無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

文字の大きさ
45 / 62

四十五話

しおりを挟む
 陽が落ちる前にダロスに到着。

 道中で、あの後3回魔物とのエンカウントがあったが、全部パンドラが倒した。ここら辺の魔物はそもそも最低級ポーン級が多いとは言え、あんなにアッサリと処理されると俺の出る幕がない…。楽出来るから良いと言えば良いんだが…サイボーグとは言え見た目が女のパンドラに護られているのは……なんか、男として凄ぇ微妙な気分…。

 まあ、それはさて置き、ダロスの話。

 切り開かれた山の中腹に位置する、鉱夫達によって支えられている町。

 広さで言えばソグラスの半分くらい。そこまで賑やかさはなく、鉱山の町と言うだけあって鉱夫らしき体格の良い男がそこら中に見える。煙を吐いている大きい建物も見えるが、鉱物の精錬所かな?

 気になったのは、町の中心の小さな広場のど真ん中で、堂々と鎮座している……何だアレ…? ゴミか? 黒い棒状の何かが地面に突き刺さって居て、その周りに人が集まって何やら騒いでいた。



「さあさあ! 今日の挑戦は誰がするんだ!?」



 人混みの中心で、陽気な男が大声を張り上げて場を盛り上げている。

 そして、男の声に反応して何人かの男たちが手を上げて前に出た。



「何してんだありゃ?」

「分かりません」



 でしょうね。別に答えを期待して訊いた訳じゃねえけど。

 何をしているのか分からない俺等2人は、黙って成り行きを見守る。



「さあ! 今日のチャレンジャーはこの3人だ!! 無謀で勇敢な挑戦者に皆、拍手!!」



 ノリが足りないのか拍手はまばらだ。



「何百年も地面に刺さったままのこの“オーバーエンド”の神器! 今日こそは抜ける人間が現れるのかああ!?」



 え? 今オーバーエンドって言いました? あの黒い棒状の何だか良く分からない物がオーバーエンドって事?

 俺が1人で頭に疑問符を浮かべていると、件の黒い棒に1人の男が近づいて行く。



「よおし、まずは俺様だ!! へへっ、オーバーエンドがこんな簡単に手に入るなんてラッキーだぜ!」

「そのセリフは抜いてから言ってくれ! では、どうぞ!!」



 男が軽い足取りで近付く…が、残り3mとなった所で足が止まり、急に自分の体を抱きしめて震えだした。



「おいおい、抜くも抜かないも近付かないと始まらないぜ? さあ、勇気を持って足を踏み出すんだ!!」



 陽気な男がケツを叩くような事を言って叱咤するが、震える男はその場から前に進めない…いや、それどころか後退りして戻って来た。



「ああ、残念…君もオーバーエンドの持ち主には認められなかったみたいだねえ!」



 今のはどう言う事だ? 周りの連中が気付いたのかは知らないが、【熱感知】を持つ俺にはハッキリ見えた。あの黒い棒に近付こうとした男の体温が急激に低下し始めた。

 俺の首にクラスシンボルと一緒に吊るしてある指輪に触れる。この指輪は俺にしか装備出来ない神器だ。だから月岡さんが指に嵌めようとしたらそれを拒否して指から弾け飛んだ。あの近付いた人間の体温が急激に低下したのも、もしかして同じ拒否反応なんじゃねえかな…。

 でも、だとするとあの見た目が粗大ゴミっぽい棒は神器だって事になるけど…。

 あ、次の挑戦者が1人目と全く同じ反応しながら戻って来た。

 しかし、あれは一体どういう状況なんだ? いまいち良く分からんな。と頭を捻っていたら、丁度近くにいた野次馬のオッサン達の会話が耳に入った。



「あ~あ、今日もやってるよ」「無駄無駄。何百年あそこに刺さってると思ってんだよ」「あっ、最後の1人も戻って来ちまったよ。やっぱりな~」「毎日毎日懲りずに挑戦者が現れるけど、“剣”に触れる事が出来た奴すらいねえじゃねえかよ」



 剣って言ったよな? あの黒い棒は剣なのか?



「誰も触れるどころか近付く事も出来ない」「もう伝説の剣って言うより見世物だもんなあ…」「見世物としてもあの見た目はどうなのさ?」「仕方ねえだろ? 誰も近付けないから何百年も雨風に曝されて、あの通り…」「一応巻き上がった土や砂が張り付いて剣っぽい形を保っているけど、剣自体はもうとっくに錆びて、いつ折れたっておかしくないだろ」



 ゲラゲラと品の無い笑い方をする男達のお陰で、とりあえずあの黒い棒の事は分かった。

 えーと…話を纏めると、何百年前から地面に突き刺さってたオーバーエンドの剣が、誰にも抜けず近付かせずで今も刺さったままになっている、と。

 そこで昨日の月岡さんに「オーバーエンドを見てみたい」と口にした時の事を思い出す。あの時もあの人、悪い笑顔したよな……もしかして、あの時点でこの仕事させる事決定してたんじゃね?

 クソ、考えれば考える程なんか良いように使われてる気がする。イライラするからこの件は考えるのヤメヤメ!

 ……しかし、あの剣(?)。近付いた人間の体温を低下させるって…冷気を操る剣だったのか? 俺の能力とは相性悪そう。仮に俺があのオーバーエンドを手にしたとして、炎熱と冷気を両方操れて最強! なんて、そんな都合の良い話はない。



「マスター、あの剣は――――」

「っと、ヤベエ! 日が暮れる前に荷物届けねえと!? あっ、そうだ宿も先に抑えとかないとマズイ!? ……ん? パンドラ、何か言ったか?」

「いえ、なんでもありません」

「そうか。んじゃ、ちゃっちゃと納品してこの荷物とオサラバしようぜ」

「はい」



 納品は滞りなく終わった。

 俺が「月岡さんからの届け物だ」と言うと、受け取りの人達は皆「あー、はいはいありがとうねー」と特に疑う事もなく受け取った。あの人、人使い荒いし、時々目付きが堅気じゃなくなるけど、商人としては信用されてるって事かな?

 まあ、あの人の評価はどうでも良いや。人がどう思ってようと、俺にとっては性格と目付きの悪い同郷の人だし。

 そんな事よりさっさと宿探そう。それと、ついでに冒険者ギルドもだな。早いとこパンドラも冒険者になって貰いたいし、登録時の課題によっては今日中に終わらせられるかもしれない。

 その道中、ふと一件の道具屋の前で足が止まる。



「マスター?」

「うーん…ちょっと入るけど良いか?」

「はい」



 パンドラを連れて道具屋…と言うか、実際には雑貨屋のような…何でも屋のような…色んな商品が棚に所狭しと並べられている様は、どこかアッチの世界の駄菓子屋の雰囲気を思い出してちょっとワクワクしてしまう。



「いらっしゃい、坊ちゃんと……メイドさん? この町の人じゃないね」

「ああ、ちょっと用事があって立ち寄っただけなんだ」

「そうかい。こんな山の上までご苦労さんよ。それで、何かお探しかい?」

「髪留めとか置いてない?」

「髪留め? そんな上等な物は置いてないよ」



 髪留めって上等な物か? いや、でもコッチの世界じゃ安いプラスチックの量産品とか作れないし、何より身なりを整える為に金使うって習慣がねえのかな? だったら、髪留めとかを買うのは必然的に金に余裕のある人間って事になるか……。



「マスター、それは」

「ああ、パンドラ用だよ。いつまでも布の切れっぱしで髪結ばせる訳にはいかねえだろ?」

「私は構いませんが」



 お前は絶対にそう言うと思ったよ。

 けど、だからこそこうやって無理やりにでも買ってやらないとな。



「それで髪留めが無いってんなら、皆どうやって髪纏めてんの?」

「そりゃあ坊ちゃん、布でほっかむりにしたり、結んだりだろう」



 やっぱりそうなるよなあ。

 しかし布かあ…。ふと、棚に置いてあった織物に目が行く。綺麗な藍色の…へえ手触りも良いし、サイズもこれくらいなら丁度いいな。



「パンドラ、色の好き嫌いあるか?」

「いえ」

「そうか。んじゃ、この織物くれ」

「坊ちゃん、そいつは隣の共和国産だ。ちょっと値が張るぜ?」



 一瞬たじろいてしまうが、必要経費として割り切ろう。これから一緒に旅する仲間になるんだし、その友好費と考えれば悪くない金の使い方だ。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

処理中です...