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「もっと言えばよかったのに。」
前を歩くガイナーの悔しそうな声に、アリーナは苦笑する。
「理解してくれたのでいいです。理解しないようだったらけちょんけちょんにするつもりでしたけど」
「甘いことして、あとで後悔することになっても知らないわよ」
「後悔することなんてありませんよ」
リリアーヌはきっちり反省していた。それで十分だとアリーナは思っている。やり過ぎて敵のままでいるのは、自分の足を引っ張りかねない。甘くしたからって敵にならないとは限らないが、逃げ道を塞ぐ叱り方はしたくなかった。
それに、ショパー侯爵家が出していた予算の見積もりは、余計なものは何一つない、だが領地のためにとよく考えられたもので、アリーナが指摘するような箇所は一つも見当たらなかった。だから、その娘もその心を持っているんじゃないかと思いたかったのもある。
明日が期限の仕事は、そのショパー侯爵領の河川工事の見積もり確認だった。勿論、ここに来る前に終わらせては来ている。明日は何事もなく決済へと進めるはずだ。
「わかってる? あの子ライバルなのよ。どんな手を次に使ってくるか何てわからないのよ」
アリーナは妄想たくましいガイナーを残念に思いながらガイナーの背中に張り付くようにして移動する。 別にリリアーヌがライを惜しいと思って横取りしたければすればいいのだと思っている。
今のところ、アリーナがそれに悔しがる予定もない。
アリーナはガイナーの背中にかじりつくように歩く。それは行きも同じで、できるだけ人に顔を見せたくなかったからだ。この顔はアリーナとは違う。他人の顔で驚かれるのは、金庫番の部署の人間とリリアーヌだけでいいと思っていた。
何せ眼鏡がない状態で薄暗い城のなかを歩いているわけだから、誰かにぶつかったり粗相したりしそうでアリーナも怖い。ガイナーの背中にいる限り、前方は安全だしアリーナの今の顔を隠してもくれる。
城の中を歩いている以上ライに偶然に会う可能性もなくはなかったが、ガイナーには更に変な人間に目をつけられたら困るのでこれがアリーナであることをばらさないように伝えてあるし、この姿をライが見ても気づかないだろうという変な自信もあって、ライと遭遇したとしても大丈夫だろうと安心はしている。
前を歩くガイナーが立ち止まって会釈したため、アリーナも習って会釈する。
再び歩き出すガイナーとアリーナに影が近づく。
ただでさえ薄暗いのに更に影がかかったことにアリーナは首をかしげて上を向いた。
その瞬間、アリーナの体が抱き止められた。
「!」
アリーナは突然のことに悲鳴がすぐには出てこなかった。
「アリーナはいけない子ですね」
頭の上から降ってきた声はライのものだ。
相手がライだとわかった瞬間、アリーナは力を抜いた。
そして、キッとライを睨み付ける。…顔ははっきりと見えてはいなかったが。
「いけないもいけなくないもありませんし、文句ならガイナー室長にどうぞ。こんな風にしたのはガイナー室長ですから」
「ガイナー室長、アリーナに触れたんですか」
冷え冷えとしたライの声にガイナーがぶるりと震える。
「違います! 化粧の魔術師にやってもらったんです。女性です! マリアの義理の姉です! ほらアリーナ、あなたも言いなさいよ。私は触れてないわ」
「私は別にガイナー室長がどうなろうと知りません。ばらすなって言っておいたのにばらしたじゃないですか」
ライに抱きしめられた状況のまま、アリーナはガイナーの方向に向かって文句を言う。
「ばらしてないわ」
「じゃあ何でライ様が私に気づくんですか」
きっとライが近づいた時に目配せでもして知らせたんじゃないかとアリーナは思っている。
「アリーナのことが本当に好きだからですよ」
アリーナを抱き締める腕に力が入る。
「アリーナがどんな姿になろうと、私は見つけます」
「…愛の力ね」
うっとりとしたガイナーの声に、アリーナは我に返る。
「愛の力とかどうでもいいですから! どうせガイナー室長がバレバレな表情したんでしょうし!」
「私は何もやってないわ」
「いやだな、アリーナ。遠くからでも歩き方だけで一目でアリーナとわかりましたよ」
「コワッ。」
アリーナの気持ちを正しく表現した男性の声に、アリーナは振り向こうとするが、ライに阻止される。
「シェス団長、言いたいことがそれだけならもうお帰りください」
ライの言葉でさっきの声の主が騎士団団長なのだとアリーナは知る。
「ライが恋に狂ったとは聞いてはいたが、確かにまちがってなかったな。」
シェスがククク、と笑う。
「狂ったとは、それまたひどい言い方ですね」
ライの声は不満そうだ。
「だって、ライがアリーナ嬢と知り合ったの、昨日、一昨日だろう?」
シェスの言葉に、アリーナも信じられない気持ちになる。ライと知り合ったのは一昨日のことで、それから3日、何だか濃い日々を過ごしている。少なくとも、4日前まで職場と家の往復しかしていなかったアリーナの生活は、なぜか急激に一変した。
「シェス団長、それが恋に落ちるってことだと思うわ」
「シェス団長、私はアリーナに会って真実の愛に目覚めただけです」
ガイナーの言葉だけでは説明がしきれていないとでも言いたそうに、ライが訂正を入れる。
アリーナからすれば、正直どっちでもいい。
前を歩くガイナーの悔しそうな声に、アリーナは苦笑する。
「理解してくれたのでいいです。理解しないようだったらけちょんけちょんにするつもりでしたけど」
「甘いことして、あとで後悔することになっても知らないわよ」
「後悔することなんてありませんよ」
リリアーヌはきっちり反省していた。それで十分だとアリーナは思っている。やり過ぎて敵のままでいるのは、自分の足を引っ張りかねない。甘くしたからって敵にならないとは限らないが、逃げ道を塞ぐ叱り方はしたくなかった。
それに、ショパー侯爵家が出していた予算の見積もりは、余計なものは何一つない、だが領地のためにとよく考えられたもので、アリーナが指摘するような箇所は一つも見当たらなかった。だから、その娘もその心を持っているんじゃないかと思いたかったのもある。
明日が期限の仕事は、そのショパー侯爵領の河川工事の見積もり確認だった。勿論、ここに来る前に終わらせては来ている。明日は何事もなく決済へと進めるはずだ。
「わかってる? あの子ライバルなのよ。どんな手を次に使ってくるか何てわからないのよ」
アリーナは妄想たくましいガイナーを残念に思いながらガイナーの背中に張り付くようにして移動する。 別にリリアーヌがライを惜しいと思って横取りしたければすればいいのだと思っている。
今のところ、アリーナがそれに悔しがる予定もない。
アリーナはガイナーの背中にかじりつくように歩く。それは行きも同じで、できるだけ人に顔を見せたくなかったからだ。この顔はアリーナとは違う。他人の顔で驚かれるのは、金庫番の部署の人間とリリアーヌだけでいいと思っていた。
何せ眼鏡がない状態で薄暗い城のなかを歩いているわけだから、誰かにぶつかったり粗相したりしそうでアリーナも怖い。ガイナーの背中にいる限り、前方は安全だしアリーナの今の顔を隠してもくれる。
城の中を歩いている以上ライに偶然に会う可能性もなくはなかったが、ガイナーには更に変な人間に目をつけられたら困るのでこれがアリーナであることをばらさないように伝えてあるし、この姿をライが見ても気づかないだろうという変な自信もあって、ライと遭遇したとしても大丈夫だろうと安心はしている。
前を歩くガイナーが立ち止まって会釈したため、アリーナも習って会釈する。
再び歩き出すガイナーとアリーナに影が近づく。
ただでさえ薄暗いのに更に影がかかったことにアリーナは首をかしげて上を向いた。
その瞬間、アリーナの体が抱き止められた。
「!」
アリーナは突然のことに悲鳴がすぐには出てこなかった。
「アリーナはいけない子ですね」
頭の上から降ってきた声はライのものだ。
相手がライだとわかった瞬間、アリーナは力を抜いた。
そして、キッとライを睨み付ける。…顔ははっきりと見えてはいなかったが。
「いけないもいけなくないもありませんし、文句ならガイナー室長にどうぞ。こんな風にしたのはガイナー室長ですから」
「ガイナー室長、アリーナに触れたんですか」
冷え冷えとしたライの声にガイナーがぶるりと震える。
「違います! 化粧の魔術師にやってもらったんです。女性です! マリアの義理の姉です! ほらアリーナ、あなたも言いなさいよ。私は触れてないわ」
「私は別にガイナー室長がどうなろうと知りません。ばらすなって言っておいたのにばらしたじゃないですか」
ライに抱きしめられた状況のまま、アリーナはガイナーの方向に向かって文句を言う。
「ばらしてないわ」
「じゃあ何でライ様が私に気づくんですか」
きっとライが近づいた時に目配せでもして知らせたんじゃないかとアリーナは思っている。
「アリーナのことが本当に好きだからですよ」
アリーナを抱き締める腕に力が入る。
「アリーナがどんな姿になろうと、私は見つけます」
「…愛の力ね」
うっとりとしたガイナーの声に、アリーナは我に返る。
「愛の力とかどうでもいいですから! どうせガイナー室長がバレバレな表情したんでしょうし!」
「私は何もやってないわ」
「いやだな、アリーナ。遠くからでも歩き方だけで一目でアリーナとわかりましたよ」
「コワッ。」
アリーナの気持ちを正しく表現した男性の声に、アリーナは振り向こうとするが、ライに阻止される。
「シェス団長、言いたいことがそれだけならもうお帰りください」
ライの言葉でさっきの声の主が騎士団団長なのだとアリーナは知る。
「ライが恋に狂ったとは聞いてはいたが、確かにまちがってなかったな。」
シェスがククク、と笑う。
「狂ったとは、それまたひどい言い方ですね」
ライの声は不満そうだ。
「だって、ライがアリーナ嬢と知り合ったの、昨日、一昨日だろう?」
シェスの言葉に、アリーナも信じられない気持ちになる。ライと知り合ったのは一昨日のことで、それから3日、何だか濃い日々を過ごしている。少なくとも、4日前まで職場と家の往復しかしていなかったアリーナの生活は、なぜか急激に一変した。
「シェス団長、それが恋に落ちるってことだと思うわ」
「シェス団長、私はアリーナに会って真実の愛に目覚めただけです」
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アリーナからすれば、正直どっちでもいい。
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