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11話目 ロマンスはいりません
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「やっぱり、ケイトさんが結婚したくないのって……」
クリスの言葉に、ケイトはうなずく。あの日々を過ごしていたクリスならばケイトの言いたいことは理解してくれるだろうと思ったのもあった。
「結婚が幸せなものじゃないって、間近で見ているから。それに私たちに父親がいて、何か幸せなことってあったかしら?」
クリスは首をふって口を開く。
「母親は、あいつから逃げたあと……いい人に巡りあったんだ。僕たちが王都でこうやって平和に暮らしていられるのも、父親のお陰なんだ」
それはそうかもしれないと、ケイトはうなずく。ケイトがこうやっていられるのは、運が良かっただけにちがいないからだ。
「僕らはたまたまひどい父親に当たっただけ。……それがすべての父親像じゃない」
ケイトだって、そんなことは知っている。サムフォード前男爵は、とてもいい父親だった。
だが、自分のことには結びつけられなかった。
「私、厄介払いで、誰ともわからない男に売られることになったのよ。実の父親にね。……私は必要ない人間なんだって、思うしかなかった」
ずっと無視され続けていたことにも、ケイトは自分の存在意義を見いだせないでいたが、街で見たこともない男に売られると決まったことには、絶望しかなかった。ケイトを目が届かないところにやってしまいたい父親の気持ちが、ありありと伝わってきた。
クリスが目を見開く。
「そんなことない! あの野郎!」
罵るクリスに、ケイトは首をふる。
「もう大丈夫。もう、私を大切にしてくれる人たちに出会ったから。ただ、思い出したときに、悲しくなるくらいなの。それでも、結婚することに意味を感じられないの。私は私の人生を、誰かに左右されるのは、嫌なの」
ケイトの母親も、クリスの母親も、結局自分達だけでは生活できなくて、父親に頼るしかなかった。父親の存在も必要を感じなかったが、母親たちのその姿も嫌だった。
それに、ケイトだってサムフォード男爵の姿に、もしかしたらと望みを抱いて、普通に結婚できるかもしれないと考えたことだってあった。だが、そう思えた相手ともダメだった。自分には結婚生活はやっぱり無理だと思って、一人で生きていくと決めたのだ。
クリスとの出来事は、不思議ではあったが、もう確かめるつもりはなかった。
「子供は……」
クリスの言いたいことがわかって、ケイトは首を横にふる。
「出来た命をなかったことにはできないわ。それこそ、私の父親と同じになってしまう。私のできる限りのことはするつもりよ。それに、子供がいてもこのまま働ける。だから、何も不安はないの」
ケイトにとって子供が出来たことで何よりもショックだったことは、もうサムフォード家の人たちに恩返しができないかもしれない、ということだった。
「でも」
「私の人生に、夫も子供の父親も要らないの」
ケイトの言葉は、諦めではなくて、決意だった。
「……それなら……幼馴染みとしての交流を復活させることは?」
クリスの提案に、ケイトはうつむく。
「別にそれで無理やり会おうとするとかそういうことじゃありません。リズを交えて会いませんか、ってことです。……ケイトさんが昔のことを思い出して辛いって言うなら……諦めます」
クリスの言葉に強要する響きがなくて、ケイトはホッとする。でも、とクリスを見た。
「リズが思い出してしまうかもしれないわ」
クリスがうつむく。
「忘れていることが幸せかもしれないと思うこともある。だけど、どこかで急に思い出して、言いようもない恐怖に怯えたままになるなら、知っている人間で支えたいって気持ちもあるんです。ケイトさんが……ケイトお姉ちゃんが傍にいてくれれば、リズも安心するんじゃないかって」
クリスの気持ちは、ケイトもよくわかった。
「でもね、クリス。ひとつだけ約束して。私たちは確かに辛い時間を過ごしたわ。でも、傷を舐め合うような関係にはなりたくないの。リズのことも含めて前を向くために会いましょう?」
「……ケイトお姉ちゃんは、もう乗り越えられた?」
ケイトを見た少し揺れるクリスの目は、幼い頃のクリスを思い出させた。
「勿論、と言いたいところだけど、完璧とは言えないわね。でも、乗り越えてみせるわ」
クリスは少し安心した顔をして、頷いた。
「僕らの未来のために」
出してきたクリスの手をケイトは少し躊躇したあと握った。
握ったクリスの手は、ケイトにとっては少しも嫌な感じはしなかった。だから、クリスのことを信じていいんだろうと初めて思った。
クリスの言葉に、ケイトはうなずく。あの日々を過ごしていたクリスならばケイトの言いたいことは理解してくれるだろうと思ったのもあった。
「結婚が幸せなものじゃないって、間近で見ているから。それに私たちに父親がいて、何か幸せなことってあったかしら?」
クリスは首をふって口を開く。
「母親は、あいつから逃げたあと……いい人に巡りあったんだ。僕たちが王都でこうやって平和に暮らしていられるのも、父親のお陰なんだ」
それはそうかもしれないと、ケイトはうなずく。ケイトがこうやっていられるのは、運が良かっただけにちがいないからだ。
「僕らはたまたまひどい父親に当たっただけ。……それがすべての父親像じゃない」
ケイトだって、そんなことは知っている。サムフォード前男爵は、とてもいい父親だった。
だが、自分のことには結びつけられなかった。
「私、厄介払いで、誰ともわからない男に売られることになったのよ。実の父親にね。……私は必要ない人間なんだって、思うしかなかった」
ずっと無視され続けていたことにも、ケイトは自分の存在意義を見いだせないでいたが、街で見たこともない男に売られると決まったことには、絶望しかなかった。ケイトを目が届かないところにやってしまいたい父親の気持ちが、ありありと伝わってきた。
クリスが目を見開く。
「そんなことない! あの野郎!」
罵るクリスに、ケイトは首をふる。
「もう大丈夫。もう、私を大切にしてくれる人たちに出会ったから。ただ、思い出したときに、悲しくなるくらいなの。それでも、結婚することに意味を感じられないの。私は私の人生を、誰かに左右されるのは、嫌なの」
ケイトの母親も、クリスの母親も、結局自分達だけでは生活できなくて、父親に頼るしかなかった。父親の存在も必要を感じなかったが、母親たちのその姿も嫌だった。
それに、ケイトだってサムフォード男爵の姿に、もしかしたらと望みを抱いて、普通に結婚できるかもしれないと考えたことだってあった。だが、そう思えた相手ともダメだった。自分には結婚生活はやっぱり無理だと思って、一人で生きていくと決めたのだ。
クリスとの出来事は、不思議ではあったが、もう確かめるつもりはなかった。
「子供は……」
クリスの言いたいことがわかって、ケイトは首を横にふる。
「出来た命をなかったことにはできないわ。それこそ、私の父親と同じになってしまう。私のできる限りのことはするつもりよ。それに、子供がいてもこのまま働ける。だから、何も不安はないの」
ケイトにとって子供が出来たことで何よりもショックだったことは、もうサムフォード家の人たちに恩返しができないかもしれない、ということだった。
「でも」
「私の人生に、夫も子供の父親も要らないの」
ケイトの言葉は、諦めではなくて、決意だった。
「……それなら……幼馴染みとしての交流を復活させることは?」
クリスの提案に、ケイトはうつむく。
「別にそれで無理やり会おうとするとかそういうことじゃありません。リズを交えて会いませんか、ってことです。……ケイトさんが昔のことを思い出して辛いって言うなら……諦めます」
クリスの言葉に強要する響きがなくて、ケイトはホッとする。でも、とクリスを見た。
「リズが思い出してしまうかもしれないわ」
クリスがうつむく。
「忘れていることが幸せかもしれないと思うこともある。だけど、どこかで急に思い出して、言いようもない恐怖に怯えたままになるなら、知っている人間で支えたいって気持ちもあるんです。ケイトさんが……ケイトお姉ちゃんが傍にいてくれれば、リズも安心するんじゃないかって」
クリスの気持ちは、ケイトもよくわかった。
「でもね、クリス。ひとつだけ約束して。私たちは確かに辛い時間を過ごしたわ。でも、傷を舐め合うような関係にはなりたくないの。リズのことも含めて前を向くために会いましょう?」
「……ケイトお姉ちゃんは、もう乗り越えられた?」
ケイトを見た少し揺れるクリスの目は、幼い頃のクリスを思い出させた。
「勿論、と言いたいところだけど、完璧とは言えないわね。でも、乗り越えてみせるわ」
クリスは少し安心した顔をして、頷いた。
「僕らの未来のために」
出してきたクリスの手をケイトは少し躊躇したあと握った。
握ったクリスの手は、ケイトにとっては少しも嫌な感じはしなかった。だから、クリスのことを信じていいんだろうと初めて思った。
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