26 / 50
ならば④
しおりを挟む
「ファビアン殿下。いつ、私を婚約者にしてくださいますか?」
中庭で、私は甘えるようにファビアン殿下の体に頭を寄せた。
ファビアン殿下の鼻の下が伸びる。
どうやら、ファビアン殿下は、クリスティアーヌ様が完璧すぎて、甘えられたことがないらしく、私が甘えるのをことのほか喜ぶのだ。
だから、甘えることにしている。
その方が、ファビアン殿下も機嫌がいいから。
「ノエリア様、それは、口にしてはいけないことですわ!」
向かいのベンチから、声がかかる。
あら、いたのね。
彼女は、いつも私に突っかかってくる同級生。カリマ = サルヴェール男爵令嬢。男爵令嬢の身分は同じだけど、彼女はれっきとした令嬢で、クリスティアーヌ様を尊敬しているらしく、ファビアン殿下にべったりと一緒にいる私のことを、目の敵にしている。
彼女の周りで、あ、という気まずい空気が広がったのがわかる。
ふふふ。不敬罪になるのを怖がっているのかしら? もう、私に怖いものなんてないの。
でもね、大丈夫。
私が陥れるのは、一人だけでいいから。
「ふふふ。私たちがお似合いだって、誰もがわかるのね」
カリマ様の瞳が死んだのがわかる。私の言葉に呆れているのね?
でも、煙に巻くには、これが一番なのよ?
「ノエリア、今のはそういう意味なのかな?」
ぱちくりと瞬きをしているファビアン殿下が首を傾げる。ほら、大丈夫よ。気にしないで。
「ええ。そうですわ! ふふ。私たちのこと、学院の皆さまも応援してくださっているのよ」
「そうか。心強いな」
「ち……」
カリマ様の口が友人たちの手によってふさがれる。カリマ様の友人の一人がカリマ様の耳に口を寄せて何やら告げている。
んー、んー、とカリマ様が声を上げると、カリマ様の友人たちが口から手を離す。
カリマ様が忠告した友人を見る。
「そ、そんなことないわよ。事実を述べているだけだもの!」
「カリマ様、言っても無駄だって、そもそもわかっているじゃない。ノエリア様には言葉が通じないし、ファビアン殿下は理解もしてくださらないわ」
一番扱いにくいのは、この方たちなのよね。他の学院生は、私がついた嘘を信じたファビアン殿下の嘘を信じてくれたりしているのに、彼女たちだけはファビアン殿下の言葉に懐疑的。
そもそも、普通に考えればわかるんだけど。
彼女たちが正しいって。
「いえ! 私は今日こそ、ファビアン殿下に理解していただくわ!」
カリマ様が立ち上がると、友人たちに手を引っ張られて、またベンチに座らされている。
……無駄だって、わかってもらうしかないわね?
「もう無駄よ。二人は二人の世界に入ってしまっているもの」
私はファビアン殿下の髪をすく。すると、ファビアン殿下が甘い顔をして、私の制服のボタンに手をかける。
カリマ様が目をそらしたのが視界の端に入った。
「行きましょう」
カリマ様の友人たちが先に立ち上がって、カリマ様を立ち上がらせた。
怒った表情のカリマ様が、去っていくのを視界の端で見届けると、私はファビアン殿下の手を止めた。
「ファビアン殿下。こんなところで恥ずかしいですわ。それに……肌を見せるのは、婚約した後と決めておりますの」
私が恥ずかしそうに見上げると、ファビアン殿下が苦笑して私を抱きしめる。
「そうか。ノエリアの希望を早く叶えたいが……なかなかクリスティアーヌ嬢が姿を現さないからな」
ファビアン殿下は、いまだにクリスティアーヌ様が学院に来ていらっしゃらないのに気づいていない。
……本当に、この国は大丈夫なのかしら?
私だって、友達が欲しい。
私に「今のままだと、悪役令嬢になってしまうわ」って唯一忠告してきたカリマ様のこと、結構気に入っているのよ。
だから、ファビアン殿下の気に障らないようにしてあげているの。
……きっと、気づくことはないでしょうね。
中庭で、私は甘えるようにファビアン殿下の体に頭を寄せた。
ファビアン殿下の鼻の下が伸びる。
どうやら、ファビアン殿下は、クリスティアーヌ様が完璧すぎて、甘えられたことがないらしく、私が甘えるのをことのほか喜ぶのだ。
だから、甘えることにしている。
その方が、ファビアン殿下も機嫌がいいから。
「ノエリア様、それは、口にしてはいけないことですわ!」
向かいのベンチから、声がかかる。
あら、いたのね。
彼女は、いつも私に突っかかってくる同級生。カリマ = サルヴェール男爵令嬢。男爵令嬢の身分は同じだけど、彼女はれっきとした令嬢で、クリスティアーヌ様を尊敬しているらしく、ファビアン殿下にべったりと一緒にいる私のことを、目の敵にしている。
彼女の周りで、あ、という気まずい空気が広がったのがわかる。
ふふふ。不敬罪になるのを怖がっているのかしら? もう、私に怖いものなんてないの。
でもね、大丈夫。
私が陥れるのは、一人だけでいいから。
「ふふふ。私たちがお似合いだって、誰もがわかるのね」
カリマ様の瞳が死んだのがわかる。私の言葉に呆れているのね?
でも、煙に巻くには、これが一番なのよ?
「ノエリア、今のはそういう意味なのかな?」
ぱちくりと瞬きをしているファビアン殿下が首を傾げる。ほら、大丈夫よ。気にしないで。
「ええ。そうですわ! ふふ。私たちのこと、学院の皆さまも応援してくださっているのよ」
「そうか。心強いな」
「ち……」
カリマ様の口が友人たちの手によってふさがれる。カリマ様の友人の一人がカリマ様の耳に口を寄せて何やら告げている。
んー、んー、とカリマ様が声を上げると、カリマ様の友人たちが口から手を離す。
カリマ様が忠告した友人を見る。
「そ、そんなことないわよ。事実を述べているだけだもの!」
「カリマ様、言っても無駄だって、そもそもわかっているじゃない。ノエリア様には言葉が通じないし、ファビアン殿下は理解もしてくださらないわ」
一番扱いにくいのは、この方たちなのよね。他の学院生は、私がついた嘘を信じたファビアン殿下の嘘を信じてくれたりしているのに、彼女たちだけはファビアン殿下の言葉に懐疑的。
そもそも、普通に考えればわかるんだけど。
彼女たちが正しいって。
「いえ! 私は今日こそ、ファビアン殿下に理解していただくわ!」
カリマ様が立ち上がると、友人たちに手を引っ張られて、またベンチに座らされている。
……無駄だって、わかってもらうしかないわね?
「もう無駄よ。二人は二人の世界に入ってしまっているもの」
私はファビアン殿下の髪をすく。すると、ファビアン殿下が甘い顔をして、私の制服のボタンに手をかける。
カリマ様が目をそらしたのが視界の端に入った。
「行きましょう」
カリマ様の友人たちが先に立ち上がって、カリマ様を立ち上がらせた。
怒った表情のカリマ様が、去っていくのを視界の端で見届けると、私はファビアン殿下の手を止めた。
「ファビアン殿下。こんなところで恥ずかしいですわ。それに……肌を見せるのは、婚約した後と決めておりますの」
私が恥ずかしそうに見上げると、ファビアン殿下が苦笑して私を抱きしめる。
「そうか。ノエリアの希望を早く叶えたいが……なかなかクリスティアーヌ嬢が姿を現さないからな」
ファビアン殿下は、いまだにクリスティアーヌ様が学院に来ていらっしゃらないのに気づいていない。
……本当に、この国は大丈夫なのかしら?
私だって、友達が欲しい。
私に「今のままだと、悪役令嬢になってしまうわ」って唯一忠告してきたカリマ様のこと、結構気に入っているのよ。
だから、ファビアン殿下の気に障らないようにしてあげているの。
……きっと、気づくことはないでしょうね。
54
あなたにおすすめの小説
そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!
【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
【完結】王女に婚約解消を申し出た男はどこへ行くのか〜そのお言葉は私の価値をご理解しておりませんの? 貴方に執着するなどありえません。
宇水涼麻
恋愛
コニャール王国には貴族子女専用の学園の昼休み。優雅にお茶を愉しむ女子生徒たちにとあるグループが険しい顔で近づいた。
「エトリア様。少々よろしいでしょうか?」
グループの中の男子生徒が声をかける。
エトリアの正体は?
声をかけた男子生徒の立ち位置は?
中世ヨーロッパ風の学園ものです。
皆様に応援いただき無事完結することができました。
ご感想をいただけますと嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。
虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を
柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。
みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。
虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
悪役令嬢は間違えない
スノウ
恋愛
王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。
その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。
処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。
処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。
しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。
そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。
ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。
ジゼットは決意する。
次は絶対に間違えない。
処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。
そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。
────────────
毎日20時頃に投稿します。
お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる