ロマンスの壊し方教えます!

三谷朱花

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9話目 思わぬ再会

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 ケイトはミアに懇願されて、産院に来ていた。産院と言えば聞こえはいいが、普通の民家に毛が生えたような作りの建物だ。
 実際に生むのは、それぞれの家のため、産院はそれほど広い建物でなくても問題はないだろう。
 誰も待ち合いにはいなかったが、受付からは待つようにと言われ、ケイトはベンチに腰を掛けた。

 カランカラン、と小気味のよい音をたてて、産院の入り口が開く。もう一人待ち人が増えたらしい。
 ケイトは編み物をしながら自分の順番を待っていた。今はおくるみを作っている最中だった。
「素敵な色ですね」
 声をかけてきたのは、新しい待ち人だった。ケイトより一回りほど若いだろうか。肌が艶々している。

「ありがとうございます」
 ニッコリと笑うと、「ケイトさん、ケイト・マッカローさん」と、中から呼ぶ声が聞こえた。
 隣に座っている新しい待ち人が目を見開いた。
「あの……サンクックの街にいたことはありませんか?」
 今度はケイトが目を見開く番だった。
「え?」
 ケイトはまじまじと彼女の顔を見た。どこかで、と思った瞬間、彼女が口を開いた。
「隣の家に住んでいた、リズです」
 あ、とケイトの声が漏れる。

「ケイトさん?」
 診察室が開いて、先生が顔を出した。ケイトはあわてて立ち上がる。
「後で、ちょっと話しましょう?」
 声をかけると、リズが嬉しそうにコクリと頷いた。その笑顔には、ケイトのよく知るリズの面影があった。
 まだ7才だったリズと最後に会ったのは、リズたちがサンクックの街から姿を消してしまった時だった。
 そして時をおかず、ケイトもサンクックの街を後にした。だから、もう二度と会うことはないだろうと思っていたのに、人も多い王都で再会するなど、奇跡、としか言いようがなかった。

 ***

 リズに案内された家は、清潔感のある小さな一軒家だった。
「どうぞ、座ってください。主人は帰りが遅いから、気を使わなくて大丈夫ですから」
 ケイトは、よいしょと椅子に座る。
「まさか、こんなところでケイトお姉ちゃんに再会できるなんて、本当にラッキーだわ」
 もう何度目かになるリズの言葉に、ケイトは苦笑する。でも、それだけ喜んでいるのだということがわかって、嬉しくもあった。
 かたり、とお茶が出される。
「体にいいお茶らしいんですけど……あまり美味しくはないの」
 申し訳なさそうに告げたリズは、向かいに座った。

 ケイトはお茶を一口飲むと、顔をしかめた。確かに苦い。薬湯のようだった。
「ね、美味しくないの。でも、お兄ちゃんが体にいいからって、持ってくるの」
 リズたちが忽然と姿を消してしまったのは、理由があったはずで、でもことの顛末がわからないケイトは、家族がどうしているか聞けずにいた。だから兄の話をするリズに、少しだけホッとする。
「お兄さんは、元気にしてるの?」
 リズが嬉しそうにうなずく。
「元気です。あ、でも最近失恋したらしくってしょげてますけどね。お兄ちゃん、モテそうなのに、何でふられるんですかね?」
 リズの兄が成長した姿がわからないケイトは、苦笑する。

「あら。かっこよく成長したの?」
 名前は……と思い出そうとするが、喉元まで出てきている感じがするのに、出てこない。
「カッコいいって言うか……公爵家で騎士をしてるので、仕事は安定してるじゃないですか! 真面目だし、好物件だと思うんですよ」
 へぇ、と思う。確かにそれは使用人たちの中では好物件と言われている。でも、振られたらしい。

「人生、ままならないものね」
 リズが大きく頷く。
「しかも、初恋相手のケイトさんまで結婚してるって聞いたら、お兄ちゃん、しばらく立ち直れないかも」
 ケイトは結婚はしていないが、その事を久しぶりに再会したリズに話すことではないと隠していた。
「そんなことないわよ。でも、初恋の相手って、光栄ね」
 あの殺伐とした生活の中で、10才の少年が自分に光を見いだしていたのかと思うと、少しだけ自分の存在が許された気がした。

 トントン。
 リズが立ち上がる。
「噂をすれば、で、お兄ちゃんかも」
 ドアを開けたリズが声をあげた。
「クリスお兄ちゃん!」
 そうだ、少年の名前はクリスだった。そう思ってケイトがドアの方を振り返ると、そこにはケイトを見て固まるクリス・ホイラーの姿があった。
 ケイトが知るクリスたちの名字は、ホイラーではなかった。
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