ロマンスの壊し方教えます!

三谷朱花

文字の大きさ
16 / 33

16話目 目覚め

しおりを挟む
 ケイトが身じろぎしようとすると、手も足も引っ張られる感覚で目が覚めた。
「ん? んんんんん!」
 ケイトの目に入った見知らぬぼんやりと明かりの灯る天井に、ケイトのこもった声が跳ね返ってくる。
 驚いたケイトは起き上がろうとしてみるが、手足はどちらも動いてはくれなかった。もがいてもみるが、手足にかかる縄が食い込む感触がするばかりだ。

 ケイトはどうやらベッドに手足をくくりつけられているらしかった。そして、口許は布を噛まされていた。
 どうしてこんなことに、と記憶をたどってみるが、ケイトの記憶は手紙を出しに行ったところで途切れていた。
 ケイトに対してこんなことをする相手を、ケイトはガストン一人しか思い付かなかった。
 最近はガストンが現れなくなったし、短時間だから何もないと思い込んでいた自分を、罵りたくなったが、今はそんなことをしている場合ではないだろう。
 今の状況を打開する方法を考えたかった。

 それに今は生まれてきそうにもないが、産院の先生からはいつ生まれてきてもおかしくはない時期だと言われていた。
 だから子供のことも気がかりだった。もし万が一ここで生まれてきたとしたら、きっとガストンは子供のことなど意にも介さないだろう。
 ケイトを脅してきたガストンの目は、人が苦しむことなど何とも思っていない目つきだった。

 子供に何かがあっては困る。
 だが、ガストンのことは誰にも相談していなかった。だから、誰かがこの場所に助けに来てくれるなどと甘い考えは持てそうにもなかった。
 勿論、レインとミアは、いなくなってしまったケイトのことを探そうとしてくれるだろう。だが、ケイトはガストンに繋がる手がかりを何一つ残してはいなかった。
 子供を守るためには、ケイトがこの場を逃げ出すしか無さそうだ。

 だが、両手足が縛られた状況でどうやって逃げればいいのか。ケイトには何もいいアイデアが浮かばなかった。
 誰かの助けが望めないこの状況で、ヒーローなど現れるわけもない。
 ケイトは、自分で自分の考えに苦笑する。
 ケイトはヒーローという言葉を嫌悪していたはずなのに、こんなピンチの場面で想像してしまったことに、本当は心のどこかでロマンスを願っていたのかもしれないと思う。

 幼い頃、母親の口から聞いたヒーローの話。
 それは全て、結婚する前の父親の姿だった。
 だが、ケイトが物心ついてから見ていた父親は、母親に執着するばかりで、少しも憧れの対象にはならなかった。
 父親は変わってしまったのだと、母親は哀しそうに目を伏せたが、ケイトは本当の姿が現れただけなのだと思った。

 父親は母親と結婚したいがために、ヒーローのフリをしたんだとしか思えなかった。母親が体験したロマンスは、全て作り事なのだと思うしかなかった。
 あの父親が、騎士をやっていたなどという話は、嘘にしか思えなかった。
 本当に騎士だったのなら、娘を男に売ろうとするわけがないと思いたかった。

 静まり返っていた部屋の前に、ドタドタとした足音が響く。
 カチャカチャと鍵を開ける音に、ケイトは体をこわばらせた。
 ギィー、と鈍い音をさせて、ドアが開いた。
 部屋にドタドタと誰かが入ってくる。バタン、と閉じた扉は、ガチャリと鍵が閉められた。
「おお、ようやく起きたのか、ケイト。起きてくれないと楽しくないからな」
 聞こえたのは、間違いなくガストンの声だった。

 ガストンはケイトの横たわるベッドに腰かけると、ケイトを見てニヤリと笑った。その目は全く笑っていなかった。
「ケイトが来てくれないから、俺が連れて来てやったんだ。あの薬、いい効きだったな。流石に高いだけはある」
 ガストンの無骨な手が、ケイトの頬から首を滑っていく。ケイトの全身に鳥肌がたつ。だが、ますますケイトが体をこわばらせたことは、ガストンを喜ばせただけだった。
「なんだお前。子供が腹にいるわりには、反応がウブじゃねーか」

 ケイトの男性経験など、1度しかない。付き合おうと思った相手にも体を委ねることができなくて、最後まではできなかった。
「んんん! んんんんん!」
 ケイトは声でも反抗ができなくて、でも精一杯ガストンを睨み付けた。
「何だケイト、いい目だな。ゾクゾクするぜ」
 意地の悪い笑いを顔に浮かべたまま、ガストンは面白そうにケイトのスカートをたくしあげる。

「ほら、その生意気そうな顔で怯えろよ」
 ケイトの股の内側を、ガストンの厚いざらざらした舌が這い回る。
「悪いな。いたぶるのは得意でな。一気にやるよりも、こうやってじわじわいたぶる方が好きなんだよ。その方が、絶望を感じるのがより大きいと思わないか?」
 ハハハ、と乾いた声で笑うガストンに、ケイトは嫌悪しかない。
 ガストンの手から逃げることなど、もう出来そうにもなかった。

「持つべきものは盟友ってな。お前の親父さんとは、カルタット公爵家で一緒に働いていたんだけどな、まさか娘を売り払うやつだとは思わなかったけど」
 父親が本当に騎士をやっていたと聞いても、ケイトにはもはやどうでもい情報だった。
 これから先の感覚を遮断したくて、ケイトは目をつぶった。
 ケイトの目から、涙がこぼれた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

氷の公爵の婚姻試験

潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

無実の令嬢と魔法使いは、今日も地味に骨折を治す

月山 歩
恋愛
舞踏会の夜、階段の踊り場である女性が階段を転げ落ちた。キャロライナは突き落としたと疑いをかけられて、牢へ入れられる。家族にも、婚約者にも見放され、一生幽閉の危機を、助けてくれたのは、見知らぬ魔法使いで、共に彼の国へ。彼の魔法とキャロライナのギフトを使い、人助けすることで、二人の仲は深まっていく。

よめかわ

ariya
恋愛
遊び人として名高い貴族・夏基は、不祥事の罰として「醜聞の姫」白川殿と政略結婚することに。 初夜、暗い印象しかなかった姫の顔を初めて見た瞬間――大きな黒目がちな瞳、薄桜色の頬、恥ずかしげに俯く仕草に、夏基は衝撃を受ける。 (可愛すぎる……こんな姫が俺の妻!?) 亡き恋人への想いを捨てきれず、夫を拒む白川殿。 それでも夏基は過去の女たちに別れを告げ、花を贈り、文を重ね、誠心誠意尽くして彼女の心を溶かしていく。 儚くて純粋で、泣き顔さえ愛らしい姫を、夏基はもう手放せない―― 平安貴族の切なく甘い、極上よめかわ恋物語。 ※縦読み推奨です。 ※過去に投稿した小説を加筆修正しました。 ※小説家になろう、カクヨム、NOVELDAYにも投稿しています。

処理中です...