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17話目 感情の波
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「どうした。目なんかつぶってさ。威勢がよくないと、つまんないだろ?」
顔に近づいてきた生臭い息に、ケイトは精一杯の抵抗で、首を振る。
勿論目など開けるつもりはない。
「お前の緑の目が好きなんだよ。ほら……開けないと、どうなるか、わかるか?!」
ガストンの手がケイトのお腹に乗せられる。グッとケイトのお腹に力がかかり、ケイトはあわてて目を開けた。
「そうだ、それでいい。その怒り狂った目を、恐怖に染め抜いてやるからな」
イヤらしく笑うガストンを見ていたくはなかった。だが、ケイトが目をそらしたら最後、どんなことをされるかがわからなくて怖かった。
「安心しろ。大丈夫だ。お前の命をとろうとか思ってない。だが、お前はずっとここから出られないんだ」
「んんんんん!」
ケイトは赤ん坊がどうなるのか知りたかった。だが、ガストンはニヤリと笑って、またケイトのスカートの中に顔を埋めた。
怒りに染まる瞳が、じわじわと恐怖に侵食されていく。
そもそもガストンの言っていることすら信じていいのかわからない。
「しかし、あの薬は2時間も持たないんだな。お前が嗅いだ薬、新しく作られた薬なんだぞ。良かったな、3人目の実験台になれて」
3人目。他にも同じ薬をガストンに嗅がされた人間がいるとわかって、ケイトは目を見開いた。
その二人は、一体どうなったのか。考えようとするよりも前に、ガストンに触れられる感覚で思考は有耶無耶になる。
トントン。
控えめなノックに、ガストンが舌打ちをする。
「サリーのやつ……」
ガストンは何かを罵ったようだが、ケイトはこの恐怖が中断されたことに息をつくのが精一杯で、ガストンが何を言ったのかまでは拾えなかった。
ただ、サリー、という名前だけは引っ掛かった。
ケイトの知る、しかもガストンと会っていた人物でサリーは、彼女しか思い付かなかったからだ。
カチャ、とドアの鍵が開けられるのと、ドン! と勢いよくドアが開けられたのは同時だった。ケイトはドアに目を向ける。
「お、お前ら!」
「うちの使用人、返してくださる?」
聞こえた声に、ケイトは目を見開く。15年も声を聞いてきたのだ。間違えようもなく、声の主はミアだった。
「くそ! 何でバレたんだ!」
ガストンがケイトの元に踵をかえそうとする前に、ガストンは羽交い締めにされる。客人の護衛をしているジョシアだった。
ケイトの元にミアとレインがやってくる。ケイトはレインが外を歩いていることに驚く。レインはほとんどずっと引きこもっていたからだ。
「ケイト大丈夫か?」
レインの問いかけに、ケイトは目を潤ませながらコクコクと頷く。
「ケイト、ごめんなさいね。もっときちんと伝えておけばよかった」
申し訳なさそうにミアが謝ることに、ケイトは首を振るしかない。皆の心配を軽く見ていたのはケイトの方だからだ。
ケイトの拘束が解かれ、ケイトはそろそろと体を起こした。
見えてきた部屋の中は雑多で、どうやらガストンの部屋のようだった。
粗末とも言える部屋の中に、ケイト、ミア、レイン、ジョシア、まだ一言も発してないサムフォード家の客人であるキャロライン、そしてガストンがいるため、部屋の中はぎゅうぎゅうだ。
ミアがケイトを抱き締めた。ケイトはようやく力を抜いた。
「平民騎士一人と落ちぶれ男爵家だけで何ができる!」
「家の名前で何か変わるのか?」
あきれた声はキャロラインのものだった。
「お前らが国の騎士団に俺をつきだしたって無駄だ! 俺にはカルタット公爵家が付いてるんだ!」
「やれやれ。最近の犯罪者は、家の名前だけで簡単に野放しになるのか」
キャロラインがため息をついて首を横にふった。
「お、お前は誰だ!?」
「クォーレ公爵家のキャロラインだが、何かあるか?」
キャロラインは公爵令嬢なのだが、人前に出ることが滅多になく顔は人に知られていなかった。
「クォーレ公爵家……キャロライン?!」
顔は知られていなくともキャロラインの名前はよく知られている。
「魔王か?!」
ガストンが初めて怯える。ある意味、キャロラインは不名誉な理由で有名になっているのだ。怒らせるとろくなことがない。それが、この国でキャロラインに「魔王」という名前が付けられた理由だ。
「使用人一人に、何でそこまでむきになる!」
ガストンが吐き捨てる言葉に、ミアとレインが首を横に振る。
「ケイトは私たちの家族よ。大切な家族に何かがあったら、心配するでしょう?」
ミアの言葉に、じんわりとケイトの心が温まっていく。
「何が家族だ! あいつは単なる使用人で、あいつは本当の父親に捨てられたんだぞ!」
ケイトは父親のことを思い出して、心がズンと沈む。
「それがどうかしたのか?」
ガストンに、真顔でレインが詰め寄る。ガストンが唾をレインに吐き捨てた。レインは表情を変えずに、袖で唾をぬぐう。
「少なくとも、ケイトはお前に軽々しく扱われるべき人間ではない」
レインの言葉に、ミアもジョシアも、そして、キャロラインまでもが頷いてくれた。
ケイトの目から涙がこぼれた。
顔に近づいてきた生臭い息に、ケイトは精一杯の抵抗で、首を振る。
勿論目など開けるつもりはない。
「お前の緑の目が好きなんだよ。ほら……開けないと、どうなるか、わかるか?!」
ガストンの手がケイトのお腹に乗せられる。グッとケイトのお腹に力がかかり、ケイトはあわてて目を開けた。
「そうだ、それでいい。その怒り狂った目を、恐怖に染め抜いてやるからな」
イヤらしく笑うガストンを見ていたくはなかった。だが、ケイトが目をそらしたら最後、どんなことをされるかがわからなくて怖かった。
「安心しろ。大丈夫だ。お前の命をとろうとか思ってない。だが、お前はずっとここから出られないんだ」
「んんんんん!」
ケイトは赤ん坊がどうなるのか知りたかった。だが、ガストンはニヤリと笑って、またケイトのスカートの中に顔を埋めた。
怒りに染まる瞳が、じわじわと恐怖に侵食されていく。
そもそもガストンの言っていることすら信じていいのかわからない。
「しかし、あの薬は2時間も持たないんだな。お前が嗅いだ薬、新しく作られた薬なんだぞ。良かったな、3人目の実験台になれて」
3人目。他にも同じ薬をガストンに嗅がされた人間がいるとわかって、ケイトは目を見開いた。
その二人は、一体どうなったのか。考えようとするよりも前に、ガストンに触れられる感覚で思考は有耶無耶になる。
トントン。
控えめなノックに、ガストンが舌打ちをする。
「サリーのやつ……」
ガストンは何かを罵ったようだが、ケイトはこの恐怖が中断されたことに息をつくのが精一杯で、ガストンが何を言ったのかまでは拾えなかった。
ただ、サリー、という名前だけは引っ掛かった。
ケイトの知る、しかもガストンと会っていた人物でサリーは、彼女しか思い付かなかったからだ。
カチャ、とドアの鍵が開けられるのと、ドン! と勢いよくドアが開けられたのは同時だった。ケイトはドアに目を向ける。
「お、お前ら!」
「うちの使用人、返してくださる?」
聞こえた声に、ケイトは目を見開く。15年も声を聞いてきたのだ。間違えようもなく、声の主はミアだった。
「くそ! 何でバレたんだ!」
ガストンがケイトの元に踵をかえそうとする前に、ガストンは羽交い締めにされる。客人の護衛をしているジョシアだった。
ケイトの元にミアとレインがやってくる。ケイトはレインが外を歩いていることに驚く。レインはほとんどずっと引きこもっていたからだ。
「ケイト大丈夫か?」
レインの問いかけに、ケイトは目を潤ませながらコクコクと頷く。
「ケイト、ごめんなさいね。もっときちんと伝えておけばよかった」
申し訳なさそうにミアが謝ることに、ケイトは首を振るしかない。皆の心配を軽く見ていたのはケイトの方だからだ。
ケイトの拘束が解かれ、ケイトはそろそろと体を起こした。
見えてきた部屋の中は雑多で、どうやらガストンの部屋のようだった。
粗末とも言える部屋の中に、ケイト、ミア、レイン、ジョシア、まだ一言も発してないサムフォード家の客人であるキャロライン、そしてガストンがいるため、部屋の中はぎゅうぎゅうだ。
ミアがケイトを抱き締めた。ケイトはようやく力を抜いた。
「平民騎士一人と落ちぶれ男爵家だけで何ができる!」
「家の名前で何か変わるのか?」
あきれた声はキャロラインのものだった。
「お前らが国の騎士団に俺をつきだしたって無駄だ! 俺にはカルタット公爵家が付いてるんだ!」
「やれやれ。最近の犯罪者は、家の名前だけで簡単に野放しになるのか」
キャロラインがため息をついて首を横にふった。
「お、お前は誰だ!?」
「クォーレ公爵家のキャロラインだが、何かあるか?」
キャロラインは公爵令嬢なのだが、人前に出ることが滅多になく顔は人に知られていなかった。
「クォーレ公爵家……キャロライン?!」
顔は知られていなくともキャロラインの名前はよく知られている。
「魔王か?!」
ガストンが初めて怯える。ある意味、キャロラインは不名誉な理由で有名になっているのだ。怒らせるとろくなことがない。それが、この国でキャロラインに「魔王」という名前が付けられた理由だ。
「使用人一人に、何でそこまでむきになる!」
ガストンが吐き捨てる言葉に、ミアとレインが首を横に振る。
「ケイトは私たちの家族よ。大切な家族に何かがあったら、心配するでしょう?」
ミアの言葉に、じんわりとケイトの心が温まっていく。
「何が家族だ! あいつは単なる使用人で、あいつは本当の父親に捨てられたんだぞ!」
ケイトは父親のことを思い出して、心がズンと沈む。
「それがどうかしたのか?」
ガストンに、真顔でレインが詰め寄る。ガストンが唾をレインに吐き捨てた。レインは表情を変えずに、袖で唾をぬぐう。
「少なくとも、ケイトはお前に軽々しく扱われるべき人間ではない」
レインの言葉に、ミアもジョシアも、そして、キャロラインまでもが頷いてくれた。
ケイトの目から涙がこぼれた。
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