳障りな程の大声で明弘さんを呼ぶ。
呼ばれて凍りついていた表情が溶けて、ハッと我に返り俺を見る。勇者アキヒロではなく、威厳はなく、力も無く、怯えたただのトラック運転手の渡部明弘の目だった。
しかし、それも一瞬。
ルディエの現在の状況を思い出したのか、スイッチが切り替わったように目に力強さが戻る。
ルディエの守り手であり、皆の希望を背負う勇者アキヒロの目。
「良太君、すまない。今はルディエを護らないと!」
「………良いですよ。勇者様ですもんね? 俺も早いとこイリス探してどっか隠れますから」
「……この話の続きは必ず後で!」
「…………」
俺は沈黙で答えた。
正直に言ってしまえば、俺は恐かった。
この人と話すと、嫌でも自分の死を実感してしまう。己の死に繋がるこの人を許せない気持ちが大きくなる。自分の心が黒く重い気持ちで満たされていくのが分かる。多分、この黒いもので心がいっぱいになったら、俺はこの人を本当の意味で許せなくなる。
勇者として、同じ異世界人として、1人の人間として信頼したこの人を恨んでしまう自分が怖い。
頭では分かってる。明弘さんは悪くない。
俺がこの状態になってるのは、恐らく明弘さんを対象に発動した召喚魔法に巻き込まれたからだ。本来なら肉体ごとコッチの世界に引っ張り込まれる筈だったが、事故で肉体が死んだ事で中身だけがコッチに来た。
事故は運転してる明弘さんが途中で消えた事で起こったものだとすれば、俺を轢いたトラックは無人だったわけで、この人を責めるのはお門違いだ。
じゃあ、だったら、俺は…自分の死への怒りをどこに向ければ良いんだ…? 俺とこの人をコッチの世界に呼んだこの国か?
「街中は危険だ、イリスさんを探すなら気を付けて!」
「分かってますよ…」
2度も3度も死を味わうなんて洒落にならん。
頭の中がグシャグシャで、まともに考えを纏められない。けど、今自分がやらなければならない事は分かっている。
イリスを護る事だ!
俺自身の事情は一先ず横に投げておけ!
俺がロイド君の体を使う事になった事情は関係ない。事実として、今この体を動かしているのは俺なのだから、俺がロイド君の代わりだ!
「勇者様御早く!」
「はい! 状況確認を早急に、東門には僕が―――」
兵士に指示を出し始めた明弘さんを背に走り出す。
通りに溢れた逃げ惑う人、人、人、ああ! もう鬱陶しい!! 人の流れがバラバラなのは、皆どこに逃げれば良いのか分かっていないからか。とにかく、その場に留まる事が恐ろしいからどこでも良いから逃げ出したいって感じかな?
いや、冷静に分析してる場合じゃねえよ!? 俺だって他人事じゃねえ! さっさとイリスを見つけなきゃ―――って、そうだ、イリス見つけてもちゃんと話聞いてもらえるかも問題だな。
けど探すたってどこを……うーん、泣きながら逃げたんだから、人の居る所には逃げないか…? 大きな通りは避けて人気のない場所かな?
いや、待てよ。流石にこの騒ぎに気付いてるだろうし移動したんじゃないのか? イリスがルディエの中で向かう先なんて数えるしかない。
とりあえず宿屋からだな。
にしても、街の周囲がやけに騒がしい。音の発生源が味方ってのはどう考えても無理があるよなあ…。
とすれば、今ルディエは敵に囲まれている状況にある。
そして転移魔法が使えない。
これ、完全に仕組まれてんじゃないの? 明弘さんの読みが当たってたって事か…勘弁してくれよ。
ルディエの中に居る人間が助かる方法は、もう敵を討つか、籠城するしかない。いや、籠城できるような蓄えなんてあるのか?
………そっちの心配は後だな、とにかくイリスを探そう。
3
あなたにおすすめの小説
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます
水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。
勇者、聖女、剣聖――
華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。
【戦術構築サポートAI】
【アンドロイド工廠】
【兵器保管庫】
【兵站生成モジュール】
【拠点構築システム】
【個体強化カスタマイズ】
王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。
だが――
この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。
最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。
識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。
「今日からお前はレイナだ」
これは、勇者ではない男が、
メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。
屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、
趣味全開で異世界を生きていく。
魔王とはいずれ戦うことになるだろう。
だが今は――
まずは冒険者登録からだ。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる