ロマンスの壊し方教えます!

三谷朱花

文字の大きさ
13 / 33

13話目 変化する日常

しおりを挟む
「大丈夫ですか?」
 ジョシアに手をさしのべられて、ケイトは力なく頷く。
「もう、大丈夫ですから」
 そうは言ったものの、ケイトは自力では立ち上がれなかった。
「手をどうぞ?」
 首をかしげるジョシアに、ケイトが苦笑する。
「ええ」
 
 ジョシアに引っ張られるように立ち上がる。触れた手は嫌な気持ちにならなかった。
 もしかしたら、自分に対して下心を持っていない相手ならば何も感じないのかもしれないとケイトは思う。
「お二人とも、ありがとうございました」
 ケイトは頭を下げる。
 二人が現れなければ、ケイトはあの恐怖をしばらく感じ続けなければならなかっただろう。

「いえ。こんなことになるなら、その前にあの男に声をかけておけばよかった」
 ジョシアの申し訳なさそうな声に、ケイトは首をかしげる。
「屋敷の脇に変な男が立っていると使用人に言われて、監視していたところだったんです」
 フォレスの言葉に、ケイトは納得する。
 見覚えのない男が屋敷のそばにずっと立っているとすれば、警戒するだろう。

「あの男は、知っている人?」
 フォレスの問いかけに、ケイトは一瞬迷って首を横にふった。
「いえ。……初めて会いました」
 サムフォード家は今問題を抱えている。プライベートなことで心配させたくないというのがケイトの判断だった。
「そうか。……もしまたあの男に声をかけられたら、教えてください」

 ジョシアの言葉にケイトはうなずいたが、もしそんなことがあっても、言うつもりはなかった。
 今度こそきちんと乗り越えて見せるという気持ちがあった。
 今日のことは突然のことで対応しきれなかっただけだと、ケイトは自分に言い聞かせた。

 ***

「ケイト」
 外出する度にまとわりつく声に、ケイトはうんざりしていた。
 でも、無関係な人間だと無視を決めている。
 そしてそのまとわりつく姿は、大通りに行く前には消えてしまう。
 だからこそケイトは無視を決め込んでいた。
「お前の親父さん」
 男の声に、ケイトは動揺しないようにと自分に言い聞かせる。

「大病しててなぁ」
 予想外の内容に、ケイトは瞳を揺らす。
 それを見逃さなかった男が、クククと笑う。
「あんな男のことでも、心配なんだな。いい娘だ」
 男はメモを取り出した。
「親父さんの話が聞きたければここに来い」
 メモにはガストンという名前と、住所が書かれていた。

「関係ありませんので」
 ケイトはメモを突き返す。
「まーまー。知りたくなることがあるかもしれないだろう? お袋さんのこととかさ」
 ヒヒヒ、とゲスな笑いを残して、ガストンは街に紛れていった。
 ケイトは残されたメモをくしゃくしゃに丸めた。
 でも、捨てることはできなかった。

「ケイトさん」
 クリスの声にハッとケイトは我にかえる。ガストンにメモを渡されたあと、ケイトはリズの家に遊びに来ていた。今日は久々に3人が揃った日だった。リズと再会してからケイトは時々リズの家に顔を出していた。だが、クリスまで揃うことは多くない。
 クリスとこの家で会ったのは、2ヶ月ほどの間に4回ほどだろうか。しかもそのうちの3回は今回含めて連続してだ。ケイトはクリスの仕事が大丈夫なのか、逆に心配している。

「ケイトお姉ちゃん、顔色が悪いわ」
 リズが心配そうにケイトの顔を覗き込む。
 ケイトはにっこりと笑ってみせた。
「最近お腹が重くて、寝付けないのよ。そのせいかも」
 クリスもリズも頷いてはくれたが、心配な表情はそのままだった。
「そうだわ! お茶、美味しいのをお兄ちゃんが珍しくくれたのよ!」
 パン、と手を打ったリズが立ち上がろうとすると、クリスが苦笑して立ち上がった。

「珍しくは余計だぞ。僕が入れるから、座っておけ」
 クリスがリズを気遣って家事を率先してこなす姿は、珍しいものではなかった。
「あ、薪が夜に足りないかもな。ちょっととってくる」
 クリスが外に出ていく。
「お兄ちゃんたら、過保護なんだから」
 リズが肩をすくめる。ケイトは笑った。
「妹思いなんでしょう?」

「もう、なにもできない子供じゃないのに。そろそろ大人扱いしてくれてもいいと思わない?」
「そうねぇ」
 ケイトがクスリと笑うと、リズが真面目な顔になる。
「私が昔のことを忘れたふりしてるのが、いけないのかしら」
 ケイトは目を見開いた。
「え?」

「ごめんなさい。本当はあの頃の記憶はあるの。だけど、お兄ちゃんにとっても辛い記憶だから思い出させたくもなかったし、私を心配で仕方ないって顔するから、ずっと忘れたふりをしてたの。私が笑ってれば、お兄ちゃんは安心するから」
「……あの時のことを思い出しても、辛くはないの?」
 リズは遠くを見る。
「嫌だって気持ちは今でもあるわ。でも、終わったことだから、くよくよしてても仕方がないでしょう?」
 ケイトを見たリズの顔は、迷いはなかった。

 ケイトはホッとする。
「クリスに言ってあげて。クリスもホッとすると思うわ」
「もっと心配性になるかと思って言わないでおいたんだけど、大丈夫?」
「きっと大丈夫よ」
 ケイトには兄弟がいない。だから、二人が想い合っている姿は羨ましくもあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

氷の公爵の婚姻試験

潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

無実の令嬢と魔法使いは、今日も地味に骨折を治す

月山 歩
恋愛
舞踏会の夜、階段の踊り場である女性が階段を転げ落ちた。キャロライナは突き落としたと疑いをかけられて、牢へ入れられる。家族にも、婚約者にも見放され、一生幽閉の危機を、助けてくれたのは、見知らぬ魔法使いで、共に彼の国へ。彼の魔法とキャロライナのギフトを使い、人助けすることで、二人の仲は深まっていく。

よめかわ

ariya
恋愛
遊び人として名高い貴族・夏基は、不祥事の罰として「醜聞の姫」白川殿と政略結婚することに。 初夜、暗い印象しかなかった姫の顔を初めて見た瞬間――大きな黒目がちな瞳、薄桜色の頬、恥ずかしげに俯く仕草に、夏基は衝撃を受ける。 (可愛すぎる……こんな姫が俺の妻!?) 亡き恋人への想いを捨てきれず、夫を拒む白川殿。 それでも夏基は過去の女たちに別れを告げ、花を贈り、文を重ね、誠心誠意尽くして彼女の心を溶かしていく。 儚くて純粋で、泣き顔さえ愛らしい姫を、夏基はもう手放せない―― 平安貴族の切なく甘い、極上よめかわ恋物語。 ※縦読み推奨です。 ※過去に投稿した小説を加筆修正しました。 ※小説家になろう、カクヨム、NOVELDAYにも投稿しています。

処理中です...